栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

症例:BMJ 57歳女性 うっ血除去薬を使用後に・・・

case report。
これなかなか興味深いです。

症例:57歳女性 うっ血除去薬を使用後に・・・
BMJ 2019;364:k5112 doi: 10.1136/bmj.k5112

 57歳女性。連日6日間毎日雷鳴様頭痛が発症し自然に軽快する。頭部CT検査では、末梢のくも膜下出血があり、血管造影では血管炎の可能性が示唆された。頭部MRAでは多発の脳動脈狭窄は見つかったものの動脈瘤は認めなかった。
 髄液検査は正常で炎症性血管炎は否定的だった。病歴を確認すると、雷鳴様頭痛の発症は上気道炎に対してうっ血除去薬を1週間内服した3日後に発症したことが判明した。

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(本文より引用)

質問. 診断は?

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ACPJC:治療 非複雑性急性虫垂炎(UAA)では、虫垂切除術と比べ抗生剤は長期的に見て有効か

ACPJC紹介です。
今年からC先生がまとめに加わっております。
ブログ更新ちょっと分担作業にしていきたいなあと前々から思っておりますので、お付き合い下さいませ。

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Salminen P, Tuominen R, Paajanen H, et al.
Five-year follow-up of antibiotic therapy for uncomplicated acute appendicitis in the APPAC randomized clinical trial. 
JAMA. 2018;320:1259-65.

臨床疑問:
 非複雑性急性虫垂炎(UAA)では、虫垂切除術と比べ抗生剤は長期的に見て有効か?

方法:
デザイン:ランダム化比較試験
隠蔽化:あり
盲検化:×
セッティング:フィンランドの6施設で5年間追跡
組み入れ基準:18−60歳(中央値33−35歳、男性62%)のUAA(定義:CTで虫垂径≧6mmかつ炎症性浮腫、周囲の液体貯留、虫垂壁の造影増強の何れか1つ以上)。
除外基準:合併症(糞石、穿孔、膿瘍、腫瘍疑い)、腹膜炎、全身状態不良。
介入:エルタペネム 1g/日×3日→内服LVFX500mg+内服MNZ1500mg/3×7日(n=257)

対象:
手術群(n=273)
アウトカム:
1年後以降の再発率、手術合併症(創部感染、創部ヘルニア、創部痛、腸閉塞)、入院日数、有症状期間を比較。治療1年目での治療成功率(切除群は治療成功率、抗生剤群は再発せず1年以上経過した率)は過去の研究で報告済み。
患者フォロー率:93%、ITT解析あり

結果:
・1年後の治療成功率は、手術群の方が高かった(73%VS99.6%,差=27%,95%CI:-33〜-22%)。
予め設定した非劣勢は証明できなかった(-24%,95%CI:-32〜∞)
・5年後には抗生剤治療群の100人(39%)が切除術を受けており、うち7名は虫垂炎が否定され、15名が初回入院時に手術を受けていた。70人(27%)は1年後に手術を受けた。更に30人(16%)が1−5年後に手術を受けた。他の結果は下記に示す通り。

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(本文より引用)

結論:
 UAAで抗生剤治療後に、5年後まで手術を受けずに済んだのは61%だった

 今回の研究は、解釈が分かれるところかもしれません。UAAで広域抗生剤と開腹術の有効性を比較した今回の研究では、1年後の抗生剤の非劣勢が証明出来なかったが、手術が遅れた事による主要合併症も増えないという結果でした。

 現行のガイドラインではUAAの治療で保存的抗菌薬療法は推奨されていないため、対象患者の選定には注意すべきです。18-60歳の糞石のない虫垂炎で、かつ手術の希望がないか非適応の場合に考慮しても良いかもしれません。それ以外の要因だと、手術が出来る環境ではない、外科医の選択、患者の希望、緊急処置を要する状態ではない、手術合併症を懸念している時なども保存的治療を考慮という感じでしょうか。

 今回のAPPAC試験では点滴治群の合併症率が低いという結果でしたが、更に長い観察期間を設け長期合併症を検証するべきです。また、今回はカルバペネムやレボフロキサシンなどの広域抗生剤が使用されていますが実臨床ではこれほど広域では無いので注意が必要です。点滴、鎮痛剤、解熱剤なども状態に応じ適切に使用すべきです。近年、腹腔鏡下切除術の台頭に伴い入院日数、疼痛、感染などの合併症が減った可能性があるので、今後は抗生剤 vs 腹腔鏡手術の比較を行う必要があるかもしれません

✓ 非複雑性虫垂炎では、抗菌薬による治療は手術と比較して非劣性を証明できず

論文:Retrocohort 低リスクな軽症高血圧患者に対する降圧療法の効果と害

このテーマ重要だと思っています。
脂質異常症、糖尿病の治療がリスクベースなのに対して、高血圧の推奨はリスクよりも値そのものが優先されている印象があります。

特にSPRINT研究以来、<120mmHgなどの極端な軽症高血圧への治療が勧められつつあるのが気になるところです。やはり、高血圧患者のかなりの割合を占める軽症高血圧患者では本当にメリットがデメリットを上回るのか?というところがポイントになりそうです。

低リスクな軽症高血圧患者に対する降圧療法の効果と害
Benefits and Harms of Antihypertensive Treatment in Low-Risk Patients With Mild Hypertension

JAMA Intern Med. 2018;178(12):1626-1634.

【背景】
 低リスクな軽症高血圧患者における薬物治療開始を支持するエビデンスは未だ結論は出ていない。少なくとも今までの臨床研究ではメリットを実証することができなかった。これは世界中の臨床ガイドラインと矛盾しています。
【目的】
 低リスクな軽症高血圧患者に対する降圧治療と死亡リスクおよび心血管疾患との関係を検証する
【デザイン・セッティング・患者】
 1998年1月1日から2015年9月30日までに、18-74歳まで未治療の軽症高血圧(140-159/90-99mmHg)患者が組み入れられた。過去の心血管疾患既往やリスク因子を有する患者は除外された。
【曝露】
 降圧薬の処方。ロジスティック回帰モデルを用いて治療率について傾向スコアを設定した。診断から12か月以内に治療された患者を、最近傍法で傾向スコアでマッチさせた。
【メインアウトカム】
 Cox比例ハザード回帰を用いて、ベースラインで降圧薬が処方された患者と比較して、死亡率・CVD・有害事象の割合を評価した
【結果】
 合計1万9143人が降圧薬治療を受けており(平均年齢 54.7歳、女性 55.9%、白人 55.5%)、未治療の1万9143人(平均年齢 54.9歳、女性 55.5%、白人 55.7%)とマッチした。
 平均フォローアップ期間 5.8年で、降圧治療と死亡率に相関関係は認めず(HR 1.02:0.88-1.17)、心血管疾患とも相関関係は認めなかった(HR 1.09:0.95-1.25)
 治療は有害事象と相関し、
・低血圧(HR 1.69:1.30-2.20、NNH/10年 41)
・失神(HR 1.28:1.10-1.50、NNH/10年 35)
・電解質異常(HR 1.72:1.12-2.65、NNH/10年 111)
・急性腎障害(HR 1.37:1.00-1.88、NNH/10年 91)
【結論】
 ガイドラインで推奨されている低リスクの軽症高血圧患者に対する治療開始を支持するエビデンスは認められなかった。一方で、有害事象リスクが増加するというエビデンスが得られた
 リスクの高い患者で得られたエビデンスをリスクの低い患者に適応する際には注意を払う必要がある。

血圧を測っている男性のイラスト

 【批判的吟味】
・論文のPECOは
P:低リスクな軽症高血圧患者
E:降圧薬治療あり
C:降圧薬治療なし
O:心血管・死亡・有害事象
T:後ろ向き観察研究
・平均年齢 54歳前後、BMI 29、収縮期血圧 145、拡張期血圧 89、心血管リスク8%程度の患者さん達が対象
・2万人を越える規模は過去最大規模、ただし信頼区間は比較的広く、イベント発生率が少なかったことが原因と考えられます。低リスクの軽症高血圧という時点で仕方ないのかもしれませんが・・・
・有害事象の報告バイアスはありそう。
・大規模で傾向スコアを使用したとしてもやはり交絡はあり得ると思います。具体的には癌有病率が異なったりするようです
【個人的な意見】
 意外と有害事象が多い事にびっくりしました。低血糖は注目され回避されますが、降圧治療の有害事象である低血圧・失神・電解質異常などについてはあまり十分配慮されていないのかもしれません。

✓ 低リスクな軽症高血圧患者の降圧治療効果ははっきりせず、有害事象が多い