栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 20140223

BMJ
【乳癌検診の長期予後from カナダ Twenty five year follow-up for breast cancer incidence and mortality of the Canadian National Breast Screening Study:randomised screening trial】
 1980年代から一年おきに5年間乳癌検診を受けた89835人の方の25年後の長期予後を評価した研究です。当時40代の女性はMMG、50歳代は触診+MMGで、介入群と非介入群(非MMG群)を比較しています。
 結果は、全死亡も乳癌死も全く変わらず。MMGで見つかる22%の乳癌はoverdiagnosisとの結果でした。ただこの研究では非介入群にも乳房ケアの教育はされているので、非介入群もやや意識の高い群かもしれません。ちなみにMMGが全死亡を減らすというメタ解析もあるのですが、多くは1960-80年代の研究なので、現在の乳癌治療とは異なる治療が行われている時代のものです。今回扱われた1980年代以降というのは、現在の乳癌治療に近い、手術+化学療法というスタイルが確立された時代でもあり、現在と全く同じとは言わないまでも、それに近いデータとも言えます。少なくとも40-50歳代のMMGの長期予後という部分に寄与する統計学有意差はないと言えます。
 これ、慎重な言い回しになるのは、もちろんMMGによって恩恵を受ける人もいるからです。でも、逆にMMGによる害(不必要な手術、癌と診断されることの精神的負担、治療にかかる費用等)を考えると、手放しにどんどんMMGを勧めましょうという論調にはならないと思います。これは、このstudyのみならず多くの乳癌スクリーニング検査についても同様の結果が出てきています。もちろん国毎にきちんと検証すべきと思います。

【プライマリ・ケア領域でのうつ病スクリーニングは有益か? Does depression screening improve depression outcomes in primary care?】
 プライマリ・ケア医はpsychoの部分まで対応が必要であるというのは、家庭医の教育の柱でもあります。ただ、一方で、不十分な知識や技術の医療者が十分な教育も受けずに関わって良い部分だろうか?というのは、過去にも多くの議論があったようです。
 プライマリ・ケア領域でのうつ病有病率は5-10%程度。アメリカのUSPSTFは「ちゃんと診断・治療できるスタッフがいるならするべき」、カナダは、2013年から「推奨せず」、イギリスのNICEガイドラインでは「推奨せず」なんだそうです。少なくとも過去のRCTやメタ解析でうつ病スクリーニングがうつのoutcomeを改善したという研究は無い様でした。今後の課題として、プライマリ・ケア医が対象とすべき群を明らかにし、どの介入が望ましい効果を生むのかなどを検証すべきとしています。現時点では、推奨するだけの根拠は乏しいとのことでした。

【質的評価指標(Quality indicators:QI)へのインセンティブ撤回は遵守に影響を与えるか? Withdrawing performance indicators:retrospective analysis of general practice performance under UK Quality and outcome framework】
 これもBMJらしい視点。海外ではQIを遵守するとインセンティブ(お金)がもらえるようです。644のgeneral practiceの医療機関である程度、QIが遵守されるようになった項目について、2004-2012年にインセンティブを無くしていって、それによって遵守率やoutcomeは変化するかを評価しています。イギリスすごいな。
 意外とインセンティブをなくしても遵守率は守られていたという結果でした。一度定着したプラクティスはお金をもらえなくなっても続くということでしょうか。これはでも、本来の目標達成ですよね。日本はペナルティがあっても良いくらいだな。外来処方抗菌薬のニューキノロン率が20%を越えたら、診療報酬50%カットとかね。
 ちなみに、このQIの名前が面白くて、「Asthma7」「CHD12」「DM18」「Stroke10」とかまるで戦隊モノの名前みたいでした。


■Lancet■
【Stiff Person 症候群(SPS)の症例 Stiff person syndrome masquerading as panic attacks】
 SPSは一度は診断してみたい症例ではあります。なかなか見逃されている症例も多く、診断までに平均6年、精神疾患と誤診され治療される症例も多い様です。この症例も3年前に娘を亡くしてうつ病を発症、その後音を聞くと身体が動かなくなるという主訴でパニック障害と診断。徐々にうつが改善するも徐々に歩けなくなってきてしまった・・・という病歴でした。音や接触で症状が誘発されるんですね。
 SPSは1956年にMayo clinicのMoerschとWolfmanが初めて報告した稀な神経疾患で100万人に一人と言われています。中年発症でGABA受容体の障害によって筋肉を弛緩させる神経系統がうまく働かず、硬まってしまう病態です。80%の症例がGAD抗体陽性となるようで、自己免疫疾患の一つと考えられています。

【難治性高血圧に対する交感神経遮断術 術後3年 Percutaneous renal denervation in patients with treatment-resistant hypertension:final 3-year report of the Symplicity HTN-1 study】
 難治性高血圧症例に対する交感神経遮断術の効果を評価したcohort studyの長期結果です。利尿剤を含んだ3剤の降圧薬を併用してもsBP>160mmHgの症例に対して、カテーテルによる腎動脈周囲の交感神経アブレーション術を行った症例153例のうち3年間followした88例の解析でした。結果は3年後も血圧低下効果は持続しており、大きな合併症の出現は無いという結果でした。しかも経時的に血圧降下度合いは増加する傾向でした。
 脱落症例が多いのが気になるのと、Open label試験なので、今後きちんとしたRCTでの検証が必要と思いますが、かなり興味深い結果ではありました。2009年に最初の研究結果は発表されていたんですね。確かにどんなに薬をいれても下がりにくい方はいるので手技的なハードルが下がれば、今後の治療選択肢の一つになるかもしれません。