栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet アルツハイマー病/アルコール摂取と心疾患/閉鎖孔ヘルニア/ワクチン接種とインセンティブ/抗菌薬コーティングデバイス

BMJ

アルツハイマー病 
Alzheimer's disease:still perplexing problem*1

 BMJのreviewです。アルツハイマー病は、1907年にAlzheimerさんが若年性認知症を報告してから、100年以上経過するものの何も進んでいないと嘆いています。1998-2011年までの間に101種類の薬剤が検討されたそうなんですが、結局3つしか認可されていない現状があるとのことです。そもそも病因もよく分かっておらず、仮説の段階。現在ある仮説として、①アミロイド仮説、②tau蛋白仮説、③アセチルコリン仮説があります。
 当初は、若年性認知症の原因と思われていた様ですが、1980年頃から高齢者認知症の原因となる事が言われてきています。診断の難しさは言われており、1984年のNINCDS-ADRDA診断基準では、脳生検がgold standardだった様ですが、誤診率が25%もあり問題とされていました。また、生検で病理学的にAlzheimer型認知症と診断された方の1/4が認知機能正常だったとのことで、病理診断をgold standardとするのは侵襲度も含めて難しい状態になっています。結局現在はMRI・CT・PETなどもgold standardにはならず、臨床診断が主となっています。主にDSM分類が用いられています。http://www2.hama-med.ac.jp/w1b/med1.backup/gaku/lecture_n/alzheimer.html
 治療に関しては、アミロイドβ蛋白を減らす治療がほぼ全敗である現状から考えると、予防が大切という流れになっている様です。危険因子管理と認知機能のリザーブ機能を強化することが大事。現在言われているのは、精神的に刺激的な活動と社会的関与の継続、肥満・高血圧・糖尿病・運動不足・貧困などの現在分かっている認知機能リスクを回避することが検討されていますが、今後要検討という段階です。
 

飲酒量と心疾患 
Association between alcohol and cardiovascular disease:Mendelian randomisation analysis based on individual participant data*2

 飲酒量と心疾患の関連を調べたメタ解析です。Clinical questionとしては、少量アルコールが本当に心疾患予防に有効かどうかというところです。ヨーロッパ26万人の56コホート研究を基に、アルデヒドを分解しにくい遺伝子素因と実際の飲酒量、心疾患・脳卒中の発症との関係を調べています。この論文、まずおもしろかったのは著者欄で論文の3.5頁を使ってます。アブストラクトが出てくるのが4頁目。多すぎっしょ!
 さて、患者群ですが261991人のヨーロッパ人で20259人の冠動脈疾患と10164人の脳卒中患者が含まれています。またADH1B rs 1229984variantとアルコール摂取量を調査しています。ちなみにこのADH1B rs 1229984variantはアルコール脱水素酵素の遺伝子多型で、変異型を持つ人では、アルコールをより効率的に分解できる為、依存症のリスクが減るのでは?と言われていました。今回はこの変異あり、なしの患者群でアルコール摂取量と心疾患・脳卒中罹患率を調査しています。
 結果は、ADH1B rs 1229984variantを持つ患者では、アルコール摂取量が17%少なく、深酒も78%がしないという結果だった。BMIや血圧は少ない傾向でした。また、プライマリアウトカムの冠動脈性心疾患はvariantありでOR 0.90(0.84-0.96)で10%低くなることが分かりました。飲酒をしない人に限ると、variantの有無は心筋梗塞に関連しない為、飲まない方が一番良いのでは?と考察されていました。まあ、この手の何が健康に良いか的なテーマってよくあるのですが、明日の診療になかなか役に立たないですね〜。

■Lancet■

膝の痛みで発症した閉鎖孔ヘルニア 
Sudden knee pain in an underweight,older woman: obturator hernia*3

 最近Lancet caseは日本からの症例が多いですね。今回は多摩メディカルセンターの外科の先生方からの報告でした。92歳の女性のBMI 14.2と著明に痩せているおばあちゃんの2日前からの急激な右膝痛。整形外科を受診し、レントゲンを撮ったところOAと診断されています。翌日には嘔気・嘔吐が出現し、3日目に受診。
 受診時、右膝の痛みも腫脹もなく、膝屈曲させることで痛みが軽減するとの所見。腹部膨満はあるものの腹膜刺激症状なく、CTで右閉鎖孔ヘルニア嵌頓の診断となりました。術後速やかに膝の痛みも改善しています。

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(文献より引用)

 身体所見としてHowship-Romberg徴候が解説されていました。Howship-Romberg徴候は”大腿内側から膝・下腿に放散する疼痛や痺れ・痛み”と報告され、股関節の進展・外転・内旋によって増強するとされています。閉鎖孔ヘルニアに特徴的であるとされていますが、頻度は25-50%程度とあまり多くはありません。機序として、閉鎖孔を通る閉鎖神経の知覚枝は大腿内側と膝・股関節部に分布する為、閉鎖孔内に腸管が脱出する閉鎖孔ヘルニアでは、神経圧迫による知覚障害が出現し疼痛を感じるというものです。高齢痩せ型女性を診た場合には、よく疑うのと鼠径ヘルニアを疑って、鼠径部・大腿部には所見が無い時に考えましょう。

薬物依存患者金銭的インセンティブによるワクチン接種 
Use of contingency management incentives to improve completion of hepatitis B vaccination in people undergoing treatment for heroin dependence:a cluster randomised trial*4

 これは大変面白い研究でした。一言で言うとやっぱりお金なの?と。ヘロイン中毒などの薬物依存患者さんは感染症リスクが高い群にもかかわらず、なかなかワクチンを打ってくれないという問題点があります。今回の論文の舞台はイギリスなのですが、イギリスでは22%のdrug userさんはワクチンを打ってくれないとのことです(日本では医療従事者ですら・・・)。
 今回は、このdrug userさんを対象に、全英12のセンターでオピオイド代替療法を開始した2ヶ月以内の18-65歳の患者さんを対象にしています。介入は、

①通常のワクチン接種推奨で0・7・28日目に接種
②ワクチン接種毎に10英$をプレゼント群(fixed)で、0・7・28日目接種
③ワクチン接種毎に5→10→15英$と段階的に増やす群(escalating)で、0・7・28目接種

の3群で比較しています。要はお金あげたらワクチンうつ?っていうtrialプライマリアウトカムは28日時点でのワクチンcomplete接種率としています。
 結果として、ワクチンのcomplete接種率は、通常ケア群が8%、fixed群は45%、escalating群が48%で、お金をもらえると有意にワクチン接種があがるという結果でした。結構衝撃でして、まず普通に勧めたら8%くらいの人しか打ってくれないこと。そして、その人達がお金をもらえるだけで半分はうつ事でしょうか。editorialでも専門家サポートとかではなく、単純な金銭サポートがワクチン接種率を上げることは明確だとしていました。「普通のことをしてお金をもらっている」ということが問題点かもと指摘。予防医学はやはりincentive,rewardが重要だということが再認識されました。

抗菌薬コーティングデバイス 
Precarious innovation of anti-infective coated devices*5

 抗菌薬コーティングデバイスに対するnegative dataが続いています。今回Lancetのコメント欄で、抗菌薬コーティングデバイスは一見魅力的だが、残念ながら結果が出ていないよね〜。今回、大規模RCT(Lancet 2014; published online April 7. http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(14)60238-5.)で術後の縫合糸の抗菌薬コーティングの効果を検証されていましたが、SSIの発症頻度はOR 0.91(0.66-1.25)と有意差はありませんでした。editorialは大変冷静で、そろそろ皆費用のことも考えて冷静に行こうよと。むしろ、局所の抗菌薬コーティングをするよりも、SSI予防として既に効果を証明されているタバコ・血糖・肥満対策を優先すべきだよねとコメントしていました。