栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ミネルバ/経口避妊薬内服と死亡率/世界血栓デー/播種性帯状疱疹ウイルス脳炎

BMJ

ミネルバ
MINERVA*1

 BMJ主催のOverdiagnosisカンファレンスが今年も行われた様です。大盛況だった模様で、多くの参加者がワーキンググループを作って今後の積極的な取組を期した様です。さて、今回のOverdiagnosisの問題は高齢者についての議論がほとんどだった様ですが、実際には小児領域のOverdiagnosisについても検討すべきだとされています。というのもアメリカのデータでoverdiagnosisのトップに上がるものとして、ADHD敗血症・食物アレルギー・高ビリルビン血症・OSA・UTIがあり、この中には小児領域のものも多いとしています。小児領域のoverdiagnosisの潜在的な問題は、その後の人生に大きな影響を与え、高齢者以上に潜在的な害が多くなる可能性があるという点です。今後大いに注目です。

 その脇に写真入りでお馴染みの症例が載っていました。50歳の看護師が、突然左薬指にアザが出来たとのことで来院。痛みは無く、前駆症状は軽度の感覚異常と掻痒感で、48-72時間後にはほぼ元通りに改善していたですよーと。さてなんぞや?

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(文献より引用)
 答えはAchenbach症候群。まあ、症例問題的にはお馴染み過ぎるかもしれませんが。稀な自然寛解する原因不明の病態です。痛みないこともあるんですね−。血液凝固系の検査では特に異常所見を認めず、自然寛解し特異的な治療は必要としません。一度見ておくと忘れないですね。

経口避妊薬内服と死亡率 
Oral contraceptive use and mortality after 36 years of follow-up in the Nurses' Health Study: prospective cohort study*2

 またまたNurses' Health studyの大規模コホートから前向きコホート研究の報告です。今回は、経口避妊薬と乳癌死亡についての話題。経口避妊薬は1957年の使用開始以来、100万人以上の女性が使用してきています。過去にも実に多くの研究が経口避妊薬の利益と害について報告していますが、多くは静脈血栓症脳卒中などの急性期イベントによるものが多く、長期予後の検証は不十分でした。

 今回は、12万1701人という大規模な検証で36年間のfollow up期間を置いている大規模前向きコホートでした。データは1976年から2012年まで収集され、一生涯の経口避妊薬使用がカルテベースに集積され、死亡との関連が調査されました。結果として6万3626人(52%)は一度も経口避妊薬を使用しておらず、5万7951人(48%)は使用歴がありました。コホート中に3万1286人が亡くなっていますが、全死亡においては経口避妊薬使用・不使用で有意差がありませんでした。一方で、事故や暴力に伴う死亡が増加し(HR 1.2:1.04-1.37)、長期使用によって乳癌死亡率増加および卵巣癌死亡率低下と関連していました。

 結局の所、全死亡では有意差が出ないとのこと。乳癌死亡は増えても卵巣癌死亡は減るわけですものね。何故か某医療系サイトの見出しは乳癌死亡増加!をsensationalに捉えていましたが・・・

 

✓ 経口避妊薬使用は全死亡とは関連しなかった
 

■Lancet■

世界血栓デー 
On World Thrombosis Day*3

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 今年から10月13日は「thrombosis day」ですよとな。世界で年間1000万人が静脈血栓症に罹患しており、そのうち2/3は予防可能だと試算されています。何とか対策をということでロゴマークまで決め、立派なweb pageまで出来て対策に乗り出しています。http://www.worldthrombosisday.org/

 何故に10月13日かというと、この日はVirchowさんの誕生日。Virchowさんは、剖検で初めて肺の血栓が下肢由来である事を証明し、Virchowの3徴を確立した血栓症の父なわけです。更には、「thrombosis」と「embolism」という言葉を初めて使用したのもVirchowさんなんだとか。どうでもよいですが、Virchowのお弟子さんはランゲルハンス細胞のLangerhansさんで、二人ともドイツの病理学者ですね。もちろん、Virchowリンパ節を提唱したのもこの人です。

 ちなみに、本文に同時期に活躍した病理医としてRokitanskyさんも登場します。これはRAS洞の人ですね。二人とも病理解剖の手法を開発して、それぞれRokitansky法、Virchow法として、系統的病理解剖法に名を馳せているのだそうです。更に余談ですが、Rokitanskyの病理医として初めて解剖したのがかの有名なベートーベンなのだそうです。
 おーー。thrombosis dayとは全く何の関係もない話になってしまいました・・・

 

✓ 世界血栓デーは10月13日です!

 

播種性帯状疱疹ウイルス性脳炎 
Disseminated varicella zoster virus encephalitis*4

 Lancetの症例報告。今回は33歳のホームレス女性。うーむ、まずこの設定がすごいな。1週間前から皮疹が出現し、2日前から乾性咳嗽・呼吸困難・発熱も出てきたとのことで救急受診。来院時、体温41.0℃、BP 98/65mmHg、HR 85bpm、RR 16/min、SpO2 47%(RA)でしたと。顔面・四肢・体幹・頭皮など全身に時期の異なる丘疹性紅斑・水疱を認め、一部は掻き壊しによる出血を認めていました。意識も神経所見は正常。胸部Xpでは両側びまん性に透過性低下。

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(文献より引用)

 来院数時間後に、突然混乱が出現し、呼吸筋麻痺から相関が必要な状態になり入院となっています。脳波ではnon-convulsive epilepsyの所見でした。頭部MRIでは、脳梁膨大部と側頭葉、後帯状皮質に多発するmicrohaemorrhagesを認め、感染性脳炎に伴う所見が疑われました。HIVが陽性でCD4 4cells/μl、ウイルス量66000copies/ml。皮膚生検からは、VZVが検出され、播種性帯状疱疹ウイルス性脳炎と診断されました。HSVは陰性だったと。

 播種性帯状疱疹を診た場合には免疫不全を疑う必要があります。帯状疱疹ウイルスによる脳炎に特徴的な所見として、急性のせん妄や頭痛を伴う神経脱落症状(片麻痺や失語、失調、感覚障害、視野異常等)が報告されています。疾患が疑われたら速やかに経静脈的ACV 10mg/kgを8時間毎に7-10日投与すべきです。

 この方はその後、VZV肺炎、アスペルギルス肺炎、プロポフォールによる膵炎、大腸菌による尿路感染症を経て、HIVに対する抗ウイルス療法を行い、2年の経過でfull recoveryしたのだそうです。いやあ大変・・・

 

✓ 播種性帯状疱疹ウイルス性脳炎は原則免疫不全を探す!