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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 医者のコミュニケーション技術の患者評価/認知症の精神症状への薬物療法/インフルエンザワクチン批判/非外傷性脾破裂/Apgarスコアは現代でも有用か?

BMJ

医者のコミュニケーション技術の患者評価 
Understanding high and low patient experience scores in primary care: analysis of patients' survey data for general practices and individual doctors*1

 情報開示の時代に突入し、医療のパフォーマンスが評価される時代に突入しています。しかも施設毎評価から医師個人の評価へと評価の対象が移行しているのも特徴です。今回、プライマリケア領域の医師を対象に患者さんへのアンケート調査から医師のコミュニケーション技術に対する患者評価を調査しています。

 英国GPのプライマリケア59施設に呼びかけて7項目を0-100点で患者に評価してもらっています。メジャーアウトカムはコミュニケーションスキルに関するスコアをプライマリアウトカムとしています。59施設への呼びかけのうち25施設が参加し、医者105人が評価対象になりました。また、患者は7721人/15172人で約50%がサーベイランスにレスポンス(いわゆるアンケート回収率ってやつ)しています。終末期患者や短期レジデントなどは除外し、最も最近の受診の内容で評価してもらう事としました。

 結果ですが、コミュニケーションスキルに関しては、施設毎で評価が異なるというよりも医者毎で評価がばらつくという結果でした。図は施設毎の評価の違いですが、平均点数の低い施設で医者毎のばらつきが多く、平均点数の高い施設では医者毎のバラツキは少ない傾向でした。同じアンケートを「施設のきれいさ」という項目で評価するとバラツキは無くなることもあり、施設毎に評価すると医者毎のバラツキがマスクされることが分かり、医者毎に評価しなくてはいけないね・・・という結論でした。

コミュニケーションスキル↓

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施設のきれいさ↓

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(文献より引用)

 興味深かったのは、施設全体の平均評価が低い医療機関ではみんな出来ない訳ではなく出来る医者がいるということ。平均が高いところはバラツキ無く出来る。これって医療機関毎の教育効果の賜物なのかなあと。スーパーマンが一人いても教育が上手くいかないと施設としては残念なことになるという現れとも言えますね。

✓ 医療者のスキル評価は施設毎ではなく個人毎で行うべき。


認知症の精神症状への薬剤治療 
Don't use antipsychotics routinely to treat agitation and aggression in people with dementia*2

 認知症の周辺症状としての興奮に対する抗精神病薬の使用はできるだけ避けましょう!というのがメタメッセージです。抗精神病薬の使用は本邦でも広く行われているものの、害があることは明確になっています。ちなみに薬剤の適応としては、欧州はリスペリドンを6週間まで、米国は薬剤適応なしとされていますが、世界中でよく使われています。近年徐々に使用は減少傾向で、2012年時点でイギリスはpeak時の50%程度まで減少していますが、それでも認知症患者の16%が抗精神病薬を内服しているとされています。

 過去の研究を見ても、一番検討されているのはリスペリドン2mgで、1mgは効果が無いということも検証されているみたいです。また、クエチアピンなどの他剤も現時点ではほぼno evidenceとされています。
 害として明確になっているのは、

①12週使用で1%死亡増

②心血管イベントリスクは3倍

③MMSEは12週で0.7点ずつ減っていく

とのこと。また、逆に抗精神病薬を中止した患者では、継続した患者と比較して死亡のHR 0.58(0.36-0.92)と有意に死亡率が減少することも知られています。そもそも興奮・せん妄の原因を探らずに、薬剤投与が行われる事が問題であり、比較的多い原因は痛みとも言われ、そのケアも充分しましょうと宣っています。

 もちろん、難しいのは家族・施設からの圧力で、丁寧に時間をゆっくり使いながら薬使用の限界と害について説明することが大事です。どのように”non drug manage”をしていくのかが重要ですが、まだまだこの部分に関するエビデンスが不足しています。下記のBoxにnon-drug manageのいくつかがまとまっています。もちろん、実際に施設診療をやっていると難しさには多く遭遇しますから、状況によって判断にはなりますが・・・

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(文献より引用)

✓ 認知症患者の興奮に対するアプローチ方法の確立を。脱薬剤時代。使うならリスペリドン2mg/日 6週間まで。
 

インフルエンザワクチン批判 
What use is mass flu vaccination?*3

 さてBMJは今週も良く吠えております。今度はインフルエンザワクチンについて。個人的にはワクチン接種にそれほど懐疑的ではないのですが、意見として色々あるよとのことで載せておきます。

 いよいよfluのseason到来。諸外国では65歳以上の患者さんと、6ヶ月〜65歳患者で危険因子(心疾患・喘息・CKD等)がある患者にワクチン接種が推奨されています。また、医療従事者や介護従事者で直接インフルエンザ患者さんに接触する可能性がある職種には接種が推奨されています。

 さて、Cochrane reviewによると健常人に対するインフルエンザワクチンは仕事休業時間を0.04日短縮する程度であり、公衆衛生的な視点からは効果が疑問視されているのだそうです。また、インフルエンザワクチン効果を検証した研究は小児のものが多く、NNV(Number needed to vaccinate to prevebt)は、生ワクチンで7人・不活化ワクチンで28人とされており、またその効果もシーズンの流行状況によって大きく異なります。また、長期介護施設での保健介護者に対するワクチン接種は、インフルエンザ発症者・インフルエンザ入院・呼吸器感染症死亡を減らさなかったと報告されています。

 この問題に決着をつけるには、最低限インフルエンザワクチンのRCTを行って検証する必要があると思います。NHSは”flu fighter”と称してキャンペーンを貼っていますが、お金かけすぎじゃないか?とも批判。なんと、ワクチン接種者に現金・チョコレート・キャンディー・ケーキ・一日の有給休暇を与えたりしているみたいですが、それってワクチン接種で防げる0.04日の休業時間短縮より圧倒的に多くないか?とも批判。


Flu Fighter - NHS Employers


 難しい所ですね。肺炎球菌ワクチンもそうですが、接種根拠が乏しいワクチンの集団接種の場合には、様々な視点からの検証が必要です。ワクチン打ってればOK、タミフルⓇ飲んでればOKではなく、徹底した接触感染予防や環境整備・予防対策が重要になるのではないかと思います。

✓ インフルエンザワクチンの公衆衛生的効果は休業時間0.04日短縮。実は集団接種の根拠は少ない。
 
 
■Lancet■

非外傷性脾破裂 
A non-traumatic splenic rupture leads to diagnosis of underlying abnormality*4

 Lancet caseを日本が狙い撃ちしているのかしら(笑)。こんなに出てくると当院からも狙ってみようかなとか思ってしまいますが・・・

 61歳男性で3週間前からの微熱・倦怠感・労作時の呼吸困難感で来院。身体所見で脾腫はあったが肝腫大やリンパ節腫張はなく、採血では白血球・血小板減少を認め、sIL-2r 8780U/mlだったそうで。ウイルス検査は異常所見無く、CTでは脾腫以外に特記事項無し。腸骨骨髄穿刺では正常骨髄。入院4日後に皮膚生検と気管支鏡での肺生検を施行し、気管支鏡検査直後に、咳嗽が始まり左肩と上腹部痛が出現、血行動態も不安定となり、Hb低下。結果は脾破裂と横隔膜下血腫。すぐに脾摘が行われ、病理学的にnon-Hodgikin's lymphomaでびまん性B細胞性リンパ腫と診断されました。

 非外傷性脾破裂は非常に稀な病態ですが、致死的な病態でもあります。脾破裂は脾臓に異常がある方に起こる事が多く、脾梗塞や膵炎、マラリアや感染性心内膜炎、伝染性単核球症、アミロイドーシスやGaucher病、そして白血病やリンパ腫などの血液疾患などに注意が必要です。悪性腫瘍に伴うものはこの中では頻度が高く、脾臓内で悪性細胞が増大することで、拡張しにくい脾臓細胞に圧力が加わり出血や破裂を来すのではないかと考えられています。

 今回もありましたが、横隔膜刺激による左肩の放散痛は実は名前がついていて、Kehr's signというのだそうです。この辺りを調べてみたら、頚部に放散するものはSaegesser's sign、打診での左右上腹部濁音の差はBallance's signと呼ぶこともあるみたいです。まあ、どれも感度も特異度も高くないのですが・・・結局晴れてしてしまったら手術で摘出することで、病理学的な診断もつくよねーと。明らかに良性疾患だと分かっていれば温存療法やintervetionも検討なのでしょうが・・・多摩医療センターやるなあ。

✓ 非外傷性脾破裂は原則脾臓に疾患を抱えている患者に起こる稀な病態。


Apgarスコアは現代でも有用か? 
Apgar score and the risk of cause-specific infant mortality: a population-based cohort study*5

 Apgar scoreは1953年にApgar先生が開発してから、かれこれ60年以上が経ちますが、1980年代・1990年代に多くのstudyにapgar scoreが使用されるようになってから市民権を得るようになりました。2000年を過ぎても使用されていますが、主観評価が多すぎるのではないかとか、交絡因子を補正できていないのでは?という問題点があり、ちょっと再検証してみようというのが今回の主題です。

 今回のpopulation basedのコホートでは、スコットランドで1992-2010年に出生した全出生児(多胎や先天奇形除く、24週未満、44週以降も除く)を対象に、①Apgar 0-3点群、②Apgar 4-6点群、③Apgar 7-10点群の3群を比較し、プライマリアウトカムを新生児死亡、乳幼児死亡に設定して評価を行いました。106万2390人の児が対象となり除外基準を経て102万9207人を解析しました。1395人の新生児死亡と、2307人の乳幼児死亡がありました。様々な交絡因子を補正したところ、死亡率とApgar scoreは有意な相関を認めました。5分後のApgar scoreは現在でも健在だねと。数値にすると、Apgar 0-3点は

・新生児死亡のRR 359.4(277.3-465.9)

・乳幼児死亡のRR 50.2(42.8-59.0)

有意に関連していました。死因別でみると乳幼児突然死亡(SIDS)との関連は認めませんでした。

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(文献より引用)

 editorialでも、コメントされていますが、主観評価や挿管児での評価の問題はあるものの、それに変わるスコアが出てくるまでは使用していきましょうとのこと。もともとは1分後のスコアだったんですね。いやあ、でもある意味最も良く使用され、ValidationもされているClincal Prediction ruleですね。

✓ Apgar score低得点(0-3点)は、交絡因子を補正しても有意に新生児・乳幼児死亡と相関した。