栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 紹介先の選定方法/梅毒の検査/梅毒の治療/人工関節ガス壊疽/患者の期待の影響

■JAMA■

紹介先の選定方法 
Selecting a specialist adding evidence to the clinical practice of making referrals*1

 プライマリケア医の専門医紹介率は医師によって5倍も異なる事が過去の研究から明らかになっています。まあよく紹介する医者と紹介しない医者がいるということです。この紹介率に、患者要因(重要度や患者期待、立地的な問題等)と医者側要因(能力、性格等)が決定因子となっていると言われています。まずはこの辺りを標準化していくことが必要なのではないか?という流れがあります。

 一方、今回のviewpointは、「どう紹介先を決めるか?」という紹介する側の問題がテーマです。実は紹介される方だけでなく、紹介する方にもその医療機関の決め方にも統一性はありません。例えば入院患者は院内の各科のオンコール医師、開業医・プライマリケア医は関連施設という一定の流れはありますが、必ずしもそれが患者ベストとは限りません。紹介先の情報が不透明なことも大きな問題であり、院内であればどの医師がどの分野を得意にしていて経験があるかなどはある程度見えてきますが、近隣医療機関の場合には、なかなか分かりにくい事も多く、患者トラブルを作る原因になります。

 紹介先を決定する際に考慮すべき因子として、

専門医要因(場所・保険・経験等)
専門医患者関係(患者や家族との相性、患者価値観にあった医療機関か)
専門医-紹介医関係(feedbackがかかるのか、定期follow upをどちらがするのか等)

などが考えられます。よりオープンな紹介先情報充実とデータに基づいた適切な患者紹介を推進していくことが重要ですと。

 ここからは私見。その通りなんですが、じゃあそのために何をすればよいのだろうか・・・と。地域包括ケア時代に、その地域のリソースを患者さん本人と周囲のケア提供者が熟知していくことが、良いケアに繋がるんだろうなと漠然とお思います。integrated careの推進とそれをコーディネートしていく地域のリーダーが求められているんだろうなあ・・・

✓ 紹介先を決定する為に専門医要因・専門医患者関係・専門医-紹介医関係を考慮しながら適正化を図りましょう。


梅毒の検査 
RPR and the serologic diagnosis of syphilis*2

 梅毒は培養できないので原則血清診断になります。また、無症候性の方が多く潜在性の時期もあるため、適切な病期分類が重要になってきます。今回JAMA diagnostic test interpretationで症例ベースに解説されていたので取り上げてみます。

症例)
 45歳男性。排尿障害でクリニックに来院。淋菌性尿道炎と診断され、CTRX筋注と経口アジスロマイシンで治療したところ排尿障害の症状は改善した。彼は10年前に離婚しており、それ以降性行為のパートナーが複数名いることが判明した。MSMは否定。生殖器や皮膚の診察では異常なく、神経学的にも異常所見なし。STIのスクリーニング検査でHBs抗体陽性だったがこれは過去にワクチン接種歴あり。HIVは陰性で、梅毒検査の結果は以下だった。過去に梅毒の診断や治療を受けたことは無い。

f:id:tyabu7973:20141123004648j:plain

(文献より引用)
 

問題)
A.)latent syphilisとしてベンジルペニシリンG 2400万単位を1週間毎に3回投与
B.)RPR低値でserofast stateと判断し治療不要
C.)偽陽性と判断して再検査
D.)無症候性神経梅毒の精査が必要と判断し腰椎穿刺

 

解答)A. latent syphilisとして治療。
 梅毒は徐々に頻度が減っていましたが、HIVやMSMの関係で近年は増加傾向です。非Treponema検査であるRPR(rapid plasma reagin)は伝統的にスクリーニング検査として行われています。理由は検査が容易で費用も安い為、治療効果判定に使えるのなどです。一方で視覚的な検査であり自動化は難しく検査技師さんの手間がかかります。また、自己免疫性疾患などでは偽陽性が起こる事も知られています。一般的にはRPR・TP同時測定ではなく、RPRがスクリーニング検査で陽性の際に、TPHA検査を行うのが通常です。TPHAも偽陽性はあり得ますが、RPR・TP双方が陽性の場合に、両者とも偽陽性ということは稀であり、一般的に両者が陽性の場合、血清学的に梅毒感染と診断します。

 更に重要なのが病期です。考えるポイントは2つで、
①latentかどうか
②earlyかlateか
 この患者さんはlate latent syphilisに分類されます。患者さんは血清反応陽性で無症状なので、latent syphilisとなります。早期か晩期かについては、感染後1年経過しているかで分類します。感染時期が不明な場合にはlateと考えます。earlyのlatent syphilisの場合には、ベンジルペニシリンG筋注1回で治療可能です。lateのlatent syphilisの場合には1週おきに3回筋注が必要です。

 治療終了後にRPRを測定し陰性化を確認しますが、時折低抗体価(<1:8)で持続陽性になることがあり、これをserofast stateと呼び15-20%程度に見られるとされています。CDCは治療後のfollow upを6・12・24ヶ月に行う様に推奨しています。ただし、serofastと診断する為には明らかに過去に梅毒と診断・治療されていることが必要です。梅毒は早期に神経細胞に浸潤し、神経梅毒は梅毒血清反応が陽性の患者では常に考慮すべきです。腰椎穿刺は、治療失敗例や神経症状のある患者さんに行うべき。神経梅毒の頻度はRPR高値(>1:32)やHIV感染でCD4低値だと可能性が高くなります。

 これはちょっと悩ましいですね。正直RPR定量は1:8で低容量だったので、serofastとして経過観察かなあなんて思ってしまいました。過去にどこかで16倍以上を有意とするなんて文献を読んだこともある気がしますが・・・結局late latentとserofastの区別をどこでするかというところでしょうか。RPR陽性で定量を行って、その値で判断するわけですが、ガラス板法でなくなって数値で出るようになってから幅が出て、換算しなくてはいけないので分かりにくくなりました。今回の文献を見ると、過去にあきらかな診断・治療歴が無い場合には、serofastとせずにlate latentとして治療しましょうということでしたので、知らないうちにペニシリン治療されてたんだなーってわけにはいかないかもしれませんね。疑わしきは治療!となると今まで結構スルーしていた気もします。

✓ 梅毒診療では病期診断が重要。latentかsymptomaticか、earlyかlateかをきちんと評価すべし。


梅毒の治療 
Treatment of syphilis*3

 さて、梅毒特集なのかな、JAMAは。若干診断部分で結構お腹いっぱいではありますが・・・梅毒治療のreviewです。梅毒は15世紀後半にアメリカから欧州に持ち帰り、以降500年の間全く治療法が無い暗黒時代が続きました。1940年にペニシリンが発明され、以降梅毒治療が進みます。 post 抗菌薬時代に梅毒は減少しますが、2000年以降アメリカでは歳増加しており、新規梅毒の3/4はMSM由来です。

 治療を語るには、病期が重要なのは検査の項目でも触れました。earlyは1年以内、lateは1年以上、latentは無症状で血清反応陽性を指します。梅毒治療に関するMEDLINEで検索し得た文献は418もあり、11のRCTとメタ解析があり、earlyにはベンジルペニシリンG 2400万単位筋注1回で治療成功率95%とされています。一方、late syphilisの治療studyは少なく、2400万単位1回の成功率が60%前後のため、expert opinionで1週毎3回が推奨されています。この根拠はHIV患者の治療成績でこのレジメンが良かった為であり、実は大規模に検証されていません。代替療法としては、DOXYかCTRXが用いられており、神経梅毒の場合には水溶性PCG 2400万単位を10-14日点滴が推奨です。治療のアルゴリズムが分かりやすく載っていました

 治療効果判定は、非Treponema検査が行われ、4倍以上の抗体価低下を治療効果ありと判定しています。非Treponema検査には主にRPRとVDRLがありますが、相補的な関係はないため、換算もできませんが、一般的にはRPRの方がVDRLよりも高く出ることが知られています。抗体価モニタリングもexpert opinionによる部分が多く、最近では、治療症例の20%でVDRLが治療後2倍に一時的に上昇したり、15-41%で最終的に下がりきらない serofastの状態になる事も知られています。やはり培養やPCR検査が出来ないところが色々とネックになっているようですね。

 ちなみに本邦で治療する場合には、アミノペニシリン製剤を使用することが多く、サワシリンⓇ1500mg/分3(毎食後)を第1期2−4週間、第2期4−8週、第3期8−12週とかなり長期に必要とされています。ちなみにalternative choiceとしてDOXYがありこちらだと、earlyは200mg/分2を2週間、lateで200mg/分2を4週間とされていました。

✓ 梅毒治療はベンジルペニシリンGが基本。本邦では替わりにアミノペニシリンかドキシサイクリン。


■NEJM■

人工関節ガス壊疽 
Gas gangrene of a prosthetic hip*4

 培養で出てきたら大腸癌を考えましょう!っていう菌でStreptococcus bovisは有名ですが、他にも実は色々ありますよね。C群・G群のStreptococcusも結構多いなんて話もありますが・・・今回のNEJM症例では、Clostridium septicumという聞き慣れない菌が出てきました。こいつによる人工関節感染でガス壊疽を発症した82歳女性。糖尿病合併ありです。人工関節は10年前にTHAを施行していました。

 経過としては、急性発症の左殿部痛と発熱39.2℃、白血球増多12400があり、Xpでは股関節部にガス像を認め、ガス壊疽が疑われました。広域抗菌薬が開始され、緊急外科的デブリドマンと人工物除去が行われ、関節部位の培養から上記のClostridium septicumが培養されました。感染は6週間の抗菌約治療(de-escalationでPCGへ)で改善し、人工物が細粒治されています。

 で、ここから。Clostridium septicumは大腸癌との関連が指摘されている為、大腸内視鏡検査を施行したところ、上行結腸に6cmほどの進行大腸癌を認め、転移も無かった為結腸切除しましたとさ。メモメモ。

f:id:tyabu7973:20141123004959j:plain

(文献より引用)

✓ Clostridium septicumが検出された時には大腸癌を探せ!


患者の期待の影響 
Expectation management*5

 何かの数字を患者さんに提示した際に少なからず、治療効果に影響を与える事はよく知られています。例えばプラセボ効果やノセボ効果もその一つですよね。有名なものに、偏頭痛の研究があります。
 マクサルトⓇの研究で、
プラセボラベルをつけたマクサルトⓇ(要は実薬)は、実際のマクサルトⓇよりも効果が落ちる
マクサルトⓇラベルのプラセボ(要はプラセボ)は、実際のプラセボよりも効果がある
 これらのことが証明されています。

 これらの結果は、プラセボ効果・ノセボ効果を端的に現したものですが、特定の疾患群ではよりプラセボ効果が出やすいとされており、疾患毎に注意する必要があります。特に患者個人の期待が高い場合には、「治療に対する期待」が治療効果に大きな影響を与える事が知られており、注意が必要です。

 ただ、この部分に関してあまり有用な研究がされておらず、「患者の期待」や「医者の説明」が治療効果にどの様に影響するのかを検証するstudyが必要ですねと。そしてノセボ効果に関しては出来る限り減らすべきでしょうと。ある意味では、薬剤の実際の効果以上に説明というスキルで治療効果をあげる事ができることが証明されていけば、そしてそのスキルが言語化可能なものだったら、今後の治療に大きな影響を与えていくことになるでしょうね。shared decision makingを考えていくためには特に重要な概念です。一方で不確実性の説明はとても重要ですが、一方でそれが治療効果を阻害するリスクがあることも念頭に置く必要があります。こちらも同様に、どの様な説明方法が治療効果を阻害するのかを検証していく必要がありますね。

✓ 患者への説明方法によって、治療効果に影響が出ることがある。今後はその分野の研究が必要。