栃木県の総合内科医のブログ

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論文:日本人高齢者に対する低容量アスピリンの一次予防効果

日本人高齢者に対する低容量アスピリンの一次予防効果
Low-dose aspirin for primary prevention of cardiovascular events in Japanese patients 60 years or older with atherosclerotic risk factrs

JAMA. Published online November 17, 2014. doi:10.1001/jama.2014.15690

【背景】
 動脈硬化性心血管病変の予防は高齢化時代を迎えた日本にとって公衆衛生上優先度の高い問題である。

【目的】
 低容量アスピリンの連日内服が、複数の動脈硬化リスク因子を持った日本人高齢者の心血管イベントを減らすことができるかを検証する。

【研究デザイン】
 Japanese Primary Prevention Project(JPPP)と名づけられたこのプロジェクトは、多施設・オープンラベル・無作為・パラレルグループ試験(PROBE試験)。14464人の60-85歳の高齢患者で、高血圧・脂質異常症・糖尿病を基礎疾患として持っている患者が、日本のプライマリケア施設1007施設で2005-2007年までの間にリクルートされた。過去に心血管疾患、脳血管疾患の既往がある患者は除外。follow up期間は6.5年で、2012年5月まで追跡された。多職種エキスパートパネル(治療について盲験)がアウトカム評価を行った。

【介入】
 患者は、アスピリン腸溶錠100mg/日群と非アスピリン(通常治療のみ継続)群に1:1で無作為割り付けされた。

【メインアウトカム】
 Primary outcomeは複合アウトカムで、心血管関連(心筋梗塞脳卒中・他の血管病変)の死亡+非致死的脳卒中脳梗塞脳出血・脳血管疾患等)+非致死的心筋梗塞を複合している。Secondary outcomeはそれぞれのエンドポイントを調査した。

【結果】
 研究は、中間解析でデータ調査委員会から治療の無益性とアスピリンによる潜在的害を指摘され、平均follow up5.02年(4.55-5.33年)の時点で早期終了となった。患者は14658人がアスピリン群7323人、非アスピリン群7335人に無作為割り付けされた。アスピリン群および非アスピリン群ともに56例の致死的イベントが発症していた。非致死的脳卒中アスピリン群で114人、非アスピリン群で108人、非致死的心筋梗塞アスピリン群で20人、非アスピリン群で38人だった。

 5年時点のプライマリ複合アウトカムは、アスピリン群 2.77%(2.40-3.20)、非アスピリン群 2.96%(2.58-3.40)と両群で有意差を認めなかった(HR 0.94:0.77-1.15)アスピリン有意非致死的心筋梗塞を減らし(HR 0.53:0.31-0.91)、TIAも減らした(HR 0.57:0.32-0.99)。一方で、入院か輸血を必要とする頭蓋外出血を有意に増加させた(HR 1.85:1.22-2.81)

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(文献より引用)

【結論】
 低容量アスピリン連日投与は、60歳以上の動脈硬化リスクのある日本人高齢者の心血管死亡・非致死的脳卒中・非致死的心筋梗塞の複合アウトカムを減らさなかった

【批判的吟味】
・基本的に、DM・HTN・HLは日本のガイドラインの基準に沿って診断・治療が行われています。

・素晴らしかったのは除外が少なかったこと。lost follow upもだいぶ少なかったみたいで、電話・手紙・直接訪問など結構努力したと書かれていました。

・ITT解析はされ、事前サンプルサイズ計算も済み。ただ、PROBE法で二重盲検はされませんでした。これ二重盲検は困難だったのかなあ?これだけ大規模にやったのならプラセボ二重盲検で良かった気もするが・・・

・PROBE試験はJikei Heart studyでも使用されやや印象が悪いですが、アウトカムをマスクすることで、オープンラベル法の欠点を補おうと考えられた手法です。PROBE法とその問題点はこちらへ。
http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02870_10

・長期内服研究なので、問題になるのは服薬アドヒアランス。1年時点でアスピリン群のアドヒアランスは88.9%でしたが、5年時点では76.0%まで低下。実に4人に1人は飲んでいないことになります。まあ、実臨床っぽくはありますが。

・で、逆にアスピリン群も5年後に10%はアスピリンを内服開始しており、2群の差が薄まっているという嫌いはあります。

・治療効果については、もちろん死亡も含めた複合アウトカムで有意差つかず、死亡のみでも駄目。非致死的心筋梗塞が減るのは過去の他国のメタ解析でも同様の結果ですが、NNTを計算すると404とかなり駄目な数字です。心筋梗塞発生率もリスクこれだけあるのにたった0.3%にしか発症しない・・・日本人って心筋梗塞少ないなあという印象。まあ確かにベースラインリスクはそんなに高くないかもしれません。

・で、出血は増え、そちらのNNHは257なので、まあ害の方が多いよねという話です。

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(文献より引用)

【個人的な意見】
 某家庭医系MLで紹介されていたJAMAの論文を出してみました。基本的には一次予防やらなくて良いよなあという確認でした。正直Polypharmayに取り組むようになって、不適切なアスピリン使用が目立つなと思っていて、MRI画像の異常から内服開始になったり、なんで飲んでるか全く分からなかったりするわけですわね。そこでのSDMに利用出来るネタでした。

 何と言っても日本の高齢者のデータですしね。あとは、今後一次予防を検討すればどの程度high riskの群になると効果があるのか?という部分でしょうか。少なくとも今回組み入れられたぐらいの患者さんでは、一次予防は害が多いという結論ですので。

 JPPDのホームページ(http://poppy.ac/j-ppp/top_about_test.html)を見ると、有意差出したかったんだろうなーという気配が漂っています。ただ、何はともあれ日本発でこれだけ大規模な検証が出てきたのは嬉しく思いますね。我が学会でも大規模多施設研究やりたいですねー。

 

✓ 高血圧・糖尿病・脂質異常症のある日本人高齢者に対するアスピリン一次予防は基本的には効果無く出血を増やす