栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet STEMI後の心血管イベントに対するACE vs ARB/犯人拘束追跡中の警察官の突然死/電話トリアージの効果/全身性エリテマトーデス

BMJ

STEMI後の心血管イベントに対するACE vs ARB 
Angiotensin receptor blocker in patients with ST segment elevation myocardial infarction with preserved left ventricular systolic function: prospective cohort study*1

 ACE-i vs ARB的なstudyは最近よく見かけますよね。DMに関してはACE-iに軍配が上がりそうでしたが、STEMI後ではどうでしょうか?と。ちなみに韓国発の前向きコホート研究。人種的に似ているので参考になりますね。

 対象は韓国の国全体のregistryで、53病院6698人のSTEMIでPCI施行後、左室収縮能>40%が保たれている患者が対象です。HEpEFとHFrEFの境は最近40%が多いですね。臨床的に40%台って結構落ちてるなというイメージですが・・・前向き観察でプライマリアウトカムを心血管死と心筋梗塞とし、ACE群 4564人、ARB群 1185人、RAS系阻害薬を内服していない群949人を追跡しています。それぞれの群はpropensity match scoreで背景調整されました。

 結果ですが、心血管死と心筋梗塞ARB群で21人(1.8%)、ACE-i群で77人(1.7%)、RAS非使用群で33人(3.5%)発症していました。propensity matchスコアでは、ACE-iとARB有意差はありませんでした。ARBはRAS非使用群に対して、有意に心血管死・心筋梗塞が少ない結果でした(HR 0.35:0.14-0.90)。結論として、ACE-i・ARBどちらでも良いんじゃない?と。

 HFpEFには効果の証明されている薬はない中で、EF低下していなくても心筋梗塞PCI既往があれば、ACE-i・ARBの効果はあるんだなあと再確認しました。どちらでも良いならACE-iの方が安いし、咳はでるけど誤嚥性肺炎予防効果もあるし、ACE-iで良いんじゃないかなあと。まあ、でも韓国のコホート研究でACE-iの症例の方が集まりやすいというのは結構驚き。やはり日本のARB一色なのって本当に特殊な状況なんだろなあ。

✓ STEMI後の心機能が保たれている患者では、ACE阻害薬とARBの効果は同等。
 

犯人拘束追跡中の警察官の突然死 
Law enforcement duties and sudden cardiac death among police officers in United States: care distribution study*2

 これはまああんまり日常とは関係しませんが、興味深い話題として。警察官にとって、法的な拘束を行う事は危険を伴うことだと言われています。例えば、2011-2012年に、パトロール中の警察官の死亡率は、10万人あたり15-16人と言われ、通常の労働者の3-5倍高いのだとか。まあ、アメリカの警察官・・・と思っただけで危険な感じがしますが。

 そんな背景もあっての今回の調査。症例分布研究(case destribution study)で、4500人のアメリカで突然死した警察官のデータが解析されています。プライマリアウトカムを心臓突然死として、通常勤務と法的な拘束などの緊急性のある勤務とを比較しました。
 結果ですが、441人の心臓血管死が起こり、それぞれ状況毎に解析しています。興味深かったのでRelative riskと一緒にお示しします。

①通常業務 RR 1.0(reference)
②騒動 RR 1.64(1.00-2.68)
③法廷での証言 RR 1.63(0.52-5.13)
④捜査に従事 RR 2.17(0.95-4.94)
⑤囚人の輸送・警護 RR 3.79(2.27-6.35)
⑥医療・救護業務 RR 7.36(4.97-10.9)
⑦トレーニング中 RR 27.8(20.9-37.1)
⑧犯人追跡中 RR 25.8(18.4-36.2)
⑨拘束・けんか・殴り合い RR 40.6(30.9-53.3)

なるほどー。ストレスフルな状況は死亡と直結しますね。医者の業務毎とかでも調べたものとかあるのかなあ。これらのhigh risk業務は、業務時間の制限や適切な介入を行う必要が出てきますね。

✓ 警察官の突然死は業務内容によって増加する

 



■Lancet■

電話トリアージの効果 
Telephone triage for management of same-day consultation requests in general practice (the ESTEEM trial) : a cluster-randomised controlled trial and cost-consequence analysis*3

 電話トリアージは日本でも場面によっては行われていますが、電話トリアージ自体が何にどの程度効果があるのかはっきりしないのが現状です。今回、Nsによるトリアージと医師によるトリアージをそれぞれ評価して、workload(トリアージ後28日以内の受診)、医療費をアウトカムにトリアージの効果を評価しています。

 イギリスの42医療機関で同日受診希望でアポイントを取りに電話してきた患者を対象にしています。救急患者や英語が話せない患者は除外し、①医者トリアージ、②看護師トリアージ、③通常の対応の3群を比較したcluster RCTという形です。もともとは388施設に声をかけたのですが、最終的に実施されたのは42施設。対象患者は平均42歳で、施設をランダムに振る分けて20990患者さんが対象となりました。

 結果ですが、通常ケアとして医者・看護師トリアージはともに28日以内の受診増加に繋がり、費用は3群ともに同等という結果でした。興味深かったのは医師トリアージだと医師の対応が増え、看護師トリアージだと看護師対応が増えるという結果だったことです。やっぱり電話で対応するとその人の仕事が増える、電話だけでは対応は終わらないということでしょうか。こんなのを見てしまうと、電話トリアージを勧めていくのもどうかなと思ってしまいます。

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(文献より引用)

✓ 電話トリアージは患者受診や費用を減らさず、むしろ増やす傾向にある。


全身性エリテマトーデス seminar
Systemic lupus erythematosus*4

 LancetのSeminarです。すごーくどうでも良いのですが、SLEって英語だとSystemic lupus erythematosusなんですね。エリテマトーデスだと思っておりました。まあ、どうでも良いイントロはさておき。ざっくりと。

 SLEはRAほど治療の進歩がないというのが現状です。疫学としては、日本では2.9/10万人年で、罹患者も28.4/10万人年とされています。妊娠可能女性に圧倒的に多く、男性の9倍です。1991年からヨーロッパでは大規模なEuro lupus projectというregistryが行われており、1000人規模の大規模前向きコホート研究が進行中です。例えば、発症初期の症状として48%が関節炎発症、33%が皮疹発症であることや、ds DNA抗体の存在はlupus nephritisのリスクを1.7倍にすることなどが、同研究から明らかになってきています。

 分類基準は2012年にSystemic Lupus International Collaborating Clinics(SLICC)分類として新しくなってきていますが、なんとなくまだ慣れないなあという印象です。環境要因としてトリガーとなるもの一覧が載っていましたが、太陽光・喫煙などに加えて、薬剤で生物学的製剤も注目されてるんですねー。TNF-α阻害剤によるSLEとかあるんですね。

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(文献より引用)

 心血管リスクは35-44歳女性で、健常人と比較すると50倍にもなり、死因にも関連が強いのだとか。ただ細かい病態機序は実は良く分かっていないのだそうです。ループス腎炎についてはACRもEULARもそれぞれガイドラインをだしています。ACRのガイドラインによれば、増殖性ループス腎炎の初期治療はステロイド+シクロホスファミド。過去にはミコフェノール酸モフェチル(セルセプトⓇ)の研究は少なかったのですが、最近の研究では、シクロホスファミドとの非劣勢が証明され、初期治療に使用される様になってきています。また、蛋白尿・高血圧の管理にはRAS系薬やヒドロクロロキンの使用が推奨されています。

 APSについては、抗リン脂質抗体が陽性になるのは30-40%だが、臨床的にAPSと診断されるのは10-15%であり、抗体のみの診断はやめましょうとのこと。ワーファリンによる抗凝固がメインの治療ですが、最近ではリバロキサバンなどのXa阻害薬の使用も検討されている様です。またスタチンも検討されているのだとか。

 SLEと妊娠はまた一つのトピックではありますね。SLEは妊娠で増悪することが知られ、子癇などのリスクも高いので、妊娠を予定するとすれば活動性が低いときが望ましいとのこと。計画性が重要ですね。また、SS-A抗体陽性の場合には胎盤通過性があるため、新生児lupusの発症に注意する必要があります。治療のまとめが一覧になっていて見やすかったです。

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(文献より引用)

✓ SLEの分類基準は2012年に改訂されている。興味があれば全文を。