栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM HFpEFへのβ遮断薬の効果/心房細動への左心耳閉鎖/トロポニン検査/ACIP50周年/スウェーデンの1型糖尿病の死亡リスク

■JAMA■

HFpEFへのβ遮断薬の効果 
Association between use of β-blockers and outcomes in patients with heart failure and preserved ejection fraction*1

 HFrEFに対するβ遮断薬はルーチンケアとして確立されつつありますが、HFpEFについては未だ決まった治療が無いのが現状です。また、このHFpEFは高齢者で増えており対策が必要だという現実があります。今回、そのHFpEF患者に対するβ遮断薬の効果を検証したスウェーデンの大規模前向きコホート研究が紹介されていました。

 スウェーデンには、national registryがあり、67病院95プライマリケア施設が2005-2012年までに連続41976人の心不全患者を登録しています。その中で、EF>40%でHFpEFと定義された19083人が対象です。そのうちpropensity match scoreで背景因子を調整し、感度分析も行い、β遮断薬内服群 5496人、β遮断薬非内服群 2748人を2年間追跡しました。プライマリアウトカムは全死亡です。ちなみにCOIはあり。

 結果ですが、平均は78歳でNYHAⅡ〜Ⅲと比較的症状がある患者さんが多い患者層でした。1年後生存率はβ遮断薬内服群80%、非内服群で79%、5年後生存率はβ遮断薬群45%、非内服群42%で、1000人年あたり、177人 vs 191人で、わずかに生存率を改善する結果(HR 0.93:0.80-0.996)でした。一方死亡と心不全入院の複合アウトカムでは有意差はつきませんでした。

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(文献より引用)
 HFrEF患者では全死亡も減少(HR 0.89:0.82-0.97)、入院と死亡の複合アウトカムも減少(HR 0.89:0.84-0.95)していました。

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(文献より引用)

 うーむ。そもそも実はHFrEFに対してβ遮断薬を使い始めたのも、1970年代のスウェーデンらしく理論上もHFpEFにも効果があるはず!というのが今回のstudyのもとです。今回のstudyの問題点は、propensity matchを行う際に、β遮断薬内服中の半数以上がマッチしなかったというところです。スウェーデンの患者はある特定の偏りのある患者にβ遮断薬を投与しているため、交絡が避けられないという自体を表しているのかもしれません。ま、どちらにしても質の高いRCTを行ってきちんと検証しましょうということになりそうです。

✓ HFpEF(EF正常心不全)患者に対するβ遮断薬投与は全死亡を減らすかもしれない


心房細動への左心耳閉鎖 PROTECT AF follow研究 
Percutaneous left arterial appendage closure vs warfarin for atrial fibrilation*2

 心房細動に対する抗凝固療法はワーファリンからNOAC時代を迎えていますが、実はもう一つ左心耳へのデバイス植え込みという方法が注目を集めています。心房細動の血栓の90%は左心耳由来とされており、その部分にアプローチしてみようというのが主旨です。過去にLancetに掲載されたPROTECT AF研究で注目を集めていましたが、今回JAMAにそのfollow up研究が掲載されていました。最初に植え込みデバイスの説明をしておくと、これはWATCHMANⓇというBoston社のデバイスで血管内治療で植え込まれるものです。2002年からpilot studyが行われ、2005年のPROTECT AF研究でデビュー。その後いくつかの大規模研究で効果が検証されています。デバイスの具体例はここを参照。動画はかなり分かりやすいです。http://www.bostonscientific.com/en-EU/products/laac-system/watchman-left-atrial-appendage-closure-device.html

 ちなみに、このPROTECT AF研究は、CHADS2 1点以上の非弁膜症性心房細動患者に対して、経皮的左心耳閉鎖を行う事がワーファリンに対して非劣勢を示したという研究です。RCTでITT解析あり。デバイス植え込み群では、TEEで確認し植え込み6ヶ月後にワーファリンは中止されていますが、バイアスピリンは継続しています。つまりはデバイス+アスピリン群 vs ワーファリンと置き換えることも出来ます。当初の研究では、18ヶ月のfollow upで、脳梗塞は2.2/100患者年 vs 1.6/100患者年(RR 1.34:0.60-4.29)で非劣勢を証明されました。

 今回は、平均3.8年の長期follow upの成績で、プライマリアウトカムは、脳卒中・塞栓症・CVD死亡のcomposite outcomeです。デバイス群では、2.3イベント/100人年で、ワーファリン群では、3.8イベント/100人年で、RR 0.60(0.41-1.05)と非劣勢が証明されました。さらには、もう少しで有意にデバイス群の方が良い結果になるところでした。ちなみにセカンダリでは、脳梗塞はあまり変わりませんでしたが、塞栓症・全死亡が有意に減少している結果でした。

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(文献より引用)
 これから更に検討され実臨床で使われていくかもしれませんね。後は長期使用による安全性の検証でしょうか。左心耳デバイスについては以下のブログによくまとまっています。


心房細動:左心耳デバイス : 土橋内科医院 院長ブログ -心房細動な日々-



✓ 非弁膜症性心房細動患者に対するデバイス左心耳閉鎖は、心原性塞栓・死亡に対して抗凝固療法と同等の効果
 

トロポニン検査 
Acute troponin elevation and the classification of myocardial infarction*3

 最近よく紹介するJAMAのDiagnostic test interpretation。今回は、Troponinの話題でした。毎度毎度の症例から始まります。52歳女性で高血圧既往のある患者が、2時間前からの胸痛で救急外来を受診。症状は胸に座られている様な痛みで、息切れを伴いました。血圧247/130mmHgで心電図は洞調律、LVHあり、T波陰転化あり。この時の採血結果は以下。

f:id:tyabu7973:20141130005622j:plain(文献より引用)
 その後CAGではLCX 20%狭窄のみでした。さて、この患者さんのトロポニン上昇の原因はなんじゃらほい?と。

A. LVHによる慢性トロポニン上昇
B. 骨格筋障害によるトロポニン上昇
C. プラークによるNSTE-MI(type1)
D. 酸素需要によるNSTE-MI(type2)

 まあ、要はDですよ、という話なんですが。ま、簡単にトロポニンの解説。トロポニンにはTnTとTnIがあり、心筋障害の鋭敏な指標。発症2-6時間程度で上昇し、12-24時間でpeakに達ししばらくは陽性が維持されますよと。感度・特異度は以下ですが、まあ基本的には非常に鋭敏です。

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(文献より引用)

 トロポニンは鋭敏とはされていますが、心筋梗塞以外に上昇する病態を押さえておく必要があります。うっ血性心不全・ストレス性心筋傷害・心筋炎・悪性腫瘍に対する化学療法・心臓外傷・肺塞栓・敗血症脳卒中・腎不全・高血圧緊急症等・・・。更に慢性的に上昇する機序として知られているのが、左室肥大・糖尿病・腎機能障害と言われているんだそうです。あるコホート研究では、トロポニン上昇の半分しか実際の急性冠症候群では無かったとも言われています。

 NSTE-MIの分類で、いわゆる血管内のプラーク血栓によるものをtype1酸素供給の不均衡に伴う血行動態が関連するものをtype2と呼ぶのだそうです。世界的な”心筋梗塞の定義”では、心筋マーカーの上昇と低下だけでなく、臨床症状・心電図による虚血性変化を満たす必要があります。本症例の様に、症状・心電図・心筋マーカーは上昇しているものの、実際のCAGでは虚血がなく、著明な高血圧を伴った様な病態の場合にはtype2 MIと診断しましょうと。著明な高血圧に伴い心筋の酸素需要が増加することは、心筋障害のよくある原因の一つです。

✓ トロポニンの走査特性を押さえる。MI type2は心筋への酸素供給不均衡が原因となる病態

 


■NEJM■

ACIP50周年 
A half-century of preventionーThe advisory committee on immunization practices*4

 Advisory Committee on Immunization Practices:ACIPは予防接種をどの様な根拠でどの様に提供するかを決定する機関で、今回50周年とのことでNEJMで特集されていました。

 米国でもMMRワクチンが始まった頃は実は反対運動が根強く、国としてどのように取り組んでいくか課題を抱えていました。1962年に外部の専門家を中心とした委員会を作成することが決められ、1964年に第一回のACIP meetingが開催されました。以降、政府・製薬会社・CDCなどとの関与を断ち切るべく、基本的にはCOIの無い人材で評価を行ってきています。特筆すべきは、早期の段階からGRADE systemを用いてエビデンスの質を評価していること、費用対効果をきちんと評価していることなどでしょうか。ちなみにUSPSTFは費用対効果はルーチンでは評価していないんだそうです。

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(文献より引用)
 上記にACIPがどのような活動をしてきたかが示されていますが、日本も見習うべき部分は多いでしょうね。米国以外でもワクチンに関する技術諮問委員会(NITAG)を有している国は14ヵ国もあり、日本でも日本版ACIP設立が期待されているところではあります。ちなみに、このNITAGのコアメンバーとして、臨床薬理学・疫学・免疫学・感染症学・内科学・微生物学・小児科学・公衆衆衛生学・ワクチン学などの医学分野だけでなく、看護学・医療経済学・保健計画そして自治体関係者や医療保険関係者を含んだ多職種メンバーが参画しています。

 これって実はワクチンのみならず、他の医療分野(生活習慣病でも悪性腫瘍でも)においても、同様の団体があって、エビデンスの質や費用対効果を医療会だけでなく国民全体で討議し、推奨を決めていく作業が必要ですね。これって、いわゆるガイドライン作成段階とも非常に類似しています。

✓ ACIPは50周年。米国のワクチンを評価・推奨し大きな効果を上げてきた。


スウェーデンの1型糖尿病の死亡リスク 
Glycemic control and excess mortality in Type 1 diabetes*5

 さて、スウェーデンのNational registryは留まるところを知りませんね。今回は、スウェーデン全体の1型糖尿病の死亡率に関する人口ベースの観察研究です。期間は1998-2011年で、1型糖尿病の定義は、30歳以前からインスリンを使用している糖尿病患者という定義でしたが、、何とこの定義で1型糖尿病の診断精度は97%とValidationされていたというから驚きです。

 方法として1型糖尿病患者に対してコントロールとして健常人を1:5の比率で置いて、背景情報を調整しfollow upしました。ある意味case-control studyといったところでしょうか。ベースラインの平均年齢は35歳前後で糖尿病罹患歴20年以上。男女比はほぼ1:1、平均follow up期間は8年程度でした。

 最終的に1型糖尿病群 2701/33915人(8.0%)、コントロール群の4835/169249人(2.9%)が亡くなり、調整HR 3.52:3.06-4.04と有意に死亡率が高い結果でした。心血管死亡が2.7% vs  0.9%(調整HR 4.60:3.47-6.10)で、1型糖尿病があるだけで死亡率が3-4倍増えると言う結果でした。また、HbA1c毎の死亡率の違いは、以下の表の通りですが、HbA1c 7.9%を超えると死亡率は上昇しますが、7.8%以下群では、6.9%以下にコントロールされている群と死亡率が変わらない為、7.8%以下のコントロールで十分とも言えます。一方で、6.9%以下、7.0-7.8%群でも死亡HR 2.3前後で健常人と比較して約2倍に死亡率が増えており、どないしたらえーねん!と突っ込みが入りそうです。

f:id:tyabu7973:20141130010152j:plain(文献より引用)
 
✓ 1型糖尿病患者の死亡リスクは3-4倍程度で、血糖は7.8%以下を目標にするのが望ましいが、それでも死亡リスク2倍