栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ミネルバ/タミフルを巡る論争/壊死性縦隔炎/急性期脳梗塞への血栓溶解療法/研究前にシステマティックレビューを

BMJ

ミネルバ141203 
Culprit vessel versus multivessel intervention and other stories*1

 今週もBMJから。ミネルバというコーナーは面白い論文を複数紹介してくれるコーナーな訳ですが、ミネルバってギリシャ語のアテナのことなんだそうです。ちなみにゼウスがJupiterなんだとか。アテナは智恵の象徴なんだそうですね。

 さて、STEMIのPCIの最中に多くの循環器医は、責任病変とともに”bystander”血管病変に誘惑されるんだとか。要は責任血管ではないけど狭窄している血管ということね。確かにその血管をそのままにしておくというのは、通常は理解しにくいかもしれません。面白いたとえが書いてあって、配管工事の配管工が「パイプの詰まりは治しましたよ。ま、他にもたくさんあるけどそのままにしました!」ってのは微妙だよねと。
 でも冠動脈病変に関しては考え方を少し変える必要があります。というのも今回報告されたロンドンの8つの3次医療機関の観察研究では、bystander血管の治療を行う事が、病院内合併症と1年以内の死亡率に有意に関連していたと報告されています。努々誘惑に惑わされるなかれ・・・血管治して人が死ぬでは困りますよね。
Circulation 2014,doi:10.1161/CIRCOUTCOMES.114.001194

 循環器領域へのコメントが続きます。私個人の意見ではなくミネルバさんの記事ですよー。誤解の無いように(笑)。配管工の話を引っ張ります。更には配管工が「詰まってますよ!」と指摘するパイプは配管工同士で一致しないのが問題ですよと。人によって詰まってるって言ったり詰まっていないって言ったりするわけですね。
 5枚の血管造影写真をWeb上で提示して495人の循環器科医に血管内治療を行うべきかを尋ねた研究が報告されています。ちなみに狭窄程度を評価する為に行うことが推奨されているFFRの値も知る事が出来る様になっていましたが、71%は血管造影所見のみで治療適応を決定しました。また、FFRを参考にした人達もFFRのカットオフを0.8として適応を考慮しても、47%の症例が推奨と異なる対応をしたと報告しています。ミネルバさんは”oculo-stenotic reflex:眼球-狭窄反射”と皮肉っており、ステント適応についてのoverdiagnosisに警鐘をならしておりました。
Circulation 2014, doi:10.1161/CIRCINTERVENTIONS.114.001608

✓ PCIで治療する血管には現時点では施行医の主観が多く関係してしまっており、適切なガイドラインや規制が必要になるかもしれない


タミフルを巡る論争 
Will WHO Tamiflu recommendations change this winter?*2

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(文献より引用:巨大なタミフル貯蔵倉庫)

 本格的なインフルエンザシーズンが到来しようとしています。実は栃木県内はまだまだ・・・のはずなのですが、当院は都内先取りな感じになってしまっています。

 WHOは現時点ではタミフルⓇをEssential drugに指定して大量に備蓄しているわけですが、実は2015年にEssential drugの見直しがあり、今回の見直しでEssential drugから外すかどうかで揺れているのだとか。歴史的には2009年のH1N1アウトブレイクの時にタミフルをEssential drugに指定しています。ところが、2014年4月にCochrane reviewで季節性インフルエンザのRCTのメタ解析で、タミフル処方元のロシェ社から未公開だった臨床データも含めて全ての症例のデータ解析を行った結果、タミフル使用は有症状期間が7日から6.3日に0.7日短縮されるという結果しか出せなかった一方で、未成年では有意な効果は無く、肺炎や入院などの合併症も減らさず、副作用は5%程度でるなどの燦々たる結果でした。
Cochrane Database of Systematic Reviews 2014, Issue 4. Art. No.: CD008965. DOI:10.1002/14651858.CD008965.pub4 

 一方で、2014年PRIDE研究というH1N1インフルエンザに対するタミフル効果を検証した研究では、入院症例の死亡を減少したという結果でしたが、この研究はロシェ社がスポンサーの観察研究であり、エビデンスの質としてはかなり微妙な結果でした。時点でコクランはロシェ批判、ロシェ社はコクラン解析方法を批判しています。ちなみに欧州CDCはタミフルを推奨していますが、欧州CDCにはロシェ社が資金提供しています・・・

 実はWHOのインフルエンザチームのトップは2009年から日本人の進藤奈邦子さんが勤めていて、BMJにコメントを寄せています。それによると、そもそも

「我々は重症インフルエンザ患者でしかも非季節性インフルエンザ患者にしかタミフルを推奨していない
季節性インフルエンザには原則ワクチンでの対応が基本
「Cochrane reviewはもともとそういうものだと認識しているので今回の論点とは関係ない」

とのことでした。
季節性インフルエンザに山程抗ウイルス薬を処方している日本はやはり世界的に見ても特殊な状況の様です。

✓ タミフルが推奨されているのは、非季節性インフルエンザかつ合併症リスクが高い患者や重症患者であり、季節性インフルエンザや健常人への推奨は原則はされていない



■Lancet■

壊死性縦隔炎 
Gas in the retropharyngeal space: descending necrotising mediastinitis*3

 再び多摩医療センター。何かLancetのcase reportは日本独壇場になってますね。今度は胸部外科みたいです。
 40歳女性が一週間前からの咽頭痛と頚部腫脹を主訴に受診しています。既往歴は扁桃摘出と虫垂切除を若年ン時期に施行していました。咽頭ファイバーでは咽頭後壁の腫脹のみで、頚部単純XpとCTでは咽頭間隙にガス像と膿瘍を認め、膿瘍は頚部から縦隔まで広がりを認めました。

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(文献より引用)

 白血球増多とCRP上昇があり、壊死性縦隔炎と診断されています。頚部ドレナージが施行され、膿瘍培養からは、Streptococcus constellatus、Streptococcus anginosus、Prevotella intermedia、Prevotella buccae、Anaerococcus prevotti、Peptostreptococcus anaerobius、Finegoldia magnaと多数の菌が検出されています。4週間の抗菌薬治療で後遺症はほとんどなく治癒しています。

 基本的には壊死性縦隔炎は稀かつ死亡率が高いと報告されており、早期の頚部および胸腔手術によるドレナージが推奨されています。急性の後咽頭間隙膿瘍は小児では多く報告されている者の、小児での報告は少なく、健常人でこれほど早い進行が起こる原因も明らかではありません。

✓ 壊死性縦隔炎という病態について把握しておく


急性期脳梗塞への血栓溶解療法 
Effect of treatment delay, age, and stroke severity on the effects of intravenous thrombolysis with alteplase for acute ischaemic stroke: a meta-analysis of individual patient data from randomised trials*4

 急性期脳梗塞に対する血栓溶解療法は世界各国で勧められています。欧州では、時間は4.5時間まで拡大されていますが、軽症・80歳以上は適応外になっており、米国はFDAは、3時間までで軽症・80歳以上もOKと国毎に多少スタンスが異なります。日本は4.5時間まで拡大されましたが、軽症は不適応、80歳以上は慎重投与ですね。

 今回は、「治療の遅れ」や「年齢」「重症度」の影響を評価する為に、過去に行われた複数のRCTの個人データまで遡って、検証したメタ解析です。対象患者は、急性期脳梗塞発症0-6時間の患者。t-PA群とプラセボ群を比較して、3-6ヶ月後のmRS 0-1点をプライマリアウトカムとしています。9つのRCT、6756人が解析対象です。全体で見ると80歳以上が26%、NIHSS 0-4点の軽症例が10%、NIHSS 22以上の重症例が9%含まれています

 結果ですが、まずは治療開始時間が早ければ早い程良いアウトカムと関連することが確認されました。
・3時間以内の治療はt-PA群 259/787(32.9%)、プラセボ群 176/762(23.1%)で、OR 1.75:1.35-2.27。
・3-4.5時間ではOR 1.26:1.05-1.51
・4.5時間以上ではOR 1.15:0.95-1.40
であり有意差はつきませんでした。やはり4.5時間以内というのは妥当であり、かつ早い方がより良いことの確認。年齢・重症度(NIHSS)については、どの群でも効果が証明されていることが判明しています。サブ解析では、80歳以上になると3時間を過ぎてしまうと効果が無いという結果でした。

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(文献より引用)

 一方で、脳出血はどの群(治療の遅れ、年齢、重症度)でも有意に高くなることが分かっており、死亡に関連するのは最初の7日だということも確認されています。

 結論としては、軽症だろうと重症だろうと、高齢だろうと、できるだけ早めにt-PAを打ちましょう!というのがボトムライン。editorialでも、いかに早く治療するかがポイントですねーと。前も紹介しましたが、ベルリンでは、CTつき救急車(STEMO)が走って救急車内で採血して病院に到着したらすぐにt-PAが使えるし、ヘルシンキでもdoor to treatが平均20分なんだとか。心臓以上にdoor to needle timeを気にしなくてはいけない時代ですね。


論文抄読会:JAMA & NEJM 特発性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍)/脳卒中へのSTEMO/小児痙攣重責へのロラゼパム静注/脂質異常ガイドラインdebate/敗血症の至適血圧 - 栃木県の総合内科医のブログ



✓ 血栓溶解療法は、高齢でも軽症でも重症でも早ければ早い程効果がある


研究前にシステマティックレビューを 
A new network to promote evidence-based research*5

 似たようなstudyが多い!という話題から、studyを始める前に既に否定的ないし有害というstudyがあるにも関わらず、システマティックレビューをしないために無駄な研究もしくは有害な研究をしてしまうという歴史を繰り返しているのではないか!というのが本稿の主旨です。

 studyを始める前にステマティック レビューを義務づけるべきであり、過去のものがあればまずは最低限それはみておきましょうと。Lancetは数年前からeditorのポリシーとしてnew researchの前にはsystematic reviewを義務づけていますが、多くのジャーナルは義務化はしていません。5年前にKaren Robinsonが、”Evidence based research”という言葉を提唱しています。それをうけて、2014年12月1-3日にノルウェーでEvidence Based Research Networkが開催され、study前のsystematic reviewのやり方を学ぶ勉強会ももたれています。

✓ 研究前にはその分野のシステマティックレビューを行う必要がある