栃木県の総合内科医のブログ

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論文:前立腺癌スクリーニングと死亡率

前立腺癌スクリーニングと死亡率
Screening and prostate cancer mortality: results of the European randomised study of screening for prostate cancer(ERSPC) at 13 years of follow-up*1

Lancet. 2014 Dec 6;384(9959):2027-35. doi: 10.1016/S0140-6736(14)60525-0. Epub 2014 Aug 6.

【背景】
 European Randomised study of screening for Prostate Cancer(ERSPC)は、PSA検診による長期予後を評価している研究の一つで、過去に9年後、11年後のfollow up研究で前立腺癌死亡を有意に減少させた。しかし、過剰診断の問題などがあり、結果の解釈はcontroversialであるとされている。今回follow up期間を13年まで延ばした上で再度解析を行った。

【方法】
 ERSPCは中央データベース管理で事前に解析方法を設定した多施設共同RCTで、ヨーロッパ8ヵ国で50-74歳の住民をランダムにピックアップし、4年おきにPSAを評価し、3.0を超えたら生検という介入群(遵守率 80%)と通常ケア群を比較して、プライマリアウトカムとして前立腺癌による死亡を評価。ITT解析あり。PSAスクリーニングの方法は国毎に異なり、2-4年毎に3-10回とかなりバラツキあり。対象患者は16万人強と巨大RCTです。

【結果】
 今回のデータは13年後follow upデータで、介入群で7408人の前立腺癌が、コントロール群で6107人の前立腺癌が発症した。
前立腺癌発症のHazard ratioは、
・9年後 1.91(95%CI:1.83-1.99)
・11年後 1.66(95%CI:1.60-1.73)
・13年後 1.57(95%CI:1.51-1.62)
だった。
プライマリアウトカムである前立腺癌死亡のHazard ratioは、
・9年後 0.85(95%CI:0.70-1.03)
・11年後 0.78(95%CI:0.66-0.91)
・13年後 0.79(95%CI:0.69-0.91)
だった。絶対危険減少は13年次点で1000人年あたり0.11で、1人の前立腺癌死亡を減らすのに781人(95%CI:490-1929)が必要であるという計算だった。また、前立腺癌1人を診断するのに27回(95%CI:17-66)のスクリーニングを要するという結果だった。

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(文献より引用)

【結論】
 ERSPCの最新データによるとPSAスクリーニングによる統計学的な前立腺癌死亡減少を認めた。13年時点で9年・11年と比較して継続的な効果を認めた。今後人口ベースのスクリーニングを導入していく為には、スクリーニングによる害や定量化を行う必要がある。

【批判的吟味】
・基本的には大規模RCTでITT解析もされており、アウトカムは真のアウトカムであると言えます。
統計学的に有意差はついており、PSAスクリーニングにより、前立腺癌死亡が2割程度減ることは間違いないでしょう。
・問題はもう一つのtrue outcomeで、全死亡です。実は全死亡はRR 1.00(95%CI:0.98-1.02)と全く変わらないという結果でした。要は前立腺癌死亡は減らすけど、何か他の原因で亡くなるので寿命は変わらないという結果です。
・更には、その効果の大きさです。NNT 781というのはちょっと・・・
・しかも、前立腺癌と診断された患者は、生検を受けたり、癌の診断による精神的なダメージを受けたり、治療(手術や化学療法)による副作用やQOL低下を起こす可能性があります。
・価値観の問題ですが、前立腺癌では死にたくない!という人には推奨ですが、結局寿命は一緒ですよ・・・という説明になってしまいますね。

【個人的な意見】
 ちなみにPSAスクリーニングのRCTは大きいものでもう一つPLCOというRCTがあります。現時点では、全人口レベルでの推奨ではないねとコメントされていたのが印象的でした。甲状腺癌も然りですが、比較的生命予後の良い癌の場合には、overdiagnosisや検診による害の問題がかなり浮き彫りになる印象ですね。


✓ PSA検診は前立腺癌による死亡は2割程度減らすが、全死亡は変わらない。NNTは781人。