栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 肺炎ガイドライン/尿失禁のレビュー/BMJのCOIポリシー/旋尾線虫による皮膚爬行症/昏睡患者へのアプローチ

BMJ

肺炎ガイドライン 
Diagnosis and management of community and hospital acquired pneumonia in adults: summary of NICE guideline*1

 NICEの市中肺炎・院内肺炎ガイドライン改訂のサマリーが掲載されていました。肺炎診療の実態として、多くの医者がガイドラインを守っていないというところがまず書かれていました。それによって死亡率が上がったり、入院期間が延びたりするのではなかろうか?と。確かに、米国のガイドラインで推奨されている市中肺炎にβラクタム+マクロライド等は正直ルーチンで行うのはどうかと思いますし、実情それで肺炎診療のクオリティが下がっていることはないとは思っていますが、確かに検証は必要です・・・

 まず、診断についてですが、なんとCRPでの篩い分けについて記載がありました。例えば下気道症状はあるが、臨床的に肺炎ではない、抗菌薬どうしよう?という時にCRP使ったらどうでしょう?と。ちなみに、前提条件としてイギリスのGPは容易にXpが撮れないので、レントゲン無しというセッティングがあります。で、

CRP<2mg/dL・・・抗菌薬なし
CRP 2-10mg/dL・・経過観察(抗菌薬待機)
CRP>10mg/dL・・抗菌薬

を勧めていました。CRPでね・・・と思いましたが、実臨床でこれを応用すると、やはり抗菌薬使用は現状よりもだいぶ抑制できる気もしました。さあ、どうなるか・・・。重症度評価は、病院入院ではCURB-65+臨床症状、外来ではCRB-65+臨床症状で評価しましょうとしています。CRB-65はBUN測定が不要なので採血しなくて良いのが利点ですよね。で、軽症ではルーチンの培養検査は不要ですとの推奨でした。中等度以上では、血液・喀痰培養+尿中抗原を考慮しましょうと。

 治療についてですが、軽症例ではAMPC 5日間、中等症〜重症ではAMPC+マクロライド10日間またはAMPC/CVA+マクロライド10日を推奨しています。この辺りの推奨がIDSAとも日本の呼吸器学会とも異なり非常に好きなところです。ルーチンのニューキノロンや抗菌薬重複処方は推奨しないとしています。ステロイドはルーチン使用は勧めないと。入院例の症状モニタリングCRPが初めて推奨されました。ただし、48-72時間はあけることとしています。退院基準も記載があり、
①37.5℃以上の発熱
②呼吸数 24回/分以上
③HR 100bpm以上
④sBP<90mmHg
⑤SpO2<90%
⑥意識変容
⑦経口摂取が出来ない
7項目のうち1項目以下になれば退院可能としています。

 最期のPatient Informationが面白いなと思いました。これは患者さんに説明すべき肺炎の退院後経過なのですが、

■1週間後・・・発熱は改善します。
■4週間後・・・胸痛は喀痰は減ります。
■6週間後・・・咳嗽や息切れが改善します。
■3ヶ月後・・・ほとんどの症状は良くなりますが、倦怠感は残るかもしれません。
■6ヶ月後・・・ほとんどの患者は元通りに回復するでしょう

みたいな記載でした。GRADE systemでガイドラインを作成して患者代表が絡んでいるガイドラインだけあるなと思いました。まあ、経過としてはやや長めですが、少しオーバーに書いておくと良いかもしれませんね。 
 詳しく読みたい方はこちらへ。
http://www.nice.org.uk/guidance/cg191/resources/guidance-pneumonia-pdf

✓ NICEの肺炎ガイドラインが改定されているので要チェック!


尿失禁レビュー 
Urinary incontinence in women*2

 BMJのreviewの雰囲気が変わっていて新鮮でした、State of the art review。ロサンゼルスの泌尿器科医 Lauren N Woodさんのreviewです。2013年11月までの英語論文のみのsystematic reviewが行われています。早速ボトムラインからですが、
①病歴・身体所見が重要
②腹圧型・切迫型・混合型に分類
③最初の治療は生活指導と行動変容・膀胱/骨盤底筋訓練。

 さて、本文へ。国際失禁学会!の尿失禁の定義は「不随意な尿漏れ」とされています。全世界で推定2000万人の人が罹患していると言われ、女性の実に55%がこの尿失禁に悩まされています。腹圧性失禁患者の1/3は週1回程度失禁しており、過活動性膀胱は16%に見られると言われています。尿失禁はQOL低下、うつ病、転倒リスクにも繋がると言われています。腹圧性のリスクは妊娠・出産で、経腟分娩の方は帝王切開よりも有意に多いとされています。肥満や家族性もリスクです。その他では、糖尿病・認知症・喫煙・カフェイン・うつ病・便秘がリスクとされています。

 腹圧型・切迫型・混合型の分類は病歴が重要です。頻度・切迫性・血尿の有無・尿路感染の有無・夜尿の有無などを確認します。重症度は尿漏れパッドの使用頻度を確認します。質問紙票は実にたくさん出ており、どれが良いという決まったものは無い様です。NICEでは膀胱日記をつけることを勧めています。身体所見では、骨盤内臓器逸脱を確認しつつ、咳嗽負荷などで失禁しないか、残尿測定なども要検討です。検査では尿検査くらいはしても良いかもと。診断までのアルゴリズムはきれいな表が掲載されていました。

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(文献より引用)

 治療ですが、腹圧型も切迫型もまずは生活習慣介入から開始です。生活習慣改善として、全患者に水分・カフェイン・糖水を減らすように説明すべきとされています。また、多くの患者が食事含有水分を計算に入れていない為、そこにも言及します。更には、排尿間隔を3時間は開けることを目標に15分ずつ間隔を延ばすように指導します。膀胱訓練は切迫型・混合型に有効です。便秘を避けること、BMI>25では減量指導、骨盤底筋訓練が有効です。痩せると症状が改善するというRCTや、骨盤底筋訓練がプラセボや薬剤投与より有用であるという研究があります。

 切迫型で生活習慣改善で症状改善が得られない場合には、抗コリン薬などの内服薬が選択肢になります。ただし、副作用が30-90%で見られ、なかなか継続するのが難しく、Frailな患者への投与には注意勧告が為されています。NICEはポラキスⓇは禁忌としており、使用するのであればトビエースⓇが安全かつ有用と。トビエースⓇなどの新規抗コリン薬は、ポラキスⓇなどの旧薬剤と比較して、膀胱選択性が高いとされています。似たようなものでは、ステーブラⓇやベシケアⓇが有名でしょうか。あとは、切迫型の新規薬剤として、β3作用剤のベタニスⓇは副作用少なく、失禁回数を1日1回程度減らすことが知られています。ちなみに、推奨はされていませんが、上記が効果が出にくく他の機序で・・・と言われたらブラダロンⓇや牛車腎気丸を個人的には試しています。どちらにしても効果が出るには4週間程度は必要と説明すべきです。

 2種類以上の薬剤内服で無効なら、ボツリヌス注射やSacral neuromodulation(仙骨神経刺激法:インタースティム)、Posterior tibial nerve  stimulation(後脛骨神経刺激)などの方法を試みるんだとか。ちなみに混合型ではなく腹圧型単独の場合には、薬剤投与をしてはいけません。腹圧型の場合には基本的には外科治療が推奨されます。どうしても外科治療が出来ない場合、患者希望が強い場合に現在推奨されている効果のある薬剤はサインバルタなんだそうです。

 尿失禁をアルゴリズム化して、ジェネラリストがきちんと対応できるようになる事が重要です。無駄な専門医受診や検査を減らすことに役立ちますよ!と。最近この辺りはトライ中ですがなかなか面白いです。

✓ 尿失禁には切迫型と腹圧型があり、どちらも生活習慣改善・認知行動療法が重要。薬剤投与の効果は切迫型のみ。推奨は、トビエースⓇ、ベタニスⓇ。
 


BMJのCOIポリシー 
Medical journals and industry ties*3

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(文献より引用:操り医者)
 BMJは各種ジャーナルの中でも一番最初にCOI開示を求めたジャーナルの一つなんだそうです。COIというとfinancialな面が強調されがちですが、BMJでもnon-financialなCOI開示もルーチンを求めているのだとか。non-financialってイメージが湧きにくいかもしれませんが、いわゆるacadmic COIとも呼ばれるもので、学術的な見地でのCOIも無視できないという意味です。例えば、あるガイドラインを決めるための委員会に同じ大学派閥の関係者が半数以上を占めれば、金銭云々では無く、結論にバイアスがかかる可能性がありますよね。特に「eduational materials」の中でこの部分は重要であり、今後更なる厳しいルールを2016年までに整備していく予定なのだそうです。

 具体的には、

①COIについて直近36ヶ月以内と今後12ヶ月以内に起こり得るものを開示
定型的なフォーマットの提出を義務化
③それぞれのauthorのCOIを慎重にエディターが評価し定期的な編集会議で議論。
④2015年からeditorialや教育的な論文について金銭的COIの無い専門家によるreviewを行っていく

との方針を打ち出しています。ただし、これを実行するには、authorやeditorがリクルート出来なくなる可能性があるけどね・・・と。まだ雑誌毎に規定が異なる様ですが、この分野についてもガイドラインなどの策定が求められるかもしれません。

 しかし、academic COIという概念は重要だなと改めて思いました。ある意味信念にもとづいて行動している方々も多く、否定する必要は無いものの、そのものに対する冷静なジャッジをする必要がありますね。

✓ COIにはfinancialとnon-financialがある。ジャーナルとしてのスタンスも重要。

 


■Lancet■

旋尾線虫による皮膚爬行症 
Creeping eruption due to Spirurina type X larva*4

 LancetのCase reportは最近完全な日本ジャックですね。今回は富山大学ですが、国立感染症研究所の先生も絡んでいるみたいです。で、さすが富山!今回はホタルイカで攻めてきました。

 42歳男性が腹部の掻痒を伴う発疹を主訴に来院。1週間前にホタルイカ学名:Watasenia scintillans)を摂食し2日前から腹痛が出現。内視鏡検査で異常所見なく、数日で腹部症状は改善しましたが、9日後に腹部皮疹が出現しました。ちなみにホタルイカは生食だった様子。皮疹は、線状の膨隆を伴った発赤で、小水疱と掻き傷あり。採血では好酸球増多と血清IgEが上昇。鑑別疾患として顎口虫症、マンソン孤虫症、旋尾線虫症を疑い、皮疹部位を切除したのだそうです。で、病理結果で好酸球浸潤と80μmの旋尾線虫を認めたのだとか。

 旋尾線虫症には、type1-13まであり、typeⅩのみ人間に害を為すんだそうです。まあ、大半は自然軽快するようですが。ちなみに中間宿主は、ホタルイカスルメイカ、ハタハタ、タラなどの魚・イカ類なんだとか。typeⅩはそれほど人体内では長生きできないようで、中間宿主としては適さないみたいですね。臨床的には、生食後数日して腹痛が生じ、ひどい場合には腸閉塞を来す事もあるんだとか。これは腸管壁への虫体の浸潤に伴う胃腸炎や腹膜炎によるものです。また小腸から近傍の皮膚組織に寄生することもあり、腹部の皮膚爬行症が1-4週間後に出てくることがあります。治療は罹患皮膚の切除ですが、2ヶ月以内には自然軽快するとも言われています。日本では過去に皮膚爬行症として50例程度報告されているのだそうですが、今後鮨・刺身の生食が世界で広まると注意が必要ですねーと。

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(文献より引用)

✓ 旋尾線虫症による皮膚爬行症は腹痛エピソードより1-4週間程度遅れて出現する。生食の中身に注意して病歴聴取を。


昏睡患者へのアプローチ 
Diagnosis of reversible causes of coma*5

 今週はあちこちでreviewが多くて勉強にはなるんですが、まとめるのは大変です、はい。昏睡患者へのアプローチなんですが、特にreversibleな疾患を意識したreviewとなっています。Mayo clinicとBeth Israel病院のER医が、1970-2013年までの英語文献をもとにreviewしています。 
 ボトムラインを先に載せると、

■昏睡の原因は多岐に渡るので、原因検索には構造的検索が必要
■メカニズムは主に3つで、①器質的脳病変、②び漫性神経機能障害、③心因性(稀)
■原則として患者安定化を図りながら治療可能な原因検索を行いましょう
というところです。

 興味深かったのが、病態生理で昏睡のメカニズムを「arousal」と「awareness」に分類していることでした。arousalは脳幹網様体賦活系(視床・皮質との連絡)、awarenessは皮質と責任部位を明確に分けており、このどこがやられても意識レベルは低下するとしています。よく言われることですが、皮質病変では片側のみでは昏睡になりません。これは失神の際にもよく言われることだと思います。両側視床病変では転換性障害の様に見えることもあり注意が必要です。頭蓋内病変では大きさよりは大きくなる速度によって昏睡に至るかが規定されます。例えば、低血糖や急性の水頭症は速いスピードで昏睡になりますが、慢性硬膜下血腫や細菌性髄膜炎などは昏睡に至るまでにかなり長い時間を要します。可逆的な原因でも長い時間放置すれば不可逆になることもあります。可逆的な原因を探すことは意識障害を診る上で非常に重要であり、更に可逆的な原因では局所神経症状やCT異常がないことが多いとされています。

 初期評価としては、病歴聴取よりバイタル安定化から始めるべきで、まずは迅速血糖の確認とリスクに応じてビタミンB1投与や痙攣への対応を優先します。ただし、ルーチンのフルマゼニルやcoma cocktailと呼ばれる多種類の薬剤投与をルーチンで行う事は勧められません。安定したら、病歴・身体所見・採血・心電図が鑑別に有用になります。意識障害患者では、病歴は目撃者・家族・過去診療録を元に聴取していきますが、情報は断片化しやすく、新しい情報が加わる度にworking diagnosisを行う必要があるとのこと。遅滞無きカルテ記載が重要ですね。

 昏睡に至までの時間の早さは非常に重要であり、「突然」であれば、stroke/seizure/poisoningを疑いますし、緩徐発症であれば、炎症性疾患や腫瘍性疾患などを疑います。神経所見を評価する場合には、局所・片側性神経所見の有無(大脳皮質)、脳幹機能の異常所見評価、重症度の評価を行うことが重要です。具体的には脳幹反射や瞳孔所見は重要で、対光反射・人形の目現象・前庭動眼反射・嚥下/咳嗽反射の所見を取ります。また、skew deviation(斜視位)、roving sign(眼球彷徨:眼球が左右にゆっくり動く)、共同偏視なども重要です。

 もう一つ、読んでいてそうだなと思ったのは、CT所見の解釈は臨床所見あってこそだなという部分です。CT所見を①Truly positive、②Truly negative、③Falsely positive、④Falsely negativeに分類しましょうという推奨があるのですが、これは神経評価をきちんとして、病変を疑っているからこそTrulyとかFalselyとか言えるわけです。例えば、臨床的に脳梗塞を疑っていてCTで写っていなくても急性期であればそのCT所見はFalsely negativeになります。逆に、昏睡患者に見つかるmidline shiftも来していないような頭蓋内病変は所見はあるものの神経所見と合わない為、Falsely positiveになるわけです。画像所見に引っ張られない様にする為にも、如何に正確な所見を取ることが重要かを再確認しました。

 さて、ここまでまとめつつ、最終的にはアルゴリズム診療が良いと言われています。これNHKでやってもらうか。以下の5stepで評価していきましょうとのこと。

①頭部MRI・CTが必要な疾患か?
②中毒の治療は必要か?
③腰椎穿刺や抗菌薬投与は必要か?
④緊急脳波検査が必要か?
甲状腺ストームやビタミンB1欠乏の可能性は?


 明確な鑑別疾患ありきのアルゴリズムですね。可逆的病変に主眼を置いた非常にpracticalなアルゴリズムだなと思いました。あとは、整理しておくべきものとして、頭部CTでは写らないので見逃す疾患。脳底動脈系病変、PRES、RCVS(脳血管攣縮性疾患)、静脈洞血栓症が挙げられていました。で、特定の診断がついてない場合には、頭部MRIを取った方が安全かもと。

✓ 昏睡患者の診療には、構造的アルゴリズム的評価が重要。病歴・身体所見あっての画像所見であることを意識。見逃したくない可逆的疾患の多くは頭部CTは役に立たない。