栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 週48時間勤務で教育は十分か/無症候性顕微鏡的血尿のレビュー/自己処方について/ステント技術の革新/歯科治療時の予防的抗菌薬中止後の感染性心内膜炎発症率

BMJ

週48時間勤務で教育は十分か 
Can doctors be trained in a 48 hour working week?*1

 BMJのdebateです。研修医教育の時間規制をどう考えるかがテーマなわけですね。

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(文献より引用)
 まずは賛成派の意見から。2009年にイギリスでは48時間/週を採用したのだそうです。ポイントはこの時間規制が教育的にnegativeなのかどうか。もちろん感情的には誰も100時間/週には戻りたくないわけですよね。ただ、時代の流れとして「experiental learnig」から「high quality training」にする必要があるだろうとしています。ただし、当然研修時間が短くなれば経験値は少なくなりますから、その分、教育密度と質を考慮する必要があります。例えば、ノルウェーでは1980年から48時間/週制度を導入し特に問題なく研修医・専門医養成をしており、「more supervisedかつlow workload」での教育が可能であることの根拠としています。

 反対派の意見としては、アンケート調査で、上級医の50%は48時間/週では研修の質が低下するだろうとコメントし、44%の医師は訓練が不十分とコメントしています。また、そもそもイギリスの研修医の50%は海外研修を追加して不足分を補おうとしているのだとか・・・

 難しいところですね。過剰労働の問題は、医療安全やメンタルヘルスの問題にも関連していますから、ある程度safetyに設定せざるを得ない部分があるのだと思いますが。個人的にはこれを読みながら自分は古い人間なんだろなあ・・・と思いました。

✓ 研修内容は、量より質に移行しつつあり、イギリスなどでは48時間/週になっている。


無症候性顕微鏡的血尿のレビュー 
Investigating asymptomatic invisible haematuria*2

 さて、日本ではごくごく良くある「検診で尿潜血陽性なんです〜。何も症状が無いけど・・・」てやつ。これって世界的に見ても日本のみの現象なんだそうで。基本的に世界で尿潜血が検診項目に入っているのは日本だけと書いてありました。他の国々では、riskやcostがbenefitを上回ると判断しているんだそうです。とはいえ、比較的簡単に尿検査ができるようになったため、世界中で無症候性の潜血尿が増えているのは事実で、それに対して各国がガイドラインを出しているものの、内容的にはrationalなものというよりはdefensiveな内容になっています。

 まず確認すべきは、症状の有無です。具体的な症状とは、肉眼的血尿や腰痛、排尿障害等で、例えば肉眼的血尿は泌尿器系癌の最も良い予測因子として知られ、8-25%に悪性腫瘍が見つかると報告されています。また、排尿障害と尿中白血球があれば尿路感染症の診断が疑われます。無症候性潜血尿はスクリーニングを行うと2-13%に見られるという報告もあり、尿潜血の実際の血尿に対する感度は97%あるものの特異度は75%程度であり、陽性になったからといって何かの疾患を示唆する訳ではありません。生理学的にも顕微鏡的血尿は出現しうる為、1度陽性になった場合には1週間後の再検が望ましいとされています。生理や過度の運動を避け、繰り返した尿検査3回のうち2回以上陽性になった場合を陽性とすることとしています。

 陽性になった場合には、まず行うべきは細胞診ではなく膀胱癌の危険因子(喫煙歴、革製品や染料・ゴム製品製造の暴露やシクロホスファミド暴露等)や膀胱癌家族歴の病歴聴取です。更にCr値や蛋白尿を確認しましょうと。安易な画像診断は見逃しにつながるので勧めないとも書かれていました。

 紹介先は、腎臓内科か泌尿器科なのですが、プライマリケア医がいつ紹介すべきは、以下のBoxにまとまっておりました。簡単にまとめれば、腎臓内科医紹介は、eGFR<30ml/min、尿中微量アルブミン>30mg/mmol、遺伝的腎疾患の可能性がある場合泌尿器科紹介は35-40歳以上、喫煙者や過去の喫煙者となっています。まあ、これだと高齢者の尿潜血陽性は全例泌尿器科になるので、どうかなとも思いますが、現在のUK/USガイドラインではそうなっているみたいです。これがdefensiveな推奨だ!と批判されるもとでしょうね。ちなみに無症候性顕微鏡的血尿の観察研究では、2.6%に泌尿器癌が見つかったとのことです。まあ、とりあえずリスク評価きちんとすることからだなあ・・・

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(文献より引用)

✓ 無症候性顕微鏡的血尿のスクリーニング検査は国際的にも推奨されていない。陽性となった場合には病歴によるきちんとしたリスク評価を。


自己処方について 
Physician, don’t heal thyself: the perils of self prescribing*3

 自己処方は実は世界的に大きな問題になっています。日本では覚醒剤以外の薬についての自己処方は法的な規制は無い状態です。日本以外でも自己処方は合法ではあります。例えば、あるアンケート調査では、カナダの医師の3/4、ノルウェーの50%以上、アメリカの50%が自己処方歴があるのだとか。ちなみに抄読会参加メンバーは全員自己処方歴がありました。さて、自己処方の中で特に問題になるのは、ベンゾジアゼピン系などの抗精神病薬オピオイド系の麻薬になります。イギリスでは、最近自分だけでなく家族への処方もしないように推奨していますが、現状は近親処方/自己処方は減っていないのだとか。 

 まあ、そもそも自己処方の何がいけないのさ??ということに関しては、処方薬の不適切さもありますが、カルテ記載や内服理由などが他者から見ても不明確なことが問題なんだそうです。後でカルテを見ても全く分からないことも多いのだとか。改善策として薬剤師が処方箋段階でスクリーニングをかける方法が検討されていますが、業務関係上支障がでることが危惧され、積極的には勧めにくい状態なのだとか。まあ、どこの国も似たようなところですね。

 まあ、医者自身は過小評価・過剰診療どちらの傾向もあり得るので、難しいですよねえ。正直患者としてはやっかいな相手ですしね。かといって隠してお忍びで受診するとかも相当面倒な感じですし、そもそもそんな時間もないしなあ・・・

✓ 自己処方はデメリットも多い事は十分承知しつつ、可能な限り避けましょう


■Lancet■

ステント技術の革新 
Revisiting the BIOSCIENCE of drug-eluting stent technology*4

 現在ステントの世界は日進月歩であり薬剤溶出性ステントもどの薬剤が良いかということでしのぎを削っています。今回Ultra-thin(超薄型?)の生分解性ポリマーを用いたステントの効果が検証され、エベロリムス溶出の従来型ステントと非劣勢だったというBIOSCIENCE試験の結果が報告されています。ステントはOrshiroという世界初のハイブリッド薬剤溶出ステントで、薬剤としてはシロリムスが使用されています。ちなみにこのOrshiroはUltra-thinで、エベロリムスの最近よく使われているXienceはthin strutなんだとか・・・もう何が何やら。主要エンドポイントはまたも複合アウトカムでしたが、サブ解析ではSTEMIで良かったとも言われています。ちなみにこのOrshiroは2011年に欧州で販売開始されているんだそうです。

 DESって溶出される薬剤の違いだけかと思ったら、構成されている成分のポリマーも段階的にどんどん変化しているんだそうですね。主に耐久性ポリマーと生体吸収性(生分解性)ポリマーがあるんだとか。ちなみに、この生体吸収性ステントの場合には、1年以降経過した後には、吸収されてしまう為、ステント内血栓症や再狭窄などの遅発性有害事象の抑制が期待されているのだそうです。日本でもNEXT研究などを行っている様子。

 さてさて、まあ確かに素晴らしいといえば素晴らしいんですが、問題は薬価です。過去にBMJなども散々取り上げていますが、とにかくステントはものすごい値段です。開発費も考慮するととにかく医療費が・・・C型肝炎治療薬もそうですが、技術革新追求を重要視し過ぎてバランスの悪い医療費の使い方がされていないだろうかという視点も重要です。

✓ ステント技術は日進月歩。ただし、非劣勢試験で同等のものを量産するくらいなら医療費全体を考慮する必要があるかもしれない


歯科治療時の予防的抗菌薬中止後の感染性心内膜炎発症率 
Incidence of infective endocarditis in England,2000-13: a secular trend, interrupted time-series analysis*5

 NICEガイドラインでは、以前は歯科治療を受ける際に抗菌薬の予防内服を推奨していましたが、2008年に予防的抗菌薬を推奨しないというスタンスを取りました。で、抗菌薬の予防投与は下記に示す様に有意に減少していきます。イギリスの素晴らしいところは、こういったガイドライン勧告が非常にスムーズに末端に伝わっていくことですね。

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(文献より引用)

 で、今回その結果として感染性心内膜炎の頻度がどうなったかを後ろ向きコホート研究として報告しています。ちなみに、イギリスでは2008年までは50年にわたって予防的抗菌薬投与を推奨していたのだそうです。中止に至った経緯は、抗菌薬予防内服を推奨する根拠となるようなランダム化比較試験が存在せず、推奨する根拠が乏しいからという理由でした。

 今回2004年から2013年までの予防的な抗菌薬投与データと、同期間に退院時の診断が感染性心内膜炎だった症例のデータを集積・比較し、時系列モデルを用いて回帰分析しています。結果、感染性心内膜炎は全例で1万9804人診断され、全体的に頻度は上昇傾向でしたが、2008年3月の勧告以降更に上昇率が有意に高くなり、1ヶ月に1000万人あたり0.11人(95%CI:0.05-0.16)でした。推算すると1ヶ月あたり34.9人余計に心内膜炎患者が発生している可能性があります。high risk患者もlow risk患者も比較していますがどちらも増えている計算でした。ただ、まあ死亡率は上がっていない訳ですが。

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(文献より引用)

 ちなみに今回はちょっとネタ不足で昔のを引っ張ってきました。予防内服の効果がある意味検証された形にはなりましたね。これってやろうと思えばRCT組めるんだろうか・・・ただ、人口ベースでやらないといけないかもしれませんね。日本は現在はハイリスク患者(生体弁・同種弁を含む人工弁置換術例、感染性心内膜炎既往例、複雑性チアノーゼ性先天性疾患例、体循環ー肺循環シャント造設例、僧帽弁逸脱症例)のみに推奨されています。さて、どうしたものか・・・

✓ 歯科治療時の予防内服をやめると感染性心内膜炎の発症頻度が増加した