栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 内科専門医資格の永久化/教育におけるdebriefingの文化作りを/ERでの資源利用の研修医-指導医の違い/禁煙のためのシチシンとニコチンの比較/HDLコレステロール引き抜き能と心血管イベント

■JAMA■

内科専門医資格の永久化 
Association between physician time-unlimited vs time-limited internal medicine board certification and ambulatory patient care quality*1

 専門医資格についての話題。こうゆうのをきちんとコホート試験にして検証するのが偉いなあと思うわけですが。アメリカ内科学会は、もともとは内科専門医資格を永久資格としていましたが、1990年以降、10年毎に専門医資格更新を義務化しています。ところが、今回再び永久資格になるのではないか?という話題が出ています。過去の研究では、「内科専門医試験の成績が良いこと」と「内科専門医資格があること」は、患者アウトカムを改善するという報告はある様ですが、「永久」vs「更新」で患者アウトカムへの影響があるかは十分検証されていません。

 今回は、4つの退役軍人病院の2012-2013年の勤務内科医105人を対象に、永久資格群と更新資格群を比較して、臨床アウトカム10項目を評価した後ろ向きコホート研究です。105人の医師が診療を行った68213人のデータが解析対象でした。これ、比較が難しいんですが、簡単に言うとベテラン医師は1990年以前に資格をとったので「永久群」に、若い医師はシステムが現状の「更新群」になっているため、2群の経験年数平均が29.6年 vs 14.1年と2倍程度経験値の違いが出ています。

 結果ですが、プライマリアウトカムとして、大腸癌スクリーニングや糖尿病コントロール指標<9.0%、血圧コントロール <140/90mmHg、LDL-C<10mg/dL等のいわゆるquality indicaterが評価されていますが、結局永久群と更新群では有意差がつきませんでした。むしろ、4施設の施設間でのばらつきが目立つ結果でした。

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(文献より引用)

 まあ、これをうけて、内科専門医資格自体は永続でも良いんじゃない?という結論です。editorialでも、重要なのは定期的な評価試験などの個別教育を重視していくことでは無く、チーム・病院として診療レベルを向上していくシステムがあるかどうかを評価することではないか?と指摘しています。

✓ 定期的に専門医試験を課すこと自体が臨床医の診療内容を改善することにつながらないかもしれない


教育におけるdebriefingの文化作りを 
Educational opportunities with postevent debriefing*2

 debriefingという言葉は結構誤解されやすくて、始まりは軍隊で任務が終わった後に、任務を行った全ての人々が集合して起こったことについて語るという比較的強制力の高いものが由来です。近年災害医療分野ではsecondary traumaの原因になり有害にもなり得るかもしれないと警鐘が鳴らされています。今回のテーマは、研修医教育におけるdebriefingということで、広義の意味合いだと思われます。

 臨床イベントを学びの機会にする事は非常に重要ですが、実際には難しい側面も多いとされています。Amccreditation Council for Graduate Medical Education(ACGME)でも臨床指導における必須項目にすべきとしていますが、実際にはあまり行われていないという現状があります。例えば、CPAや外傷、帝王切開に関しては、errorを減らす効果が証明されつつあります。医学知識や振る舞い、態度などのGapを確かめ改善策を考えるのに、従来型の指導と異なり、debriefingはその場その場でfeedbackがかかることに意味があります。

 研修医対象のアンケートでも多くの研修医はfeedbackがかかることを期待していることが分かっていますが、実際には①その場で適切にfeedbackできる人がいない、②時間が無い、などの理由で行われていないのだそうです。まずは、その「行われない文化」を脱却して、「debriefing文化」を作っていきましょうと言われています。更には、よくありがちですが、「駄目だったevent」ばかりfeedbackしがちですが、「良かったevent」も取り上げて、それを褒めてともに喜ぶことが重要ですよと。例え時間は短くても良いわけですよね。
 
 喜ぶ者と一緒に喜び、無く者と一緒に泣きなさい
 Rejoice with those who rejoice, mourn with those who mourn ローマ12:15

 以下のSlide shareにはCPAのfeedback/debriefingについてよくまとまっていました。参考までに。
http://www.slideshare.net/matstaro/slide-share-feedbackanddebriefingforhealthprofessionalsosakalifesupport25dec2011

✓ 臨床現場でタイムラグの無い短時間のfeedbackをしてあげる文化を創ろう


ERでの資源利用の研修医-指導医の違い 
Emergency department resource use by supervised residents vs attending physicians alone*3

 教育病院では一般的には非教育病院と比較して余計な検査が多くコストもかかっていると言われています。まあ、これももちろん教育内容によるのだと思いますし、病歴・身体所見重視の教育を行ったらこんなことにならないかもしれませんが・・・で、時代はコストも意識した医学教育というわけです。

 で、今回はその布石として、ERでの医療資源の使用の仕方が、研修医が診療した場合と指導医が診療した場合でどう違うかを評価しています。まず定義として、研修医が診療しないnon-teaching、研修医と指導医が両方診療するが、研修医の診療が全体の50%以下をteaching minor、研修医が50%以上を診療するteaching majorの3群を比較しています。336施設29182人の患者さんデータからランダムに各施設ある4週間の100例ずつ選択してもらって3374症例を検証しています。比較は前述の研修医症例と指導医症例。アウトカムは、入院率・画像検査・採血・入院期間を評価しています。

 結果ですが、研修医診療の方が指導医のみ診療よりも有意入院率・画像検査施行率・入院期間が高い結果でした。
 入院率     OR 1.42(95%CI:1.09-1.85)
 画像検査施行率 OR 1.27(95%CI:1.06-1.51)
 入院期間    OR 1.32(95%CI:1.19-1.45)
でした。この傾向は施設毎で比較して、non-teaching hospital vs teaching hospitalでも同様の結果となりました。

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(文献より引用)

 要は指導医がついて指導しても余計な入院、余計な画像検査が増えて、入院期間も増えるということですね。患者アウトカムでの評価はあまりされていませんでしたが、これで患者のハザードになるようだと考えものかなとも思いました。今の自分の施設が、どちらにあたるかはなかなか難しい所ですが、ある程度クオリティが保たれている指導医がきちんと診療した方が良いのは納得ではあります。

✓ 研修医が関与したER診療は、指導医のみで行ったのと比較して入院率・画像検査・入院期間ともに増える


■NEJM■

禁煙のためのシチシンとニコチンの比較 
Cystine versus nicotine for smoking cessation*4

 禁煙補助薬としてはニコチン製剤とバレニクリンがメジャーなわけですが、今回シチシン(cytisine)が検討されていました。シチシンは初めて聞いたのですが、ニコチン性アセチルコリン受容体の部分作動薬で禁煙補助薬として使用されているんだそうです。過去の研究では、6ヶ月時点での禁煙率を倍にするという結果も出ていますが、今回は禁煙補助薬として効果が確立しているニコチン代替療法との非劣勢を確認する為に、非盲験のプラグマティックRCTが行われました。

 対象はニュージーランドで禁煙意欲があり、禁煙相談の電話サービスに連絡してきた患者1310人が対象です。基本的には毎日喫煙する成人が対象であり、シチシン群は25日間シチシンを内服、ニコチン代替療法群は8週間のニコチン置換療法を行い、1:1でランダムに割り付けされました。ちなみにニコチン代替療法は、ガム/トローチまたはパッチを選べるようなクーポン券みたいなやつを配っています。それぞれの薬物介入以外に、電話による低強度の行動支援が行われています。プライマリアウトカムは、1ヶ月時点での禁煙率(自己申告)としました。

 結果ですが、1ヶ月時点での禁煙率は、シチシン群で40%(264/655)、ニコチン代替療法群で31%(203/655)で、差が9.3%(4.2-14.5)で、その後、2ヶ月・6ヶ月まで経過を追っていますが、シチシン群がニコチン代替療法よりも優れている結果でした。シチシンは女性の方が効果があり、女性は優越性、男性は非劣勢を示しています。有害事象はシチシン群の方が多く(31% vs 21%)、悪心・嘔吐、睡眠障害が増えるという結果でした。

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(文献より引用)

 禁煙にシチシンは有効なんですね。日本では発売されていないので何とも言えないですが、禁煙率は増えるけど副作用も多いという結果と考えられますね。禁煙薬の治療効果判定には是非プラセボ群との比較も置いてもらいたいなと思いますね。プラセボ群でも実はRCTに組み入れられる様な人達の禁煙率はそれなりにあるのではないかなと推察しています。

✓ シチシンは禁煙療法としてニコチン代替療法と同等もしくはそれ以上に有効だが副作用は多い


HDLコレステロール引き抜き能と心血管イベント 
HDL cholesterol efflux capacity and incident cardiovascular events*5

 HDLコレステロールって扱いに困る数値ですよね。動脈硬化性心血管因子の独立した危険因子ですが、過去にHDLを上昇させるナイアシンやCETP阻害薬の臨床試験は、軒並み効果無しの結果が出ています。これらの結果からはHDL-Cは心血管疾患との直接的な因果関係にないのではないか?とされてきています。これは尿酸値や中性脂肪と似ていますね。

 で、今回の論文で注目されているのは、”efflux capacity”です。色々見ると”引き抜き能”と訳されています。具体的には、末梢血管で余剰コレステロールを貪食したマクロファージが泡沫細胞となって血管内皮に蓄積することが知られています。HDLはこの泡沫細胞からコレステロールを引き抜いて取り込む能力があり、この機能自体は動脈硬化の抑制に繋がるとされています。今回は大規模コホート研究で、この引き抜き能とアテローム性心血管疾患発生と転帰について検証されています。

 対象は、もともと心血管疾患を有しないアメリカ人2924人で人口ベースからサンプリングされています。ベースラインで、HDL値、HDL粒子濃度、引き抜き能を測定しています。プライマリアウトカムとして、アテローム性心血管疾患または心血管による死亡のcomposite outcomeとしています。ちなみにアテローム心血管疾患の中には、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、冠血行再建術とされています。平均follow upは9.4年でした。

 結果ですが、HDL-C値と心血管イベントの相関関係は認められませんでした(HR 1.08:95%CI 0.59-1.99)が、コレステロール引き抜き能は、様々な交絡因子を補正後も心血管イベントと関連し、プライマリアウトカムを有意に減らす結果(HR 0.33:95%CI 0.19-0.55)でした。

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(文献より引用)

 要は、HDLコレステロール値が問題なのではなく、HDL-Cの機能の問題が大きいことが判明しました。しかし・・・これ、どうやって測定すんの?できるの?しかも介入は可能?まあ色々疑問がわき上がりますなあ。
 
✓ HDLコレステロールの引き抜き能は心血管イベントと相関する