栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM アスピリンによる一次予防のeditorial/抗菌薬適正介入とその後/MCIのレビュー/食後の動悸/急性心膜炎

■JAMA■

アスピリンによる1次予防のeditorial 
When should aspirin be used for prevention of cardiovascular events?*1

 先日Online firstで先に紹介した日本発のアスピリン一次予防の研究のeditorialを読みました。元々の文献はこちらを参照のこと。


論文:日本人高齢者に対する低容量アスピリンの一次予防効果 - 栃木県の総合内科医のブログ


 さてeditorialでは、まずアスピリンについてのお話から。アスピリンは最も研究されている薬で、19世紀後半から使用開始されている模様です。もともと苦かったサリチル酸を飲みやすくアセチル化したところ、COX2の不可逆的阻害がincidentalに起こったというのが誕生経緯なんだそうですね。今回は、アジア発の大規模な一次予防であり、アジア人は出血性の脳卒中が多いので、リスクーベネフィットの観点から重要な研究だねと位置づけています。そんな中結構limitaitionがあるから注意しましょうとのことで、editorialが挙げているlimitationを列挙してみたいと思います。

①サンプルサイズ計算の問題
 サンプルサイズをRisk Reduction 20%と見積もっているが、過去の研究による一次予防の効果は12%程度であり、アスピリンを過大評価している可能性がある
プラセボなし
 PROBE法による試験ですが、プラセボ群との比較がされていません。従来治療群との比較という形で十分なブラインドなし。
③脱落10%
 これも自分の批判的吟味で書きましたが、脱落者が10%程度いて、アスピリン群の76%程度しかアスピリンを飲んでいない点と、非アスピリン群の10%がアスピリンを飲んでいる点で、純粋な2群比較になっていない可能性があります。
④腸溶錠の使用
 欧米では腸溶錠は使用しないんだそうで。これはああ、国の事情かもしれませんが、過去の欧米の研究は通常の低容量アスピリンなので腸溶錠と同等の効果といって良いか分からないと宣ってました。まぢすか・・・?
  
 いずれにせよ、今回登録された様な低リスク群には、実臨床でもアスピリンが効果が無い可能性が高いことが示唆されています。今後はハイリスク群に対する一次予防で、現在3つのRCTが進行中とのこと。1つは40歳以上の糖尿病患者(ASCEND trial)、2つめは複数リスクがある中年以上(ARRIVE trial)、3つめは70歳以上(ASPREE trial)とのことです。楽しみですね。

✓ JPPP studyの結果は多少限界はあるものの、アスピリン一次予防が低リスク患者には効果は少ないことを示している。


抗菌薬適正介入とその後 
Durability of benefits of an outpatient antimicrobial stewardship intervention after discontinuation of audit and feedback*2

 小児プライマリケア医に対する18カ所での抗菌薬Stewardshipの効果を検証したstudyがありましたが、この介入によって上気道炎に対する広域抗菌薬使用が約50%程度減ったという結果は記憶に新しいかと思います。さて、この研究の介入終了後18ヶ月後のfollow up dataが出ていました。この18ヶ月の間に9人の医者は残り、16人の新しい医者が勤務交替で仕事をするようになりました。

 この結果によると、せっかく減少していた広域抗菌薬処方がものの見事にV字回復していることが分かります。やはり、継続的に介入を続けていかないと効果は薄れていくという結論に達しました。

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(文献より引用)

✓ 広域抗菌薬使用に対する教育介入は継続的に行う必要がある


MCIのレビュー 
The diagnosis and management of mild cognitive impairment  A clinical review*3

 MCIについてのreviewがありました。著者はミシガン大学の内科・老年科・神経内科の医師であるKenneth先生です。2014年7月までの英文献をPubmed検索しています。

 まずは定義から。2011年にMCIの基準が改訂されています。MCIと認知症の区別のkeyになるのは、①ADLの自立、②社会・職業的機能の維持の2つがポイントです。MCIは健忘性MCIと非健忘性MCIに分類することがあります。過去の定義は様々なので、疫学もばらついてはいるが、一般住人の10-20%がMCIとも言われ、加齢と共に増加し男性に多いとされています。他のリスクには、低教養やCVDリスクと言われています。

 患者評価の目的は、正常加齢・認知症とMCIを区別すること、可逆的な病態を同定することであり、総合的な問診・診察によって、①認知機能、②生活機能、③薬剤、④神経精神障害、⑤検査を評価します。

①認知機能 Cognitive function
 認知機能の変化を確かめ、急激な変化がある場合には、MCI以外を考慮する。経時的変化を追うことが最も重要。MoCAというスクリーニングは、MCI検出用のスクリーニング検査でMMSEよりも感度が良いのだそうです。感度 80-100%、特異度 50-76%と言われています。また、Mini-Cog検査もまずまずとのこと。
http://consultgerirn.org/uploads/File/trythis/try_this_3_2.pdf
②生活機能 Functional status
 ADLないしIADLを評価することも重要で、Functional Activities Questionnaireが簡易評価法として用いられ、FAQ 6以上でMCIと認知症を85%の精度で区別できるとされています。
http://www.healthcare.uiowa.edu/familymedicine/fpinfo/Docs/functional-activities-assessment-tool.pdf
③薬剤 Medication review
 認知機能に影響を与える薬剤をリストアップ。抗コリン薬、オピオイドベンゾジアゼピン系、非ベンゾ系睡眠薬ジゴキシン、抗ヒスタミン薬、三環系抗うつ薬、筋弛緩薬、抗てんかん薬等。また、過度な降圧、血糖降下にも注意。
④神経精神障害 Neurological and Psychiatric
 MCI疑い患者ではfullの神経評価とうつ病評価が重要になります。例えばですが、視覚幻覚ではDLB、四肢の痺れではneuropathy、起立時めまいでは起立性低血圧、言葉の変化ではPDや脳卒中、歩行変化では脳卒中NPHを鑑別しましょう。また、精神症状については、Geriatric Depression Scaleがうつ病評価に有用です。
⑤検査 diagnostic testing
 ルーチンの画像検査は推奨されていませんが、認知症の9%に可逆的要因があるとされており、CBC、赤沈、血糖、カルシウム値、甲状腺機能、ビタミンB12葉酸を測定すべしと。


 最期は治療ですが、薬剤治療ではMCIに有効性が確認されている薬剤は一つもありません。むしろメタ解析では副作用が多い傾向であり、ChE阻害剤やメマンチン投与は推奨されていません。心血管リスクのコントロールについては、血圧・禁煙・スタチン・抗血小板薬・抗凝固薬が重要とされています。ただし、スタチン・血糖厳密低下の予防効果は不明です。また、忘れがちですが、視力・聴力の評価と治療は重要なのと、うつ病への介入もきちんと行いましょうと。地中海食や社会的活動が予防効果があるとされています。

 まあ、そもそもMCIのうち実際の認知症に進行する症例は5-20%程度とあまり多くは無い為、経時的に経過を見ていくことで十分なことが多いです。また、適切な評価間隔は不明です。MCIの10-20%は1-2年後には認知機能改善したと言われています。

✓ MCIで評価すべきポイントを理解し、適切なfollow upを行う。除外診断を重視し定型的な評価が出来るようにする。



■NEJM■

食後の動悸 Palpitations after dinner*4

 症例報告fromが大量量産されていますが、今回はNEJMへ。来年の目標はどこかのCase reportに論文投稿するという比較的小さな目標にします(笑)。今回の症例は香川の内海病院という病院の先生の報告。ホームページ(http://www.uchinomi-hp.uchinomi.kagawa.jp/index.html)見てみましたが、小豆島の200床未満の小さな病院からの報告です。いやあ、素晴らしい!

 症例は76歳女性。既往に関節リウマチ、糖尿病、高血圧のある患者が1ヶ月前から食後のみの動悸症状を主訴に受診。胸部正中の症状で食後10-15分程度続くとのこと。心電図は特記事項無く、胸部Xpで心臓左縁に縦隔陰影を認め、胸部CTでは横隔ヘルニアを認め、胃が胸腔内に脱出し、左室に接して捻転していました。内視鏡検査で胃粘膜のねじれがあったことから、胃捻転と診断しています。ヘルニアと捻転を外科的修復した後から症状は消失し、術後1年経過しているが、無症状で経過している。

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(文献より引用)

✓ 食道ヘルニアに伴う捻転と左室圧迫が動悸症状を引き起こすことがある


急性心膜炎 Acute pericarditis*5

 NEJMは急性心膜炎のreviewでした。こちらはバーモント大学の循環器内科医のMartin先生のreviewです。

 急性心膜炎の原因は多彩で、先進国では80%が特発性と言われています。残りの10-20%は心筋損傷後(最近激減)、膠原病悪性腫瘍で、稀な原因としては、TRAPSや地中海熱があります。また、診断されていない軽症例も多いと言われ、それに伴って疫学データの評価が困難になっています。例えば、ERでは非虚血性胸痛の原因の5%が急性心膜炎とも言われ、男性が多い事、院内死亡率は1.1%と予後は良いことなどが報告されています。

 1/3の症例は心筋炎を合併しトロポニンが逸脱しますが、左室壁運動異常を来すのは稀です。全体の2/3で心嚢液が見られますが、大半は少量で、20mm以上の心嚢液は全体の3%程度にすぎないと言われています。70-90%は自然寛解しますが、一方で10-30%は再発すると言われます。この再発例はあまり見たこと無いですねえ。

 診断については、①典型的胸痛、②心膜摩擦音、③典型的心電図変化、④心嚢液のうち2つ以上の所見があるかどうか。実質①がある人で疑うので、②ー④の症状があるかどうかを確認する必要があります。特徴は前傾姿勢で改善する胸膜痛で、僧帽筋端へ放散するのが非常に特徴的です。ウイルス感染様症状を伴い突然発症するのが典型例です。ちなみに、症状も一過性・一時的だったりするので、疑ったら頻回に評価することが重要です。鑑別は、急性心筋梗塞帯状疱疹、PTE、肋軟骨炎、肺炎、GERD等。

 採血では、WBCCRP上昇はあり、胸部Xpには異常が無いことが多いです。心臓超音波は全例で行うべきで、心タンポナーデの有無の評価が重要です。ちなみにタンポは心嚢液の量とは関連せず、あくまで貯留速度が問題なので、心嚢液の量でタンポかどうかを判断することが無い様にし、きちんとBeckの三徴(警静脈怒張、心音低下、奇脈)を確認しましょう。

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(文献より引用)
 治療は、歴史的にはNSAIDsでしたが、近年コルヒチンが推奨されつつあります。米国ではイブプロフェン、欧州ではアスピリンが好まれ、大半の患者は治療数日で症状消失します。コルヒチン投与は3ヶ月、NSAIDsの場合は1-2週間が多いと言われていますが、決まったレジメンははっきりしません。漸減法やCRPモニタをしている先生もいる様子。

✓ 急性心膜炎は比較的コモンであり、精通しておくべし。心膜摩擦音や奇脈などの身体所見が取れるようにしておく。