栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

今週のカンファ:有痛性青股腫/多系統萎縮症/カルシフィラキシス

さてさて新年1発目のカンファ。
今週は何やらレア疾患のオンパレードです。

有痛性青股腫 Phlegmasia cerulea dolens

 目の前でレジデントが診察しているのを横目で見ながら、「えっとこれさ、青い股・・・」って言いながら立ち去っていく指導医(笑)。そもそも「あおまたしゅ」なのか「せいこしゅ」なのか、読み方すら知らないわけでしたがね。まあ典型的なsnap diagnosisでしょうか。正式には「ゆうつうせいせいこしゅ」らしいです。Wikipediaさんありがとう。せっかくですから少しまとめておきます。


 有痛性青股腫は急性深部静脈血栓症でかなり稀な疾患です。正確な疫学情報は分かっていませんが、私自身は医師11年目で初めてでした。病態としては、腸骨大腿静脈血栓症がほぼ完全な静脈閉塞を引き起こすことで、下腿の虚血が起こり、強い疼痛・チアノーゼ・浮腫を呈するとされています。最近ではNEJMの"Out of the blue"とかいうおしゃれなCaseとして紹介されていました。


論文抄読会:JAMA & NEJM 深部静脈血栓症/胃瘻交換/敗血症のEGDT - 栃木県の総合内科医のブログ



 静脈還流の阻害や広範な浮腫による動脈血流の遮断も生じると考えられていて、単なる静脈閉塞のみとは言いがたいのかもしれません。最終的に壊疽まで伸展することもあり注意して管理する必要があります。過去の報告では、血栓溶解や機械的血栓除去術でも下肢レスキューが困難で切断を余儀なくされたものも多くありました。また、悪性腫瘍の合併例も多い様で、腫瘍検索も必要になる様です。
 
 ちなみに蛇足ですが、有痛性白股腫というのもあり、こちらは表面の側副血行路が残存しているために、白色調が保たれているのだとか。血流の完全遮断が青股腫の様ですね。


 写真はGogle画像検索から。でもまあまさにこんな感じでした。レジのMくんgood jobです。Case report狙いましょう!

http://cdn.lifeinthefastlane.com/wp-content/uploads/2009/12/image_16.jpg

(http://cdn.lifeinthefastlane.com/wp-content/uploads/2009/12/image_16.jpgより引用)


✓ 急性かつ広範な下肢痛/下腿浮腫/チアノーゼを見たら有痛性青股腫を疑え!

 

 

多系統萎縮症 Multiple systems atrophy

 こちらもかなりレア疾患。診断時に立ち会うのはなかなかないです。診断したスタッフは、某神経内科専門の先生方が勤務する療養系病院で多くの療養中の患者さんと接していた経験が生きたと話していました。
 
 代表的な神経変性疾患の一つで、脊髄小脳変性症(SCA)の一つです。脊髄小脳変性症の分類は歴史的変遷はありますが、現在は遺伝性と非遺伝性に分類され、多系統萎縮症は非遺伝性の脊髄小脳変性症に分類されます。ちなみにマシャド・ジョセフ病とか歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症あたりは、遺伝性のSCAでそれぞれSCA3、DRPLAとされています。
 
 非遺伝性の脊髄小脳変性症を更に分類すると、多系統萎縮症(MSA)と弧発型皮質小脳変性症(CCA)になります。この多系統萎縮症には、古典的なオリーブ橋小脳変性症(OPCA)・線条体黒質変性症(SND)・Shy-Drager症候群(SDS)などが含まれれる訳です。グリア細胞内にglial cytoplasmic inclusion(GCI)と呼ばれる嗜銀性封入体が共通して認められ疾患概念の統一が図られています。

 現在では、MSAの分類は、小脳型(MSA-C)とパーキンソン型(MSA-P)に分けられるようになり、評価時点での主症状によって分類されます。診断基準としては小脳症状およびパーキンソン症状・自律神経症状がキーですが、全て同時に現れているわけではありません。補助診断として、頭部MRIが有用で、有名な”hot cross bun sign””putaminal slit”があります。これらは萎縮部位によって認められ、橋萎縮だと橋横走繊維群の変性でT2高信号であるcross signが、基底核萎縮だと被殻外側の直線上の高信号であるpuraminal slitが見られます。他には小脳や小脳脚の萎縮が有名です。
 

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(hot cross bun sign:T2で良く分かる)

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(hot cross bunというヨーロッパのパン)

詳細は以下のスライドにまとまっていました。
脊髄小脳変性症医療講演会@新潟 2014



✓ 多系統萎縮症は脊髄小脳変性症の亜型で分類はMSA-CとMSA-P。MRIでは典型的なhot cross bun sign、putaminal slit signが見られる

 

カルシフィラキシス  Calciphylaxis

 恥ずかしながらほとんど概念を知らなかった疾患。透析患者に起こるのだそうで、腎臓内科の先生にとってはfamilialな疾患概念かもしれません。
 
 ざっくり言うと、四肢・躯幹・陰茎・手指・足趾などに有痛性の紫斑に続いて、難治性の皮膚潰瘍が起こる疾患。疼痛が非常に強いのが特徴的とされています。日本でも平成21年度に全国調査が行われ、透析患者全体の11万人あたり3-4人/年程度のかなりのレア疾患でした。海外では透析患者の1-4%程度いるのでは?とも言われています。

 危険因子は、高カルシウム血症、高リン血症、肥満、女性などがリスクで、動脈硬化性病変が四肢末梢にあり、創傷などがきっかけで紫斑形成・皮膚潰瘍まで伸展するとのこと。予後も極めて不良だそうです。また、肺などの内臓に症状が出て内臓カルシフィラキシスと呼ばれる病態もあるのだとか。

 

 本邦では2012年に厚生労働省の研究班による大規模な全国調査が行われました。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdt/45/7/45_551/_pdf


 上記の全国調査で用いられた”診断基準案”

以下の臨床症状 2項目と皮膚病理所見を満たす場合,または臨床症状 3項目を満たす場合カルシフィラキシスと診断される。
【臨床症状】
①慢性腎臓病で透析中、または糸球体濾過率 15ml/min以下の症例
②周囲に有痛性紫斑を伴う2カ所以上の皮膚の有痛性難治性潰瘍
②体幹部・上腕・前腕・大腿・下腿・陰茎に発症する周囲に有痛性紫斑を伴う皮膚の有痛性難治性潰瘍
【皮膚病理所見】
 皮膚生検は可能な場合に実施する。臨床症状の2項目を満たす場合、他の疾患との鑑別困難な場合は、特に皮膚生検を行う事を推奨する。特徴的な皮膚生検所見は下記の通りである。
”皮膚の壊死、潰瘍形成とともに、皮下脂肪組識ないし真皮の小〜中動脈における、中膜・内弾性板側を中心とした石灰化および、浮腫性内膜肥厚による内腔の同心円状狭窄所見を認める。”

✓ 透析患者が四肢・体幹の疼痛・潰瘍を訴えたらカルシフィラキシスを考える。