栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM CKD患者のメトホルミン/急性気管支炎への抗菌薬/高カルシウム血症と副甲状腺機能亢進症/食道癌レビュー/Wellens' syndrome

■JAMA■

CKD患者のメトホルミン 
Metformin in patients with type 2 diabetes and kidney disease*1

 さてさてようやく期待していたreviewが出てきました。腎機能が悪い患者のメトホルミンが意外と安全という単発の報告は結構目にしていたのですが、今回イエール大学内分泌科のDrとテキサス大学循環器科のDrによるSystematic reviewが掲載されています。テーマはずばりCKD患者に対するメトホルミンです。ちなみにCOIはばっちりあります。MEDLINE・Cochrane・DAREを用いて、最終的に65文献がreviewされています。

 メトホルミンは実は日本の方が歴史が古くて、米国では認可されてからまだ20年です。基本腎代謝の薬剤で乳酸産生リスクがあがるかもという懸念があります。で、1994年にFDA認可時には腎機能についてかなり厳しいルールができました。それが現行の
①Cr≧1.5(男)、Cr≧1.4(女性)には禁忌
②80歳以上の患者で開始することを禁止
②80歳以上の患者では、腎機能正常を確認せずにメトホルミンを開始すべきではない
(※上記について、1/10の記事のコメントに”大阪の勤務医”さんがご指摘くださいました。ご指摘の通りで上記修正させて頂きます。ありがとうございます!)
という文言です。ところが、この根拠になった研究は臨床研究ではなく薬物動態研究だったのだそうです。かなりsafety marginを大きく設定しており、実際に臨床的かは不明です。そもそも乳酸アシドーシスの頻度自体が、メトホルミン使用者で23000-30000人に1人で、非使用者で18000-23000人に1人っていうから、むしろ非使用者の方が多くね?って感じですからねえ。

 メトホルミンを復習しておくと、ビグアナイド系薬剤は好気代謝を抑制し肝糖新生を抑制します。半減期は約6.5時間で、CCrが30-60まで下がると排泄率は74-78%程度まで低下するとされています。ただし、長期内服者の検討では、eGFRの値が低下してもメトホルミントラフ値は、概ね治療域の4-20μmol/Lに含まれていたという結果があるんだとか。乳酸値を測定した研究もありますが、使用者の平均が乳酸1.32mmol/L、非使用者の平均が乳酸1.14mmol/Lとわずかに高い程度で臨床的に問題になる値ではありませんでした。また、80歳以上や腎機能と尿酸値に相関が無いという報告もあります。
 
 ちなみに話題の乳酸アシドーシスの定義ですが、
①乳酸>5mmol/L かつ ②pH<7.35
です。乳酸アシドーシスの原因の多くは、感染・AKI・肝炎で、実はメトホルミンはいわゆる”bystander”なのではないか?という仮説が出現しています。というのも乳酸アシドーシス症例を見ても、メトホルミン血中濃度は上昇していない、血中濃度が予後を予測しないなどの報告があるからです。また、メトホルミン使用者とSU剤使用者の乳酸アシドーシスの頻度を比較すると、メトホルミン群で3-10人/10万人年でSU使用者は14.8人/10万人年とSU剤使用者の方が多いのだとか。

 最近の大規模研究を見ると、2010年にコクランのSystematic reviewがあり、347研究70490人のデータで乳酸アシドーシスは発症0。前向き334研究の43%はCKDを除外ししていないstudyです。また、2010年のArchive of Internal medicineの観察研究では、19691人のtype2 DM患者ではメトホルミン使用が死亡減少と関連(HR 0.76:0.65-0.89)し、CCr 30-60のサブグループ解析でも死亡減少効果は持続(HR 0.64:0.48-0.86)している可能性が示唆されました。また、2012年のBMJ openには、Swedenの観察研究があり、4年弱follow upのtype 2 DMでは、メトホルミン使用者はインスリン使用者・SU剤使用者と比較して有意に死亡率も心疾患イベントも少ないことが証明されました。ただし、最近2014年のDiabetic careに掲載された観察研究で、メトホルミン使用者で乳酸アシドーシスが増えるかも?と言う結果は出ています。統計学的には有意ではありませんが・・・まあただそもそも腎障害がある患者で、危険な薬剤はメトホルミンのみではなく、SU剤やインスリン低血糖リスクをましますし、尿糖排泄剤は効果が減弱するという問題点もあります。

 現在、各国ガイドラインでは、
英国:Cr≦1.7かつeGFR≧30ならOK
EMA:eGFR≧60じゃないとダメ
カナダ:eGFR≧30ならOK
アメリカ:もともとのFDA基準
日本:アメリカに準ずる
としています。筆者らは最終的に下記の様なアイデアを出しています。まあ、現時点で観察研究のみなのでRCTでの検証が必要だと言うことになりそうですね。

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(本文より引用)

✓ メトホルミンはCKD合併糖尿病患者でもある程度は安全に使用できる可能性がある
 

急性気管支炎への抗菌薬 
Antibiotics for acute bronchitis*2

 急性気管支炎に対して抗菌薬を使用しない原則は、まあ局所的な原則なのかもしれません。実際巷では何だか分からない抗菌薬使用は山程見ますし、病歴を聞いていて残念になる事もたくさんあります。

 今回は、synopsisで現行のbottom lineをまとめてくれています。ちなみに今回急性気管支炎は、発熱、咳嗽・喀痰、喘鳴を呈し、肺炎では無い症候群とされています。で、世界的にも本来は抗菌薬不要だが処方されていることが多いと記載されていました。コクランのまとめでは、17RCT 5099人のデータでまとめていますが、抗菌薬使用によって臨床的改善までの期間は変わらなかったとされています。ただ、咳嗽の持続期間で見ると、-0.46日(-0.87 to -0.04日)でNNT 6-7程度とされています。あら?半日短くすんのかな?と。ただし、注意事項は抗菌薬使用に伴い、嘔気・嘔吐・下痢・頭痛・皮疹などの副作用はNNH 5と増加します。まあ、原則としてNICEもCDCも薦めていない訳ですが。

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(本文より引用)

 今回のRCTの患者さん達は咳が8-9日程度持続くしており、半日短くする程度では効果はさほど大きくないし、副作用を考えるとやはり使用は避けるべきでしょうと筆者らはまとめています。

✓ 急性気管支炎に対する抗菌薬は咳嗽は0.5日短くするかもしれないが、副作用が5人に1人くらいで出現する


高カルシウム血症副甲状腺機能亢進症 
Parathyroid hormone in the evaluation of hypercalcemia*3

 JAMAのdiagnostic testシリーズです。毎回勉強になるシリーズ物。今回は高カルシウム血症がテーマです。

 症例からですが、54歳女性で無症候性高カルシウム血症が判明。病歴を確認すると、15年前に甲状腺乳頭癌で甲状腺全摘。術後レボサイロキシン内服。それ以外にはコントロール良好の高血圧・脂質異常あり。内服はロサルタン・アトルバスタチン・エゼミチブ。脆弱骨折や尿管結石、高カルシウム血症の家族歴は無く、診察でも甲状腺腫瘍を触知せず。採血結果は以下です。

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(本文より引用)
 さて問題。この患者の検査結果をどう解釈しますか?
A. 家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症
B. 甲状腺機能抑制療法に伴う高カルシウム血症
C. 悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症
D. 原発副甲状腺機能亢進症
 
 答えは、Dの原発副甲状腺機能亢進症です。副甲状腺ホルモン(PTH)は84個のアミノ酸から構成されるホルモンで、測定方法は第二世代と第三世代があるのだそうです。第三世代になり非活性部位は測定しなくなっています。正常値は10-65pg/mlで、検査費用は1900円です。原発副甲状腺機能亢進症ではPTH上昇が見られますが、10-20%の症例では正常値であることもあるのだそうです。ポイントは、高カルシウム血症の存在下では、PTH>25pg/mlで異常であるということ。非副甲状腺高カルシウム血症では、negative feedbackがかかってPTHは抑制されるので、低めでも陽性と解釈する必要があります。あー、これ盲点。あとはビオチン製剤はPTH測定を阻害して測定値が低く出ることがあるので注意ね。

 鑑別疾患として、薬剤ではサイアザイド系薬剤とリチウム製剤。疾患では家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症。後者はかなり稀な疾患で、24時間蓄尿中尿Ca量とCaCrを計算するが、基本的には家族歴や30歳までの発症が一般的。

 原発副甲状腺機能亢進症の手術適応は、症候性の場合(尿管結石・骨折・高カルシウム血症が高度)無症候性でも以下の基準を満たす場合とされています。
高カルシウム血症が上限値より1mg/dl超え
CCr<60ml/minか高度高カルシウム尿症
③T-score<-2.5(腰椎・股関節・橈骨)
④50歳未満
 これでいくと原則手術療法になりますね。というわけで勉強になりました。何例か経験はしていますが、原発性の方は比較的頻度は少ないですもんね。気をつけましょう。

✓ 副甲状腺機能亢進に伴う高カルシウム血症の診断をおさらい。PTH>25pg/mlで異常



■NEJM■

食道癌レビュー 
Esophageal carcinoma*4

 食道癌は日常診療では比較的出会う機会がある疾患ですよね。今回はペンシルバニア大学の消化器内科医であるAnil先生のreviewでCOIはありません。

 世界的には食道癌の90%はSCCですが、結構地域差があって北米・欧州は腺癌が多いことが分かっています。組織系によってリスク・前癌病変が異なり、腺癌の前癌病変はバレット食道、リスク因子はGERDや肥満SCCの前癌病変はsquamous dysplasia、リスク因子は飲酒・喫煙です。疫学的には若年者には少なく70-80歳がpeakで、腺癌は男性>女性で約4倍ですがSCCは性差はありません。

 危険因子については、mainは3つと言われ、①GERD、②喫煙、③肥満です。GERDについては症状の頻度で腺癌リスクが異なる事が知られており、GERD症状が週1回未満の人と比較して、週1回症状がある人は5倍、毎日症状がある人は7倍のリスクとされています。また、Current smokerはNever smokerと比較して腺癌リスクは2倍です。また、SCCの方が喫煙の寄与度は高いです。飲酒についてはSCCのリスクにはなりますが、腺癌のリスクにはなりません。肥満は腺癌リスクを2.4-4.8倍にすると。逆にピロリ菌感染があると腺癌リスクは41%も減るという観察研究のメタ解析があるんだそうです。あとはアカラシアはSCCリスク10倍。食事では肉・脂肪は腺癌・SCCどちらも増やすのだそうです。遺伝子もいくつか見つかっており、MSR1、ASCC1、CTHRC1などがあるのだとか。

 内視鏡スクリーニングについては、腺癌とSCCで分けて考えます。
 腺癌への伸展リスクは病理結果によって異なり、例えば、
nondysplasia 0.12-0.4%/年
low grade dysplasia 1%/年
high grade sysplasia 5%/年
と増えます。ただ、難しいのは腺癌の80-90%にバレット食道がないという点です。上記を受けて、ガイドラインではnondysplasiaは3年毎、low or high dysplasiaにはアブレーション治療を推奨しています。ガイドラインでは推奨されていないようですが、筆者らは、nondysplasiaでも、long Barrettやsevere GERD、食道癌家族歴がある場合にはアブレーションをするかなあとコメントしています。

 扁平上皮癌についても前癌病変の病理結果によって異なります。
mild dysplasia 3倍
moderate dysplasia 10倍
severe dysplasia 30倍
で、最近では中国発のスクリーニングが効果的だった報告がありますが、実はEvidence basedなガイドラインが無いのが現状なんだそうです。
 
 予防では、PPIアスピリン・NSAIDsが検討されています。現時点ではどの薬剤も観察研究止まりであり、現在PPIアスピリンの大規模RCTが進行中なんだそうです。すごいなあ、知らなかった。ちなみにスタインはメタ解析では腺癌を28%減らすという報告があるそうですが、研究の異質性の問題があり十分な根拠とは言えません。

 治療には、正確な「深達度」と「リンパ節転移」の評価が重要であり、その為に食道超音波検査とPETが精度を上げています。Mucosal tumorでStage 0-1aであればEMR、Stage 1bであれば食道摘出。Locally advanced tumor(Stage 2)であれば、術前化学療法・放射線療法後に食道摘出術。ちなみに米国は化学放射線療法で、欧州は化学療法のみです。Advanced tumor(Stage 3-4)は金属ステント±brachyterapy。

 予後は良くなく、米国の腺癌では5年生存率17%でSCCよりは良いかなと。早期発見が増えているとはいえ、未だに発見時遠隔転移している症例が40%もいるんだそうです。

✓ 食道癌の腺癌・扁平上皮癌それぞれのリスク・前癌病変のfollow up・治療選択肢を整理しておく


Wellens' syndrome

 これって救急領域の先生方が大好きですよね〜。で、意外と循環器科の先生達は重視してなかったりするという。まあ、でも知っておいて損は無いですね。まあまずは心電図をどうぞ。これなあに?と。

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 症例は31歳男性で喫煙歴と糖尿病既往があり、4日前からの間欠的な労作時胸痛を主訴に救急外来を受診。心電図が施行され、前胸部誘導のT波陰転化と二相性T波を呈しており、心電図所見からWellens' syndromeを疑った。Wellens' syndromeはLAD近位部の重度狭窄を示唆する症候群。初期のTnTは0.07ng/mlで微弱陽性だったが、6時間後には0.58ng/mlに上昇しpeakはPCI直前で0.79ng/mlだった。CAGが施行され、LAD中間部位の95%狭窄が判明し、DES留置が成功し狭窄は解除された。糖尿病はコントロール不良でHbA1c 11.9%だった。PCI後特に合併症なく、心機能低下も認めずに禁煙外来と糖尿病治療とリハビリを行った後に軽快退院された。

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(本文より引用)

✓ ACSを疑う症状で来院した患者の心電図で、前胸部誘導の陰性T波+二相性T波を認めた場合には、LAD近位部狭窄を呈するWellens' syndromeを想起する