栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:クローン病/硬膜外血腫/旅行者下痢症の予防

MKSAPまとめです。
遅々として進みませんが、のんびりのんびり解いています。

Crohn病 Crohn disease

❶症例
  19歳女性が、3ヶ月前から増悪する下痢・腹痛・体重減少を主訴に受診。彼女の弟は16歳の時にCrohn病と診断されている。
 身体所見では、体温 37.4℃、BP 110/65mmHg、Pulse 90bpm、RR 20/min。腹部身体所見では、右下腹部に圧痛あり、筋性防御・反跳痛なし。肛門・直腸診察は正常。
 大腸内視鏡検査では、回腸末端部病変を含む中等度から重度の活動性のCrhon病の所見があり、病理学的にCrohn病と診断された。MREnterographyでは活動性炎症が遠位回腸20cm部位に炎症所見を認めたが、他の部位には所見を認めなかった。膿瘍や蜂窩織炎の所見は無かった。
 この患者で最も適切な維持治療はどれか?

 ❷Crohn病治療としてのTNF-α阻害薬
 中等症以上の活動性Crohn病の治療薬として、TNF-α阻害薬投与が有用であったことを証明したのは、SONIC studyだった。TNF-α阻害薬投与はアザチオプリン単剤と比較して寛解率と粘膜寛解率が高かった。 
 代替療法としては、ステロイドと免疫調整剤を同時に開始し、3ヶ月以内にステロイドを漸減する方法である。ステロイド中止後に症状が緩解しなければ、その時点でTNF-α阻害薬を追加する。

❸他の治療薬
 抗菌薬:膿瘍や創部感染を合併している様な患者では抗菌薬は有用だが、Crohn病や潰瘍性大腸炎での初期治療としての効果は証明されていない。
 5-Aminosalicylic acid(5-ASA)製剤:Crohn病は貫壁性疾患であり、5-ASA製剤(ペンタサⓇ)は、潰瘍性大腸炎に対する様な効果は証明されていない。軽症症例に用いられることはあるが、中等症以上の患者では無効である。
 ステロイド初期症状の改善には効果があるが、ほとんどの患者はその後の維持療法を必要とする。維持療法としては、免疫調整薬を用いてステロイド依存が出ないように工夫する必要がある。TNF-α阻害薬+免疫調整薬は、初期治療としてのステロイドよりも寛解率・粘膜寛解率が高いことが報告されている。
 外科的治療:外科的治療は穿孔・膿瘍・閉塞症例や内科的治療に抵抗性患者で検討するべきだが、初期治療としては適切ではない。

Key Point
✓ 中等症から重症の活動性Crohn病の最も効果的な治療法は、TNF-α阻害薬±免疫調整薬(アザチオプリン・6-メルカプトプリン)である

Colombel JF, Sandborn WJ, Reinisch W, et al; SONIC Study Group. Infliximab, azathioprine, or combination therapy for Crohn's disease. N Engl J Med. 2010;362(15):1383-1395. PMID: 20393175

 

硬膜外血腫 Epidural hematoma

❶症例
  59歳女性が4日前からの背部痛、下肢筋力低下、尿閉を主訴に救急外来受診。彼女は1週間前に腰部神経根症の治療の為に腰椎椎間板切除術を受けて退院したばかりだった。彼女には、非弁膜症性心房細動があり、左室収縮能は保たれ高血圧を合併していた。内服薬は、ワーファリン・メトプロロール・アセトアミノフェン頓用だった。
 身体所見では、体温 36.6℃、BP 145/65mmHg、Pulse 68bpmで、筋力検査では、右下肢がMMT 3/5、左下肢4/5だった。腱反射は、上腕が両側2+、膝蓋腱反射が-/+、アキレス腱反射 -/-だった。肛門括約筋の収縮は保たれていた。
 検査結果では、ESR 3mm/hr、WBC 5800/μL、INR  3.0。MRIでは、腰仙骨部のL2-5領域に硬膜外圧排性のT2 high、T1 highでわずかに造影効果のある構造物を認める。
 最も適切な対応はどれか?

 ❷硬膜外血腫とは?
  最も適切な対応は抗凝固中止し拮抗することである。硬膜外血腫による二次性馬尾症候群が最も疑われ、直近の手術はリスクになる。抗凝固を止めて拮抗しておくことは、その後に行われる手術療法による減圧のために必要である。

 ❸他の鑑別疾患は?
 脊髄損傷:高容量のメチルプレドニゾロン投与は、本患者では炎症性疾患の存在を疑う病歴・検査結果・画像検査結果がなく不適切である。更に、急性脊髄圧迫病変に対するステロイド使用も効果は検証されていない
 硬膜外膿瘍:鑑別に上げる必要はあるが、本患者では、発熱無く、ESR正常などからは否定的。疑われる場合には経静脈的VCM+CAZ。

Key Point
✓ 硬膜外血腫による圧迫で二次性の馬尾症候群を来した抗凝固療法中の患者では、ワーファリン治療を中止し、拮抗することが、外科的減圧術のために役立つ

Glotzbecker MP, Bono CM, Wood KB, Harris MB. Postoperative spinal epidural hematoma: a systematic review. Spine. 2010;35(10):E413-E420. PMID: 20431474


 

 

旅行者下痢症の予防 Prevention for travelar's diarrhea

❶症例
  70歳女性が受診。彼女は休暇でメキシコに行く予定で、現地のホテルに宿泊し村々を訪問する予定だった。旅行の準備に辺り、A型肝炎のワクチン接種を行い、蚊や昆虫から身を守る方法の指導を受けた。彼女は年齢で受けるべきワクチンは全て接種済みである。既往歴には、間欠的に増悪する炎症性腸疾患があり、5-ASA製剤を内服している。それ以外は健康で内服薬も飲んでいない。
 身体所見では特記事項無く、消化管の状態を心配し旅行中に下痢になるのではないか?と危惧している。
 旅行者下痢を避ける為にはどんな対応が良いか?

 ❷旅行者下痢症とは
 旅行者下痢症は、発展途上国を訪問する場合には最も一般的な病気であり、発生率は20-60%と報告されている。旅行者下痢症発症リスクは渡航地域によって大きく異なる。最もリスクが高いのは、メキシコ・中央南アメリカ・アジア・南アフリカ以外のアフリカである。
 旅行者下痢症の定義は、
①3回/日以上の下痢便、
②腹痛・クランプ・嘔気・嘔吐・血便・発熱の症状を伴うもの
とされている。通常は1-4日程度で下痢症状は改善するが、もう少し長引くこともある。ETEC(毒素原性大腸菌)が最も頻度が高いが、それ以外には、サルモネラ赤痢アメーバ、Campylobacter、Aeromonas、Vibrioなどが報告されている。寄生虫感染は全体の10%以下で、渡航者下痢症ではウイルス性は少ない。ただし、クルーズなどではノロウイルス感染が多いので注意する。また、微生物確定が出来ない症例が全体の30%程度存在する。

 ❸予防選択肢
 予防法としていくつかの方法があり、予防的抗菌薬投与は効果は証明されたが、潜在的な副作用も存在する為、通常の旅行者には推奨されない。
 フルオロキノロン歴史的にフルオロキノロンは旅行者下痢症に使われてきたが、現在徐々に耐性化が進んできている。
 リファキシミン:非吸収性の抗菌薬で、Rifaximin 200mg 1T to 2T/日 14日間投与が安全且つ効果的である。特に大腸菌への効果は十分証明されている。
 現地の水分を取らない:水道水を回避し、潜在的に旅行者下痢症を引き起こす可能性のある微生物を避けることが、リスク減少に繋がると論理的には考えるが、実際にどの程度効果があるかは十分証明されていない。3分間煮沸後室温まで冷却するなどの浄水方法が推奨されている。
 ビスマス製剤:ビスマスサリチル酸の高容量投与は旅行者下痢症を減らすが、用量が多く飲みにくいのとサリチル酸中毒のリスクがある。
 整腸剤 Probiotics:整腸剤の効果は不明であり、studyの質も様々である。
 ロペラミド:ロペラミドやジフェノキシレートなどの腸管運動抑制薬の使用が有効である事は十分示されてはいない。

Key Point
✓ 旅行者下痢症は一般的には自然寛解する疾患で予防薬は不要だが、炎症性腸疾患や免疫抑制状態、心疾患の様な慢性疾患の増悪が危惧される場合には抗菌薬の適応である。

DuPont HL, Ericsson CD, Farthing MJ, et al. Expert review of the evidence for prevention of travelers' diarrhea. J Travel Med. 2009;16(3):149-160. PMID: 19538575

 

MKSAP 16: Medical Knowledge Self-Assessment Program

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MKSAP for Students 5

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