栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ミネルバ/2型糖尿病と癌の関係/研究の透明性改善のパイオニア/Willy Burgdorfer/侵襲性リステリア感染症

BMJ

ミネルバ 面白論文紹介コーナー 
Minerva*1

 1型糖尿病に関する研究がいくつか出ています。1型糖尿病は通常20歳までに発症し、インスリンを完全に産生することができない自己免疫疾患であるとされていますが、本当でしょうか?これに対して2つの論文が報告されています。一つ目(Archives of Disease in Childhood 2014, doi:10.1136/ archdischild-2014-306542)はイギリスの糖尿病専門クリニックであるQueens Hospital in RomfordとRoyal London Hospitalからのstudy。19歳以上の1型糖尿病患者316人のICA(膵島抗体)とグルタミン酸ヒドロゲナーゼ抗体(GAD抗体)を測定し、両方が陰性の場合にはインスリン自己抗体を測定したところ、1/4で全ての自己抗体が陰性だったとの結果でした。また、2つ目(Diabetes Care 2014, doi:10.2337/dc14-0871)として、別の英国1型糖尿病患者 924人の調査では、19年経過した時点で80%の患者が、尿中Cペプチドが検出されていたという結果が判明しています。
 1型糖尿病については、通説とだいぶ異なる治験が多く出てきており、通常考えられている様なsimpleな1型・2型の鑑別は非常に難しいというのが現状ではないかと思います。

✓ ”1型糖尿病とは、20歳までに発症するインスリン産生が出来ない自己抗体陽性の自己免疫疾患である”という概念が覆されるかもしれない


2型糖尿病と癌の関係 
Type 2 diabetes and cancer: umbrella review of meta-anlyses of observational studies*2

 2型糖尿病と癌や癌死亡関連の研究は過去に多数報告されています。今回は”メタ解析をメタ解析する”という形で複数悪性腫瘍2型糖尿病の関連を評価しています。この”メタ解析のメタ解析”って何か名前がついているんでしょうか?方法は2013年12月までに、EMBASE・Pubmed・コクランで検索し、Referenceまで孫引きしたものの中でメタ解析のみをpick upし評価しています。複数メタ解析がある場合にはサンプルサイズが大きいものを採用。今回の主目的とは異なりますが、残念ながら多くのメタ解析がincludeした個々のstudyの質を評価していないという問題点がありました。

 20の癌と7の癌死亡について27メタ解析の結果を統合しています。13以上の癌で2つ以上のメタ解析が存在し、全体の28%が年齢・性別程度しか補正していないstudyだったというので、それぞれのstudyの質そのものはあまり高くないことになります。解析対象だったのは、膀胱癌・乳癌・肝内/肝外胆管癌・大腸癌・子宮内膜癌・食道癌・胆嚢癌・胃癌・肝細胞癌・腎臓癌・肺癌・白血病・多発性骨髄腫・非ホジキンリンパ腫・卵巣癌・膵臓癌・前立腺癌・甲状腺癌・全ての癌というかたちで評価しています。基本的にはほぼ全てのメタ解析で有意差を持って2型糖尿病患者では悪性腫瘍が増えるという結果でした。ただ、問題点として、かなり異質性が高く、異質性がないと判断されたメタ解析は全体の11%のみ。prediction intervalという手法での評価で、明らかに相関があるとされる癌は、乳癌・大腸癌・胆管癌・子宮内膜癌の4つでした。
 今後、Qualityの高いコホート研究での評価が必要になりますね。

✓ 2型糖尿病患者ではおそらく悪性腫瘍が増えるが、どの程度増えるかは今後Qualityの高いコホート研究が必要


研究の透明性改善のパイオニア 
The Pioneers of transparency*3

 これもBMJが大好きそうなネタではありますが、研究自体の透明性を高めていきましょうという活動を様々な視点からしていますが、今回そのパイオニア達を顔写真付きで紹介するというコーナーがありました。この記事が出る背景には、2015年1月からEMA:European Medicine Agency(ヨーロッパのFDA的な組織)が、薬品認可理由の研究データを公開する方向に動いたんだそうです。で、それを受けてのこの特集。
http://www.cochrane.dk/about/profiles/pcg-profile.htm
 Peter Gotzsche:1993年のコクラン共同計画創始者の一人で、当初からEMAへのデータ開示を絶え間なく要求し続けた人です。

http://www.cochrane.dk/images/pcg-big.jpg

http://www.cochrane.dk/about/profiles/pcg-profile.htmより引用)

 Tom Jefferson
:コクランreviewerの一人でタミフルリレンザ問題で活躍した方です。先日のロシェの未発表データの公開にこぎつけました。この一件で政治家もデータ開示の重要性を理解するきっかけになったと評価されています。

https://www.cochrane.org/sites/default/files/uploads/podcasts/author_pictures/Tom_Jefferson.jpg?1279797492

https://www.cochrane.org/sites/default/files/uploads/podcasts/author_pictures/Tom_Jefferson.jpg?1279797492より引用)

 Guido Rasi:この方は現在のEMA directorで、2012年からデータ公開の方向へ舵切りをしていたそうで、今回の研究データ公開に大きく貢献しています。

http://www.pharmafile.com/system/files/imagecache/news_full/ema_guido_rasi.jpg

http://www.pharmafile.com/system/files/imagecache/news_full/ema_guido_rasi.jpgより引用)

 Peter Doshi:マリーランド大学の薬理学助教授。見るからに若いです。Unpublished dataの開拓のための活動として、BMJと共同してRIATという活動を展開しています。

http://blogs.bmj.com/bmj/files/2014/06/peter_doshi.jpg
http://blogs.bmj.com/bmj/files/2014/06/peter_doshi.jpgより引用)

 Douglas Altman:イギリスの医療統計センターの創始者。研究報告ルールであるCONSORTやEQUATORなどを作成した重鎮。

http://fhs.mcmaster.ca/sackettsymposium/images/altman_doug.jpg

http://fhs.mcmaster.ca/sackettsymposium/images/altman_doug.jpgより引用)

 Kay Dickersin
ファイザーのガバペンチンの紛失データを掘り探して、データ偽造として2014年5月にファイザーは罰金を課されたんだそうです。こういうのってかなりのニュースですが、全く知らされていないですね。

http://www.jhsph.edu/sebin/upload/faculty/kaydickersin1.jpg

http://www.jhsph.edu/sebin/upload/faculty/kaydickersin1.jpgより引用)

✓ 世界はデータ公開の方向に舵切りが進んでいる。今後は研究の透明性や報告のルール作りが重要


■Lancet■

訃報 Willy Burgdorfer*4

 この難しい名前の方は、1982年にLyme病の原因菌を同定して一躍有名になった医療昆虫学者(Medical Entomologist)です。スイスのバーゼル出身で昨年11/17にパーキンソン病の合併症で89歳でお亡くなりになりました。

http://www.niaid.nih.gov/SiteCollectionImages/topics/lymedisease/burgdorferInoculatingTicks.jpg

http://www.niaid.nih.gov/SiteCollectionImages/topics/lymedisease/burgdorferInoculatingTicks.jpgより引用)
 彼が発見したマダニに媒介するリケッチアを名前に因んで、Borrelia burgdorferと呼んでいます。彼は自称「tick surgeon」で、「あなたについているダニを一時間程貸してもらえれば、それによって引き起こされる症状についてお答えしますよ」と答えるくらいのダニマスターだったようです。某感染症の先生方の中にも「ダニーズ」と呼ばれるようなダニフリークはいるようですし、某私が高校時代の本邦ロックバンドも「ダニー・ゴー」というfunkyな曲を歌っておりました。


thee michelle gun elephant / ダニー・ゴー ( lyrics ...



 ちなみにLyme病の由来は、最初に確認されたのがアメリカのコネチカット州ライムだったからなのだそうです。また、日本では、このBorrelia burgdorferはみられず、Borrelia japonicaが多いのだそうです。
 
✓ Borrelia burgdorferの発見者はWilly Burgdorferさんで、自称ダニマスター


侵襲性リステリア感染症 
Invasive Listeria monocytogenes infection after liver transplantation: a life-threatening condition*5

 フランスからの症例報告。実は未だにリステリア感染症の診断・治療に携わったことがありません。そろそろ出会うのではないかと思っているのですが・・・

 症例は52歳男性でHCVによる肝不全で肝移植後の患者さん。術前からCTX、PSL、タクロリムスが投与されていました。手術は問題なく終了したが、翌日に胆管動脈からの腹腔内出血により再開腹を余儀なくされました。当初肝機能が悪化し、急性の拒絶反応が疑われタクロリムスが増量。その後も、持続的な腹痛と肝機能増悪を認め、劇症肝炎とショック状態となりました。ステロイドパルスが行われ、緊急開腹したところ血管内の血栓や胆道のリークはないものの肝臓がびまん性の壊死に陥っていました。empiricalにTAZ/PIPC投与が開始され、翌日に再度移植を行っている最中に術中死されました。血液培養と肝臓のグラフト、小腸・大腸の組織培養から、Listeria monocytogenesが検出されています。

 環境からの汚染を考え、食事の培養も提出されましたが陰性で、その他ドナーの血液や腹水の培養も陰性でした。ヨーロッパでは2008年から2012年にかけてリステリア感染症が増えていると報告しています。イギリスの全国規模での調査では、肝疾患はリステリア感染症の主要なリスクの一つであり、フランスでも肝硬変では10万人あたり5.9人、移植患者では10万人あたり7.9人、妊婦さんでは10万人あたり5.6人と妊婦よりも高い頻度で認められるようです。

 過去に肝移植初期の時点で侵襲性リステリア症を呈した5例の患者さんの報告では、概ね移植第一週目に発症していました。今回の症例では環境やドナーからの汚染を積極的に疑う所見にとぼしく、無症候性キャリアか手術時に感染した可能性が考えられました。移植患者ではリステリア感染は致死的な経過を辿る可能性があり、肝移植候補者では食品汚染に十分な注意を払う必要がありますね。

✓ 移植患者ではリステリア感染は致死的な経過を辿る可能性があり、肝移植候補者では食品汚染に十分な注意を払う必要がある

レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版

レジデントのための感染症診療マニュアル 第2版