栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 有痛性皮疹/旅行者下痢症/聴力検査異常/愛する人の喪失による悲しみ/心疾患の薬剤を内服する患者の気持ち

■JAMA■

38歳有痛性皮疹 
A 38-year-old man with extensor surface papules*1

 さて、これはClinical challengeのコーナー。画像一発これなんだ?という世界。皮膚科ってまさにこのパターン認識の繰り返しですよね。

 患者さんは、1ヶ月前から両手・肘・上腕・肩・大腿伸側に皮疹が出現。痒みはないが焼けるような痛みを伴う。随伴症状は何も無く、既往歴では膵炎・胆石・痙攣・双極性障害あり。内服薬はPolypharmacyで、フェノバルビタール・レベチラセタム・クエチアピン・ロラゼパムフルオキセチン・トラマドール・アスピリン・セレコキシブ・ガバペンチン。ただし、この数ヶ月内服変更なし。

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(本文より引用)
 この場合何をしたら良いでしょうか?
①脂質を調べる
②胸部レントゲン
③経験的にステロイド治療
④皮疹内のウイルス有無確認

 さて、この突然発症の中心部が黄色の丘疹の正体は「eruptive xanthoma」でした!キサントーマかあ・・・典型例ではこの皮疹があると、TG≧1500であることが多いとのこと。特徴は伸側に好発して対称的である事。痒みや疼痛を伴う事も多く、中性脂肪を下げることで数周〜数ヶ月で皮疹は消失するんだそうです。鑑別疾患は組織球症・薬疹・ウイルス・サルコイドーシス・虫刺症になります。生検組織では脂肪沈着が特徴的とな。知らなかった。

✓ 高中性脂肪に伴う皮膚伸側の疼痛・掻痒を伴う黄色丘疹は、eruptive xanthomaである


旅行者下痢症 
Traveler's diarrhea*2

 JAMAのClinical reviewは旅行者下痢症についてでした。Zurich大学の旅行医学のRobert Steffen先生の記載でCOIはありまくりです。reviewについては、Pubmed/Google scholar/Cochraneで論文検索を行い、最終的に検索した37/2976文献と以前に検索した85文献を合わせてreviewが行われています。

 旅行者下痢症の定義ですが、
①24時間以内に3回以上の非固形便が出る
②腹痛・テネスムス・嘔気・発熱などの随伴症状が1つ以上あること
の2つを満たすものとされています。ただし、旅行中の下痢の頻度は20年前は65%もあったのに対して、最近では10-40%程度まで減少している様で、下痢出現時期は旅行初期1週間36%、次の1週間で10%程度と言われています。

 リスクとしてもちろん旅行先や旅行期間も大事ですが、旅行計画も重要です。例えば、友人訪問や冒険ツアーは下痢は多いと言われています。一方で五つ星ホテル宿泊者の下痢頻度は意外と高いとか、ビュッフェ形式の会合は危険とか、クルーズ旅行はリスクは高くないが一旦発症するとほぼ全員罹患するなどのネタが満載でした(笑)。また、小児・乳幼児は旅行者下痢にかかりやすく重症化しやすいと言われています。また、実は遺伝要因によってかかりやすい・かかりにくいがあるのだそうです。

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(文献より引用)

 症状は無治療だと平均4-5日程度持続。10行/日以上の非固形便が出るのは全体の3%程度とされます。旅行者下痢症は12-46%の旅行者の旅行計画に影響を与える(笑)と言われ、長期合併症として旅行者下痢症後IBSなる疾患にかかる患者も3-17%と多いと言われています。市中の感染性胃腸炎と異なり、旅行者下痢症の起因微生物の多くは細菌性です。最近ではAcrobacterが増えていたり、2つ以上の病原微生物による感染が起こることが多い事も分かってきています。地域によって起因微生物は異なりますが、最も多いのは毒素原性大腸菌(ETEC)です。

 重要なのは罹患しないこと=予防です。大原則は「煮て、焼いて、皮剥いて」です。ただ、こういった一般的な予防アドバイスは残念ながら旅行者下痢症の頻度を減らす介入であるかは証明されていません。まあ、だいたい助言を守らない旅行者が大多数なわけで・・・予防的薬剤については、抗菌薬および非抗菌薬が検討されています。効果がある薬剤として、ビスマス製剤は下痢症65%減らす、Refaximin(本邦未発売)は東南アジア下痢症を48%減らす、ニューキノロンは90%以上の下痢症を減らすことが報告されています。ただし、抗菌薬による副作用も多く報告されています。

 最期に治療ですが、治療の目的は主に3つで、①脱水予防、②症状緩和、③旅行完遂です。旅行完遂って・・・(笑)。治療としてもビスマスやロペラミドが有効ですが、血便・高熱がある場合には、ロペラミド単独は薦められず、抗菌薬を併用しましょう。整腸剤の治療効果は乏しいとされています。抗菌薬の効果は1日半程度の有症状期間短縮であり、基本ニューキノロンになりますが、東南アジアは耐性が拡がっており、AZMが良いかもしれません。Rifaximinも良いのですが、Campylobacterに自然耐性であり注意が必要です。抗菌薬とロペラミド併用は平均17時間で症状が正常化すると言われており、どうしても下痢を止めたい場合に使用することがあると記載されていました。これは結構驚き。 

✓ 旅行者下痢症の定義・疫学・リスク・症状・予防・治療についてのreview
 

聴力検査異常 
An abnormal audiogram*3

 今回のDiagnostic test interpretationは聴力検査についてです。症例は35歳女性で6ヶ月前から緩徐進行性の右耳聴力低下を主訴に受診。右耳閉感・右頭痛が随伴症状として認められています。麻痺・耳鳴・Vertigo・耳漏・耳痛は認めません。内服・耳感染症歴・手術歴なく、耳鏡所見は異常なしで、Weber試験で左に偏っていました。聴力検査所見は以下です。

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(文献より引用)
 さて、この中で正しいのはどれか?
メニエール病初期
②加齢性の感音性難聴
③感音性難聴と言語認識力低下があり、更なる精査が必要
④耳硬化症
 
 さて、聴力低下を評価する為に必要な検査は3つと言われており、①聴力検査、②speech audiometry、③tympanometryです。全部行うと30-60分程度かかり、米国では65-125$くらい必要だと言われています。

 まず、聴力検査では、空気・骨伝導を別々に評価し、左右差・聴力障害パターン・程度を評価します。例えば、両側対称性の高音が落ちている様なダウンスロープ感音性難聴は加齢性ですし、非対称性のアップスロープ型感音性難聴はメニエール病を疑います。

 tympanometryは鼓膜と中耳機能の評価で、製造の鼓膜コンプライアンスは-150〜50daPaと言われており、peakのないtympanometryは鼓膜穿孔か鼓膜不動を示唆します。

 そして、speech audiometryとは言語の識別能力を評価する検査と言われています。例えば、伝音性難聴は大声を出して蝸牛に直接声が届けば識別可能になりますが、蝸牛以降の問題だと大声を出しても理解できません。これによってretrocochlear(蝸牛以降)かcochlear(蝸牛)かが区別出来ると言われています。

 本症例では、片側の感音性難聴で高音と低音両方低下していること、tympanometryからは鼓膜は正常だが、speech audiometryの結果が悪いことなどから、retrocochlear lesionが疑われ、③が正解ということになります。最終的には聴神経腫瘍だった模様。対称性感音性難聴で鑑別すべきは、メニエール病・薬物・免疫疾患(Cogan病・血管炎等)・騒音・腫瘍・加齢であり、treatbaleなものとしては、免疫疾患・ライム病・梅毒・橋本病などが上げられます。蝸牛より後方の病変が疑われた場合には造影MRIをとりましょう。

✓ 聴力を評価する為には、通常の聴力検査以外に、tympanometry・speech audiometryでの評価が必要


■NEJM■

愛する人の喪失による悲しみ 
Complicated grief*4

 これは興味深いテーマ。こういったテーマを扱ってくれるのがNEJMとかJAMAの魅力です。東日本大震災の時にグリーフケアが大きな話題になりました。

 記事は症例から始まります。紹介されていたのは68歳女性。主訴は眠れないとのこと。夫が死去してから4年間睡眠障害が持続している。よくよく聞くと、夫と共にした寝室では眠ることが出来ず、居間で寝ている。食事を作ると夫を思い出すので食事も不定期になっている。夫と一緒に使ったモノや行った場所に辛くて行けなくなっているとのことでした。さてどうしましょう?

 BereavementやGriefとも言われる愛する人の喪失は、身体的・精神的・社会的に大きなダメージを与えます。愛する人がidentityを与えてくれる存在でもあり、喪失によって自身のidentity喪失に繋がることもあるのだそうです。急性の喪失体験は、離別反応とストレス反応の二つに分けられます。身体的には初期には心筋梗塞たこつぼ型心筋症のリスクになる事が知られています。griefの中で、悲しみが持続して生活に支障が出てきている状態をcomplicated griefと呼び、たとえば、不安障害やうつ病、薬物乱用、アルコール依存がある人はリスクになると言われ、全世界の2-3%の人が経験しています。伴侶や子供の死後が多く、突然死や自殺による喪失もリスクです。症状の特徴として、強く持続的な悲しみ、死を受け入れられない、死者と共有した物・場所・行為を避ける、死者の無い状態での未来を考えられないなどがあります。

 診断に関しては、通常の不眠やうつ病と間違われることがあり、重要な人物の喪失があったかどうかを尋ねることが重要です。スクリーニングには、Brief grief質問紙票が有用で、うつ病PTSDと鑑別する必要があります。

 治療については、心理療法はRCTで効果が証明されており第一選択です。心理療法の目的は悲しみを解消し、適応を促していくことで、死者との共有事項を避けさせない事が重要とされており、週1回のセッションを16回、7つの主要コンポーネントで行う事が検証されていました。薬物療法は現場では利用されていますが、効果の検証は不十分で、ベンゾ系よりは抗うつ薬の効果の方が検討されています。

✓ 概念としてのcomplicated griefを理解し、適切なスクリーニングと対処ができるようにする


心疾患の薬剤を内服する患者の気持ち 
Beyond belief - How people feel about taking medications for heart disease*5

 これは面白いテーマ!ある循環器医が個人的な体験から疑問をもったことについて検証しています。それはある友人とのやり取りから始まりました。

 友人「心筋梗塞になった父親が薬を飲んでくれないんだ」
著者「なんで?あなたの父親は教養も知識もある人なのに?」
友人「父親は薬を信じていないんだ」
著者「なぜ薬をしんじていないの?」
友人「知らないよ、そんなこと」
著者「聞いてみたら?考えを変えることができるかもよ」

 

 著者は、数年前から心筋梗塞患者の薬剤アドヒアランスの悪さに非常に興味を持っていた様です。確かに、自分の受け持ちの方でも、内服しなくなったりしていることもしばしば見かけます。今回の調査で著者は、彼らの行動を変えるではなく理解するに焦点をあてて考察しています。例えば、アメリカで患者さんの内服薬の内服遵守率は50%とも言われています。

 今回は20人の心筋梗塞患者さんにインタビューを行い、心筋梗塞発症時とその後数ヶ月以内に1−2回程度コンタクトを取っています。罹患患者にしたのは一次予防と異なり、基本的には内服薬剤は必須薬になるためです。そこで分かってきたことが内服薬に対するいくつかの態度でした。患者さんのコメントを以下の5つに分類しています。

①Risk and Aversion
「家族が抗癌剤の副作用に苦しんだ」
「私は古い人間だから薬は飲まない」
「私は薬なんて決して飲んだことない」
陰性感情:薬の効果よりリスクを高く見積もる
陽性感情:薬のリスクより効果を高く見積もる
どんな信念が陰性・陽性感情の根本かを探ることが重要

②Naturalism and Identity
「薬を飲むと自分がまるで病人のように思えてしまう」
「薬は本来自分の体にない成分である」
「薬を飲むのは自分は強くないと認めるようなもの」
 多くの人は自然な形を好んでおり、薬を飲むという行為が「sick identity」を患者に課している可能性あり。
 心筋梗塞などは発作後すぐに元気になるため、薬剤不要と誤認しやすい。日本だと漢方薬を好む患者群もここにあたるかも。

③Visualizing benefit
「薬が効いているとは思えない」
 患者さんは目に見えて効果が分かる薬を好む傾向があります。心臓関連の薬剤では、内服遵守率は、抗血小板薬>ACE-i・β遮断薬・スタチンと言われ、「血液をサラサラするにする薬」というのはvisual的に分かりやすいというのは古今東西変わらない模様。

④Avoiding dependency
「私の目標は数ヶ月以内に薬剤をやめること」
 健康に重要なことは生活習慣である事を強調しているが、薬剤を重要視せず全ての病気が生活改善で改善できると考える態度。薬剤内服そのものが薬物依存ではないか?と考えている。医療従事者の説明もここに関与している可能性。

⑤Emotional intelligence
 数年前から用語としては、「コンプライアンスアドヒアランス」へと変更されたが、基本的な医者の姿勢は変わっておらず、表面的な体裁を整えただけと。医療者の善し悪しはあくまで医療者的観点であり、患者さんの感情的背景に思いを巡らしましょうと。

✓ 医療者は、患者さんが薬を飲まない理由について思いを巡らし理解しよう