栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 勤務時間の長さと飲酒習慣/HCVスクリーニングの是非/改築による転倒外傷予防/伝統的な白内障突き落とし術後合併症としての急性眼内炎

BMJ

勤務時間の長さと飲酒習慣 
Long working hours and alcohol use: systematic review and meta-analysis of published studies and unpublished individual participant data*1

 リスクの高い飲酒習慣はロシアで有名ですが(笑)、先進国でも危険飲酒群が多いのだそうです。ロシア人の飲酒の話は以下のエントリー参照。


論文抄読会:BMJ & Lancet 疱疹状皮膚炎/胆石/大腸内視鏡/ロシア人のウォッカ飲酒量/血球貪食症候群 - 栃木県の総合内科医のブログ

あるstudyでは、4人に1人はrisky drinkerで、9%はアルコール依存症のcriteriaを満たすとされています。そのなかで、職場でのストレスとrisky alcohol useとの関連は過去のstudyで証明されなかったので、今度は勤務時間との関連をメタ解析で評価しています。

 勤務時間の長さは、週35-40時間/週をcontrolとし①41-48時間/週、②49-54時間/週、③55週以上/週と比較しています。また危険飲酒は、男性では週21単位、女性14単位以上を危険飲酒と定義しています。Pubmed/EMBASEで2014年4月までの研究26件、Web of scienceから10件、更にunpublished dataを27研究の合計63研究のデータをrandom effect modelで統合しました。このうち日本からの研究が13と最多でした。

 さて結果ですが、cross sectional studyのUnpublished dataでは35-40時間/週と55時間/週以上を比較すると55時間/週以上の方が危険飲酒との相関Odds ratio 1.10(1.04-1.18)Published dataでもOR 1.12(1.02-1.22)でしたが、Published dataの方が異質性が高い研究群でした。その他前向き研究のみで比較すると、OR 1.12(1.06-1.20)でやはり、危険飲酒との相関が見られました。理由としては、こじつけではありますが長時間労働によってストレス解消時間が減り、簡単に発散できる飲酒に走るのではないか?と考察されていました。

✓ 忙しい人程、飲酒量には注意しましょう
 

HCVスクリーニングの是非 
Is widespread screening for hepatitis C justified?*2

 C型肝炎の治療は日進月歩の状態ですが、2012年にCDCは1945-65年生まれの世代への全例HCVスクリーニングを推奨したんだそうです。ちなみにこの流れに2014年にはWHOやニューヨーク市なども追従し、USPSTFではGrade Bの推奨となっています。

 ただ、問題なのはHCV感染患者の予後です。実はHCV肝炎患者のほとんどは症状を来さず、死因もHCV感染以外であり、終末期肝疾患に伸展する様な患者は稀だとされています。むしろHCV治療に伴う害や費用負担の方が大きいのではないか?と。確かに、以前調べたときに、HCV感染者(肝硬変ではなく)の定期画像follow upが予後を変えたと言うようなstudyは見つかりませんでした。

 さて、HCV感染者の自然歴はどんな経過なのでしょうか?米国ではHCV感染症は270万人いると言われ、毎年16000人が亡くなったり肝移植を受けたりしています。最も気になるのは慢性C型肝炎が肝硬変や肝細胞癌などの終末期肝疾患へとどの程度進展するかですが、20年経過すると肝硬変になり、30年で肝細胞癌が出てくるという後ろ向き観察研究があり、この治験が医療者の中で広く理解されています。しかし、この研究でfollow upされたのは。医学的症状のある方々で無症状の人と比較して具合が悪いので、選択バイアスがあるのではないか?と指摘されています。また、HCV感染患者には飲酒習慣や他疾患での輸血歴などの合併症も多く、本当にHCV感染自体が患者予後に関連するかどうかも確定的ではないとしています。

 昨今の研究で、”HCVが治る”というメッセージが強く伝わっていますが、原則的に今行われているstudyの大半が「ウイルスの消失(Sustained virological Response:SVR)」をアウトカムにしていますが、これは立派なサロゲートアウトカムであり、死亡やHCCなどをアウトカムにして検証したstudyはあまりないのが現状です。

✓ HCVの治療については、臨床的に本当に利益があるのかをきちんと検証する必要がある


■Lancet■

改築による転倒外傷予防 
Home modifications to reduce injuries from falls in the Home injury prevention intervention(HIPI) study:a cluster-randomised controlled trial*3

 退院前に「介護保険を使って在宅改修をしましょうね〜」みたいな話って良く出ますよね。さて、この在宅改修ってどの程度効果あるのか?というのが今回のClinical Questionです。こう
いった話題を科学的に検証できるのってすごいですよね。素直に感動します。

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(本文より引用)

 今回の論文は以下の通りです。

P:ニュージーランドの1980年以前に建てられた建造物で、政府が改築調査に入っていて、サービスカード(いわゆる介護保険的な)があって、3年以上居住している住居に住んでいる人々842人
E:すぐに改築
C:4年後改築
O:病院受診が必要な転倒外傷
T:Cluster RCT

 follow up期間は3年間。転倒外傷は保険病名による申請で判断しています。今回のstudyの特徴として、サービスカードを持ってる人が対象なので、低所得者・高齢者・学生などが入っていて、平均43歳と高齢者のみならず小児や成人も対象になっていることでしょうか。
 結果ですが、
■転倒外傷の頻度
 すぐに改築群182人 0.061人年
 4年後改築群 192人 0.072人年
有意差ありで、改築群の方が転倒外傷が少ない結果でした。調整relative riskでは、RR 0.74(0.58-0.94)と26%程度減少する結果に。editorialでも、転倒予防はなかなか難しく、内因性の生理的要因と外因性の環境要因の両方が重要であり、今回その外因への予防効果を前向きに検証した画期的なRCTだったとコメントしています。今回のstudyの特徴として、①高齢者でない人もターゲット(何気に若い人の転倒も減っています。)、②古い建造物が多かったので、ベースラインの転倒率が高い、③改築をテーラーメイドではなく、チェックリストに基づいて介入していることが上げられています。問題点としては、サンプルサイズの小ささや転倒外傷の減少は主に小児メインだったということが上げられています。

✓ 在宅改修が転倒を減らしたというRCTがある


伝統的な白内障突き落とし術後合併症としての急性眼内炎 
Acute fulminant endophthalmitis complicating traditional lens couching*4

 なんか毎週LancetのCase reportは取り上げている気が・・・今回はモロッコからの症例報告です。それにしてもこの白内障突き落とし術って凄いですね。もちろん日本ではもう行われていませんが、アフリカでは未だ結構行われている様です。


Couching Video - YouTube


【症例】76歳女性
【主訴】有痛性の眼球腫脹
【現病歴】受診5日前に伝統的な治療師によって”突き落とし術Lens couching”という右白内障に対する手術を施行。翌日には眼球は充血して、疼痛が出現し視力が低下したため受診。
【身体所見】右目の視力は光覚弁程度、眼内圧は45mmHg(正常 10-20mmHg)で、眼球突出と眼筋麻痺を認めた。

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(本文より引用)

【検査結果】検眼鏡で、眼瞼浮腫・結膜充血・結膜浮腫・化膿性分泌物・前眼蓄膿を認めた。CTでは、眼周囲の蜂窩織炎、眼球突出グレードはⅡで、白内障レンズが下方に脱落していた。
【経過】硝子体および房水から培養検体を採取し、硝子体内抗菌薬投与(VCM 1mg/0.1ml、CAZ 2.25mg/ml)とした。また、全身性抗菌薬投与で、CTRX 1g 2回/日+LVFX 500mg 2回/日投与し、アセタゾラミド 250mgを2回/日投与とした。48時間後には、再度硝子体内抗菌薬投与とメチルプレドニゾロン 40mgを5日間投与した。硝子体培養からは緑膿菌が検出され、7日目には疼痛と浮腫、眼球突出は改善したが、硝子体は不透明なままであり、最終的に硝子体切除および眼内レンズ挿入手術を行った。その後、矯正視力は右目6/60で、眼圧は16mmHgで正常だった。
【考察】”Lens couching”は、白内障の最も古い技法の手術で、紀元前17世紀にアッシリアのハンムラビ王によって初めて行われ、紀元前600年頃にヒンズー教の外科医であるSishrutaさんによって行われた。

http://qph.is.quoracdn.net/main-qimg-e3acf294357f4393ebcdca7c7580bcd8?convert_to_webp=true

http://qph.is.quoracdn.net/main-qimg-e3acf294357f4393ebcdca7c7580bcd8?convert_to_webp=trueより引用)
ペンなどで鈍的にレンズを突き落として、硝子体をどけることで視力を確認するという方法だが、視力回復率は決して高いとは言えない。合併症として網膜剥離、二次性緑内障ぶどう膜炎、視神経萎縮、眼内炎などが上げられる。

✓ 白内障の手術の中に、紀元前から行われていた伝統的な白内障突き落とし術という手術がある