栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 敗血症での乳酸値の解釈/頚動脈狭窄スクリーニング/地方都市でのCVD予防計画/多系統萎縮症レビュー/高カリウム血症治療の新時代

■JAMA■

敗血症での乳酸値の解釈 
Lactate in sepsis*1

 恒例のJAMAのdiagnostic test interpretationです。毎回検査の解釈については大変勉強になります。いつも通り症例から。

【症例】67歳男性、心疾患・高血圧・肝硬変既往あり。5日前から発熱・咳嗽・倦怠感・食欲低下があり受診。受診時、血圧低下・頻脈・呼吸促迫とチアノーゼがあり、乳酸が3.1mmol/Lだった。そのまま挿管・外液負荷・肺炎として抗菌薬投与され、ICUに入院。乳酸値は1.2mmol/Lまで低下したが、その後さらに血圧低下し、昇圧剤・ステロイド使用。翌日には、MAP 60-65、CVP 13と安定したが乳酸 4.2mmol/Lと上昇していた。

【問題】
さて、以下の内乳酸値再上昇の原因はどれか?
①昇圧剤使用
②コントロールされていない感染源あり
③肝硬変で乳酸排泄能低下
④外液・昇圧剤不十分

【解説】高乳酸血症は「動脈もしくは静脈血乳酸≧2mmol/L」と定義されています。低酸素血症では、臓器循環不全によって、ATP産生が抑制され、ピルビン酸増加し乳酸が増加します。一方、敗血症では低酸素性要因以外の要因の寄与が大きいとされ、炎症・カテコラミンによる解糖系亢進・Na/K ATPポンプ活性化・ピルビン酸デヒドロゲナーゼ阻害などの影響で乳酸値が上昇すると言われています。

乳酸値自体は院内死亡を予測し、
乳酸値≧2.5mmol/L LR 1.4-2.0
乳酸値≧4.0mmol/L LR 2.6-6.3
と報告されています。また、乳酸値を下げる戦略が生存率を増加させたという報告もあります。費用は米国では13.9$程度。

 今回の症例では、入院時の乳酸値 3.1mmol/Lで重症度を認知させ、外液・抗菌薬・挿管で乳酸低下したのは予後が良い徴候でしたが、その後末梢循環が保たれていても、乳酸値が上昇しているので、乳酸値上昇の原因は低酸素(臓器循環不全)ではなく非低酸素要因と考察されていました。その場合には、感染巣コントロール不十分などの可能性を考慮する必要があるので、答えは②のソースコントロール不良を考慮しましょうとな。まあ、乳酸値だけでそんなに妄想を膨らませなくても、全身状態から把握するようにしたら良いかなと思いますが・・・

✓ 乳酸値は病勢を反映し予後と関連する可能性があるが、乳酸高値の場合の原因に循環不全以外にも非低酸素系要因もあり解釈は難しい


頚動脈狭窄スクリーニング 
Screening for asymptomatic carotid artery stenosis*2

 こちらもJAMAの定番コーナーのClinical Guideline Synopsisです。今回のテーマは無症候性頚動脈狭窄症のスクリーニングについてです。発表は2014年で7年ぶりの改訂で、USPSTFのガイドラインです。まずはbottom lineから。

「無症候性頚動脈狭窄のスクリーニング検査は一般人口には行うべきではない。」
Grade D recommendation


 米国では脳卒中は死因の第4位で、年間80万人が発症し60万人は初発と言われています。頭蓋内および頭蓋外の動脈狭窄は、脳卒中の重要な予測因子ですが、頚動脈狭窄は通常無症状であり、初発症状はTIA脳卒中であると言われています。メタ解析の結果では、50%以上狭窄がある症例は一般人口の4.2%程度で年齢と共に増加することが指摘されています。しかし、一方で70%以上の狭窄症例からでも実際に脳梗塞を来すのは0.5-1.0%/年程度とも言われており、無症状の状態で発見して介入することの意義がどの程度あるのかは明らかにはなっていないのが現状です。

 47研究のメタ解析では、血管造影検査を行う事は、70%以上の頚動脈狭窄に対して感度 90%、特異度94%と比較的良い結果でした。ただし、血管造影を施行するとその後の脳卒中発症率は0.4-1.2%程度とも報告されている模様です。アウトカムとして死亡を含んだアウトカムを評価した研究を集めてみると、CEAを行う群で術後30日以内の死亡率が2%(1-3%)と内服治療群と比較して有意に高いことが分かっています。介入によって逆に死亡が増えたりするというparadoxicalな結果になっているわけです。

 その辺りを受けて、現在CREST-2研究という2480人規模のRCTが施行されており、無症候性頚動脈狭窄に対するステントや内膜剥離術と内服治療を比較している模様です。

✓ 無症候性頚動脈狭窄を探す為のスクリーニング検査の意義は不明確である


地方都市でのCVD予防計画 
Community-wide cardiovascular disease prevention programs and health outcomes in a rural country,1970-2010*3

 フランクリンという米国田舎の地方都市の試みを取り上げたstudyです。ちなみにフランクリンはここ↓です。

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http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%B3%E9%83%A1_%28%E3%83%A1%E3%82%A4%E3%83%B3%E5%B7%9E%29#mediaviewer/File:Map_of_Maine_highlighting_Franklin_County.svgより引用)
 で、このフランクリンは人口2万人程度の貧しい都市なのですが、1970年頃から医者・政策リーダーが協力して、Community wide programとしての予防・治療介入を行っています。フランクリンが素晴らしいのは、この手の介入は時期が過ぎると終わってしまうことも多いのですが、その後も現在まで介入が続いており、今回は1970年からの40年間の効果をまとめたものになります。

 ターゲットは、高血圧・脂質異常・喫煙状態・体重・身体活動度で、地域の病院や医師が協力して、予防・治療への取組を行っており、介入内容は、以下に示すとおりで、Health system、Risk factor、Health behaviorにわけて年々介入を更新しているのが特徴です。

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 介入内容としては、

P:フランクリン住民15万人以上/40年
E:Community wide program
C:介入していない他の州
O:
・高血圧・脂質異常症の発症・治療内容・コントロール、禁煙率、入院率:1994-2006
・平均収入、死亡率:1970-2010

 結果ですが、
①高血圧コントロール:18.3%(1975年)→43.0%(1978年)まで24.7%(95%CI:21.6-27.7%)
②脂質コントロール:0.4%(1986年)→28.9%(2010年)まで28.5%(95%CI:25.3-31.6%)
③禁煙率:48.5%(1996年)→69.5%(2000年)まで改善。これは他州の平均禁煙率より11.3%(5.5-17.7%)高値
④入院率:退院で患者数が1000人あたり17人(-20.1 to -13.9)減少(1994-2006)
⑤死亡率:1970-1989年で10万人あたり60.4人減少、1990-2010年では、10万人当たり41.6人減少
 と心血管リスクファクターのコントロールと真のアウトカムである死亡率や入院率も減らしていることが分かります。やはり、小規模としてへの介入は、大都市よりも顔が見えやすく良いということでしょうか。日本で言う長野県みたいな?

✓ 小規模都市への継続的な生活習慣指導介入はリスクコントロールと死亡率・入院率改善効果がある


■NEJM■

多系統萎縮症レビュー 
Multiple-system atrophy*4

 今回のreviewはオーストリアのInnsbruck大学神経内科医師のreviewです。COIはある様ですが。

 多系統萎縮症(MSA)は、成人発症の致死的かつ進行性の神経変性疾患です。特徴として、パーキンソン症状・自律神経障害・小脳症状・錐体路症状が起こり得ます。多彩な症状の為、当初は診断が非常に難しい事が多く、また初期症状では、神経内科以外の診療科(循環器科・消化器科・泌尿器科耳鼻咽喉科・睡眠)などを受診することも多いので、他の診療科の医師も理解しておく必要があります。また、症状が進行してくるまで、パーキンソン病や小脳変性症との鑑別が難しいのも特徴です。

 MSAの歴史は症状が多彩である事を物語っていて、1969年に初めて多系統萎縮症という言葉が用いられますが、当時、①オリーブ橋小脳萎縮症、②Shy-Drager症候群、③黒質線条体変性症を包括した疾患概念とされました。罹患率は、10万人あたり3.4-4.9人程度で、Parkinson型>小脳失調型と言われていますが、日本ではどちらも同数程度と言われています。60歳代が好発年齢で、発症6-10年で亡くなることが多く、15年以上生きることはほぼない様です。原因ははっきりしませんが、飲酒喫煙が少ない人が多かったり、CoQ10合成酵素の変異など、研究が進められています。

 症状としては、運動症状前の前駆症状が20-75%に認められ、性腺機能不全、排尿障害、起立性低血圧、吸気時stridor、REM睡眠行動異常などが認められます。症状からParkinson型MSA(MSA-P)と小脳失調型MSA(MSA-C)に分類され、MSA-Pは、動作緩慢・筋強剛・転倒が特徴。ただし、通常のパーキンソン病と比較して、pill-rollingは少なく、不規則な企図振戦が50%程度にあるようです。また、レボドパへの反応は悪い(でも使われる)のも特徴です。MSA-Cは、wide based gaitなどの小脳症状が特徴で、Babinski反射は30-50%でextensorになるのだそうです。姿勢異常(猫背・頚部前傾)は16-42%の患者に認め、反復転倒・声色変化・構音障害・嚥下障害の出現は症状が終末期にさしかかってきていることを表します。運動症状以外では、早期から高度の自律神経障害が出現することが特徴的で、男性では発症時にEDを合併、切迫性尿失禁や頻尿も多い泌尿器症状です。循環器症状としては高度の起立性低血圧、呼吸器系として経過中に50%が吸気時stridorが出現します。前頭葉症状や原因不明の疼痛も特徴だと言われています。

 経過は、とにかく進行性。だいたい10年の経過の中で、発症3年以内には50%が歩行器使用、発症5年以内に60%が車椅子移動、発症6-8年で寝たきりになるのが平均的です。また、死因は肺炎・尿路感染・突然死が多い様です。予後予測因子として、高齢発症・Parkinson型・早期自律神経障害が予後不良因子です。

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(文献より引用)

 初期には大抵誤診されており難しいとされています。基本は病歴・神経症状で、画像検査はあくまで補足的です。疑わなければ診断できません。2008年にはコンセンサスガイドラインも提唱されています。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2676993/pdf/5745.pdf

 治療は、根本治療は無く対症療法のみ。しかもどれも根拠乏しく、off label useとなります。ただ、レボドパには40%で一過性に反応するので試すのは良いかもとか、企図振戦やミオクローヌスにはクロナゼパムが、神経リハビリが転倒予防に有効かもと言われています。ドパミン作動薬は効果厳しく、小脳症状には効果のある薬剤はほとんどありません。排尿症状に対しては、過活動型には抗コリン薬、尿閉型には自己導尿になります。起立性低血圧については、自律神経訓練、誘引回避、塩分摂取が重要で、飲酒や早食いを避けましょうと。OSAや吸気時stridorにはCPAPが有用かもしれません。

 読んでみると、「あの在宅の患者さんはMSAだったのかも・・・」と思い当たることもありますね。頭の片隅に入れておきましょう。

✓ 多系統萎縮症について理解し、初期症状や神経所見から想起できるように鑑別に考慮する


カリウム血症治療の新時代 
A new era for the treatment of hyperkalemia?*5

 高カリウム血症の補正はイオン交換樹脂やGI療法などで行われていますが、今回、カリウム血症に対する新薬として2つのRCTが報告されており、ついに新時代突入か?とコメントされていました。今回新規開発された薬剤は2種類で、1つめはPatiromerという大腸とKが結合して吸収させないという薬剤であり、もう一つはZS-9というケイキサレートの10倍のK結合率を持つ吸着剤です。どちらもpositive dataで短期でのカリウム値低下に効果があったと言う結果でした。

Patiromer in patients with kidney disease and hyperkalemia receiving RAAS inhibitors.
Weir MR, Bakris GL, Bushinsky DA, et al.
N Engl J Med 2015;372:211-21.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1410853
P:血清カリウム値 5.1 to 6.5 mmol/Lの高カリウム血症を呈したCKD患者237人
E:Patiromer投与群
C:プラセボ群(ただし、4週経過しカリウム値が正常化してから2群に割り付け)
O:4週間投与後の血清カリウム値の変化
T:二重盲検RCT
結果:4週目の時点で投与群では76%(95%CI:70-81%)が目標値(3.8-5.1 mmolL)を達成した。続くランダム割り付けの際には、Patiromer群107例とプラセボ群52例を比較し、8週目まで経過観察。8週目まででカリウム値上昇率は有意プラセボ群が高く、高カリウム血症再発率はPatiromer群 15%に対して、プラセボ群60%と有意にPatiromer投与群が高カリウム血症再発を予防していた。

Sodium zirconium cyclosilicate in hyperkalemia.
Packham DK, Rasmussen HS, Lavin PT, et al.
N Engl J Med 2015;372:222- 31.
http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1411487
P:血清カリウム値>5.0mmol/Lの高カリウム患者753例
E:ZS-9投与群(1.25g、2.5g、5g、10g)の4群
C:プラセボ
O:48時間後の血清カリウム
T:二重盲検RCT
結果:ベースラインが5.3mmol/Lだったが、ZS-9群では2.5g群 4.9mmol/L、5g群 4.8mmol/L、10g群 4.6mmol/Lへ減少。1.25mmol/L群とプラセボ群は同等で5.1mmol/Lまで低下。試験自体はその後、正常化した群をZS-9維持療法群とプラセボ群に再度ランダム割り付けして、15日後にfollowしたところ、ZS-9 5g群4.7mmol/L、ZS-9 10g群 4.5mmol/Lに対して、プラセボ群 5mmol/L overで有意差をもってK低下していた。

 高カリウム血症についてもeditorialに少しまとめてありました。一般的には細胞外K濃度は3.5-5.0mmol/Lにコントロールされていますが、CKD・慢性心不全患者では合併頻度が多くなります。特に、心・腎に保護的に作用するRAS系薬剤にはK値が上昇するという副作用があり、高カリウム血症が起きやすい状態と言えます。実はケイキサレートやCa製剤の効果・副作用ともに十分な検証がなされておらず、今一つという評価になっています。

 今回報告された新薬は2剤ともpositive studyだったこともあり、今後に期待です。follow up期間が短かく効果や副作用はまだ評価しにくいことや、患者さんのselectionの段階でも入院高カリウムがある人は除外したりしているなどの研究の限界があるので今後更なる研究による検討を待ちましょう。

✓ 高カリウム血症に対しては、新薬がいくつか出ており、短期的なKコントロールの力はある