栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet WHOのinactivity対策/HITのレビュー/スタチンと2型糖尿病/Schillingさん訃報

BMJ

WHOのinactivity対策 
Has WHO set a smart goal for physical activity?*1

 inactivityを日本語でどう訳すかは良く分からないのですが、まあいわゆる「運動不足」ですかね。今回は運動不足をどうするか?というテーマです。まあ、まず世界的なinactivityの頻度を示した世界地図が出ているわけですが、日本厳しいですねえ。60%以上がinactivityの基準を満たすとのこと。世界でもトップレベルの運動不足国家です(笑)。

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(本文より引用)

 さて、過去の研究から分かっていることは、WHO推奨目標である150分/週以上の中等度の運動が、死亡率や心血管イベント、2型糖尿病、いくつかの癌を減らすことが知られています。ただ、実は運動習慣と全死亡率にdose responseな関係があるため、150分/週に限らず運動目標を設定した方が良いのではないか?と指摘されています。

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(本文より引用)

 運動不足への介入は大事だけれどなかなか個人レベルの介入は難しいとも言われており、運動教室などの集団指導のみならず、行政レベルでの仕組みへのアプローチが必要ではないかと言われています。

✓ inactivityは死亡率を増加させる、運動介入の効果はdose response


HITのレビュー 
Heparin induced thrombocytopenia*2

 ヘパリン起因性血小板減少(HIT)という言葉を聞くと、なんとなく「ゴルゴ13」が頭の片隅に思い浮かぶのは私だけかも知れません。HITは、ヘパリン血小板因子4複合体にヘパリン誘導IgGが結合して血小板が活性化して過凝固をきたすという病態です。細かい機序で言うと、IgM産生を介さない急速なIgG産生で発症するそうです。不思議なことに、ヘパリンと構造が似ているfondaparinuxではHITはほとんど起きないんだそうです。

 HITの頻度は報告にもよりますが0.1-5.0%程度とまちまちです。術後や外傷後のヘパリン使用患者で最も多く、内科患者での予防的ヘパリン患者では少ないと言われています。また、未分化ヘパリンの方が低分子ヘパリンより頻度が多いと言われています。典型的なHITは一過性で抗体は100日以内には消失するのだそうです。

 HITの一次予防は現状では非常に難しく推奨内容も一定の見解はありません。もちろんヘパリンを使わないのがベストですが、使うなら投与開始初期が多いので最初の4日目までは血小板を確認すると言うことを推奨する人もいるようです。過去に既往のある患者での2次予防についてですが、原則は既往があれば再投与は避けましょう。ただ、HIT抗体がなければ3日以内の短期間に限った使用は安全という報告もあります。代替薬としては、NOACやアルガトロバンなど。診断には、過去のヘパリン使用歴(100日以内までは聞くべきだそうです)と臨床症状が重要。抗体上昇のみでは診断しないようにしましょう。HIT予測スコアで4Tsスコアというスコアがあります。血小板減少と発症時期、血栓症などの合併症、他の血小板減少の原因などをスコア化して層別化します。6-8点のhigh scoreだとHITの確率は50%程度なんだとか。

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(本文より引用)
 
 典型例では発症5-10日に血小板が50%減少するのが特徴で、血小板絶対値での判断基準はありません。汎血球減少だと可能性は下がり、4Tsスコアが4点以上だとHIT抗体を測定しましょうとのことです。日本ではSRLで検査をしていますが、IgG・IgA・IgM全てを測定しサブクラスは出していないようです。抗原検査は感度99%以上と高い様ですが、本邦で検査できる抗体検査は特異度が高いとされています。
 
 治療はヘパリンの中止と他の非ヘパリン抗凝固薬の開始となります。治療期間はcontroversialだが3ヶ月程度で改善することが多く、適切に対応すれば平均4日程度で血小板値は改善します。患者さんにはヘパリンアレルギーと伝えるのが良いかもしれません。

✓ HITの診断・予防・治療・予後について整理しておく




■Lancet■

スタチンと2型糖尿病 
HMG-coenzyme A reductase inhibition, type 2 diabetes, and bodyweight: evidence from genetic analysis and randomised trials*3

 スタチン投与によって2型糖尿病が増えることは、以前からかなり報告されてきていますが、今回その機序がはっきりしてきたという報告がありました。過去にもこんなエントリーもありましたね。


論文:利尿剤/β遮断薬/スタチンの糖尿病発症リスクに関する研究:NAVIGATOR study - 栃木県の総合内科医のブログ

 スタチンによる糖尿病発症は、HMG-CoA阻害が悪いのか、何か他の機序があるのかについて検証しています。まずSTEP1として、43研究22万人の患者さんのコホート研究データを元に「HMG-CoA変異」と「2型糖尿病発症」の関連を確認しています。その後STEP2として、2010年以降に発表された1000人以上規模のRCTをピックアップしてメタ解析を行い、スタチンと2型糖尿病発症との関連を確認しています。

 STEP1の方では、HMG-CoA変異の中で「rs17238484変異」とLDL-C・BMI・腹囲・血糖を比較していますが、変異がある事で、LDL-Cは低下しますがBMI・腹囲・血糖は上昇する傾向でした。また、糖尿病発症と関連する傾向があり、OR 1.02(1.0-1.06)とのこと。まあ微妙ですけどね〜。まあ、どうもHMG-CoA変異(阻害)がスタチンによる糖尿病発症と関連するメカニズムではないかとの結果。これを受けてSTEP2のRCTメタ解析では、今まで報告されてきた結果の通り、スタチン投与と2型糖尿病発症との関連が確認されました。プラセボとの比較でOR 1.11(1.03-1.20)との結果です。スタチン投与で分かったのは、LDL-Cは低下しますが、BMI・腹囲・血糖は上昇する傾向でした。推測として、体重増加・腹囲を増やす→インスリン抵抗性上昇→糖尿病発症という機序なのではないかと。だからこそ生活習慣指導が重要ですね。
 
 今回のstudyを受けて、機序的にも統計的にもスタチンが糖尿病を発症させることはほぼ間違いない事実と思われます。スタチンという薬自体がHMG-CoA阻害が本丸機序であり、いくら種類を変えても糖尿病発症リスクはあるということになります。もちろん、それでもスタチンの心血管イベントに対するメリットは目を見張るものがあるのも事実です。実臨床に生かすとすれば、スタチンを投与している患者さんにも、LDLだけを見るのではなく、体重推移などを確認して、きちんとした生活習慣指導を行う必要があるということかなと思いました。

✓ スタチンが2型糖尿病を発症させることはほぼ間違いない。生活習慣指導も必ず併用を。


訃報 
Robert Frederick Schilling*4

 Schilling testを発明したRobert Frederick Schillingさんが亡くなりました。1919年生まれなので、95歳でしたね。長生きだなあ・・・キャリアのほとんどをWisconsin-Madison医科大学で過ごしています。医学部を卒業したのが1943年で、海軍の軍医として船艦にも乗っていたことあったようです。

 さて、Schilling testとは?という復習ですが、ビタミンB12吸収不全の診断目的に行う検査でしたね。方法は、放射線コバルトで標識されたビタミンB12(57Co-VB12)を投与して、尿中への排泄時間を測定し、排泄低下があれば吸収不良と診断する検査です。まあ、残念ながら今はもうほとんど行われていないのが現状ではありますが・・・

 Schillingさんは、「EBM」という言葉が出る前の時代からEvidenceにこだわり、治療効果に対して常に懐疑的で、疑うことを忘れなかったとのことです。

✓ Schillingさんがお亡くなりになりました。RIP。