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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 癌性骨痛へのアプローチ/この患者は脳卒中か?/陣痛誘発へのプロスタグランジン製剤/デノスマブによる骨硬化/急性期脳卒中に対する予防的抗菌薬

BMJ Lancet 論文 緩和 悪性腫瘍 病歴 神経 診断 身体所見 放射線 検査 薬剤 産婦 小児 整形 感染症

BMJ

癌性骨痛へのアプローチ 
Cancer induced bone pain*1

 癌性骨痛に対するclinical reviewです。少し前のreviewではありますがまとめてみます。

【Introduction】
 骨転移のある患者の1/3に骨痛があると言われています。まあ、逆に残り2/3は骨転移があっても痛くないわけですが・・・イギリスでは毎年3万人が新規に癌性骨痛を来します。癌治療の向上に伴って、骨痛状態が続く期間も長くなっているという現状があります。そして、癌性骨痛はQOLや入院率に影響することが知られています。

【difinition】
 癌性骨痛は、「炎症性」かつ「神経原性」の疼痛として知られています。疼痛の機序として、
 ①RANKLの発現によって破骨細胞が活性化
 ②癌細胞が局所炎症を起こし神経終末を刺激する
の2つが言われています。病態生理の本態としては、神経の過剰興奮状態であり、「持続的な痛み」かつ「動作時の過剰な疼痛」が特徴とされています。

【疫学】
 癌の骨転移がある場合には、誰にでも癌性疼痛が起こり得ます。多い癌は、前立腺癌・乳癌・肺癌・骨髄腫で、部位としては、脊椎・骨盤・長幹骨・肋骨が多いと言われます。剖検レベルの報告では、癌死亡患者の70%に骨転移があったという報告もありますが、実際には症状が出るのは33%程度で、何故疼痛が出る人と出ない人がいるのかははっきりしません。

【臨床症状】
 痛みの特徴として、前述の持続痛と動作時発作性疼痛の2つが混在していることが知られています。特に動作時発作性疼痛は生活への支障が大きいとされ、動作後5分は持続して、15分後に50%が改善すると言われています。脊椎骨転移は骨折を契機に脊髄圧迫を来し、Oncology emergency状態になる事があり注意が必要です。そして、早期診断がQOLと関連することも知られています。

【初期治療】
 初期治療として必要とされている項目は非専門的治療です。非薬物療法の中身としては、行動変容(疼痛動作回避)や補助具・環境調整であり、これらが適切に行えることで、43%の患者さんで疼痛が改善したという観察研究があり、まず第一に行うべき方法です。

 薬物療法として、WHO pain ladderに基づいて対応することが求められています。このWHO ladderに基づくと、癌患者の73%で疼痛管理が可能と言われています。ただし、アセトアミノフェンの追加効果は乏しく、NSAIDsは時に他の鎮痛薬よりも効果が大きいことも経験的に知られています。ちなみにトラマールなどの弱オピオイドは癌性骨痛への効果は乏しいとも言われています。強オピオイドは癌性骨痛治療の最も重要な薬剤で、モルヒネと他の薬剤での使用では効果に差が無かったというネットワークメタ解析があります。ただ、値段などの観点からNICE guidelineは内服可能ならモルヒネを第一選択に推奨している様です。ちなみに、癌性疼痛患者の75%が強オピオイドで疼痛除去された(NNT 2)とも報告されていますが、癌性骨痛に限った解析はありません。動作時発作性疼痛は強オピオイドの効果が不十分であり、疼痛はごく短時間なので、超速効型フェンタニル>経口モルヒネが良いと言われています。また、オピオイド開始時から副作用対策も必要です。

 専門科に紹介するのは、当初の非専門的治療への反応が悪い場合や、脊髄圧迫症状や病的骨折を起こした時です。専門的治療については、放射線治療とビスホスホネート製剤が触れられていました。放射線治療は、癌性骨痛に対して最も効果的な治療で、治療を受けた約60%の患者さんで臨床的に有意な改善があり、 NNT 2.8と言われています。単回照射のみでも、25%がその後疼痛フリーで生活できるようです。複数回照射との差は無いと言われ、frail elderlyにも適応可能です。ビスホスホネート製剤は、破骨細胞を抑制して疼痛抑制効果はありますが、コクランのメタ解析で癌性疼痛に対する効果は、 治療4週後でNNT 11、治療12週後でNNT 7と言われ、基本的には放射線治療が第一選択になります。

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(本文より引用)


✓ 癌性骨痛の特徴を押させ、適切な非薬物療法とWHO ladderに則った疼痛緩和を行う。必要時に単回放射線照射を検討する。


この患者は脳卒中か? 
Is it a stroke?*2

【Introduction】
 脳卒中は頻度が多い疾患で時に致死的な経過を辿ることがあります。脳卒中を早期に認識して介入を行う事は予後を改善することも知られています。一方で、脳卒中(特に脳梗塞)には、確定的な検査が存在しないと言われています。臨床医にとって脳卒中を迅速に診断する能力が必要になります。

【定義】
 さて、実はこの脳卒中の定義が、臨床・研究・公共で統一されていないのが現状です。歴史的には、
 ①24時間以上持続する突然発症の局所神経症状
 ②症状の原因が脳血管障害による
の2つを満たすものを脳卒中としています。ただし、近年MRI等の画像診断の進歩によって、2013年には、画像所見も診断基準の1項目として代用しても良いということが定義に加えられました。

【臨床症状】
 典型的な局在化神経所見は以下のものがあり、それぞれ単独ないし混在していると言われています。
 ①片側性脱力(皮質脊髄路
 ②片側性感覚消失(脊髄視床路)
 ③片側失明(網膜・視神経)
 ④半盲(視放線)
 ⑤複視(動眼神経)
 ⑥言語障害(優位半球)
 ⑦視空間失認(劣位半球)
 ⑧巧緻運動障害・失調(小脳)
 ⑨Vertigo(前庭・小脳)
 頭痛は脳梗塞の25%、脳出血の50%、SAHのほぼ100%に存在します。また、高齢者特有の誘引によって症状が非特異的になる事もあります。

 FAST(Face Arm Speech Test)が簡便且つ有用で、
①2つ以上陽性の場合には、脳卒中の陽性尤度比 5.5
②3つ陰性で脳卒中の陰性尤度比 0.39
という報告があります。救命士判断や一般大衆への教育に有用と言われていますが、弱点として、後方循環系脳卒中低血糖との鑑別が難しい点があります。その他にもROSTERというスコアもあるのだそうです。

f:id:tyabu7973:20150214221129j:plain(本文より引用)

【臨床診断】
 脳卒中の臨床診断は定義のところで触れました。脳卒中自体は頻度が多く、検査前確率が高いため、臨床診断も可能となる。有名なラクナ症候群は感度・特異度ともに高い事が知られています。

【検査】
 脳卒中のtypeによって検査は異なります。頭部CTはまず最初に行う標準的検査で、脳出血の感度100%ですが脳梗塞の感度はいまいちです。特に発症初期や後頭蓋窩病変は特に苦手です。くも膜下出血は悩ましく、発症12時間以内 感度 98%、24時間以内 感度93%、10日以降は急激に感度が低下します。腰椎穿刺はくも膜下出血疑いだがCT陰性の場合に行う検査ですが、発症から3週間経過すると感度は70%程度まで低下します。

 頭部MRI脳梗塞に対しての感度は高い検査で、コクランのメタ解析(2009年の8研究 308人)では、発症12時間以内の脳梗塞疑い患者のMRI DWIの感度 99%、特異度 92%と報告されています。同じ報告でCTは感度 39%、特異度100%と言われます。ただし、このメタ解析は検査前確率が高い患者さんの研究だ!と批判されていて、実際検査前確率が低い患者さんのMRI DWIの感度は76%と言われており、MRI DWIで脳梗塞は除外出来ません。また、DWIの特異度に関しても、痙攣・低血糖・偏頭痛・脳腫瘍などで偽陽性になる事も知られています。

【診断のpitfall】
 脳卒中症状は、患者も医療者も十分認知できていないと言われています。そもそも「機能喪失」があるのかは機能を試さないと分かりません。実際に話させる、書かせるってやらないと分からない訳です。また、発症時期が不明だったり、非典型的症状だったり、画像検査が陰性だったりすると、すぐに鑑別から外してしまいがちです。経験豊富な神経内科医ですら、診察所見の観察者間精度はいまいちと言われています。脳卒中と誤診される疾患としては、20% 痙攣、15% 失神、12% 敗血症、9% 機能性(精神疾患)、7% 脳腫瘍、6% 代謝性(低血糖とかWernickeとか)と言われています。

✓ 脳卒中の臨床診断が出来るように診察所見を磨こう。画像検査の限界を知る事も重要。


陣痛誘発へのプロスタグランジン製剤 
Labour induction with prostaglandins: a systematic review and network meta-analysis*3

 陣痛を誘発する場合に、推奨する項目はまちまちです。今回ネットワークメタ解析によって、プロスタグランジン製剤による陣痛誘発方法について、CochraneのPregnancy & Childbirthグループのデータで検証されています。

P:第3トリメスターの妊婦さん
E:プロスタグランジン製剤様々
C:プラセボ
O:
①重症の新生児合併症や死亡
②母胎合併症や死亡
③24時間以上経過した経腟分娩
④帝王切開率
⑤胎児心拍上昇
T:280件のRCT(48068人)のシステマティックレビュー
結果:
 ネットワークメタ解析なので、多くの種類のPG製剤を比較しています。
 ・低容量経口ミソプロストール(<50μg)の24時間以内の経腟分娩 OR 0.06(0.02-0.12) 
 ・経膣ミソプロストール(>50μg)の帝王切開 OR 0.65(0.49-0.83)

結局、①②のoutcomeは大半のstudyが報告しておらず、それ以外の③や④の比較となりました。特に24時間以内の経腟分娩は、NNT 2と良好な結果でした。それなりに効果があることが証明された形ですが、真のアウトカムは証明されていませんね。

✓ プロスタグランジン製剤は陣痛誘発効果があり、帝王切開を防ぐ効果がある


■Lancet■

デノスマブによる骨硬化 
Osteosclerosis induced by denosumab*4

 またまた日本からの症例報告。今度は国立がんセンターからデノスマブ使用患者に出現した骨硬化の症例です。

 2ヶ月続く臀部の疼痛を主訴に144cmの10歳の少年が紹介受診。痛みの為に歩行が難しくはなりましたが、膀胱直腸障害はありませんでした。レントゲン・CT・MRIでは仙骨に巨大な溶骨性病変を認め、骨生検の結果では巨細胞腫が確認されましたが、神経障害や出血リスクが高く手術は困難であると判断されました。

 腫瘍の縮小目的に、本人・家族・倫理委員会の同意を得て適応外使用で破骨細胞の骨吸収に期待してデノスマブ 120mg 4週間毎を投与したところ、経過は非常に順調で、骨は硬化性変化を来したため、5cycles後に治療終了されました。骨硬化は、骨幹端のほぼ全てのレントゲンで認められ、最も顕著だったのは橈骨遠位端と尺骨で、それ以外に上腕骨近位・代替骨筋・指骨に認めました。治療終了5ヶ月後に腫瘍が再び増大した為、手術可能な大きさまで縮小することを目的に再度4ヶ月デノスマブ投与が行われました。術前に再度レントゲンを施行したところ、2層に渡る硬化バンドを認めています。その後の外来フォローでは、身長は順調に151cmまで成長し、痛み無くスポーツが出来て、腫瘍再発の証拠を認めませんでした。

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(本文より引用)

✓ デノスマブ投与によって骨硬化が起こる小児症例があった
 

急性期脳卒中に対する予防的抗菌薬 
The Preventive Antibiotics in Stroke Study(PASS): a pragmatic randomised open-rabel masked endpoint clinical trial*5

 なぜ、これを行ったんだろう?という単純な疑問もありますが、今回、急性脳卒中の患者さんに対する抗菌薬投与の効果です。なんで抗菌薬を投与するのかというと、Introのところには、脳卒中の急性期には感染を起こしやすく、頻度は30%程度である事、多くは肺炎か尿路感染だとされています。そして、この感染症の発症は脳卒中の機能予後や死亡率と関連することも報告されています。実は過去にも脳卒中急性期に対する抗菌薬のRCTが5つありますが、結果はコンフリクトな結果で、コクランのメタ解析でも、結果は様々ですが、予防的抗菌薬によって感染率が36%から22%に下がる(RR 0.58:0.43-0.79)という報告がありました。ただ、これが脳卒中の機能予後に関連するかは不明です。

 というわけで、今回きちんと大規模な検証をしましょうという形で、行われたオランダ発のRCTです。

P:オランダの30カ所の胃症期間で急性脳卒中と診断された2550例
E:セフトリアキソン 2g 24時間毎投与 4日間
C:プラセボ投与
O:
Primary:3ヶ月後のmRS
Secondary:死亡・感染症・抗菌薬使用・入院期間
T:RCT/治療/一重盲験/ITT解析あり
結果:
 Primary:3ヶ月後のmRSは、セフトリアキソン群 vs プラセボ群 OR 0.95(0.82-1.09)と有意差なし。
 Secondary:
①退院時死亡率 5% vs 5%(OR 0.93:0.65-1.35)
感染症発症率 10% vs 17%(OR 0.55:0.44-0.70)
③入院期間 6日 vs 6日 有意差なし
 有害事象CDI CTRX群で2例(<0.2%)、アレルギー 7例(0.6%)等。

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(本文より引用)

 というわけで、negative studyでした。まあ、そうかなあと。感染合併例が機能予後が悪いというデータはありますが、それはあくまでそれだけ重症だという現れで、それを抗菌薬によって予防してもしょうもないよね・・・という結果でした。

✓ 急性期脳卒中に抗菌薬予防投与を行っても予後には関連しない