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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 手術前に外科医に聞くこと/重症外傷での輸血方法/無症候性高ビリルビン血症/消化管出血の原因は?/急性期脳卒中への病院前マグネシウム投与

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■JAMA■

手術前に外科医に聞くこと 
What ask your surgeon before an operation*1

 JAMAの患者さんシリーズ。今回はAmerican college of surgeonsから、手術前に医者に聞くことと題してコメントがされています。手術はしばしば人生を変える大きなイベントだし、きちんと聞きましょうねと。大きく4つに分けています。まあ、良くも悪くもアメリカ!という感じもしますが、G大学問題もあるし大事なことではありますね。

①Do you need surgery?
 まずは、自分の持っている病気のことをよく知り、手術無しで治療することは出来ないかを聞きましょう。

②Are the surgeon and hospital where the surgery will be performed right for you?
 自分の術者が、どこでどのくらいトレーニングを積んでいるか、専門医の資格があるのかを聞きましょう。もし専門医を持っていなければどうしてかも。また、どの程度自分と同じ疾患の患者を診療しているかも確認しましょう。手術の回数やメインの術者以外のサポート体制も確認しましょう。病状によっては、単独の執刀医よりも医療チームが機能する形の方が良いかもしれません。ロボット手術などの最新技術は使われるのか?使われる場合には従来の手術と何が違うのかを確認しましょう。最新技術についての経験数や技術習熟度も確認します。もちろん病院としての疾患の経験値・治療成績なども確認しましょう。麻酔科医とも受ける予定の麻酔ケアについて相談しましょう。

③What can you do before surgery to ensure that you get the best possible results?
 手術前に自分が出来る事を確認しましょう。運動をすべきか?禁煙すべきか?ダイエットすべきか?糖尿病をコントロールすべきか?内服薬は止めるべきか?手術によっては、前日に感染リスクを避けるために特別な消毒薬での入浴をするかも知れません。

④What will happen to you after the surgery?
 痛みがどの程度あるのか確認しましょう。手術をすることで短期間運動や食事が制限されます。どの程度の制限になるかを確認しましょう。どの程度仕事を休んだり制限したりする必要があるか?何かサポートがあるかも聞きましょう。
 合併症はどのようなものが考えられるのか?どの程度のもので、起こった場合にはどんな症状になるのか?退院後に起こったら誰にどのように連絡したら良いのか?執刀医とはいつ連絡がつくのか?もしつかないなら、救急外来が利用可能か? 
 
 うむ、こんなに聞かれたら辛いなあ・・・という感じ。基本的にはこれを外科学会として出しているのがすごい自助努力だなと思います。定型文にするんでしょうかね。契約社会。

✓ 術前患者さんが確認したり、疑問に思ったりすることを整理しましょう


重症外傷での輸血方法 
Transfusion of plasma,platelets,and red blood cells in a 1:1:1 vs a 1:1:2 ration and mortality in patients with severe trauma. The PROPPR randomized trial*2

 重症外傷で輸血の蘇生をどうするか?という問題。基本的に内科医にはあまり関係はしないんですが、救急領域で話題になっていました。輸血って歴史的には赤血球輸血から始まっていますが、最近は、外傷診療ではPC:FFP:MAPをそれぞれ合わせていれましょう!という流れになってきています。で、今回は、1:1:1:投与と1:1:2投与の比較をしたRCTが行われました。
 論文のPECOは以下です。

P:アメリカの外傷センターを受診し、病院前または来院直後にRCC1-3単位輸血され重症外傷と診断された680人
E:PC:FFP:MAP=1:1:1輸血
C:PC:FFP:MAP=1:1:2輸血
O:
 Primary:24時間死亡 、30日死亡
 Secondary:24時間以内の大量出血死、止血の割合 、合併症 23項目(ARDS・多臓器不全・血栓症敗血症等)
T:RCT/ITT解析あり
結果:
 Primary:①24時間死亡 12.7% vs 17.0%
      ②30日死亡  22.4% vs 26.1%
(若干1:1:1が良い傾向だが統計学有意差なし)
 Secondary:24時間以内の大量出血死 9.2% vs 14.6%、止血の割合 86% vs 78%で有意に1:1:1が良かった。
       副作用は有意差なし


 結構期待されていたstudyの様です。最初の適応確認したのが11185人ですから、かなりの数が除外されており、外挿注意です。プライマリアウトカムは改善しませんでしたが、基本的に1:1:1輸血に肯定的な結果かなと思います。サンプルサイズの問題だろうと思われ、10%の差を想定してstudyを組んでいる為、やむを得なかったのかも知れません。

 それでも、24時間後以内の大量出血死亡や止血に関して良い結果が得られ、合併症が増えなかったことは今後の診療に大きな影響を与える・・・のでしょう。

✓ 重症外傷患者での輸血は、PC:FFP:MAP=1:1:1輸血が良いかもしれない


無症候性高ビリルビン血症 
Evaluating elevated bilirubin levels in asymptomatic adults*3

 JAMAの検査シリーズ。今回は無症候性のビリルビン上昇を取り上げています。

 57歳男性で、年一回の検診時の採血で、無症候性高ビリルビン血症を指摘され受診しました。30年前に原因が特定できない薬剤性肝障害がありましたが、中止後自然寛解しています。黄疸や掻痒感はなく、肝疾患の家族歴や内服薬はありませんが毎日飲酒(100g/週)していました。身体所見では、血圧108/63mmHg、脈拍 61bpm、BMI 23.4だった。肝は7.0cm触知し疼痛なし。結膜黄染・くも状血管腫・脾腫はなかった。採血結果は以下。

f:id:tyabu7973:20150215165146j:plain

(本文より引用)

 この検査結果の解釈で正しいのはどれか?
A. 胆石による高ビリルビン血症
B. Dubin-Johnson症候群による高ビリルビン血症
C. Gilbert症候群による高ビリルビン血症
D. 溶血による高ビリルビン血症

 答えは・・・C.のGilbert症候群による高ビリルビン血症です。ビリルビンは通常ヘモグロビンの分解産物の1つで、血液中ではアルブミンと結合して肝細胞に取り込まれます。グルクロン酸抱合によって、ビリルビンは直接型として胆汁排泄されるため、血清の間接型ビリルビンは低値になります。鑑別のフローチャートは以下の様になり、直接・間接型どちらが有意か、溶血との鑑別、Bilの絶対値で鑑別していきます。

f:id:tyabu7973:20150215165304j:plain

(本文より引用)

 Gilbert症候群は、別名Gilbert-Meulengracht症候群ともいい、遺伝性の体質性黄疸を来す疾患です。肝細胞性障害や溶血が除外され間欠的な間接型ビリルビン上昇が特徴的で、西洋諸国では一般人口の5-10%程度と報告されています。飢餓や感染、運動過剰によって黄疸が誘発されることも特徴で、診断は基本的には除外診断になります。基本的には他の肝酵素は正常ですが、溶血や他の稀な体質性黄疸は考える必要があります。基本的には5mg/dL以下である事が多く、直接型は20%以下になるのが特徴です。

 基本的位は特異的な対応は不要ですが、遺伝子型によっては胆石増加リスクになる事が知られています。一方で、心血管疾患などの疾患を予防したり、一般人口よりも死亡が減るかも知れないと報告されています。
 
✓ 無症候性の高ビリルビン血症を診たら、まずはGilbert症候群を考える



■NEJM■

消化管出血の原因は? 
A not-so-obscure cause of gastrointestinal bleeding*4

 消化管出血症例のClinical problem solvingです。うちのK先生絶賛でした。ネタバレ注意です。

【症例】66歳男性 

【主訴】2日前からのめまい・疲労感

【現病歴】2日前からめまい・疲労感が出現。ほぼ同時に血便が出現し、その後タール便に変化。腹痛・嘔気・嘔吐・体重減少などの症状は認めず。2ヶ月前にHFREFに対してLVAD装着。内服もワーファリンアスピリン・アミオダロン・メトプロロールなど。診察所見では、前深層泊、BP 117/99mmHg、Pulse 74bpm。直腸診では下血あり。

【消化器専門医より①】
 血便・下血は臨床的に意義のある消化管出血を示唆している。バイタル安定しているように見えるのは、β遮断薬の影響?便の色の評価は出血部位と程度の評価に重要。
 ①下血(タール便)は、下部大腸以外からの出血。
 ②新鮮血便は、下部大腸出血もしくはかそれ以外の部位であればかなり活動性の高い出血。
 ③消化管出血の患者では、肝疾患の有無をしっかり診察しなさい。

【その後の治療】
 外液負荷・PPI点滴・RCC2単位輸血施行。
 採血では、Hb 5.1、MCV 87、PLT 30万、INR 2.1、BUN 26、Cr 1.2。
 緊急内視鏡で、重度の逆流性食道炎・食道裂孔ヘルニアあり。胃・十二指腸は正常で、食物残渣残留しており、GIF後ヘパリンは再開されたが、その後も下血が3日続き、RCC4単位が追加投与された。

f:id:tyabu7973:20150215165707j:plain

(本文より引用)

【消化器専門医より②】
 食道炎は消化管出血の出血源として多いが、血液は下剤効果があるのに、胃内に食物残渣が残っているのはおかしい。更に、食道炎は血便の原因になりにくい。食道炎以外に出血源があるはず。おそらく右側結腸の毛細血管拡張症だろう。

【その後の精査】
 重症心不全があり、侵襲度の低いTcシンチを施行。左上腹部空腸に集積。小腸出血?

【消化器専門医より③】
 シンチは感度は高いが特異度が低い。部位の特定も非常に難しく、左上腹部でも胃・空腸・大腸脾弯曲部の可能性がある。ただし、大腸脾弯曲部からの出血は下血(タール便)にはならないので、やはり空腸か?空腸は毛細血管拡張の好発部位。少量のデュラフォイや静脈瘤も鑑別だがrare疾患。

【その後の経過】
 カプセル内視鏡施行。盲腸に日出血性の毛細血管拡張が1箇所あり。小腸に病変無し。その後、ヘパリンを再開し、下血が無かった為4日後に退院。
 退院12日後に暗赤色の便が出たため再診。EGDは食道炎のみで、下部内視鏡検査を施行したところ、盲腸にwoozingを伴う毛細血管拡張あり、クリッピング。退院6ヶ月後に再度出血し、再び盲腸の毛細血管拡張症が3カ所あり、レーザー治療。その後13ヶ月後に心不全が増悪し永眠された。

【消化器専門医より④】
 本症例は、典型的な出血性毛細血管拡張症の経過。急性出血が自然に直ぐ止まる、内視鏡治療しても再出血が多いなどが特徴。

「血便後に下血に変化」という病歴は、実は結構鑑別を絞ることが出来ます。右側以外の大腸疾患では下血にならないので、可能性として、①上部消化管、②小腸、③盲腸が考えられる。上部消化管出血で血便が出ている場合には、かなり大量(1000mlを超える)の出血である事が多く、循環動態が不安定になる。本症例はバイタルも安定しており上部ではないかも。鑑別は必然的に、小腸・盲腸付近になります。盲腸付近の出血も腸内細菌によって黒色(タール便)になるようです。すごいな、消化器専門医!
 
✓ 消化管出血でも病歴で出血部位や程度にかなり迫ることが出来る


急性期脳卒中への病院前マグネシウム投与 
Prehospital use of magnesium sulfate as neuroprotection in acute stroke*5

 急性期脳卒中に対する病院到着前マグネシウム投与の機能予後への効果はどの程度かを検証したカリフォルニアの研究です。背景として、マグネシウムの神経保護作用が基礎研究で確認されており、発症早期の投与に期待が集まっているのだそうです。

P:脳卒中疑いの患者1700例
E:硫酸マグネシウム静注
C:プラセボ静注
O:90日時点でのmRS
T:RCT/二重盲検/ITT解析
結果:
 Primary:90日後mRS マグネシウム群 857例 2.7 vs プラセボ群 843例 2.7 有意差なし
 Secondary:死亡率 マグネシウム群 15.4% vs プラセボ群 15.5%
 平均年齢は69±13歳、脳梗塞 73.3%、脳出血 22.8%だった。薬剤投与までの時間は平均45分(35-62分)で、患者の74.3%が1時間以内に試験薬を投与されています。


 結果はnegative studyであり、マグネシウムは使わないのですが、すごいのはこのstudyが行われた地域の救急隊です。LAPSSで救急隊がprehospitalで脳卒中スクリーニングをし、電話で医師と相談して脳卒中と診断しているのですが、診断精度が脅威の96%。これはすごいです。凄い精度。更には薬剤投与までの時間がとにかく早いですよね。実際t-PAも36%で使用されています。

✓ 急性期脳卒中に対する経静脈的マグネシウム投与は効果が乏しい