読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 乳癌病理の診断精度/AAAの超音波スクリーニングガイドライン/高齢者へのPCV13の効果/なぜインスリンにジェネリックが存在しないのか?/皮膚軟部組織感染症へのクリンダマイシンとST合剤

■JAMA■

乳癌病理の診断精度 
Diagnostic concordance among pathologists interpreting breast biopsy specimens*1

 病理医の診断精度ってのが近年結構話題になっております。今回は乳癌の病理診断について。アメリカでは、年間160万件の乳房生検が行われており、病理医の診断精度は非常に重要です。今回は、乳房病理標本からランダムに抽出した、標本をもとに、病理診断医の診断精度を検証しています。
 論文のPECOは、

P:19498件の乳房病理からランダムに240件を抽出。更にランダムに60件ずつ分配して4つの標本セットを作成。
   最初に3人のエキスパートが240例を全部評価して意見一致で診断を確定し、reference standardとした。
  アメリカ8州の病理医115人をランダムに4つのセットに振り分け。
E/C:病理医および病理診断毎
O:診断の一致率
T:Cross sectional study
結果:
 全240件の病理標本から115人の病理医の評価した病理診断毎に診断一致率を比較。
 ・Benign without atypia:87%(85-89%)
 ・Atypia:48%(44-52%)
 ・Ductal carcinoma in situ:84%(82-86%)
 ・Invasive carcinoma:96%(94-97%)
 と、異型を評価する場合に診断一致率に差を認めた。


 サブ解析で、診断精度が向上する要因を比較したところ、①大学勤務、②週に見ている乳房病理数、③病理医10人以上の施設に勤務しているか、が有意に診断精度が高い要因だった。

 今回のstudyの問題点は、評価が1スライドなので、それで本当に良いのか?実際は切り直しをしたりするよね?と。あと、評価時間は短時間だし、実臨床では困った時は相談するが、それができないというのはどうか?とコメントされていました。それにしても病理診断にも切り込みますねえ。基本Gold standardは病理とされていますが、ここをきちっと検証することは重要です。もちろん、臨床医からの適切な臨床情報提供は非常に有用ですし、場合によっては、その情報によって染色する方法が変わったりするこもありますしね。

 前任地の尊敬する上司が、病理診断に納得がいかず、問い合わせて再検討し病理診断が変わったという経験があり、すごいなあと思った記憶があります。

✓ 乳癌病理の一致率は異型の評価ではばらつく。大学勤務や病理医が多い施設勤務者は診断精度が高い可能性がある


AAAの超音波スクリーニングガイドライン 
Screening for abdominal aortic aneurysm*2

 今回のJAMAのGuideline synopsisでは、AAAに対する腹部超音波スクリーニングの内容がまとまっていました。2014年にUSPSTFのガイドラインが改定され、現在の腹部超音波によるAAAスクリーニングの推奨は以下の通りとなっています。

①喫煙歴のある65-75歳男性(grade B)
②喫煙歴のない65-75歳男性(grade C)
③喫煙歴のない女性には勧めない(grade D)
④喫煙歴のある女性には賛成も反対もしない(grade I)
 
 USPSTFは上記推奨を作成するにあたり、68研究を根拠としていますが、そのうちhigh or fair qualityのものはわずか4つのRCTしかありませんでした。high qualityの2つはAAA死亡を減らし、fair qualityの2つはAAA死亡を減らしませんでした。どの研究も65歳以上の男性が対象で、女性が検証されたのは1つのRCTのみでAAA死亡を減らせなかったことから、女性への推奨はされませんでした。

 AAAスクリーニングの害は良く分かっていませんが、そもそもAAA患者の死亡原因の75%はAAA以外と言われており、過剰に診断を増やすことが有用かどうかの結論はもう少し待つ必要がありそうです。ちなみに、5.1cmを超えるAAA患者ですらAAAで亡くなる方は40%なんだそうで。まあ、他の血管リスクも高そうですしね。女性の方が手術リスクが高く、瘤が小さくても破裂しやすいということも分かってきています。

 ちなみに、AHA以外の団体は、喫煙歴の有無によらず65-75歳の男性全例にAAAスクリーニングを勧めていますが、今後の検診推奨対象の選別をどうするかが検証される必要がありそうです。

✓ AAAの腹部超音波によるスクリーニングは、現状は65-75歳の喫煙歴のある男性に推奨

 


■NEJM■

高齢者へのPCV13の効果 
Polysaccharide conjugate vaccine against pneumococcal pneumonia in adults*3

 日本でもPCV13の高齢者への適用が通り、国主導で肺炎球菌ワクチン接種への舵取りをしているわけですが、今回、PCV13の高齢者に対する効果を評価したPfizer COIありのstudyがNEJMに報告されていました。
 論文のPECOは、

P:65歳以上で過去に肺炎球菌ワクチン接種歴のない84496人
E:PCV13接種群
C:プラセボ
O:ワクチン血清型の肺炎球菌感染症
T:RCT
結果:
 ①市中肺炎:PCV 13群 vs プラセボ群 49人 vs 90人(ワクチン効果 45.6%:21.8-62.5)
 ②非侵襲性の市中肺炎:PCV 13群 vs プラセボ群 33人 vs 60人(ワクチン効果 45.0%:14.2-65.3)
 ③侵襲性肺炎球菌感染症:PCV 13群 vs プラセボ群 7人 vs 28人(ワクチン効果 75.0%:41.4-90.8)
 この効果は、follow up期間3.97年の間持続していた。


 おー、すごい効果と思ったあなた。気をつけましょうね。確かに、ワクチン血清型の肺炎球菌に対する効果は上記の通りですが、カラクリはあります。

 例えば、ワクチン血清型ではない肺炎球菌CAPや侵襲性肺炎球菌感染は有意差つかず、死亡に関してはワクチン血清型・非ワクチン血清型ともに減らさなかったとのことでした。

結構きれいな有意差ありのグラフが掲載されていてだまされやすいのでご注意。
なかなか肺炎球菌ワクチンを大手を振って勧められるエビデンスが出ませんねえ。なんとなく心苦しさを感じながらお勧めしている現状です。

✓ 高齢者に対するPCV13接種は、血清型の同じ市中肺炎・侵襲性肺炎球菌感染を減らすが、肺炎全体や死亡は減らさない


なぜインスリンジェネリックが存在しないのか? 
Why is there No generic insulin? Historical origins of a modern problem*4

 こんなこと考えたことも無かったですが・・・確かにインスリンってジェネリックがないですよね。今回は、何故インスリンジェネリックが出来ないのかを歴史背景を踏まえて検証しています。

 1921年  インスリンが発見され、製剤の開発が開始
 1930年  プロタミン付加で効果持続時間延長
 1946年  亜鉛付加で更に効果持続時間延長しNPHが登場
 1950年代 プロタミン付加なしで効果持続実現
 1970年代 リコンビナント製剤としてヒトインスリンを完成
 1982年  ヒューマリンR、ヒューマリンNが開発
 1996年  リコンビナント製剤を応用して構造を変えてインスリンアナログ製剤を開発

 
 というのが開発の流れです。ただ、この間にジェネリックが登場したことは一度もありません。これは、新製品が次々と改良してきた為、その度に特許が延長され、なかなか特許が切れないというのが原因です。また、過去に出ていた古いインスリン製剤は新製剤がでると、直ぐに排除される傾向があるため、なかなかジェネリックが出ないのだとか。それにしても薬価も高いし、そろそろジェネリックを出しましょうとのことでした。

✓ インスリンジェネリックが出ないのはなかなか特許がきれないから


皮膚軟部組織感染症へのクリンダマイシンとST合剤 
Clindamycin versus Trimethoprim-Sulfamethoxazole for uncomplicated skin infections*5

 外来で皮膚軟部組織感染症を診断・治療する機会は内科外来ではあまり多くありませんが、総合診療を行っているような、診療所外来や訪問診療では比較的あり得る状況かなと思います。そんな時の抗菌薬選択をどうするか?というのが今回の主題です。
 論文のPECOは、

P:外来で蜂窩織炎か5cm以下の膿瘍と診断された524人
   38.5℃以上の発熱、糖尿病、腎不全患者は除外
E:CLDM+プラセボ 10日
C:ST合剤+プラセボ 10日
O:治療後7-10日での治癒率
T:RCT
結果:
 対象患者524人のうち、膿瘍のみが30%、蜂窩織炎のみが53%、両方合併が15%だった。
 起因菌として、黄色ブドウ球菌が40%でなおかつそのうちの70%がMRSA
 治癒率は、CLDM群 80.3%(75.2-85.4%)、ST合剤群 77.7%(72.3-83.1%)で両群に有意差なし
 サブ解析で成人・小児でも差は無く、副作用も両群で有意差を認めなかった。

f:id:tyabu7973:20150330052218j:plain
(本文より引用)


 今回、培養陽性率は50%前後であり、皮膚軟部組織感染症としてはかなりすごいことでした。そして、アメリカではこんなにCA-MRSAが多いのねと衝撃でした。日本ではどうなんでしょうね。CA-MRSAを狙ってのSTやCLDMなんでしょうけど、editorialでは、膿瘍と蜂窩織炎をまとめて検証してしまって良いのか?とコメントしていました。結構第一世代セフェムを使うこともありましたが、今後はCA-MRSAの割合によっては、STかCLDMを第一選択にするのは良いのかなと思いました。

✓ 市中の皮膚軟部組織感染(蜂窩織炎・膿瘍)では、第一選択薬としてCLDM・STの効果は同等で80%前後である