栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM HBV再活性化について/研究の為のガイドライン/帝王切開率を低下させる/1型糖尿病における強化療法と眼科手術/CKDとLindsay爪

■JAMA■

HBV再活性化について 
Preventing hepatitis B reactivation due to immunosuppressive drug treatments*1

 HBV再活性化は一度起こしてしまうと致死的な病態であり、かつ予防的治療をすれば防げる病態です。TNF-α阻害薬等の生物学的製剤使用や化学療法を行う場合には、必ずチェックすることが必要になっています。今回はそのHBV再活性化についてのviewpointです。

 HBs抗原陽性の場合と陰性の場合に分けて考える必要があります。HBs抗原陽性の患者では、化学療法を受けると再活性化率は40%と高率で起こり、13%で高度肝炎を発症し16%で死亡すると言われています。一方、HBs抗原陰性は既往感染パターンとは言われていますが、HBs抗原陰性HBc抗体陽性では再活性化率は、TNFα阻害薬 0-5%、R-CHOP 3-41%と言われています。

 再活性化リスクは、以下の2つの要因で決まることが分かっています。
①免疫抑制レジメン
HBV-DNA検出
 最もhigh riskなのは、HBs抗原陽性でnon-Hodgkin治療患者で再活性化リスクは50%以上とも言われています。アメリカ肝臓消化器病学会やCDCは、治療開始前のHBVスクリーニングを推奨しています。HBs抗原陽性の場合には予防的治療、HBs抗原陰性でもR-CHOPなどのhigh riskの場合には予防的治療、そうで無い場合でも3-4週毎のモニター法が推奨されています。ただ、アメリカ癌学会は現時点でのHBVスクリーニングの効果・害についてのエビデンスが不十分のためスクリーニングを推奨していません。推奨はリンパ腫や骨髄移植症例のみ。米国Oncologistの20%未満でしかスクリーニングがされていないのはその為です。

 リウマチ系の学会では、2014年に乾癬学会はHBVスクリーニングを勧めましたが、ACRは明確な推奨を打ち出してはいません。難しいのは、検査・治療のコストがかかるため、費用対効果が検証されていないことです。現時点では全例というよりも、target screeningを行うことが重要です。HBVの蔓延率も重要で、2%未満の低蔓延国では、免疫抑制剤使用時にHBVリスクのある人のみHBs抗原スクリーニング。HBV蔓延国で免疫抑制剤使用時にはルーチンでスクリーニングを。

✓ 化学療法・免疫抑制剤使用時のHBVスクリーニングを整理しておく
 

研究の為のガイドライン 
Researchers, readers, and reporting guidelines

 研究の質をどのように担保するかということは話題になっています。ジャーナルレベルで投稿時の査読で対応するというよりも、研究デザインの段階で対応すべきとされています。その為には、研究のためのガイドラインの策定が大事ではないか?と言われています。

 研究結果は、compactで分かりやすい必要があります。NEJMのabstractとかみてると分かりやすいなあと思いますよね。ところが、実際のRCTの質はかなりばらついており、問題点も多いと言われています。RCTの組み方は1996年のCONSORTガイドラインがランドマークではありましたが、その後も様々な研究ガイドラインが策定され、STROBE・STARD・PRISMAMOOSEなどが言われています。

 特にメタ解析領域では、それぞれのRCTの個人データレベルの解析が増えてきている為、その利用方法についてPRISMA-IPDガイドラインを発表しています。ガイドライン自体も限界があり、この領域の推奨はあくまでexpert opinionに基づいていることが多く、evidence basedなものは少ない状態です。今後研究の質改善の為に、ガイドラインを利用し、それによる質的な評価を行う必要があるかも知れません。

✓ 研究の質を高める為に研究実行ガイドラインの策定・遵守を

 


■NEJM■

帝王切開率を低下させる 
A cluster-Randomized trial to reduce cesarean delivery rates in Quebec*2

 帝王切開の話題が出ていました。カナダではこの10年で帝王切開率がこの大幅に上昇しているんだそうです。この辺りは国民性もありそうですが・・・どうやったら帝王切開を減らすことが出来るか。カナダのケベックで行われた多角的介入の結果がRCTとして報告されています。
 論文のPICOは、

P:ケベック州32病院184952人の女性
I:1年半の多角的介入(帝王切開適応の厳密な検討・医療従事者に適切なfeedback・Evidenceに基づいた医療提供等)
C:通常ケア
O:1年後の帝王切開率
T:ランダム化比較試験
結果:
 184952人のうち、介入前の1年間に出産したのが53086人、介入後の1年間に出産したのが52265人
 プライマリアウトカムの帝王切開率は、介入群で介入前後の有意な低下が認められた(介入群 22.5%→21.8%、対照群 23.2%→23.5%)
 調整Odds ratio 0.90(0.80-0.99)だった。
 低リスク妊婦で有意な低下があり、高リスク妊婦では低下が見られなかった。
 介入群では、新生児の重度合併症頻度が低下したが、母体の合併症頻度は変わらなかった。

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(本文より引用)

 諸外国では経腟分娩を嫌う傾向があり、本来の適応ではない帝王切開が増えているんだとか。アウトカム設定が帝王切開率で良いかどうかは微妙なところですが、新生児の重篤な合併症頻度が減るのだとすれば、良いことなのかもしれません。

✓ 患者への情報提供や医療者へのフェードバックなどの多角的介入によって帝王切開率は減少する


1型糖尿病における強化療法と眼科手術 
Intensive diabetes therapy and ocular surgery in type 1 diabetes*3

 糖尿病大規模臨床試験の中で1型糖尿病の金字塔はDCCT(Diabetes Control and Complications Trial)です。DCCTは6.5年間の強化療法後の網膜症に対する効果についての長期予後の研究です。
 今回の論文のPICOは、

P:DCCT では、1983~89年に1型糖尿病患者1441人を1993 年まで治療と追跡を行い、その後はこれらの対象患者のうち1375人を、Epidemiology of Diabetes Interventions and Complications:EDIC研究で追跡した。
I:強化療法群
C:従来治療群
O:眼科手術歴(自己報告)や費用
T:前向き観察研究
結果:
 中央値 23 年の追跡期間において、眼科手術は強化療法群63/711人(8.9%)で130 件施行され、従来療法群 98/730人(13.4%)で189件施行され、有意に強化療法群が少なかった。DCCT のベースライン因子補正した場合、強化療法では糖尿病に関連する眼科手術を1回以上受けるリスクが 48%(95%CI:29-63%)低下し、眼科手術全体のリスクが 37%(12-55%)低下した。強化療法群の42人と従来療法群の61人が白内障手術を受けた。(RR 48%:95% CI 23-65%)。観察期間全体のHbA1c値は、強化療法の有益な効果は完全に減弱した。

 早期の段階での治療効果がその後どの程度持続しているかいわゆるレガシー効果について検証した研究です。1型糖尿病の眼合併症については、早期の強化療法が長期予後の改善に繋がる事が分かってきています。診断早期にきちんとした診療・治療を受けるべきであろうと予測されますね。

✓ 1型糖尿病患者に対する強化療法は、眼科手術の長期リスクの大幅な低下に関連した。


CKDとLindsay爪 
Lindsay's nails in chronic kidney disease*4

 爪マニアとしては、これは取り上げなくちゃいけませんね〜(笑)。

 症例は59歳女性。16年前に多発嚢胞腎の治療目的に左腎移植を施行した既往があり、少なくとも3年前から爪の変化があるとのことで受診しています。プレドニゾン・ミコフェノレート酸モフェチル・タクロリムスを免疫抑制剤として内服し、既往としてStage 4のCKDがありました。身体所見として、患者の全ての爪で遠位爪床の50%をピンク色の部分と白色の部分で分かれており、いわゆる”half & half”の状態でした。

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(本文より引用)

 Lindsay's nailは別名”half & half爪”とも呼ばれ、1967年に慢性腎疾患を有する患者の20-60%に爪の赤色もしくはピンク色のバンドが見られる所見として初めて報告されました。高窒素血症と爪床のバンド幅との相関関係ははっきりはしていません。近位の白色バンドは慢性的な貧血の影響と考えられ、赤色〜茶色バンドはβ-メラノサイト刺激ホルモンの濃度増加に伴うメラニン沈着によるものと考えられています。爪そのものに対する特異的な治療は無く、基礎疾患である腎疾患の治療を優先する。

✓ Lindsay爪は、"half & half爪"とも呼ばれ、慢性腎臓病患者に見られる身体所見である