栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 家族歴の重要性/男性更年期症状のテストステロン値の解釈/高齢者入院患者のせん妄予防にロゼレムⓇ/子宮筋腫のレビュー/ペスト症例

■JAMA■

家族歴の重要性 
Family health history The case for better tools*1

 家族歴についてのコメントです。医学生の時に家族歴を取る様に指導されます。実際に臨床に出ても家族歴は最も重要なデータの一つであり、疾患によってはそれをガイドにして一次予防策が講じられることもあります。ところが、多くの場合時間的な制約などにより家族歴はおろそかにされていることが多いとも言われています。更には、家族歴の精度がそもそも問題と言われており、患者申告だと精度が30-90%とも言われています。疾患毎にも家族歴の精度は違うと言われ、癌や心血管疾患は比較的精度が高いようですが、糖尿病や高血圧などの生活習慣疾患はいまいちとも言われています。
 
 近年遺伝子診断ができるようになっていますが、倫理的な問題などもあり現代でも家族歴が重要な情報です。一部のグループはweb baseの家族歴収集ツールを開発していますが、未だ研究レベルの使用状況です。正確な家族歴収集は非常に重要で、遺伝情報と臨床情報を正確に集め、統合していく作業が臨床医にとって重要なスキルの一つです。家族歴は疾患リスクの見積もりのみならず、患者のモチベーションにも良い方向に働くという研究もあり、力を入れていく必要があります。

✓ 家族歴を適切かつ正確に収集し、臨床情報と組み合わせていく必要がある


男性更年期症状のテストステロン値の解釈 
Testosterone levels for evaluation of androgen deficiency*2

 巷で話題?の”男性の更年期”ってやつについてのJAMAのDiagnostic test interpretationです。 

 本文は症例から始まります。54歳の高血圧・糖尿病既往のある男性が、5ヶ月前からの疲労・体重減少・睡眠障害・眠気を主訴に来院。性欲はあるものの勃起障害あり。内服はメトホルミン・アムロジピン。結婚して子供が3人いて運動はしない。ラジオで低テストステロンという言葉を聞き、近医で早朝テストステロンを検査したところ、低値だったため紹介となりました。身体所見では黒色表皮腫を認め、BMI 34.7と肥満あり。視覚正常。

f:id:tyabu7973:20150517072012j:plain(本文より引用)
 検査結果は上記でした。さて、次のうち正しい選択肢は?

①アンドロゲン欠乏としてゴナドトロピン検査
ELISA法で総テストステロン測定の上で診断
③フリーテストステロン測定
④アンドロゲン欠乏症にてこれ以上は精査不要


 解答は③。テストステロンの大半は血漿蛋白に結合。結合蛋白はSHBG(Sex Hormone-Binding Globlin)と呼ばれ、テストステロンの約1-2%が遊離状態で活性を持っています。アンドロゲン欠乏症を疑ったときの最初の検査が、総テストステロン値です。まずはアンドロゲン欠乏を疑う症状を押さえる必要があります。特異的な症状は、性欲減少・勃起障害・女性化乳房・頭髪減少・精嚢萎縮・不妊・顔面紅潮です。一方、非特異的症状は、モチベーション低下・うつ・睡眠障害・筋肉減少・BMI増加・皮下脂肪増加・身体機能低下。

 テストステロン分泌は日内変動があり、早朝がピークです。そのため採血は早朝測定が基本です。測定方法の標準はmass specrtometryなんだそうですが、無理ならELISAでも良い模様です。また、1回の測定で低下していても必ず2回は最低測定すべきで、再検すると正常値であることもあります。また、総テストステロン値はSHBGの影響を受けるため、実際の活性のあるフリーテストステロン測定することが重要です。たとえばSHBGが上昇する病態(加齢・甲状腺機能亢進・高エストロゲン・肝疾患・HIV・抗けいれん薬)やSHBGが低下する病態(肥満・インスリン抵抗性・糖尿病・甲状腺機能低下症・ステロイド・アンドロゲン・プロゲステロンネフローゼ症候群によって影響を受けます。

 この患者は肥満や糖尿病があり、SHBGが低下している可能性があります。総テストステロン値は低く出る可能性があり、フリーテストステロン値を測定する必要があります。最終的にフリーテストステロン値は正常でSHBGが低値、最終的に肥満関連のOSAと診断し、CPAP療法を開始したところ、諸症状は改善しました。

✓ テストステロン測定の場合には、フリーテストステロンを最低2回は測定し症状から判断する


高齢者入院患者のせん妄予防にロゼレムⓇ 
Ramelteon for prevention of delirium in hospitalized older patients*3

 以前からこのテーマは気になってはいるのですが、今回日本発のロゼレムⓇのせん妄予防に関するRCTについてです。65歳以上の一般病床およびICU入院患者でせん妄ありの患者に対してのラメルテオンの効果を評価しています。
 論文のPICOは、

P:65歳以上の重症内科疾患で経口摂取は可能な入院患者67人
I:ロゼレムⓇ 7日間
C:プラセボ 7日間
O:せん妄(DSM-Ⅳ)
T:RCT
結果:
 プライマリアウトカムのせん妄発生率は、ロゼレムⓇ群 3%、プラセボ群 32%と有意にせん妄発症を減らした(RR 0.09:0.01-0.69)


 過去のメラトニンのRCTに続き、今回2つ目のメラトニン作動薬系のせん妄予防のRCTです。前回のメラトニンよりも効果は大きく、せん妄とメラトニンの関連が考えられています。今回のRCTの問題点は、除外数が多く対象患者数が少なかったこと、ロゼレムⓇ群とコントロール群のベースラインが差があり、コントロール群が認知症が多かったことなどが課題となっています。さすがに予防的にロゼレムⓇを使うことはないかもしれませんが、睡眠薬をどうしても使わなければならない場合には、選択肢の一つかも知れませんね。
 
✓ 高齢者のせん妄予防目的にロゼレム7日間投与は有効である

 


■NEJM■

子宮筋腫のレビュー 
Uterine fibroids*4

 子宮筋腫についてのレビューです。こういったコモンな疾患だけど、自分にとってど真ん中ストライクではない疾患について造詣を深めるためにはレビューを読むのは有用です。

 子宮筋腫はcommonな子官新生物で、貧血の原因になることが知られている。障害罹患率は7-8割と言われ、閉経前女性の半分に見られる。子宮筋腫には内膜過形成や悪性腫瘍を合併することがあり、見逃さないようにすることが重要。大きくなると腹部腫瘤や膀胱直腸症状を来す事があるが、多くは貧血のみで無症状。子宮筋腫リスクを上げるのは、年齢・黒色人種・初潮早来・16歳以下の避妊薬使用と言われている。リスクを下げるのは、多産・野菜・果物・脂質低下

 診断は、超音波検査で容易に診断可能である。特に子宮内腔に生理食塩水を注入して行う事で、子宮内膜側の筋腫についても判断可能。FIGO分類という内膜に近いものから0-8に分類する分類方法が用いられている。

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(本文より引用)
筋腫は増大したり縮小したりすることが知られている。6ヶ月毎にMRIを施行し子宮筋腫の大きさを測定すると、-11%〜+38%とかなり幅があることが判明。そもそも筋腫の急な増大は手術適応ではない。筋腫の鑑別として子宮内膜過形成や子宮体癌・横紋筋肉腫があり、内膜生検を必要とすることがある。

 治療については、残念ながら質の高いRCTは少ないのが現状で、筋腫の大きさ・部位・臨床症状によって異なる。無症候の筋腫を治療する根拠は実は乏しい。
①子宮摘出術:挙時希望無ければ裁量。再発や癌の合併にも有効。術式として経腹・経膣・腹腔鏡がある。腹腔鏡は合併症は少ないが、全体の合併症率は28%(出血・創部感染等)
②子宮温存術:主に核出術。症状と重症度によって術式が変わる。
薬物療法・その他:
 ・出血に対する治療:止血剤(トラネキサム酸)・ホルモン溶出IUD経口避妊薬・内膜焼却術
 ・容積に対する治療:GnRHアゴニスト・プロゲステロン受容体修飾薬・アロマターゼ阻害剤+アンドロゲン・動脈塞栓・MRIガイド下超音波温熱療法等。

✓ 子宮筋腫の診断・治療についての概要を押さえておく


ペスト症例 
Sick as a dog

 Clinical problem solvingです。ネタバレなので、これから読む人は気をつけて下さい。
 症例は42歳男性。2日前からの発熱・咳嗽・血痰・胸痛が主訴でした。右肺炎の診断で近医よりLVFXを処方されるも増悪した為入院となり、MEPM+VCM投与されたが挿管されています。入院時の血液培養1セット 嫌気ボトルのみから、Pseudomonas luteolaが検出されました。

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(本文より引用)


 ここからが感染症専門医すげー!ってとこなんですが、Pseudomonasは好気性菌なので、通常嫌気性ボトルからのみ生えてくるのはおかしいはずです。そして、Yersinia pestisは、しばしばPseudomonas luteolaと間違って認識されることが知られています。そういった意味で再度病歴を聴取し直すと、患者がプレーリードックをたくさん飼っていることが判明し、更にそのうちの一匹が死んでいることが分かりました。プレーリードックといえばYersinia pestis!最終的にPCRで確認し、Pseudomonasは否定されて診断確定され、SM+LVFXで治癒しています。
 まあ、まだ一度も見たことはありませんが、急性の抗菌薬抵抗性の急速進行増悪を来す肺炎でかつYersinia pestisの流行地域では、起因菌の一つとして考慮する必要があります。

✓ Yersinia pastisはPseudomonas luteolaと間違えられやすく注意が必要