栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 英国のChoosing wisely/低リスク胸痛患者への運動負荷試験と冠動脈石灰化スコア/難治性高血圧への腎交感神経遮断術/入院患者でのAKIアラート/腎疾患大特集

BMJ

英国のChoosing wisely 
Choosing wisely in the UK: reducing the harms of too much medicine*1

 アメリカ内科学会ABIMが始めたChoosing wiselyは今や世界に拡がっています。今回のBMJの記事には英国にどの様に波及したかの記事が掲載されていました。日本にも普及したと記載されており、これは徳田先生達のお仕事の賜物だろうと思っております。

 Choosing wiselyが出るまでは「much is better」の文化でしたが、今後この文化を大きく変えていく必要があります。過剰な医療に対する罰則は無く、また、その大元にある統計学的知識をもたない医師が多すぎることも問題の一つと言われています。Choosing wiselyの目標は医師と患者双方に向けてのメッセージ提供であり、とりわけ医療を提供する医師への介入が大事とされています。今後は医学生への教育にも力を注いでいく必要があります。

 課題としてTop 5 listの中に無駄な処置に関する推奨が少ないことや、そのリストが医療費増大・無駄と関連していることは分かってきているものの、価値の少ない治療・介入を減らすことで、患者アウトカムが改善するというエビデンスはありません。また、個人的には、だいぶ定着した感があるChoosing wiselyですが、アメリカ全体の医師へのアンケートでは知っていると答えた割合が21%だったのだそうで、お家元でも知名度はまだまだの模様です。今後は、医者・患者への周知のためにメディア利用も必要かもしれませんねとのこと。ただ、伝え方を注意しないと医療不要論とも繋がりやすいので、バランスを取れる医師からの情報発信が重要でしょうね。

✓ Choosing wiselyは世界的にはまだまだ知名度が少ない。今後更なる周知と減らすことのメリットに関するエビデンスの構築を!


低リスク胸痛患者への運動負荷試験と冠動脈石灰化スコア Assessment of chest pain in a low risk patient: is the exercise tolerance test obsolete?*2

 今回のテーマはlow riskのatypical chest pain患者にどの様な検査が望ましいか?です。最近あちこちの論文でもしばしば話題になっています。コーナーのタイトルが”Uncertainties”というくらいで、未だに結論が出ていない領域の話題ではあります。

 実は現時点でガイドラインの推奨も別れており、AHAやESCは、運動負荷検査もしくはシンチなどの機能的検査を推奨しており、NICEは、冠動脈石灰化スコアが陽性なら機能的検査を推奨しており、運動負荷試験は勧めていません。また、現場でのプラクティスも医療機関によってかなり異なることが知られており、それにも関わらず、イベント発生数や予後はほとんど変わらなかったというデータも出ています。
  
 今回は、low riskの非典型胸痛患者に①運動負荷試験、②機能的画像検査、③冠動脈石灰化スコアのどの検査がより、冠動脈疾患の予後改善に繋がるかを検証しています。ポイントの一つは、無駄な介入・Overtestがどの程度増えてしまうかという点でした。これらの検査の位置づけとして、狭窄を見つける検査として位置づけるか予後予測としてのツールにすべきかがはっきりしません。

 運動負荷試験は、CAGでの1カ所以上の狭窄病変への感度は低いですが、Bruceプロトコールを用いて異常が出なければ5年生存率は97%だったという報告もあります。冠動脈石灰化スコアは感度が高く、陰性なら17-18ヶ月後の心血管イベント1.8%と言われています。目的としては、狭窄を否定したい、長期予後が安全だと言えるスコアの構築であり、まだまだ検証が必要な領域です。
 
✓ low risk胸痛患者での心筋梗塞否定にどの検査を行うべきかは明らかにはなっていない

 


■Lancet■

難治性高血圧への腎交感神経遮断術 
Optimum and stepped care standardised antihypertensive treatment with or without renal denervation for resistant hypertension(DENERHTN): a multicentre, open-label, randomised controlled trial*3

 難治性高血圧に対する非薬物療法・手術療法の研究が最近多いです。今回も難治性高血圧に対する腎交感神経遮断術の効果を検証したランダム化比較試験です。
 論文のPICOは、

P:18-75歳の難治性高血圧106人
 (既にインダパミド 1.5mg+ラミプリル 10mg+アムロジピン 10mgを内服中)
I:ラジオ波でSNS遮断+降圧薬追加群
C:通常ケア群(降圧薬追加のみ)
O:6ヶ月後血圧
T:RCT
結果:
 平均年齢55歳、もともと降圧薬を平均4剤内服中。診察室血圧 157/92mmHgが平均。
 二次性高血圧患者・腎障害患者は除外されている。
 プライマリアウトカムの血圧は -5.9mmHg低下(-11.3 to -0.5)と有意に低下。
 手術関連合併症はminorなもの3件。両群共に最終内服数は5剤だった。

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(本文より引用)

 
 さて、プライマリアウトカムは改善しましたが果たして・・・というところでしょうか。今回はshamはおいておらず、処置はexpertがサポートして行っています。手技合併症は少ない様ですが、降圧薬の数も変化無く、メジャーアウトカムの改善は評価されていません
 この手の手技ものはそのうちメジャーになるのでしょうか?

✓ 難治性高血圧に対する腎交感神経遮断術は血圧を5.9mmHg程度低下させることができる


入院患者でのAKIアラート 
Automated, electronic alerts for acute kidney injury: a single-blind, parallel-group, randomised controlled trial*4

 パニック値の報告に関するRCT。こんなこと考える人達がいるんだなあと興味深かったです。しかも過去にAKIに対するアラートが患者予後を改善するかも知れないというbefore-after studyがあるんだそうです。
 論文のPICOは、

P:18歳以上の入院患者でKDIGO定義のAKI基準を満たす患者
(①48時間以内に0.3mg/dL以上 or ②7日以内に50%以上上昇)Cr>4は除外
I:院内PHSにAKIアラートメール群
C:通常ケア群
O:7日後Cr・透析・死亡
T:RCT
結果:
 平均60歳、外科40%、ICU 30%
 プライマリアウトカムは全て有意差なしの結果。


 外科入院患者のみでみると腎臓コンサルトが増えるみたいです。確かに、AKIアラートって変化が大事なので、KDIGOの基準で知らせるのは大事かも知れませんが、逆に早めに気付きすぎて手が打てないこともあるかも知れませんね。
 
✓ 入院患者にKDIGO基準でAKIアラートを鳴らしても患者予後を改善しない


腎疾患大特集

腎移植ドナーの予後 Living kidney donation: outcomes, ethics, and uncertainty*5
 1954年に腎移植が始まって以降、年々移植数は増えています。それに伴いドナーについてのデータが徐々に蓄積されつつあるため、今回reviewされています。ドナーの予後は一般的には非ドナーと同等と言われ、ESKDのリスクは15年後で1%程度と言われています。途上国ではどうか、若年者でどうかははっきりしていません。

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(本文より引用)


膜性腎症の病態生理 Pathophysiological advances in membranous nephropathy: time for a shift in patient's care*6
 膜性腎症は、2009年にpodocyte phospholipase Asが標的と判明してからかなり研究が進んでいるようです。膜性腎症は、成人のネフローゼ症候群の中では糖尿病性に次いで多い疾患です。成人の原発性膜性腎症の70%がPLA2R抗体陽性と言われており、メタ解析では感度 78%、特異度 99%とも言われています。また、PLA2R抗体の力価は予後・再発を予測すると言われており、今後臨床応用が進みそうです。

多嚢胞腎 Autosomal dominant polycystic kidney disease: the changing face of clinical management*7
 常染色体優性遺伝による多発性嚢胞腎は最も一般的な遺伝性腎疾患であり、世界的には腎透析導入患者の7-10%を占めると言われています。最初に報告されたのはかれこれ500年以上も前のことですが、現時点で治療不可能で病因も明らかにはなっていません。ただ、最近40年間の間にこの疾患についての理解は進歩しており、診断・予後・治療について変化しています。原因遺伝子はPKD1とPKD2の2つの遺伝子が主に原因となることが分かっていますが、現実的には超音波診断が有用です。予後を規定する因子として、年齢・遺伝子・性別・腎機能(eGFR)・腎容積(TKV)が関連する事が分かってきています。



✓ 腎臓特集のエッセンスのみをお届けしました。