栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 食道アカラシア/慢性嗄声へのマネージメント/プロフェッショナリズム/急性虫垂炎の治療レビュー:抗菌薬第一選択戦略について/小児CPA蘇生後低体温療法

■JAMA■

食道アカラシア 
Achalasia*1

 食道アカラシアのレビューです。まあ、めったに出会わない疾患ではありますがせっかくですので整理しておこうと思います。
■Intro■
 ・アカラシアはギリシャ後の「khalasis」が語源。khalasisは緩めるという意味。 
 ・症状は、嚥下困難・胸痛・胸焼けなど多彩。
 ・嚥下困難症状の患者には、まずは制酸剤治療やGIF評価がstandard
 ・症状が改善無くGIFも正常で、それでも水が飲み込めにくいなどの症状がある場合にはアカラシアを疑う
 ・高分解能マノメトリーが発達したためにアカラシアの病態生理の理解が進んだ

■Anatomy■
 ・食道は18-26cm程度の管腔臓器
 ・壁は4層からなり、①粘膜、②粘膜下層、③筋層、④外膜
 ・筋層は近位が不随意筋で遠位が平滑筋、輪状・縦走の二層構造
 ・食道はSNS・PNSに支配され蠕動している
 ・横紋筋部分では収縮で進み、平滑筋部分ではinhibitとexciteのバランスで食物を進める
 ・LES圧は下部食道が最も圧が高く、安静時圧は10-30mmHg

■Epidemiology■
 ・世界で年間発症率は10万人に1人
 ・罹患率は10万人に9-10人
 ・遺伝性としては、家族性副腎不全を合併するAllgrove症候群や、パーキンソン病・Down症候群でアカラシアを来す。

■Pathophysiology■
 ・遠位筋層内のganglion cellの機能喪失がメイン
 ・原因ははっきりしないが、遺伝要因・ヘルペスや麻疹契機に発症する自己免疫性機序・Chagas病でも起こり得る

■Symptoms and signs■
 ・食道症状:嚥下障害(90%)、胸焼け(75%)、嘔吐・逆流(45%)、非心臓性胸痛(20%)、心窩部痛(15%)、嚥下痛(<5%)
 ・非食道症状:咳嗽・喘息(20-40%)、慢性誤嚥(20-30%)、嗄声咽頭痛(33%)、意図しない体重減少(10%)
 →最多症状は嚥下困難・胸焼け。意外と呼吸器症状が多い。
 ・上記症状ではGERDや物理的閉塞・癌をrule outすることが重要
 ・進行性の嚥下困難で特に水分が難しいのが特徴的
 ・ただ、成人の4%に週1回程度の嚥下困難エピソードがあるため鑑別診断大切

■Diagnosis■
 ・診断はたいてい難しく時間がかかる
 ・疾患の認知・想起と適切な検査解釈が重要
 ・胸焼け・胸痛ではGERDと間違えられる
 ・嚥下困難で重要なのは、実際に飲み込む様子を見ること。
 ・咽頭食道Phaseなら、嚥下時にすぐに咳嗽・逆流などの異常。
 ・食道Phaseなら、必ずGIF癌などをrule outを。
内視鏡
 ・嚥下障害患者では必ず生検を行い、食道癌・食道炎を除外。
 ・免疫正常患者でカンジダをみたらアカラシアを疑う。
 ・GIFのみでアカラシアの確定診断はできない
バリウム検査
 ・bird's beak signが有名
 ・食道運動や弛緩状態が分かりやすく、"corkscrew appearance"を呈する。
③マノメトリー
 ・アカラシアの診断・分離にマノメトリーを用いることが標準的
 ・近年導入された高分解能のマノメトリーはアカラシアの病態生理・Phenotype理解に大きく貢献
 ・Chicago分類が開発

f:id:tyabu7973:20150524085051j:plain

(本文より引用)
 ・アカラシアを3つのtypeに分類することで予後と治療戦略に影響
 ・どのPhenotypeにも当てはまらない場合には、非アカラシア性運動障害疾患を考えた方が良い

■Treatment■
 ・明確な標準治療法は無く、LES圧を下げることがメインの治療

f:id:tyabu7973:20150524085023j:plain
(本文より引用)

 ・カルシウム拮抗薬や硝酸薬は47-64%LES圧を下げるが症状に対する効果は不十分
 ・副作用なども考えると手術がどうしてもできない症例のみに適応
 ・他の薬剤にはシルデナフィル
 ・ボツリヌス毒素注射は、再発多く長期効果は不十分で第一選択にはならない
 ・バルーン拡張術の有効率は62-90%で、合併症は1%未満。4-6年程度で1/3が再発し再治療が必要となる
 ・単回延長術だと筋層切開には劣るが、複数回繰り返すと効果は同等かもしれない
 ・筋層切開術が標準で腹腔鏡が好ましい。1回の拡張術より優れて効果は88-95%程度。

■Prognosis and follow-up■
 ・予後はPhenotypeで決まる
 ・筋層切開・拡張術に対する反応が良いのはtypeⅡで奏効率96%
 ・typeⅠだと奏効率は81%、予後不良はtypeⅢで奏効率66%

■Treatment failures■
 ・アカラシア治療は治癒的ではないため、5年以内に20%は再発する。
 ・6-20%は進行性で末期アカラシアへ進展。その場合の最終手段は食道切除。

✓ 食道アカラシアの基本事項を押さえておこう


慢性嗄声へのマネージメント 
Hoarseness and laryngopharyngeal reflux*2

 嗄声プライマリケア領域でも多い症状。実際プライマリケア医がどの様にマネージメントしているかを調査したアンケート研究結果が報告されていました。
 論文のPICOは、

P:プライマリケア医2441人
I/C:16のWebベースのアンケート調査
O:アンケート結果
T:前向き質問紙票研究
結果:
 回答率が12.9%と非常に低い。
 64%が6週以上の嗄声患者は耳鼻科紹介前に治療すると解答。
 そのうち85%がGERDとしての治療薬を選択

 プライマリケア医の中では、比較的取っつきにくい主訴の一つかも知れませんね。
 ただ、嗄声=GERD」という非常に安易な対応は問題があるかも知れません。
 アメリカ耳鼻科学会は、GERD症状のない嗄声患者へのPPI投与を控えるように勧めています。耳鼻科紹介は咽喉頭部の悪性腫瘍を疑う場合や3ヶ月以上経過しても改善しない場合。PPIは試しても効かなきゃすぐ中止しましょう。苦手な主訴を少しずつ克服しましょう。

✓ 慢性嗄声の適切なアプローチ方法を取得し、安易なPPI処方は避けよう
 

プロフェッショナリズム Medical professionalism

 今週のJAMAはプロフェッショナリズム特集だった模様。様々な角度からプロフェッショナリズムについて検証されています。医療のプロフェッショナリズムの根源は、紀元前400年のヒポクラテスに遡り、多くの医師が卒後に教えられます。「Professionalism」という言葉は1856年に辞書にも登場。医学文献で初めて出てくるのは1970年代です。1990年には90%以上の学校で何かしらの形でプロフェッショナリズムについて指導しています。具体的には権威付けとしての白衣授与式とか、概念的な講義などです。ただ、たいていの場合には形骸化し、教育としては不十分であると言われています。

 そもそもプロフェッショナリズムの一定した定義がないのも問題です。PubmedGoogleでサーチしても定義はいまいち。一番よく議論された定義は2002年のABIMが提唱したもので、「新ミレニアムにおける医のプロフェッショナリズム:医師憲章」として発表されています。(http://annals.org/article.aspx?articleid=474090
 ただ、これも抽象的な内容が多く、解釈は個人によって異なります。

 近年COIの問題がしばしば取り上げられ、米国ではSunshine Actという形でCOI開示が義務づけられていますが、プロフェッショナルである医師にそんな法的な縛りが必要なのか?それはプロフェッショナリズムとしての矜持で担保できないものだろうか?と宣っておられます。理想論ではありますが、身につまされる気もします。性善説でいくか性悪説でいくか・・・具体的な教え方として「自分の大切な身内へ同じことをするつもりで医療を提供するように」と教えるのがベターと記載されていました。この辺りは、キリスト教的な隣人愛の精神かもしれませんね。「あなたの隣人をあなた自身のように愛しなさい」マタイ19:19。
 難しいところですね。こんな簡単なエントリーでは語り尽くせない領域の課題です。

✓ 21世紀の医師に求められるプロフェッショナリズムは、ABIM以降更に深化が必要かもしれない

 



■NEJM■

急性虫垂炎の治療レビュー:抗菌薬第一選択戦略について 
Acute appendicitis-Appendectomy or the "Antibiotics First" strategy*3

 青木先生のブログでも取り上げられていましたが、虫垂炎の抗菌薬第一選択戦略についてのレビュー論文です。
■Introduction■
 ・アメリカでは年間30万人が虫垂切除を受けている
 ・生涯の虫垂炎発症率は7-14%と言われているが、多くのstudyは虫垂切除を基に算出している
 ・虫垂切除率は男女差は無いが虫垂炎は男性が多い・・・
 ・CT/腹腔鏡は虫垂炎診断患者を増やした。Overdiagnosisの可能性
 ・虫垂炎は自然回復する可能性がある事も亜示唆されており、非特異的な腹痛患者に対する、早期腹腔鏡手術群 vs 経過観察群を比較したRCTによると虫垂炎の診断率が、腹腔鏡群30%、経過観察群 6%と圧倒的に診断率が異なり、Overdiagnosisが疑われている。

■Pathophysiology■ 
 ・歴史的には糞石による閉塞で虫垂圧が高まり拡張することで破裂すると考えられていた
 ・最近のstudyでは、虫垂圧は1/4の症例でしか上昇していない。圧測ったstudyがあるらしい・・・
 ・虫垂炎の18%でしか糞石がない一方で、非虫垂炎では28%に糞石あり
 ・穿孔は必ずしも閉塞によらない

■Strategy and evidence■
 ・診断に最も重要なのは病歴。①腹部正中から始まる、②右下腹部への移動、③嘔気・嘔吐・微熱
 →ただ、これらの病歴は全体の50%未満にしかみられない
 ・右下腹部への疼痛移動 OR 3.4、嘔吐 OR 5.4
 ・CT・超音波は見逃しや不要な手術を減らすはず
 ・CTの感度・特異度はstudyにもよるが90%を超える
 ・エコーも有用だがCTに劣り、MRIはCTとほぼ同様の走査特性
 ・Alvarado scoreは有名だが、利用方法に注意。基本的には除外のためのスコア。4点未満なら虫垂炎の可能性が低い為、余計な検査・介入を避けられる 

f:id:tyabu7973:20150524085900j:plain

(本文より引用)
 ・画像診断必要な時は、熟練した者が提供する高精度エコーが第一選択。次に低線量CT

①Surgical treatment
 ・1800年後半以降、緊急手術が主流
 ・1980年以降、腹腔鏡導入で更に進化
 ・アメリカでは腹腔鏡が60-80%で、入院期間は1-2日、合併症は1-3%
 ・システマティックレビューでは、腹腔鏡は開腹術よりもSSIが57%も少なく、入院も1.1日短い
 ・痛みに関しては、非盲検試験だと差があるが、盲検試験では差が無い
 ・腹腔鏡の方が手術よりも費用はかかるが、合併症の治療などを統合すると安上がり
 ・診断後すぐに手術をするのが一般的だったが、近年早期手術の価値に対する疑問
 ・観察研究では診断から手術までの時間と穿孔リスクには関連がない

②Area of uncertainty
 ・良く分かっていないことは、①本当に手術が必要か、②抗菌薬のみで良いのか?、③抗菌薬第一選択で良いのか?といった部分
 ・歴史的には抗菌薬第一選択は、膿瘍・壊疽性虫垂炎治療に行われていた。通常の単純性虫垂炎に全例手術が必要かが不明
 ・もともと抗菌薬第一選択は、もともと海軍の乗船中発症虫垂炎に対して行われるのが最初。手術無く改善。
 ・非合併症性なら抗菌薬でいける?
 ・複数のRCTが主にヨーロッパを中心に行われている。クロスオーバー率は0-53%とかなりバラツキあるも、抗菌薬第一選択悪くない
 ・抗菌薬第一選択群は典型的には2日抗菌薬点滴+7日経口抗菌薬
 ・緊急手術と比べて、疼痛・社会復帰が早く、穿孔率は多くないことも分かってきた
 ・抗菌薬治療成功後、虫垂切除率は10-35%(いわゆる再発率)、平均再発は4.2-7.0ヶ月
 ・一方で手術を受けた13%は実際には虫垂炎では無かったというstudyもある
 ・カリフォルニアの入院患者データによると、虫垂炎診断で入院するも手術無しで退院した患者を対象に検証した研究では、5.9%が30日以内に手術を行っている。その後虫垂炎で再入院したのは、7.4年間のfollow up期間のうち、4%のみだったという研究あり
 ・治療戦略による費用の違いを検証したstudyは小さなRCTのみ。トルコとスウェーデンの研究共に手術群で高コストだった。
 ・戦略を決める上で、虫垂を取ってしまうことの害も考慮。虫垂が腸内細菌のsafe houseとして機能しているかもしれない、虫垂炎患者でCDI再発率は有意に高いのもそれが原因?

■Conclusions and recommendations■
 ・アメリカでは単純性虫垂炎には今も準緊急手術が標準。手術を行うのは腹腔鏡下手術が好まれる。
 ・欧州の研究結果からは、抗菌薬第一戦略が有用かもしれない。
 ・米国では抗菌薬第一戦略をする場合のregistryがある
 ・今後の大規模studyに期待。

✓ 虫垂炎の抗菌薬第一選択戦略は、今後虫垂炎治療の主流になる可能性がある


小児CPA蘇生後低体温療法 
Therapeutic hypothermia after out-of-hospital cardiac arrest in children

 蘇生後低体温のstudyは最近negativeなものが多かったですが、今回は小児CPA症例蘇生後の低体温療法の効果を検証した大規模RCTです。
 論文のPICOは、

P:小児(出生2日〜18歳)の院外CPA患者
 心臓マッサージ2分以上施行し蘇生後も遷延性意識障害あり。
 蘇生後6時間以内で相関されている295人が対象
I:低体温群(深部体温 33℃ 48時間継続後、16時間かけて36℃へ維持)
C:正常体温群(深部体温36℃ 120時間)
O:1年後に神経予後スコア:VABS≧70だった生存者の割合
T:RCT
結果:
 平均2歳、呼吸不全が全体の70%で初期波形Asystole 60%
 体温は基本的には介入通りに管理
 プライマリアウトカムは、Risk Difference 7.3(95%CI:-1.5 to 16.1)で統計学的に有意差なし

 それにしても小児症例をよくここまで集めたなあと思います。統計学的にはNegative studyでしたが、傾向としては差が出る可能性はありそうです。もちろん、統計学的には有意差はありませんが、もし万が一我が子に対するケア・・・となると、低体温を選択するかもしれません。害が無ければ益もはっきりしない治療法について、EBMerは切り捨てる傾向があるのかも知れませんね・・・これはスタンスの問題か。

✓ 小児CPA蘇生後症例に対する低体温療法は1年後の神経予後を改善しなかった