栃木県の総合内科医のブログ

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MKSAP:Sheehan症候群に関連した下垂体機能低下症の管理/うつ病の治療/β遮断薬禁忌患者の食道静脈瘤治療

MKSAPです・・・
今週はPolypharmacyレクチャー&ACP Japan@京都です。

Sheehan症候群に関連した下垂体機能低下症の管理  Manage hypopituitarism associated with Sheehan syndrome

❶症例 
 33歳女性が、2週間前から進行する倦怠感・めまい・食欲不振・多関節痛を主訴に外来受診。患者は6週間前に出産。難産で輸血を必要とした。妊娠経過には異常は無く、2経妊2経産だった。産後授乳ができず、月経も来ていない。内服薬はマルチビタミンのみ。
 身体所見では、顔面蒼白で痩せた女性で、T 37.1℃、BP 88/50mmHg、Pulse 88bpm、RR 16/min、BMI 19だった。視野検査は正常で乳汁漏出は認めなかった。

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(本文より引用)
 下垂体MRIの結果は確認中である。
 この患者の最も適切な初期治療はどれか?

 ❷Sheehan症候群
 本患者では、早朝コルチゾール低値の結果から副腎不全が疑われ、ヒドロコルチゾンによる速やかな副腎ステロイド補充療法が最も適切な治療である。また、病歴と生化学所見は、Sheehan症候群による下垂体機能低下症を示唆している。これは、難産とりわけ重篤な循環血液量減少や低血圧に関連し、下垂体梗塞や出血が原因となる。患者は、過去に下垂体病変を指摘されておらず、おそらく下垂体病変は分娩時に発症したと考えられる。下垂体画像検査はトルコ鞍を評価する為に適切。Sheehan症候群の臨床徴候は、亜急性・進行性下垂体機能低下症で、プロラクチン欠乏により乳汁分泌が低下し、無月経になる。中枢性副腎不全はSheehan症候群の主な死因である。

❸その他
下垂体後葉ホルモン:下垂体前葉ホルモンの喪失はよく見られるが、Sheehan症候群で尿崩症を来す事は稀である。それに加えて、本患者の臨床症状・検査結果は尿崩症の基準を満たさないため、後葉ホルモンの欠乏は否定的である。
低ナトリウム血症:本患者の低ナトリウム血症は、下垂体機能低下症に関連しており、血清Na値は下垂体ホルモン補充により正常化する可能性が高い。本患者の低ナトリウム血症は重症では無く、無症候で、積極的な高張液補正は不要である。

甲状腺ホルモン:血清甲状腺ホルモン値が低値であれば、TSHが正常であってもレボチロキシン補充は行うべきである。ただし、重篤な甲状腺機能低下症の症状は無い為、甲状腺ホルモン補充は緊急では不要である。中枢性甲状腺機能低下症については、副腎不全に対するステロイド補充療法が十分行われてから補充すべきである。

Key Point
✓ 中枢性副腎不全はSheehan症候群の死亡の主な原因になるため、速やかなステロイド補充療法を受けるべき。

Kristjansdottir HL, Bodvarsdottir SP, Sigurjonsdottir HA. Sheehan's syndrome in modern times: a nationwide retrospective study in Iceland. Eur J Endocrinol. 2011;164(3):349-354. PMID: 21183555

 

 

うつ病の治療 Treat depression

❶症例
  50歳女性が中等度うつ病で定期通院中である。8週間前に、彼女はブプロピオンを開始し、4週間後用量が最大量まで増量された。増量後、PHQ-9スコアはベースラインと変化が無く、本人も症状が改善していないことを自覚していた。希死念慮は無く、幻覚や精神症状は認めなかった。過去に過活動や馬鹿騒ぎ、眠る必要が無い状態や過去の精神医学的問題は無かった。また、心理療法は希望していない。
 最も適切な治療はどれか?

 うつ病の治療
  本患者では、ブプロピオンを中止し、塩酸セルトラリンなどの抗うつ薬を開始することが最も適切である。本患者は、初期の単剤治療に抵抗性の中等度うつである。治療のゴールは、6-12週時点で寛解に至ることで、寛解後4-9ヶ月治療を継続すべきである。外来follow upは、治療開始後2-4週時点に再診し、アドヒアランスや副作用、自殺リスクを評価。その後、6-8週後に再診し、治療反応を確認する。重症度評価にはPHQ-9などの定型的な質問紙票を用いることで、治療反応を定量化するのに役立つ。50%以上のスコア改善が得られれば部分寛解と考える。PHQ-9スコアを用いることで、完全寛解、部分寛解、反応なしに分類される。完全寛解に至った場合には、同じ治療を更に4-9ヶ月継続すべきであり、部分寛解もしくは反応無しの患者には、同薬増量・代替薬を追加・代替薬に変更・心理療法を追加などの方法がある。治療を変更した場合には定期的なフォローが必要である。

 ❸その他の治療は?
ブスピロン:ブスピロンは抗不安薬で、不安症状の無い患者やブプロピオンの治療効果がない患者に追加する事は適切では無い。
ブプロピオン:増量しても治療効果が得られておらず、更に8週間経過観察を行う事は、患者の回復を遅らせる可能性がある。新規薬剤(同じクラスでも別のクラスでも)への変更が適応である。塩酸セルトラリンなどのSSRIsは最も一般的に用いられるクラスの抗うつ薬で、一般的には毒性が少なく用いやすい。副作用として性的な副作用が一般的。
電気けいれん療法:電気けいれん療法は、希死念慮や精神症状などを認める重症患者で適応になる。これらの患者には速やかな治療反応性がとりわけ求められる。

Key Point
✓ 単一の抗うつ薬に治療抵抗性の患者には、他の抗うつ薬への変更もしくは心理療法を考慮する。他の抗うつ薬は、同じクラスもしくは別のクラスである。

Fancher TL, Kravitz RL. In the clinic. Depression. Ann Intern Med. 2010;152(9):ITC5-1; quiz ITC5-16. PMID: 20439571

 

β遮断薬禁忌患者の食道静脈瘤治療 Treat a patient with large esophageal varices and contraindication to β-blocker therapy

❶症例

 50歳男性が、最近非アルコール性脂肪肝(NASH)による肝硬変と診断され外来を受診された。既往に喘息と2型糖尿病脂質異常症、肥満あり。内服薬は吸入ステロイド・モンテルカスト・インスリングラルギン・インスリンリスプロ・シンバスタチン・リシノプリル。
 身体所見では、体温 37.5度、BP 120/70mmHg、Pulse 80bpm、RR 16/min、BMI 31だった。腹部所見では脾腫を認めた。
 検査所見では、血小板数100000/μl、INR 0.9、T-Bil 1.2。腹部超音波検査では、結節様肝臓と脾腫、門脈圧亢進による腹腔内静脈側副血行路の拡張を認めた。上部内視鏡検査では、5mm以上の遠位食道静脈瘤を認め、送気でも退縮しなかった。RC signは陰性。

 最も適切な治療はどれか?

 ❷食道静脈瘤
 肝硬変患者での食道静脈瘤の破裂の生涯リスクは、30%程度と言われ、死亡率は15-20%である。一次予防は重要だが、現在の診療ガイドラインでは、肝硬変患者患者では食道静脈瘤の同定の為に年に一回の内視鏡検査を勧めている。
 小さな静脈瘤とは、5mm以下の小さな静脈瘤で内視鏡送気でっみえなくなる程度であり、大きな静脈瘤とは、5mm以上で送気でも潰れない静脈瘤を指す。RC sign(静脈瘤上の赤い縞)があることは、破裂リスクが高まっていることを示唆する。
 本患者のように
大きな静脈瘤がある場合には、次のステップは食道静脈瘤破裂の一次予防として、非選択性のβ遮断薬投与か内視鏡的結紮術である。過去にhead to headの研究結果はないが、それぞれの治療をプラセボと比較した研究では出血の一次予防の降下はどちらも同等だった。ただし、β遮断薬は喘息や安静時徐脈がある患者では禁忌である為、その場合には内視鏡的結紮術が求められる。プロプラノロールは今回の症例では禁忌である

 ❸他の治療法
 食道硬化療法副作用が多く、食道裂傷が起こる可能性もあり、一次予防の際にもちいるべきではない。
 TIPSSTransjugular intrahepatic portosystemic shunt(TIPS)は、EVLでコントロール出来ない場合や、再発性・胃静脈瘤・バルンによる治療を行った症例で適応になる。本症例では不適切

Key Point
✓ β遮断薬禁忌患者の食道静脈瘤では、静脈瘤出血の予防的治療としてEVLを行うべきである。

Garcia-Tsao G, Sanyal AJ, Grace ND, Carey W; Practice Guidelines Committee of the American Association for the Study of Liver Diseases; Practice Parameters Committee of the American College of Gastroenterology. Prevention and management of gastroesophageal varices and variceal hemorrhage in cirrhosis. Hepatology. 2007;46(3):922-938. PMID: 17879356

 

MKSAP 16: Medical Knowledge Self-Assessment Program

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MKSAP for Students 5

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