栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 訃報 David Sackett/死亡1年前のADL障害度の経時的変化のパターン/重症MRSA感染症へのST合剤高用量/2型糖尿病への持効型GLP-1阻害剤/2型糖尿病かつACSへのアログリプチン

BMJ

訃報 David Sackett*1

 EBMの父David Sackett先生が亡くなりました。もちろん、私は直接面識はありませんが、多くのEBMerに多大な影響を与えた偉大なカナダの先生です。1967-1994年までカナダのオンタリオ州にあるMcMaster大学の臨床疫学の教授をしていらっしゃいました。この25年の医学の進歩の中で最も重要な動きであるEBMを作り出したEBMの父”です。

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(本文より引用)
 Sackett先生は、医学部時代はあまり優秀な医学生では無かった様ですが、それでも光るものを持っていた様でした。メンターに恵まれ、32歳の時に、ロンドンのSt Thomas病院の臨床疫学教授のWalter Holland先生から、McMaseter大学で新しい医学部を立ち上げる時に加わるように、John Evans教授を紹介されました。1966年のことです。Evans教授からの手紙は”out of the blue”だった様ですが、アメリカを離れたくなかったSackett先生はこの話を断っています。”never done anything”と非常に日本人的に謙虚に断ったのですが、Evans教授の熱意が最終的にSackett先生を口説き落とします。Evans教授は、今までとは違った医学校を作るという意気込みがあり、伝統的なタイプの医師を必要としていたわけではなかったのです。1967年に再度Evans先生はSackett先生に声をかけます。Sackett先生は、「僕は今まで研究助成金ももらったことはないし、論文は基礎研究のもののみだし、誰が自分と一緒に働きたい?誰がお金を出してくれる?」と悩んでいたのだそうで。それでもなんとかMcMaster大学の疫学教室へ参加します。

 その後、Sackett先生達は、CMAJに「Critical Appraisal 批判的吟味」という論文を投稿。更に、1985年にはClinical Epidemiology、1990年代には、JAMAのeditorとして、有名なUser's guideRational Examのコーナーを始めます。自信なかった割にものすごい活躍です。1994年にはOxfordのJohn Radcliffe病院のEBM部門での仕事にうつります。Oxfordに移ってからは、ヨーロッパ全土にEBMを広めていき、1998年までに全世界100カ所を回ったのだそうです。以下の2冊はSackett先生なくしては出来なかったでしょうね。

臨床のためのEBM入門―決定版JAMAユーザーズガイド

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JAMA版 論理的診察の技術

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 EBMは野火の様に拡がって行きます。そして若手医師・看護師・臨床医に力を与えました。ただ、EBMのあり方に色々意見が合った模様で、 BMJに総説”Evidence based medicine: what it is and what it isn't”を発表しました。Sackett先生の残したものは、12冊の本、60の章、300の論文と多大なものでしたが、最も有名なのは、「Importance of saying "No"」でした。

✓ EBMの父であるDavid Sackett先生がお亡くなりになりました
 

死亡1年前のADL障害度の経時的変化のパターン 
The role of interesting hospital admissions on trajectories of disability in the last year of life: prospective cohort study of older people*2

 人が亡くなる前の一年間のADLの変化について経時的変化を前向きに検証した興味深い研究が発表されていました。70歳以上の4つのADL(着衣・入浴・歩行・移乗)が保たれている住人754人を対象に、1ヶ月に1度電話をして前向きに調査を行い、そのうち実際に亡くなった552人で検討。死亡一年前のADL障害度の変化のパターンと入院の影響について分析しました。
 結果として、
①No disabilityは95人(17.2%)
②catastrophic disabilityは61人(11.1%)
③accelerated disabilityは53人(9.6%)
④Progressively mild disabilityは61人(11.1%)
⑤Progressively severe disabilityは127人(23.0%)
⑥Persistently severe disabilityは155人(28.1%)
の6群に分かれました。

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(本文より引用)

 392人(71.0%)は一年間に一度は入院を経験しており、248人(44.9%)は複数回の入院がありました。また、半分以上の人が死亡する一年前までADLが保たれているという結果でもあります。入院自体も独立したADL低下の予測因子となっており、今後入院によるADL低下を何とか阻止しようとコメントしていました。

✓ 亡くなる一年前のADL patternは大きく6つに分けられる。ADLだけでは予測できないとも言える


重症MRSA感染症へのST合剤高用量 
Trimethoprim-sulfamethoxazole versus vancomycin for severe infections caused by meticillin resistant Staphylococcus aureus: randomised controlled trial*3

 MRSA患者に対するST合剤の立ち位置はなかなかに難しいところではありますが、今回RCTでVCMと比較した研究が検証されています。
 論文のPICOは、

P:重症のMRSA感染症を呈した成人入院患者
(感染性心内膜炎・髄膜炎などは除外。皮膚感染症はSIRSの基準を満たすもの)
I:Sulfamethoxazole 1600mg+Trimethoprim 320mg 2回点滴
C:VCM 1g 2回点滴
O:7日後の治療失敗(死亡・38℃以上の発熱・SOFAスコアよくならず・sBP<90mmHg)
T:RCT/非劣性 Δ=15%
結果:
 平均66歳、cSSTI 35%、骨感染症 28%
 血液培養陽性 37%、48時間以内に適切な抗菌薬投与された患者は10%
 プライマリアウトカムの治療失敗率は、ST合剤 51/135人(38%) vs VCM 32/117人(27%)でRR1.38(0.95-1.99)と統計学有意差は無かったが、非劣性の基準を満たせず、ST合剤はVCMに非劣性とは言えない結果だった。
 菌血症患者で検討してもRR 1.40(0.91-2.16)、多変量解析を行うと有意差がつく結果だった。aOR 2.00(1.09-3.65)

  
 残念ながら、ST合剤はVCMと比較すると非劣性とは言えない結果でした。現時点ではST合剤を抗MRSA薬としては位置づけられないですよね。ただ、思ったより良いなという印象も。意外と骨軟部組織感染の維持療法として提案されることもあり、悩ましいなあと。

✓ 重症MRSA感染症に対するST合剤はVCMに非劣性ではなかった

 


■Lancet■

2型糖尿病への持効型GLP-1阻害剤 
Once-weekly dulaglutide versus bedtime insulin glargine, both in combination with prandial insulin lispro, in patients with type 2 diabetes(AWARD-4): a randomised, open-label, phase 3, non-inferiority study*4

 インスリン依存2型糖尿病に対する最期の手段は「basal-bolus」ですが、basalの部分にglargineではなく持効型GLP-1阻害薬を使用したらどうかというのが今回の非劣性試験です。
 論文のPICOは、

P:18歳以上の2型糖尿病患者 884人
  インスリン使用、BMI 23-45、HbA1c 7-11%
  lead in periodで内服を一旦メトホルミンのみにして他は全て中止に。
I/C:①dulaglutide 1.5mg + Insulin lispro、②dulaglatide 0.75mg + Insulin lispro、③Insulin glargine + Insulin lispro
O:26週後のHbA1c変化
T:RCT/非劣性試験/Δ=0.4%
結果:
 平均59歳、HbA1c 5.8%
 プライマリアウトカムは、①群は-1.64%(-1.78 to -1.50)、②群は-1.59%(-1.73 to -1.45%)、③群は-1.41%(-1.55 to -1.27%)と非劣性が証明された。

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(本文より引用)
 重篤な有害事象は、①群で27人(9%)、②群は44人(15%)、③群は54人(18%)だった。dulaglutideで最も多い有害事象は嘔気・下痢・嘔吐だった。


 イーライリリーのCOIありです。dulaglutideは週1回投与のGLP-1製剤でもちろんイーライリリーが販売元です。非劣性試験の設定が0.4%って何が根拠なんでしょうかねえ・・・週1回GLP-1製剤かあ。なんか抵抗あるんだよなあ。

✓ basal-bolus治療の際に、インスリン持効型をGLP-1製剤に変更してもHbA1c値は非劣性だった


2型糖尿病かつACSへのアログリプチン 
Heart failure and mortality outcomes in patients with type 2 diabetes taking alogliptin versus placebo in EXAMINE: a multicentre, randomised, double-blind trial*5

 DPP-4関連のstudyが最近どんどん発表されています。当初は血糖が改善したというstudyが多かったわけですが、最近は副作用に関するstudy、長期予後を検討したstudyが多くなってきています。今回は、企業スポンサーのRCTのサブ解析で、Alogliptinと心不全の関連について検証した研究です。ちなみに、同じDPP-4阻害剤でいうと、SaxagliptinのSAVOR-TIMI53 trialで心不全が増えることは分かっています。
 論文のPICOは、

P:2型糖尿病患者で15-90日以内にACSに罹患した患者
  HbA1c 6.5-11.0%、DPP-4阻害剤・GLP-1製剤使用していない患者
I:Alogliptin +通常治療群
C:プラセボ+通常治療群
O:Major Adverse Cardiovascular Endpoint(死亡・非致死性MI・非致死性Stroke・心不全入院)
T:RCT sub解析
結果:
 平均61歳、心不全既往 40%
 MACE compositeは、Alogliptin群 433/2701人(16.0%)、プラセボ群 441/2679(16.5%) HR 0.98(0.86-1.12)
 心不全入院は、Alogliptin群 85/2701人(3.1%)、プラセボ群 79/2679人(2.9%)HR 1.07(0.79-1.46)


 今回の結果では、Alogliptinは心血管イベントを増やすことは無く、心不全入院も増えないという結果でした。過去のSAVOR-TIMI53 trialでは、心不全入院が27%上昇しているという結果でした。EXAMINE研究はcomposite outcomeで、症例数も少ないというstudy自体の違いがありますが、DPP-4阻害剤の種類の違いによって副作用が違うという自体がありそうですね。少なくともSaxagliptin(オングリザⓇ)は心不全が心配ですね

✓ Alogliptinはプラセボと比較して心不全を増やさない