栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 骨粗鬆症の過剰診断/淋菌性関節炎/脳出血での原因検索/腕神経損傷への人工腕/尿管結石に対する薬物療法

BMJ

骨粗鬆症の過剰診断 
Overdiagnosis of bone fragility in the quest to prevent hip fracture*1

■Introduction■
 世界で年間約150万件の股関節骨折が発生。股関節骨折は骨粗鬆症関連骨折のほんの一部。
 1980年以前は、骨粗鬆症は骨折後に診断していた。1980年代に骨密度が測定できるようになり早期診断が可能に。
 1994年にはWHOが診断基準を発表し、Tスコア<-2.5を骨粗鬆症と定義
 1SD骨密度が低下し骨粗鬆症骨折リスクが2倍。ただ、この基準策定には製薬会社のサポートあり。
 1995年に初の効果的な骨粗鬆薬であるアレンドロネート登場。股関節骨折予防効果が初めて証明された。
 2000年代には骨密度測定の問題点が明らかに。
 「大半の股関節骨折は骨密度が正常」かつ骨粗鬆症患者の多くは無治療でも股関節骨折起こさない」ことが判明。
 2000年代に骨折予測モデルFRAX登場(WHO)し、10年骨折リスク予測法

■Drivers of change■
 ・現在のアプローチ法の基礎は以下の二つ
 ①骨密度ないし骨折予測法は股関節骨折を正確に予測
 ②骨折リスクの高い患者への治療は骨折を予防する
 →ここが揺らぐと厳しい。
 ・FRAX開発も骨密度検査も製薬会社が大きく関与し宣伝している。
 ・現状、米国・英国の骨粗鬆症学会ともに閉経後女性全員と50歳以上の男性全員へのスクリーニングを推奨。

■Effect on prevalence■
 ・2010年の骨密度で規定される骨粗鬆症率は、女性80歳以上で47%、男性80歳以上で16%
 ・「FRAXで10年骨折リスク>3%」が治療適応とすると、65歳以上の女性72%、75歳以上の女性93%が治療適応
 ・欧州ではNOGG基準を用いていて、こちらだともう少し治療適応は減る

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(本文より引用)

■Evidence of too much medicine■
①診断
 ・股関節骨折の中で、骨粗鬆症関連は全体の1/3未満で大半は外傷性。
 ・骨密度よりも「年齢」の方が骨折を11倍以上予測(例:55歳と比較して84歳女性は股関節骨折リスク44倍)
 ・骨密度よりも「平衡感覚に問題がありますか?」と聞く方が骨折を予測(例:平衡感覚の質問は全股関節骨折の40%を予測)
②治療
 ・OverdiagnosisはOvertreatmentに繋がる。
 ・最も重要である運動・生活習慣改善が疎かにされている
 ・ビスホスホネート系薬剤の股関節予防効果について、33RCTsでメタ解析を行った。
 ・女性を含む23RCTsで試算すると、股関節骨折減少 ARR 0.57%/3年(NNT 175/3年)だった。
 ・初のビスホスホネート製剤であるアレンドロネートは2015年には11億ドル売り上げ見込み
③エビデンスGap
 ・股関節骨折の75%以上は75歳以上の高齢者
 ・ところが、上記エビデンスの元になった23RCTsのうち75歳以上の高齢者が含まれるのはたった3RCTs
 ・75歳以上を含むRCTsのみで検討すると効果無し。つまり、最も骨折リスクのある患者に有効でない。
 ・最近行われた脆弱高齢女性のRCTでも同様の結果。
 ・男性での股関節骨折予防に関するビス製剤のRCTはなし 
 ・適切な治療期間も未だ不明で、FDAによるRCTのpool解析では、
  3年で中止:全骨折 8.0-8.8%
  3年以降も継続:全骨折 9.3-10.6%
 ・少なくともビス製剤を長期使用する理由は無い。
 ・その他の薬剤に関しては根拠がまだ不十分。RANKL阻害剤はデータの妥当性疑惑。Ca製剤・VitDは最近の研究結果的には微妙
 ・あるカナダの研究では、骨粗鬆症治療率に5倍の地域差があるがその地域毎の股関節骨折頻度は変わらなかったというデータもあり、骨粗鬆症治療が股関節骨折を減らすかどうかは不明。

■Evidence of alternative strategy■
 ・薬物療法に焦点が当たりすぎて非薬物療法がおろそかになっている。
 ・転倒予防プログラムの効果に関するメタ解析では、運動訓練は骨折リスクを60%減らす
 ・喫煙は修正可能な骨折リスク主要因子。骨密度より喫煙の方が骨折リスク
 ・今も昔も原則は変わらない。「禁煙・運動・良い食事」を骨密度無関係に推奨

■Harms from diagnosis or treatment■
 ・早期診断・治療については、診断の精神的ダメージを無視している。
 ・261人の骨密度検査を施行した女性での研究では、骨密度検査後、正常群と異常群の心理的変化を調査。
 ・検査正常群:転倒への恐怖 2%、転倒回避で活動制限 2%、検査異常群:転倒への恐怖 38%、転倒回避で活動制限 24%と異常群で心理的負担が大きかった
 ・ビス製剤は、消化器症状・骨折・顎骨壊死などと関連。10000人の長期使用で11人の非典型大腿骨骨折。薬剤中止理由の20%以上は消化器症状
 ・ビタミンD・Ca製剤は最近の研究でCVDリスク増加。1000人の5年間Ca製剤治療で6人のMI・Stroke増やす

✓ 骨粗鬆症診断・治療には様々な問題点があり、エビデンスのバランスを取って対応していく必要あり


淋菌性関節炎 
A limp with an unusual cause*2

 BMJのcase。41歳男性。5時間前からの急性発症の関節炎で来院。関節炎の部位は、右足・左手・右第3PIP関節。病歴を確認すると10日前に新しいパートナーと性交歴あり。体温 37.8℃、白血球・CRP・ESRは上昇しており、レントゲン所見では、軟部腫脹以外には骨の異常所見なし。NSAIDsで症状改善せず入院。何でしょう?と。

 多関節炎で鑑別診断のメインは、感染性関節炎か反応性関節炎か。急性発症なのでまずはseptic arthritisを疑うところです。感染性関節炎で最も多い起因菌は、黄色ブドウ球菌と連鎖球菌。頻度の少ないものとしては、グラム陰性桿菌の大腸菌や淋菌。リスクとしては、関節外傷既往・関節手術・人工関節・プレドニン・菌血症・薬物静注歴・RA・糖尿病・HIVなど。淋菌関節炎は播種性淋菌感染症の結果として起こり得る。反応性関節炎は、基本的には緩徐発症で移動性・付加性の関節炎。反応性関節炎の原因としては、Chlamydia trachomatisなどの性感染症サルモネラ赤痢・Campylobacterなどの消化管感染、パルボウイルスやEBV・コクサッキー・HBVHCVHIVなどのウイルス感染がある。他に鑑別を挙げるとすれば、seronegative RAや他の膠原病関連関節炎、痛風
 
 急性の関節炎は原則medical emergencyと考える必要あり。診断がついていなければ、そうで無いと分かるまでは、感染性(septic)として対応しましょうと。腫れている関節は抗菌薬投与前に全て刺せ!も原則。この原則は確かにあまり実践できてないかもなあ。淋菌感染の場合、培養陽性率は50%未満とも言われ、培養陽性患者のグラム染色も50%未満でしか陽性にならないため注意が必要です。グラム染色・培養陰性で否定しないことが重要。関節液培養が陰性の場合には典型的な病歴と他の部位の培養から検出されること。他の部位とは、子宮頚部や直腸・尿管などで、淋菌性関節炎の半分で培養が陽性になるそうです。またPCR検査も重要。

 治療は7日間の抗菌薬投与。現在の英国のガイドラインでは経静脈的第三世代セフェム(CTRX等)が推奨され、臨床症状が改善すれば経口薬に変更する。パートナーの治療も重要。膿瘍ドレナージが可能であればドレナージする。外科的治療は概ね不要。

✓ 淋菌関節炎は、亜急性経過の小〜多関節炎で遊走性。治療は7日間の第三世代セフェム


脳出血での原因検索 
Investigating intracerebral hemorrhage*3

 脳出血の原因の80%は高血圧性が大半。ただ、脳出血の予後は原因によって異なることや、原因によっては早期介入が有効なこともあります。ただ、臨床状況などによる原因予測は有用な因子は明らかになっておらず、「高齢者」「被殻」「高血圧既往」などは高血圧性脳出血を予測しないのだそうです。

 検査前確率での絞り込みが難しいので、ある程度のルーチン検査は必要だとコメント。具体的にはCTAもしくはMRAによる血管評価です。過去の研究ではCTAによるエビデンスが蓄積されています。また、血管評価で正常な場合に、次はMRIによる脳実質の構造的異常の評価を行うことになります。

 もう一つの鑑別疾患として静脈洞血栓症があります。脳内出血の原因になる事があり、その場合には静脈洞CTやMRIなどの画像検査が必要になります。非造影CTでも血栓を同定できることもありますが、正常だからと言って静脈洞血栓を否定できるものではありません。ある小規模施設の研究では、CT venographyの感度は95%、MRI venographyの感度 97%、特異度99%とされています。

✓ 脳出血の診断に際して、高血圧性と決めつける前に原因検索を


■Lancet■

腕神経叢損傷への人工腕 
Bionic reconstruction to restore hand function after brachial plexus injury: a case series of three patients*4

 腕神経損傷患者への人工腕症例の症例報告が発表されておりました。神経叢再建後も症状が変わらない人がピックアップされています。まあ、そもそも腕神経叢損傷の患者さんをみる機会は非常に稀ですが・・・

 腕神経叢損傷患者では、上肢機能は永続的に傷害されています。一般的には外科的再建術をが行われますが、成功率はあまり高くない為、何かしら他の方法での治療が望まれています。今回の人工腕手術は、まずは人工器官制御のために有用な筋電信号を同定し、続いて手を切断して人工器官に置換します。切断前に筋電信号や人工器官を強化する為にリハビリを行いました。

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(本文より引用)

 結果として、3ヶ月後の機能スコアで評価しています。DASH・ARAT・SHAPで評価し機能予後は比較的保たれていました。すごいですねえ。これ。症例を細かく見ると、受傷してから10年以上経過している症例もあるんですね。そもそも腕神経損傷の診断がきちんと出来るようになりたいです。

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(本文より引用)

✓ 腕神経損傷患者に対する治療法として人工腕移植術がある


尿管結石に対する薬物療法 
Medical explusive therapy in adults with ureteric colic: a multicentre, randomised, placebo-controlled trial*5

 尿管結石に対して薬物療法を行うと結石排出が早まるという効果は過去のメタ解析で証明されています。ただし、過去のメタ解析は、サンプルサイズが少ない、inclusion criteriaがバラバラ、outcome設定もバラバラ、maskingが不十分などの問題点が指摘されています。それを受けて、質の高い研究が求められています。
 今回の論文のPICOは、

P:18-65歳の成人で初回の尿管結石患者。結石はCTで証明。英国の24カ所の病院
I/C:①タムスロシン 400μg、②ニフェジピン 30mg、③プラセボを各4週間投与
O:4週間以内に結石に対して追加処置を必要とした患者の割合
T:RCT
結果:
 平均年齢42歳、女性は20%弱と少なめ、尿管結石は5m以下が多い、部位は下部多い
 1167人の患者が組み入れられ、解析は1136人(97%)のmodified ITT解析。
 プライマリアウトカムは、
 ①タムスロシン群 307/378(81%)、②ニフェジピン群 304/379(80%)、③プラセボ 303/379(80%)で各群ともに有意差なし
 重篤な有害事象はニフェジピン群で多く、下痢や嘔吐、筋肉痛、頭痛、胸痛など。

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(本文より引用)

 非常に興味深いですね。やはり質の悪いものを統合するよりも質の高いRCTsが一つでもある方が重要であると言う好例だと思いました。ガイドラインもこれをもとに推奨が変わる可能性がありますね。

✓ 尿管結石に対するタムスロシン・ニフェジピンなどの薬物療法プラセボと比較して排石率は同等