栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 潜在性甲状腺機能異常と股関節骨折/退院時説明/前立腺癌治療方針へ影響する因子/高齢者への帯状疱疹ワクチン/潜在性結核レビュー

■JAMA■

潜在性甲状腺機能異常と股関節骨折 
Subclinical thyroid dysfunction and fracture risk*1

 潜在性甲状腺機能異常関連の疾患リスクは色々なstudyが出ていますが、今回は潜在性甲状腺機能亢進症の話題です。過去の研究から甲状腺機能亢進症と股関節骨折とは関連するとされていますが、subclinicalがどうかは結論が出ていません。これまでの研究のメタ解析ではstudy毎だとheterogenesityが高い為結論が出せない状況でした。今回は、流行の個人データレベルのメタ解析を行って再検証しています。
 論文のPICOは、

P:13の前向き観察研究の70298が対象、平均follow up 12.1年
   米国・欧州・オーストラリア・日本のデータ
I:潜在性甲状腺機能亢進あり(fT4正常、TSH<0.45)
C:潜在性甲状腺機能亢進なし
O:非病的股関節骨折
T:Systematic review/random effect model
結果:
 全体の5.8%にあたる4092人が潜在性甲状腺機能低下症。3.2%にあたる2219人が潜在性甲状腺機能低下症。
 股関節骨折は2975人に発症(4.6%、12研究)、全ての骨折2528人、非脊椎骨折 2018人。
 ・股関節骨折に対する年齢・性別調整後のHR 1.36(95%CI:1.13-1.64)
 ・全ての骨折に対する年齢・性別調整後のHR 1.28(95%CI:1.06-1.53)
 ・非椎体骨折に対する年齢・性別調整後のHR 1.16(95%CI:0.95-1.41)
 ・椎体骨折に対する 年齢・性別調整後のHR 1.51(95%CI:0.93-2.45)

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(本文より引用)

 TSHが下がれば下がる程骨折リスクは高くなり、
 ・TSH<0.1だと股関節骨折に対するHR 1.61(1.21-2.15)
 ・TSH<0.1だと全ての骨折に対するHR 1.98(1.41-2.78) 
 ・TSH<0.1だと非椎体骨折に対するHR 1.61(0.96-2.71)
 ・TSH<0.1だと椎体骨折に対するHR 3.57(1.88-6.78)


 潜在性甲状腺機能亢進もリスクになるんですねえ。まあ、これが臨床的にどの程度意味があるか、これを抗甲状腺薬を使用することで防げるのか?などの課題は山積みです。ちなみにsubclinical hypothyroidismは関連しなかった様ですね。
   
✓ 潜在性甲状腺機能亢進症は股関節骨折のリスクになる。TSHが低ければ低い程リスクは増大する


退院時説明 
The art of discharge*2

 これはなかなか興味深いテーマです。記事はある女性の経験から始まります。とある女性が下腹部痛で入院。大腸に腫瘍が指摘されましたが、原因関して担当医師集団から特に説明無く退院となっています。退院時に、看護師に説明を求めたところ、説明が十分為されない上に、退院延長料金を取られたのだとか・・・

 「退院時説明」は、入院患者を預かる医療者集団にとって、「last word」であり非常に重要です。ところが多くの入院患者が退院時に十分な説明を受けていないことが分かってきています。例えば、入院患者395人に退院時アンケートを取ったところ、59%しか正しい診断名を答えられなかったのだそうです。一方ER受診後帰宅患者140人を対象に帰宅時指導内容を理解したか確認すると78%が理解していなかったというデータもあります。

 医者の言うことは伝わっていないとは言うものの、これほどひどいと改善が求められますよね。原因の一つには医師の時間の無さは関係しますが、他にも原因があると考えられています。一つはコミュニケーションスキル。医学教育において平易な言葉で話すと言うことの訓練を受けておらず、その重要性も強調されません。自分が平易な言葉を使っていると認識しているレジデントでさえ、実際に患者さんへの説明内容の質的研究によると1分間に平均2つの専門用語を使用しています。また、実際に医師が退院時説明ができないため、看護師が行っているというのも問題です。解決策としては、ベッドサイドでの患者教育が最も良い方法。退院時と言わず、普段のベッドサイドでの説明が重要です。

 皆様の施設ではどんな工夫をされていますか?個人的には、ご家族も呼んで皆に説明すること、文字やパンフレットを最大限用いること、医療者側も複数同席することなどは意識しています。説明内容をフォーマット化するのも重要かも知れません。個人的には退院療養計画書充実計画を実行したいわけですが・・・マンパワープリーズ。

✓ 退院時説明は医者と患者の共同作業


前立腺癌治療方針へ影響する因子 
Variation in prostate cancer care*3

 low riskの前立腺癌患者には治療待機が推奨されている。ところがその方針にvariationがあります。どれだけ医者個人の影響があるかどうかを調べた。
 論文のPICOは、

P:2006-2009年にlow risk前立腺癌と診断された66歳以上の男性12068人
I/C:泌尿器科医、②放射線科医、③患者特性、④腫瘍の特徴等
O:診断1年後の待機
T:後ろ向き観察研究
結果:
 1年後の時点で治療待機していたのは19.9%のみ。
 泌尿器科医によって待機率は4.5-64.2%と幅が広かった
 待機率に最も影響したのは、泌尿器科医 16.1%、患者や悪性腫瘍の特徴は7.9%
 「卒後間もない医師」及び「前立腺癌を多数手術している泌尿器科医」がリスク


 面白いですね。ガイドライン推奨を守らない要因を検証する。日本のガイドラインはそもそもまだこのレベルに無いことは痛感しますね。こういった要因を明らかにすることで、誰にアプローチすべきかが明らかになりますね。

✓ 低リスクの前立腺癌に対する治療待機を守らないのは、泌尿器科医要因が最も影響



■NEJM■

高齢者への帯状疱疹ワクチン 
Efficacy of an adjuvanted herpes zoster subunit vaccine in older adults*4

 さあ帯状疱疹ワクチンが本格的に検証されつつあります。帯状疱疹は水痘帯状疱疹ウイルスの再活性化。成人の90%はVZVに既往感染であり、帯状疱疹リスクがあります。特に50歳以上や免疫抑制状態では発症リスクが高まりますが、どの年代にも起こり得ます。合併症としては帯状疱疹後神経痛(PHN)があり、年齢が高まると重症化することも分かっています。これまでのVZV生ワクチン効果は50歳代 70%減少、60歳代 64%減少、70歳代 38%減少と高齢者になると効果が減弱することも分かっています。今回生ワクチンではない新規の帯状疱疹ワクチンが開発され検証されています。
 論文のPICOは、

P:帯状疱疹既往もワクチン歴もない免疫正常な50歳以上の15411人
I:VZVワクチン 0、2ヶ月の2回接種
C:プラセボ
O:帯状疱疹発生(PCR診断もしくは5人の専門医の満場一致診断)
T:RCT
結果:
 平均62歳、アジア人19%、平均3.2年follow up
 プライマリアウトカムの帯状疱疹発生率は、VZVワクチン群で6/7344人、プラセボ群で210/7415人
 発生率は、0.3% vs 9.1%/1000人年。ワクチン効果はおよそ96.6%-97.9%と推測
 全身症状の副作用は、VZV群で2894/4375人、プラセボ群で1293/4378人
 重篤な有害事象はVZV群87人、プラセボ群97人、死亡はVZV群8人、プラセボ群7人。

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(本文より引用)


 ワクチン効果は素晴らしいですね。過去に報告された生ワクチンよりもだいぶ良い効果です。
 follow up期間は約3年でまだまだ不十分。長期の安全性が課題です。

✓ 新規の帯状疱疹ワクチンは帯状疱疹有意に減少させる


潜在性結核レビュー 
Latent Mycobacterium tuberculosis infection*5

■pathogenesis■
 潜在性結核という疾患概念は、近年普及しておりメジャーになってきています。ただ、一方で活動性結核と潜在性結核を明確に区別する方法も無いと言われています。そもそも潜在性結核は、診断自体直接結核菌を検出している訳では無い事にも限界があります。

■Epidemiology and risk groups■
 潜在性結核はおよそ世界人口の1/3(20億人以上)とも言われ、年間発症率は南アフリカで4.2%、ベトナムで1.7%、米国では0.03%と言われている。大半の新規発症結核は、潜在性結核の再活性化によると言われています。活動性結核患者と同居する人の1/3は結核感染を来していると言われています。

■diagnosis■
 ツベルクリン皮膚テストとIGRAが間接的に結核菌感染を同定可能な検査である。結核菌抗原に対する宿主反応の記憶Tcell応答を間接的に測定しています。ツ反は安価であり広く用いられていますが、BCG接種患者では特異度が低く、免疫抑制患者では感度が低い。また、判定のためには2-5日後に戻ってこなくてはならず、自己計測で代行している研究もありますが、自己診断はエラーが多いと言われています。
 IGRAについては、偽性反応として、偽陽性偽陰性がしばしば指摘されていますが、最近では実はツベルクリン反応よりも多い事が分かってきました。

■treatment■
 潜在性結核の治療の目的は、活動性結核への進展を防ぐことです。INH連日投与(6-12ヶ月)が現在のメジャーな治療法であり、治療効果は60-90%と言われています。プラセボとの比較試験ではありませんが、現状は9ヶ月のINH治療が推奨されていますが、11個のINH関連の臨床研究で73375人の非HIV患者での検証では、活動性結核への進展予防効果は、6ヶ月時点でRR 0.44(95%CI:0.27-0.73)で、12ヶ月時点でRR 0.38(95%CI:0.28-0.50)だった。

■Clinical evaluation and monitoring■
 評価としては、まずツ反・IGRAによる診断に加えて、活動性結核除外目的に胸部X線を施行すべき。治療中の患者さんには薬剤副作用・毒性を説明の上、特に肝機能障害や黄疸・腹痛・嘔気・発熱などに中止するよう説明。米国の研究では、潜在性結核と診断されたが治療拒否したのが17%、治療完遂できたのが19-96%と言われています。

✓ 潜在性結核は今後多くのプライマリケア医にとって熟知しておく必要のある疾患