栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:慢性C型肝炎の治療/NMDA受容体抗体脳炎の診断/ABIでは診断できないPADの診断

MKSAPです。こんなゆっくり解いてるところあんまりないかもしれないっすねえ。浮気者なのでそろそろSwansonにも手を出したいなあとか思うわけですが。

慢性C型肝炎の治療  Treat chronic hepatitis C infection

❶症例 
  55歳男性が、慢性C型肝炎の評価目的に受診。内服薬なし。
 身体所見では、体温 36.8℃、血圧 135/82mmHg、Pulse 66bpm、RR 16/min、BMI 30だった。
 腹部超音波では胆石を認めたが、他には異常所見なく、肝生検では軽度の炎症と肝硬変には至らないが進行性の繊維化を認めた。

 この患者の最も適切な管理はどれか?

 ❷慢性C型肝炎
 本患者は、慢性C型肝炎で進行した繊維化があるため、抗ウイルス薬の適応である。慢性C型肝炎はしばしば進行性で肝硬変や肝細胞癌を来す可能性がある。HCV治療のゴールは、SVR(ウイルス学的寛解)を維持する事で、治療終了6ヶ月後のHCV-RNAで評価される。SVRの結果が患者アウトカムと関連する事が分かっており、最終的に全死亡を減少させる。肝硬変患者のある患者は、無い患者と比較してSVRに達しにくい。HCV治療は急速に進歩しており、新規の経口抗ウイルス薬(DAA)の併用療法が2014年にFDAに認可され、インターフェロンの使用は減少傾向である。

❸治療選択肢
ステロイド慢性C型肝炎の肝外症状は血液学的異常(クリオグロブリン血症・悪性リンパ腫等)や皮膚疾患、自己免疫性疾患(甲状腺炎)、腎疾患など多彩である。これらの症状に対して、ステロイドと抗ウイルス薬による治療が効果があることがあるが、本患者ではステロイドの適応にはならない。ステロイドの使用はウイルス増幅を増すため、ステロイドの適応のある患者では使用すべきではない。
肝移植:非代償性肝硬変の場合には肝移植も検討される。本患者では肝予備能が保たれており、非代償性肝硬変を示唆する症状は認めないため、現時点では肝移植を検討する必要は無い。

肝生検:6ヶ月後に肝生検を繰り返すことは有用な追加情報をもたらさず、患者マネージメントも変わらない。
肝機能follow:GOT/GPTなどの肝機能をfollow upすることは、本患者では不適切である。患者は繊維化の進行を認めており、肝硬変伸展リスクは25%以上と高い。本患者では肝硬変の診断はついていないものの、繊維化があることを念頭に置くべきである。

Key Point
✓ HCVの治療は急速に進歩しており、新規の経口抗ウイルス薬の併用療法がFDAで認可され、ペグインターフェロン利用は減少するだろう。

Ghany MG, Strader DB, Thomas DL, Seeff LB; American Association for the Study of Liver Diseases. Diagnosis, management, and treatment of hepatitis C: an update. Hepatology. 2009;49(4):1335-1374. PMID: 19330875

 

 

NMDA受容体抗体脳炎の診断 Diagnose anti-NMDA receptor encephalitis

❶症例
  22歳女性が、新規発症の痙攣を主訴に救急搬送された。3週間前に感冒症状と筋痛があった。その後から、彼女の家族や友人は、おかしな行動をとっていると感じる様になり、嫉妬妄想が出たり、ラジオアナウンサーが頭の中で語りかけてきたりするなどの症状が出ていた。過去の既往歴は良性の卵巣奇形腫のみ。
 身体所見では、体温 36.7℃、BP 110/60mmHg、Pulse 90bpm、RR 14/minだった。間欠的な口唇の吸啜不随意運動が見られていた。
 髄液検査結果は以下。

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(本文より引用)

 MRIのFLAIR画像では両側頭頂葉に高信号域を認めている。
 この患者で最も考えられる診断はどれか?

 ❷NMDA受容体抗体脳炎
  本患者で最も考えられる診断はNMDA受容体抗体脳炎である。古典的には辺縁系脳炎の一種で、亜急性経過の記憶障害・人格変化・精神症状・脳炎症状・痙攣などが特徴的である。口唇ジスキネジア(不随意の口唇運動)は、この腫瘍随伴症候群に良くある症状の1つで、最も関係するのは片側性もしくは両側性の卵巣奇形種である。症状の発症は、インフルエンザ様の前駆症状がある事が多い。MRI FLAIR画像では、片側もしくは両側の側頭葉に高信号を認めることがある。脳脊髄液検査(CSF)では、典型的には正常もしくは軽度のリンパ球増多、正常もしくは軽度蛋白上昇の所見が得られる。診断確定の為には、脳脊髄液中もしくは血清中の抗NMDA受容体抗体の検出が重要である。骨盤部超音波やMRIでは奇形腫があると、より積極的にNMDA受容体抗体脳炎が疑われるが、必須ではない。というのも男性・女性、奇形種の有無によらず本疾患が見られるからである。早期治療が患者予後を良くすると言われており、早期の卵巣摘出術(少なくとも片側、場合によっては両側)や血漿交換、ガンマグロブリン療法、ステロイドなどを併用する。

 ❸他の鑑別診断は?
抗Hu抗体陽性の腫瘍随伴症候群:鑑別として、抗Hu抗体陽性による腫瘍随伴症候群が挙げられるが、症状は運動感覚症状がメイン。辺縁系脳炎の合併は全患者の10-20%程度である。抗Hu抗体は高齢者で陽性になることが多く、肺小細胞癌に合併することが多い
ヘルペスウイルス感染症
ヘルペスウイルスは、辺縁系脳炎を来しうる。また、症状も記憶障害・精神症状・痙攣など本症例とも矛盾しない。しかし、通常の免疫状態の患者では症状はもっと急性経過であり、週単位というよりは日単位の進行があると考えられる。発熱もしばしば見られるが、口唇ジスキネジアは典型的ではない。髄液所見は、リンパ球増多(100-200/μl)で蛋白増多は伴う場合と伴わない場合がある。また、髄液検査が正常のことやtrauma tapではないのに赤血球が増多していることもあり、どの所見も診断に対して感度・特異度ともに高くない。MRIは側頭葉にFLAIR高信号域を認める。ヘルペス脳炎の診断が最も疑わしいわけでは無かったとしても、髄液中ヘルペスPCRを提出しながら、ACVによるempirical治療を行うべきである。
髄膜炎脳実質を取り囲んでいる、髄膜炎やその他の髄膜症は、脳炎と区別する必要がある。髄膜炎のみでは記憶障害や精神症状・痙攣は来さない。脳脊髄液はリンパ球有意の細胞数増多、MRIでは髄膜の炎症を描出できるかもしれない。

Key Point
✓ NMDA受容体抗体脳炎の診断には、脳脊髄液もしくは血清のNMDA受容体抗体の検出が必要である。

Dalmau J, Gleichman AJ, Hughes EG, et al. Anti-NMDA-receptor encephalitis: case series and analysis of the effects of antibodies. Lancet Neurol. 2008;7(12):1091-1098. PMID: 18851928

 

ABIでは同定できないPADの診断 Diagnose pripheral arterial disease in a patient with an uniterpretable ankle-brachial index

❶症例

 68歳女性が、6ヶ月前から、下肢の重たい感じと表現される様な、進行性の労作時の下肢不快感を主訴に外来受診された。症状は安静で5-10分程度で改善する。同様の症状が自転車運転中もある。既往歴は高血圧・2型糖尿病脂質異常症があり、喫煙歴なし。内服はバルサルタン・ヒドロクロロチアジド・メトホルミン・ロスバスタチンだった。
  身体所見では、発熱なし、BP 130/84mmHgで左右差なし。右下肢の収縮期血圧は184mmHg、左下肢も186mmHg、Pulse 78bpm 整、RR 14/min、BMI 30だった。下肢遠位の脈拍触知は弱まるが左右差は無く、足中指のつま先の感覚は両側で低下していた。腹部・大腿部の血管雑音は聴取せず、膝とアキレス腱の深部腱反射は2+で左右差を認めなかった。下肢MMTは5/5だった。

 本患者の下肢痛を評価するのに最も適切な検査方法はどれか?

 ❷ABI正常の末梢動脈疾患
 本患者で、最も適切な検査は拇指の圧測定である。ABI(足関節上腕血圧比)は、両側の足背・後脛骨動脈の収縮期血圧を測定することで得られる。ABI<0.9はPAD診断に有用である。
 本患者では両側ABI 1.4であり、閉塞性血管病変は疑われないが、石灰化病変の可能性が残る。ABI>1.4もまた正常ABIと比較すると心血管イベントと関連している可能性がある。この様な症例では次のステップは、拇指の収縮期圧を測定することである。即ち拇指上腕血圧比(TBI)である。
 拇指の静脈が閉塞を起こすことは稀で、拇指収縮期圧が40mmHg以上低下するもしくはTBI<0.7はPADの診断に寄与する。

 ❸他の検査
 神経伝導速度おそらくこの患者は末梢神経障害があり、軽度の触診は触知出来ないかもしれないが、それが労作時の疼痛という症状の原因になるとは考えにくい。現時点で神経伝導速度は不要。
 運動負荷ABI臨床症状からPADが疑われるが、ABIは1.0-1.4と正常もしくは境界域にある症例の場合には運動負荷後のABIが良い適応となる。安静時ABIと比較して20%以上の低下は有意なPADと考えて良い。本患者ではABIが正常域よりも高い数値であり、石灰化病変などの鑑別を考えるべきである。
 腰椎MRI歩行時の足の不快感から脊柱管狭窄症が鑑別に挙がり、患者はしばしば長時間立位後に症状を訴える。この不快感は、臥位の体勢や腰を屈曲したりすると改善する。本患者の身体所見では、運動感覚障害は神経根圧迫に由来するような症状ではなく、さらに自転車でも症状が出現することが脊柱管狭窄症らしくない。動脈血流不全による跛行だと自転車でも症状が出うる。現時点では腰椎MRIは不要である。

Key Point
✓ PAD疑いの患者でABI>1.4では診断が難しいので、母指収縮期圧が診断に役立つ。

Stein R, Hriljac I, Halperin JL, Gustavson SM, Teodorescu V, Olin JW. Limitation of the resting ankle-brachial index in symptomatic patients with peripheral arterial disease. Vasc Med. 2006;11(1):29-33. PMID: 16669410

 

MKSAP 16: Medical Knowledge Self-Assessment Program

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MKSAP for Students 5

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