栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 2型糖尿病への第一選択薬/食事に関するガイドライン/末期認知症ケア/肝性脳症での眼球所見/医学的事実と価値

■JAMA■

2型糖尿病への第一選択薬 
Metformin as initial oral therapy in type2 diabetes*1

 この手のことが話題になるってこと自体が世界でさほど使われていないという証左な気もしますが。今回JAMA Intern Medに掲載された論文の紹介コーナーです。取り上げられていた論文は

 Initial Choice of oral glucose-lowering medication for diabetes mellitus: a patient-centered comperative effectiveness study
 JAMA Intern Med.2014;174(12):1955-1962
 現在、2型糖尿病に対する単独治療として認可されている薬剤は全11種類。メトホルミンが第一選択であることはADAのrecommendationも含めて揺るぎないが、現実として米国では初回使用の70%程度に留まると言われています。まあ、それでも十分ですが。今回、そんな現状を踏まえて初回治療に用いられた4種類の薬剤の効果比較を行っています。
 論文のPICOは、

P:新規糖尿病薬を開始する2型糖尿病患者15516人
  処方箋記録を元に2階以上連続で同効薬が処方された場合をカウント
I/C:メトホルミン・SU剤・チアゾリジン・DPP-4阻害薬
O:2種類目の経口血糖降下薬開始もしくはインスリン開始までの時間
T:後ろ向きコホート
結果:
 初回メトホルミン使用は57.8%。
 初回治療開始され1年以内に36%で薬剤追加もしくはインスリン開始されている
 メトホルミンを1とした場合の他薬剤の追加治療リスクは、DPP-4 HR 1.62、SU HR 1.68、チアゾリジン HR 1.61だった。
 服薬アドヒアランスは、DPP-4>SU・チアゾリジン
 ER受診率は、メトホルミンと比べてSU剤 HR 1.23、心血管疾患リスク HR 1.16
 医療費用は、DPP-4・チアゾリジンはメトホルミン・SUの4倍


 今回の研究でメトホルミンは結構第2選択などでは用いられているのだそうです。ADAやEASDはメトホルミンを第一選択にしていますが、アメリカ内分泌学会は推奨を横並びにしており、日本と似たようなスタンスかな?まあ、でもとりあえず、効果・値段などを考えればメトホルミンを第一選択にしましょう!と。

✓ メトホルミンは2型糖尿病患者の第一選択だが、意外と敬遠されている


食事に関するガイドライン 
The 2015 US Dietary Guidelines Lifting the Ban on total dietary fat*2

 食事についてのガイドラインは米国では5年に1度改訂されている模様で、今回もリリースされています。興味のある方は本文を是非ご参照下さい。
http://www.health.gov /dietaryguidelines/2015-scientific-report/.
 で、ざっくりサマライズしてくれているわけですが。結構びっくりしたのが”脂肪の扱い”でした。コレステロールは、食物成分として問題あり」とされていた文言が削除されたのだそうです。実は食事中のコレステロール量が増えても血中コレステロールや臨床イベントに関連ないとする報告が多く、現時点で食事中のコレステロールを過度に制限する必要が無いとの理由からです。なるほどー。もう一つも同様で、「食事内容の割合」で脂肪分の上限がなくなりました。それよりも「野菜」や「精白されていない穀物」を多く取り、ジュースや肉を避けることが強調されています。

 過去の推奨は、1980年代に脂肪 30%以下、2005年に脂肪20-35%程度と脂肪の割合を制限してきたのから一転といったところでしょうか。むしろ、飽和脂肪酸は炭水化物と比較して、HDL・ApoBへの影響が少ないこと、低脂肪→炭水化物過剰に繋がってしまい、健康的な脂肪摂取量も低下したことなどが反省点の模様。

 なるほどー。結構理詰めですね。そして改訂時にこうやって適切な修正をかけられるのが、学術集団として素晴らしいなと感じています。重要なのは、肉や精白された穀物・ジュースなどを減らして、野菜・健康的脂肪を増やすことでしょうか。

✓ 食事に関するガイドラインで食事中の脂肪に関する制限は撤廃された
 

 


■NEJM■

末期認知症ケア 
Advanced dementia*3

 末期認知症に関するレビューです。とても重要な内容が多くて、抜粋しようかとも思ったのですが、ほぼ全文羅列で掲載することにしました。この文献は他にも多くのブログで取り上げられているので、相補的に見て頂ければ良いかなと思います。個人的には迷いがなさ過ぎる気もしますし、抗菌薬投与ためらうのかあ・・・とも思いますが、合理的に考えればこの通りであること、実際にその行為によって家族ではなく本人を苦しめている可能性がある事などを考えると悩みます。まあ、ご一読下され。

■症例■
 Alzheimer型認知症と診断され10年経過した89歳施設入所男性。6ヶ月前から食事中のむせが増えて、嚥下機能が低下。記憶障害があり、自分の娘も認識できず、活動度はベッド上。言葉は数個程度で日常生活は何も出来ず。
 今回、38.3℃の発熱とRR 28/minの頻呼吸、喀痰を認め、施設の看護師が入院させるべきかを聞いてきた。

■Clinical Problem■
 2014年に米国のAlzheimer型認知症患者は500万人と言われ、2050年には1400万人まで増加する見込み
 2011年の時点で米国の死因の第6位がAlzheimer型認知症
 診断後の生存期間は3-12年と言われている。ただし、その期間の大半を重症Stageで過ごす
 施設はAlzheimer型認知症患者の最も多い死に場所
 末期認知症患者の評価方法として、Global Deterioration Scale(GDS)が用いられる。Stage 7は家族認知×、発語×、移動×、ADL×、失禁ありといったレベル。
 末期認知症患者の自然歴はCASCADE研究が有名で、323人の施設入所末期認知症患者の前向き研究
 18ヶ月のfollow upで生存期間は1.3年。
 最も多い問題は摂食の問題(86%)、発熱(53%)、肺炎(41%)
 寿命推定も難しく、米国でのホスピス入所の条件は生存期間6ヶ月未満。 
 生存予測困難なので、「快適さへの希望」の有無を確認することが重要

■Strategy and Evidence■
①アプローチ
 Advance care plannningが重要
 患者家族には疾患自然歴と合併症について適切に説明すべき
 以前患者が表明していた意思や家族の意思を確認(認知症発症前に意思表明されていると緩和ケア↑)
 治療決定は、患者家族とのShared decision makingが大事
 goal設定として、「快適さ」なのか「生存期間延長」なのかを明確に。順立てて提示すると、90%以上の患者家族は「快適さ」を選択する。

②合併症:摂食問題
 摂食問題は末期認知症患者で最も多い合併症。嚥下障害のみならず食事拒否なども含まれる。
 ただ、急性の問題の場合には可逆的な原因を探るべき。意外に保存的に対処出来ることも多い
 摂食問題が改善しない場合には、hand feeding(食事介助)とtube feeding(胃管・胃瘻)がある。
 食事介助のゴールは「カロリー摂取」ではなく「快適さ」。食事を楽しめるか。
 食事自体も緩和ケアであるという位置づけ。
 2009年のコクランメタ解析では、観察研究を解析している。この領域のRCTは存在しない
 生存・QOL・栄養・機能・褥瘡に有意差なく、むしろ褥瘡を増やすかもしれない。
 現時点で各種団体はtube feedingに反対する意見が多い
 PEG造設には、病院の性質や規模、ICU利用率などが関連する
 feeding方法の選択には、Decision support toolが有用。用いることで、患者家族の葛藤がへり、知識が増える。hand feedingも増える傾向。

③合併症:感染
 末期認知症患者では感染症を起こすことが多い。
 362人の施設認知症患者の前向き研究(SPREAD研究)では12ヶ月間で67%の患者が感染症診断を受ける。主に呼吸器・尿路感染。
 末期認知症患者さんの半分は亡くなる2週間前に肺炎と診断されている
 肺炎で入院した末期認知症患者さんはその後半年以内に50%が亡くなる

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(本文より引用)

 施設末期認知症患者の52-66%に12ヶ月間で抗菌薬治療を受けている。そしてその多くが不適切使用
 抗菌薬使用の適応をminimal clinical criteriaを用いて判断するが、その基準を満たすのも50%未満と言われている。
 不適切抗菌薬使用は耐性菌増加に繋がる

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(本文より引用)

 末期認知症患者への抗菌薬効果のRCTはない。
 抗菌薬投与は症状緩和に繋がらない可能性あり
 323人の施設末期認知症患者の前向き研究で、経過中に肺炎が疑われた225人を検討。
 ・抗菌薬投与群が非投与群より平均27.3日長生き → 生存期間延長 
 ・抗菌薬投与群が非投与群よりQOL悪い → 快適さ悪い(SM-EOLDスコア)
 患者家族には何がゴールかを確認すべき。
 ・快適さを求めるなら→緩和のみ、生存期間を求めるなら→抗菌薬治療

④合併症:入院
 米国の認知症患者の16%は病院で死亡。入院理由で最も多いのが感染症
 施設末期認知症患者の入院75%は回避可能。これは患者意思に矛盾するか医学的に不適切な入院。
 多くの患者が望むのは快適さであり、それは病院では実現できない
 不本意な入院回避の鍵はAdvance care plannnig

⑤合併症:緩和ケア
 施設末期認知症患者の多くが緩和されずに死亡
 ・死亡する1週間以内に25-50%の患者に疼痛あり、33%に呼吸困難や興奮あり
 認知症患者の疼痛評価は難しく多くは見逃されている。ただし、妥当性が評価されている認知症患者用介護者評価方法(PAINAD)あり。

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(本文より引用)

 興奮には非薬物療法が有効。抗精神病薬は死亡を増やすかもしれず
 末期認知症患者の大半はホスピスケアを受けていない
 2007年のアメリカでは末期認知症の33%のみ、本邦では・・・
 観察研究では認知症患者に対するホスピスケアは以下と関連
 ・病院での死亡リスク減少
 ・死亡前30日以内の入院リスク減少
 ・疼痛・呼吸困難への緩和治療率上昇
 ・患者家族満足度上昇

⑥薬剤使用
 末期認知症患者の多くが不適切な薬剤投与を受けている。
 2008年にexpert panelが不適切薬剤を定義している
 不適切の基準は従来のEvidenceではなく、「快適さ」を目標とする末期認知症患者への不適切性
 例)過度な血糖コントロールやアスピリンなどの予防薬。薬による害が出ていないかの評価
 施設末期認知症患者の54%に最低1剤以上の不適切使用あり
 不適切な薬剤で最も多いのは、①AChE阻害剤 36%、②メマンチン 25%、③スタチン 25%

■Conclusions and Recommendation■
 本症例は施設末期認知症患者の嚥下性肺臓炎疑い。抗菌薬開始期順のminimal clinical criteriaは満たすが、抗菌薬治療を開始する前に、患者家族にゴールの確認をすべき。「快適さ」「生存期間延長」どちらを選択するか。「快適さ」を選ぶのであれば、症状緩和のみ。「生存期間延長」を選択した場合には、家族に「肺炎は嚥下機能の問題で起こっており、今後も続くこと」、「治療に関係なく予後不良である事」は説明すべき。それでも「生存期間延長」を希望される場合には抗菌薬治療を。

✓ 終末期認知症患者さんに提供すべき医療を再興する。キーは生存期間延長なのか快適さなのか


肝性脳症での眼球所見 
Ping-pong gaze*4

 なかなか興味深い症例報告。ネーミングが上手ですねえ。
 症例は55歳男性。アルコール性肝硬変の既往のある患者が自宅で意識がないところを発見され、肝性脳症で入院しています。意識レベルは結構意識障害が強く、刺激に最低限反応する程度。両上下肢rigidityありで、Babinski反射 ext/extの状態。で、眼球運動を確認すると2−4秒毎に左右に共同偏視が出現する状態とな。ビデオはある模様です。対光反射は保たれている。頭部MRIは異常所見なく、脳波では肝性脳症に矛盾しない所見。アンモニアは350μmol/L。

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(本文より引用)
 
 ping-pong gaze”は、両側大脳半球梗塞や小脳中心部出血などびまん性の構造変化による不可逆的昏睡状態患者に起きることが報告されているんだそうです。本患者では、神経眼科学的眼球運動異常は一過性、可逆的であり、ラクツロース投与48時間後には、アンモニア値は正常化し、脳症とping-pong gazeは改善していた。1週間後には退院。なるほどー。

✓ 大脳の広範な構造異常によって引き起こされる”ping-pong gaze”が肝性脳症で起こる可能性がある


医学的事実と価値 
Medical facts versus value judgements - toward preference-sensitive guidelines*5

 まず、最初に症例が出てきています。60歳男性の前立腺癌患者で、high grade adenocarcinomaで、early stageであり、ガイドラインでは治療を推奨しています。ただし、アメリカ泌尿器学会のガイドラインでは患者の価値観も考慮して、active survey waitingもOKとしています。これはまさにEBMのStep4であり、患者価値観と実際の医学的事実(エビデンス)と統合していく作業が必要です。

 前立腺癌に対しては、積極的早期治療も経過観察もそこまで大きな予後の差はないし、「治療で仕事を中断したくない」、「治療でsex lifeを障害されたくない」などの患者の価値観・希望も考慮すべきです。そういった意味では、治療は、客観的医学的事実(FACT)と患者の価値観(VALUE)で決定されます。もちろん、それ以外に患者の状況や費用など多くの要因が関連します。治療方針を決めていく際に、Pros & Consを知っていることも重要。時折debateする事も重要ですね。Evidenceに縛られないために。そして絶対的なEvidenceなどどこにもないのだという感覚

 ただ、EBMに対して若干悩みがあるとすれば、EBMは主語が医療者だということです。「患者への適応」と言っている時点でこちら側視点ですね。本来医療の主語は、患者さん・家族であるべきです。私達は伴走者。医学的事実も価値も両輪です。どちらか一方が欠けると、「冷酷な名医」や「優しい藪医者」になりますね。ある意味、医学的事実・技量を最優先していた医師がBlackJackですかねー。そして、人はそこを凄いと思うという事実もあります。とはいえ、そこに垣間見える本当の優しさが人気なのかもしれませんが・・・長くなりそうなので、この辺はまたどこかで書きたいなあ。

✓ 医療を提供するにあたり、医学的事実と患者さんの価値はともに重要な両輪