栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:横断性脊髄炎の治療/手根管症候群の治療/菌血症合併の肺炎球菌肺炎の治療

MKSAPを少しずつ。
今週もなかなか考えさせられました。
抗菌薬選択は注意していたつもりですが、治療期間は思っていた以上に短い。
米国の入院事情もあるでしょうが、私達は長く使用する傾向があるという認識は必要そうですね。

横断性脊髄炎の治療  Treat corticosteroid-refractory idiopathic transverse myelitis

❶症例 
  19歳女性が、2週間前に3日間のウイルス性胃腸炎症状後に排尿障害を認め、その後から両下肢の筋力低下と痺れを訴え入院した。本人にも家族にも特記すべき既往歴なく、内服薬もなし。
  身体所見では、T 36.7℃、BP 96/55mmHg、Pulse 66bpm。両下肢筋力低下と臍以下の感覚障害、下肢の腱反射は亢進していた。

f:id:tyabu7973:20150715060548j:plain(本文より引用)

 胸髄MRI T2では、胸髄T9レベルでの高信号域を認め、ガドリニウム造影効果を認めた。抗酸菌培養と髄液細菌は陰性だった。
 高用量経静脈的メチルプレドニゾロンが開始された。5日後に症状は改善していた。

 この患者に次に行うべき最も適切な治療はどれか?

 ❷横断性脊髄炎
 本患者は、両下肢対麻痺、臍以下の感覚障害、下肢の腱反射亢進の臨床症状と脳脊髄液検査のリンパ球増多、造影MRIでの胸髄炎症所見から、感染症後の特発性横断性脊髄炎が疑われる。脊髄レベルの感覚障害と腱反射亢進は、病変が脊髄病変である事を示唆し、Guillain-Barre症候群は否定的である。横断性脊髄炎は、自己免疫性機序が疑われる疾患である。治療の第一選択はメチルプレドニゾロンなどの高用量ステロイドだが、本症例は治療反応が乏しかった。ステロイド抵抗性横断性脊髄炎に対するベストな治療法は、血漿交換・シクロホスファミド単独もしくは両者併用である。

❸治療選択肢
酢酸グラチラマー:多発性硬化症の第一選択薬。多発性硬化症の免疫応答に病態生理的に調整すると考えられており、忍容性は良好で再発を1/3程度に減らすとされている。横断性脊髄炎では用いられない。

ステロイド増量:本患者では高用量ステロイドに抵抗性であり、ステロイドを増量することで効果があるというエビデンスは無い。

メソトレキサート(MTX):MTXに抗炎症効果はあるが、ステロイド抵抗性横断性脊髄炎の治療効果は証明されていない。

Key Point
✓ ステロイド抵抗性の横断脊髄炎のエビデンスに基づいた治療は、血漿交換 and/or シクロホスファミドである。

Greenberg BM, Thomas KP, Krishnan C, Kaplin AI, Calabresi PA, Kerr DA. Idiopathic transverse myelitis: corticosteroids, plasma exchange, or cyclophosphamide. Neurology. 2007;68(19):1614-1617. PMID: 17485649

 

 

手根管症候群の治療 Manage carpal tunnel syndrome

❶症例
  45歳女性が、3ヶ月前から徐々に増悪する右前腕・手首・右手の違和感と痺れ、チクチクした感じを主訴に外来を受診。痛みは夜に悪化し、睡眠を傷害することもある。
 身体所見では、バイタルは正常で、神経学的診察ではつまむ力の低下と、第2・3・4指のわずかな痺れを自覚していた。

 この患者の最も適切な管理はどれか?

 手根管症候群
  特に夜に増悪する手や前腕の疼痛・しびれは手根管症候群の症状で、進行例では握力などの筋力低下も見られる。身体所見では、正中神経領域(手掌側の第1-3指と第4指の橈側)の感覚低下と母指球萎縮が認められる。Phalen徴候・Tinel徴候は、他の手の感覚異常を来す疾患と手根管症候群を適切に鑑別できない。筋電図と神経伝導速度は診断が不確定なとき、治療に反応しないとき、外科的治療適応を検討しているときに検査すべきである。
 本患者は前腕症状を来しており、より近位の神経絞扼性疾患や頚髄神経根症状などの他疾患を除外する必要がある。更に、筋電図と神経伝導速度は、手根管症候群の重症度評価と他疾患除外に有用である。

 ❸他の検査は?
MRI手首のMRI手根管症候群の評価の為の画像検査として提唱されているが、診断能は良く分かっておらず第一選択としての検査ではない。

NSAIDsの診断的治療:NSAIDsによる診断的治療は初期の薬物治療として広まっているものの有用性を検証したエビデンスは存在しない。

手根管開放術:重症の手根管症候群(臨床診断もしくは筋電図)では、手根管開放術が適応になるが、本患者のような診断確定がつかず、重症度が不明で、他の治療選択肢がある場合には行うべきではない。

Key Point
✓ 絞扼性神経障害を疑う症状のある患者では、筋電図や神経伝導速度は、診断が不確実な場合や治療反応性が悪い、外科的治療を考慮している場合に行うべきである。

D’Arcy CA, McGee S. The rational clinical examination. Does this patient have carpal tunnel syndrome? [Erratum in: JAMA 2000;284(11):1384.] JAMA. 2000;283(23):3110-3117. PMID: 10865306

 

菌血症合併の肺炎球菌肺炎の治療 Manage a hospitalized patient with bacteremic pneumococcal pneumonia

❶症例

  47歳男性が、市中肺炎で入院した。高血圧と25PYの喫煙歴があり、クロルサリドンを内服している。
  身体所見では、軽度の呼吸困難があり、T 40.1℃、BP 145/85mmHg、Pulse 130bpm、RR 16/min、SpO2 89%(RA)だった。胸部聴診では右肺底部に限局した気管支呼吸音と打診での濁音を認めた。
 胸部X線では、右下葉に浸潤影を認め胸水はほとんどなし。経静脈的CTRXとAZNが開始された。入院第2病日に、血液培養からグラム陽性双球菌・連鎖様が検出。CTRXが継続されAZMは中止となった。
 入院第3病日には、患者は調子が良くなり、解熱してから12時間以上経過し、経口摂取も水分摂取も出来るようになった。血液培養から検出されたのはStreptococcus pneumoniae(PSSP)だった。体温 37.0℃、BP 140/80mmHg、Pulse 88bpm、RR 16/min、SpO2 97%(RA)だった。

 この患者で最も適切なマネージメントはどれか?

 ❷菌血症合併の肺炎球菌肺炎
 本患者では、菌血症合併の市中肺炎球菌肺炎であり、経口アモキシシリンに変更し計7日間の治療を行うべきである。入院第3病日の身体所見では、無熱・脈拍≦100bpm、RR≦24/min、sBP≧90mmHg、大気下で正常酸素濃度の条件を満たしており、臨床的に安定しているため退院を考慮すべきである。更に、退院を考慮する基準として、意識状態が正常であるころ、経口治療が可能であることが挙げられる。菌血症の存在することで、経静脈的治療を延長する必要は無い。一度臨床的に安定すれば、その後増悪するリスクは非常に低いため安全に退院させることが出来る。

 ❸他の検査
 レボフロキサシン(LVFX)レボフロキサシンはペニシリン感受性肺炎球菌(PSSP)の治療としては不必要に広域であり、更には値段も高い。

 14日間治療多くの市中肺炎では7日間の抗菌薬治療で十分である。特に臨床応答が良好だった場合には、菌血症があっても7日で十分。14日の治療は本患者では不必要に長い。

 経口変更後入院での経過観察経口薬に変更後に経過観察を継続する事は不要であると言う研究がある。

Key Point
✓ 菌血症を合併した市中肺炎の入院患者で初期治療の反応が速やかだった場合に、経静脈的抗菌薬を継続する事は不要で、臨床的に安定していれば経口抗菌薬にswitchして退院可能である。

Weinstein MP, Klugman KP, Jones RN. Rationale for revised penicillin susceptibility breakpoints versus Streptococcus pneumoniae: coping with antimicrobial susceptibility in an era of resistance. Clin Infect Dis. 2009;48(11):1596-1600. PMID: 19400744

 

MKSAP 16: Medical Knowledge Self-Assessment Program

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MKSAP for Students 5

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