栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 虫垂炎へのCT検査被曝/肥満はALSリスクを下げるか/上部消化管出血への輸血制限 TRIGGER研究/新規心房細動発症率と予後

BMJ

虫垂炎へのCT検査被曝 
Patients may prefer radiation risk in diagnosing appendicitis*1

 虫垂炎の診断でCTを取りすぎ!的な話題はよく見ますし、BMJだからその手の話かな?と思ったらちょっと違う様で。英国では虫垂炎手術後、最終診断が虫垂炎ではなかった症例の割合が16-35%もあるんだそうです。一方米国で行われたルーチンCTの観察研究では診断間違いは4.5%程度。過去の28研究を統合したメタ解析では、誤診率は、臨床診断 16%、画像検査 8%なのだとか。

 CTはやりだまにあがりますが、低線量CTであれば癌リスクは0.016%増加させるのみという試算もある模様です。まあ、分母や期間が不明ですが。一方で手術自体は誤診以外にも何かしらの術後合併症頻度が10%程度はあると。リスク・ベネフィットで比較すると、ガシガシ手術する前に診断つけるのは大事だよねとの論調でした。

 まあ、日本はガシガシ取ってますわなCT。そしてこのご時世で臨床診断で虫垂炎手術ってのはいくらなんでも厳しいかもしれません。最近はそもそも手術なのか抗菌薬なのかの研究も多く出ていますしね。

tyabu7973.hatenablog.com


✓ 虫垂炎にCTを取るか否かについてリスク・ベネフィットをきちんと考慮


肥満はALSリスクを下げるか MINERVA

 久々に面白論文コーナーのミネルバから。石灰化頚長筋腱炎の症例がAcute calcific prevertebral tendinitisとして紹介されている脇にALSと肥満に関する研究が紹介されていました。最近肥満関連のstudyはobesity paradoxとして肥満って意外と良くない?みたいな流れもありますが、今回もその一つと言えるかもしれません。

 オランダのpopulation basedの症例対照研究で、ALSと診断された3650人をその他の疾患365000人と比較しています。
JAMA Neurology 2015. doi:10.1001/ jamaneurol.2015.0910 
 結果として、肥満患者はALS発症に対するOR 0.61(0.46-0.80)、糖尿病はOR 0.81(0.57-1.16)でした。

 肥満患者はALSになりにくいかもしれない?という仮説が立つ研究かもしれませんね。厳密な意味でのobesity paradoxとは異なりますが、まだまだ分かっていない肥満の病態というのがあるのかもしれません。

✓ 肥満とALSが負の相関関係にあると報告している症例対照研究がある

 



■Lancet■

上部消化管出血への輸血制限 TRIGGER研究 
Restrictive versus liberal blood transfusion for acute upper gastrointestinal bleeding(TRIGGER):a pragmatic, open-label,cluster randomised feasibility trial*2

 最近輸血の適応を厳しくする傾向が様々な分野で報告されています。上部消化管出血でも2013年にバルセロナのサンパオ病院から同様の研究がでていましたが、問題点は今までの検証は1施設のみだったこと、入院時Hbがinclusion criteriaに入っていたこと、かなり細かく数時間毎に採血などを行っていたため、実臨床への応用が難しかったことなどがあり、今回は一般化しやすそうな”feasibility trial”が行われています。
 論文のPICOは、

P:吐下血で入院した患者全例
  400床以上で月に20件以上上部消化管止血を行っている6施設
  18歳以上でショックや大出血の定義を満たした人は除外
I:Hb 10g/dLを切ったら輸血
C:Hb 8g/dLを切ったら輸血
O:28日死亡
T:cluster RCT/ITT解析不明
結果:
 平均59歳、Blatchford score 6点、虚血性心疾患既往 15%、Hb平均11.7g/dL
 最終診断が消化性潰瘍 22%、食道静脈瘤 11%、GERD 25%、マロリー・ワイス 5%、原因不明 16%
 施設毎の割り付け後参加率は10g/dL群の方がやや多く患者拒否が除外理由の主。
 プライマリアウトカムの全死亡はLiberal群(10g/dL) 25/383人(7%)、Restrictive群(8g/dL) 14/257人(5%)と両群に有意差なし

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(本文より引用)

 うーん、残念!というところ。このデータすごいのは6施設の消化管出血全体の60%くらいを網羅しているデータであること。最終診断原因不明が結構あるのも実際やっていると頷けるところです。全体的には8g/dLの輸血制限の方が良い傾向なんですが、discussionではclusterが少なかったと考察されています。もう少しnを増やせと・・・お疲れ様です。

✓ 実臨床での輸血制限は28日後の死亡率については通常輸血群とほぼ同等の結果だった


新規心房細動発症率と予後 
50 year trends in atrial fibrillation prevalence, incidence, risk factors, and mortality in the Framingham Heart Study: a cohort study*3

 心房細動は増えているとか実はあまり変わらないとか様々な疫学データがあります。今回有名なFramingham studyのデータを用いて心不全の疫学情報と治療変遷に伴い死亡率や脳卒中などの予後がどうなっているかを検証した観察研究が報告されていました。
 ちなみにFraminghamは1948年のstduy開始時期には5209人、1970年にその子供・孫世代5124人を検証しており、今回はそのうち開始時期に年齢50-89歳だった9951人を検証対象としています。
 論文のPECOは、

P:Framingham cohortに参加してる一般住民
E/C:10年毎のコホートを比較(①1958-67、②1968-77、③1978-87、④1988-97、⑤1998-2007)
O:心房細動の新規発症率/脳卒中発症率/死亡率
T:前向き観察研究
結果:
 心房細動検出率は、
 全てのリソースを用いると
  男性① 3.7、②7.3、③9.1、④14.3、⑤13.4 
  女性① 2.5、②4.7、③5.5、④6.1、⑤8.6 →男女ともに4倍程度
 FraminghamのルーチンECGでは
  男性① 1.8、②2.6、③2.9、④3.4、⑤3.8 
  女性① 1.3、②2.1、③1.6、④1.4、⑤1.6 →ルーチンECGでは増えていない

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(本文より引用)

 心房細動リスクとして言われている、喫煙率・血圧・左室肥大・収縮期雑音・心不全心筋梗塞は減少。糖尿病・肥満のみ増加。
 全死亡は、経時的に減少し年齢補正しても診断後死亡率減少している

 今回の限界は心房細動・心房粗動はひとくくりでまとめて解析していること。全体的に危険因子は減っているのに心房細動発症が上昇しているのは、認知度が上がり診断が増えているという可能性が一つ。もう一つは、何か予測し得ない心房細動リスクが関連しているか、高齢化が影響しているのか。心房細動診断後死亡率は低下しており、lead time biasの可能性もあるけど、早期発見・早期治療の効果かもしれませんね〜と締めくくられていました。

✓ 心房細動は経時的に増加傾向で、診断後死亡は減少している