栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ホメオパチーを推奨するか/抗うつ剤とNSAIDs併用による脳出血/病院標準死亡率と回避可能死亡率/抗血小板と抗凝固療法/リウマチ患者に対する生物学的製剤による重症感染症リスク

BMJ

ホメオパチーを推奨するか 
Should doctors recommend homeopathy?*1

 BMJにホメオパチーに関するdebateが掲載されていました。debateなので、Yes派とNo派がそれぞれコメントしています。ホメオパチーについては色々話題になっていると思いますが、コンセプトはドイツの内科医のSamuel Hahnemann(1755-1843)先生から始まったとされていますが、似たような概念はヒポクラテスの時代から合ったとも言われ、同様の文化はアジア諸国でもあった様です。もともとは病症と同様の症状を起こす薬剤を微量投与することで治療するという考え方だった様ですね。

 Yes派の主張としては、まずはホメオパチーの構成要素は超分子と呼ばれるようなごくごく微量であり、最近のin vitroの臨床研究では繰り返し効果が証明されつつあるとしています。システマティックレビューも複数出ているものの、positive dataもある中で解析方法が微妙。2005年にLancetに発表されたメタ解析では8つの研究しか扱っておらず、異質性も高いため微妙。ホメオパチーの臨床研究はCORE-HOMデータベースで収集しており、現在1117の臨床研究がありそのうち約300がRCT。実際に上気道症状に対するホメオパチーの効果を検証したIIPCOS-1では、有意に症状改善があり副作用は少なかったと報告されています。また、ホメオパチーを扱う開業医は抗菌薬処方が少なかったという事実もあります。EPI3というフランスの国民レベルの臨床観察研究が最大規模で6379人の筋骨格系問題・上気道症状・睡眠障害・不安・うつ病に関して検証した研究では健康的なライフスタイルを保っていたと言う結果だったと言っています。うーん・・・健康的なライフスタイル・・・

 No派の主張としては、ホメオパチーに含まれている成分は薬物成分と非薬物成分が多く含まれていて、何の効果もないくらい希釈されています。最も有名なレメディ(ホメオパチーで用いられる小さな砂糖玉)の一つであるC200は、1:10 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000 000に希釈されています。これらの薬剤が効果を発揮する可能性は事実上ゼロです。基本的にはプラセボ効果と同様です。また、過去の臨床研究やメタ解析でも有効性を示すことができていません。試験デザインの問題が多く、多くは非特異的効果をアウトカムにして、かつ適切な盲験化や制御がされていません。残念ながらRCTの多くは効果を示すことができず、システマティックレビューでは効果を証明できませんでした。ホメオパチーそのものは効果がない変わりに副作用が出る可能性も極めて低くなります。それはその成分の微量さ故です。ただ、ホメオパチーによる治療を選択する方々が本来受けるべきエビデンスのある治療を受けることが出来なくなる事で、健康被害を受けている可能性があります。最近だと、ホメオパチーの提唱者はエボラ患者にホメオパチーを支持しました。それ以外にも本来行うべきでなかった推奨によって死亡例が出ていることも報告されています。プラセボ効果に期待することはあっても害を為すことは避けるべき。費用も無視できない問題です。

 臨床研究の捉え方は様々だなあと思いました。感冒や筋骨格系症状など十分なエビデンスがない治療の領域にはこういったプラセボ効果も期待できて害が少ない薬剤は有用かもしれません。一方で妄信的にそれを信じて既存のエビデンスのある治療を拒否する形になってしまうことには大きな警鐘を鳴らす必要があるのだと思います。

✓ ホメオパチーの効果・限界を良く理解することが重要


抗うつ剤とNSAIDs併用による脳出血 
Risk of intracranial hemorrhage in antidepressant user with concurrent use of non-steroidal anti-infalammatory drugs: nationwide propensity matched cohort*2

 SSRIとNSAIDsを併用することが消化管出血を増やすことは有名で2008年にはメタ解析が行われ、ほぼ確定的となっていますが、今回はNSAIDs+抗うつ薬併用が脳出血に与える影響はどの程度かを検証した観察研究が報告されています。
 論文のPECOは、

P:2009-2013年までに初めて抗うつ薬を処方された4145226人
  前年脳疾患を起こした患者は除外、99歳以上除外
E:NSAIDs併用あり
C:NSAIDs併用なし
O:抗うつ薬開始30日以内の脳出血
T:後ろ向きコホート、Propensity matchスコア
結果:
 韓国のデータベースを利用。入院病名精度が83.4%。
 プライマリアウトカムの脳出血発症は調整HR 1.60(1.32-1.85)
 三環系抗うつ薬 HR 1.7(1.33-2.13)
 SSRI HR 1.4(1.17-1.72)
 SNRI HR 0.4(0.32-0.46)

 結構しっかり統計学的な有意差が出ていました。ちなみにSNRIのデータは症例数が少なすぎてちょっとこのままは使用できない感じです。ポリファーマシー介入にも、新規の抗うつ薬・NSAIDs処方時にも注意すべきポイントの一つと思いました。

✓ 抗うつ薬とNSAIDsの併用は併用開始30日以内の脳出血有意に増加させる 


病院標準死亡率と回避可能死亡率 
Avoidability of hospital deaths and association with hospital-wide mortality ratios: retrospective case record review and regression analysis*3

 英国では長年にわたり病院の質評価のために病院標準死亡率をあげています。ただ、これが本当に質評価に適切なのかが検証されていませんでした。ここで言う病院標準死亡率とは、一年間にその病院で死亡した患者の割合ということの様です。一方で、重要なのは回避可能死亡率ではないか?という意見があるわけです。極論を言うと、ホスピスと通常の急性期病院では標準死亡率は異なるはずですよね。

 で、今回は英国34病院の死亡症例を病院毎にランダムに100症例ピックアップし、合計3400件の中でavoidabilityのある回避可能だった死亡症例についてreviewerが6段階評価して、通常の病院標準死亡率と比較しています。ちなみに、このreviewerの一致率はκ=0.45とまあまあでした。

 結果ですが、回避可能な死亡だったとのスコアが4-6点と50%以上回避可能だったと認定された死亡症例は全体の3.6%程度でした。病院標準死亡率と回避可能死亡率に相関関係はなく、やはり病院標準死亡率は適切なクオリティーインディケーターとは言えないのではないか?というのが結論でした。

✓ 単純な病院標準死亡率ではなく回避可能死亡率を質評価に加えよう

 


■Lancet■

抗血小板と抗凝固療法 
Pharmacology of antithrombotic drugs: an assessment of oral antiplatelet and anticoagulant treatments*4

 Lancetのレビューは抗血小板薬と抗凝固薬について。全部まとめるのはとても無理なのでへーと思った項目を中心に箇条書きでまとめてみようと思います。細かく読みたい方は是非本文へ。

アスピリン
アスピリンは少量投与だとCox-1のみ、大量投与でCox-1・Cox-2を阻害し鎮痛効果を発揮する。
・作用は不可逆性・蓄積性あり。半減期は15-20分
・bioavailabilityは45-50%で通常製剤のピークは摂取30分、腸溶錠は摂取4時間程度。
・血小板のturn overが亢進すると効果が減弱する。

■P2Y12受容体アンタゴニスト■
・P2Y12受容体アンタゴニストは、歴史的にはチクロピジンから。その後クロピドグレル・プラスグレル・チカグロレル
・チクロピジンは肝障害・血液関連の副作用で使用されなくなっている。
・クロピドグレルは良い薬だが、即効性が無い事、効果の差で個人差があることなどが問題となっている。
・クロピドグレルの問題を解決すべくプラスグレル・チカグレロルが開発されている。チカグレロルは唯一チエノピリジン系ではないP2Y12受容体アンタゴニスト
アスピリンとチエノピリジン系薬剤は血小板輸血で効果減弱するが、チカグレロルは血小板輸血の血小板の効果も阻害してしまう。
・プラスグレルの効果はTRITON-TIMI38 trialやTRILOGY ACS trialで報告されており、クロピドグレルよりもACS患者の予後を改善するとされている。
・チカグレロルの効果はPLATO trialで検証され、やはりクロピドグレルよりも心血管イベントに対する効果あり
・今後はクロピドグレルからプラスグレル・チカグレロルに変更していく可能性高い。

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(本文より引用)


■抗凝固薬■
ワーファリン1920年代に開発され、1940年代には殺鼠剤として使用されていた。1964年に凝固カスケードが提唱され、凝固系薬剤として認知されるようになった。
・NOACは現在4種類、Ⅱa阻害が1種類、Xa阻害剤が3種類である。
NOACで消化管出血が多いのは、消化管吸収の問題?ワーファリンの95%は消化管吸収される(bioavailabilityが良い)が、NOACは活性体が消化管内に残存するため出血が多いのでは?と推察されている。

✓ 多くの薬剤が開発されており、各薬剤の薬理学的特徴を押さえつつ、患者の併存疾患・好みなどを考慮し最善の薬剤選択を


リウマチ患者に対する生物学的製剤による重症感染症リスク Risk of serious infection in biological treatment of patients with rheumatoid arthritis: a systematic review and meta-analysis*5

 関節リウマチ患者を中心に、TNF-α阻害薬などの生物学的製剤が使用され始めて、データが徐々に蓄積されつつあります。RAに対する従来のDMARDsと比較して本当に生物学的製剤が感染リスクが高くなるのかは十分検証されていません。そこで、今回これまでに報告されたRAに対する生物学的製剤使用と重症感染症との関連を、過去の106のRCTを元に検証しています。
 論文のPICOは、

P:2014年2月までに関節リウマチ患者に対して生物学的製剤を使用したRCT106件
I:生物学的製剤使用者
C:DMARDs使用者
O:重症感染症(study毎に定義が異なる)
T:Systematic review/meta analysis
結果:
 患者のうち67%がDMARDs治療歴のある関節リウマチ患者
 通常量の生物学的製剤 vs DMARDsは、OR 1.27(1.05-1.52)と有意に重症感染症増加
 低容量の生物学的製剤 vs DMARDsは、OR 0.93(0.65-1.33)と有意差なし

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(本文より引用)

 まあ、当たり前といえば当たり前の結果。ただ、研究の異質性評価の記載がなく、network metaの間接・直接比較一致度も記載がありませんでした。あとは、SRの宿命ですが、15年前の研究が含まれていたり、治療対象となっているRA患者の基本情報がヘテロだったりと、果たしてこれを一般化して良いのかどうかは迷いますね。

✓ 関節リウマチ患者に対する生物学的製剤使用は他のDMARDsと比較すると重症感染症が増える