栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 超高齢者の高血圧治療/AHA脂質異常症ガイドラインのCVD予測/心血管既往のある糖尿病へのDPP-4阻害剤/硝酸剤の歴史/肺癌疑い患者への気管支鏡下遺伝子検査

■JAMA■

超高齢者の高血圧治療 
Management of hypertension in octogenarians -Polypharmacy in the aging patient-*1

 生活習慣病を担当していても80歳を越えた超高齢者と相対する機会も多くなってきました。この超高齢者の治療のエビデンスとはどんなところにあるのか?今回Lorraine大学老年科のBnetors先生がreviewを書いていました。JAMAでは、今後この高齢者特集に力を入れていく模様で、”Care of the aging patient:From evidence to action”というテーマで連載されていく模様です。
■Overview■
 高血圧治療は大抵の患者に利益をもたらす
 ただ、Polypharmacy状態にあるfrail elderlyに対しても同様かは不明。
 今回のreviewでは80歳以上の高血圧治療についてまとめている
 主なエビデンスはHYVET研究とその後の6つのposthoc研究
 機能が保持されていれば80歳以上でも通常の降圧治療を
 polypharmacyなfrail elderlyでは個別化対応を

■Introduction■
 収縮期血圧と脈圧は加齢と共に上昇し、高い程死亡は多くなる。
 ただし、高齢者になると脈圧・sBPと死亡の関連が少なくなる
 80歳を境にしたのは、世界的に最も増加している年齢層で、1970年代と比較すると平均余命が1.5倍になっており、最も研究されていない世代だから。

■80歳以上の高齢者に対する高血圧治療■
 80歳以上の高齢者に対するプラセボコントロールRCTは1件で2008年にNEJMに発表されたHYVET研究
 概要は、
  P:sBP≧160mmHgの高齢者3845人
  I:インダパミド ± ペリンダプリル  
  C:プラセボ
  O:致死的もしくは非致死的脳卒中
  結果:プライマリアウトカム有意差なし、セカンダリアウトカムの死亡で有意差が出て早期試験終了
 その後のposthoc研究では、白衣高血圧でも降圧利益あり。降圧が認知機能や骨折率にも好影響。
 HYVET研究の限界として、そもそもプライマリアウトカムは有意差なし。sBP≧160mmHgが対象なので軽症高血圧に対しての治療は不明。施設入所者は除外されている。試験が早期終了してしまっているなど。
 80歳以上の血圧140-160mmHgを治療すべきかはHYVETの結果からは分からない為、欧州ガイドラインもJNC 8ガイドラインでも推奨はバラバラ。 
 一応、多くのガイドラインの推奨は「sBP>160mmHgをsBP<150mmHgを目標に降圧せよ」という辺り。

■Discussion■
 実臨床では80歳以上の高血圧患者の多くは2剤以上内服している。
 多くのガイドラインでは単剤か少量併用療法を推奨。
 特に記載がなければCa拮抗薬かサイアザイド系利尿剤が良い。
 また、薬物療法はあくまで生活習慣改善などの非薬物療法への追加としての位置づけ
 高齢者への生活習慣改善には以下の点で注意
  ①80歳以上の高血圧患者へのエビデンスなし
  ②運動無しの体重減量は悪液質のリスク
  ③過剰な塩分制限は低ナトリウム血症や起立性低血圧の原因
  ④運動療法は個別化が重要
  ⑤意外と忘れがちで介入すべきはアルコール
 可能であれば治療開始前には座位と起立時の血圧測定を。
 治療を検討する場合にはCGAなどを用いてFrailityのチェック
 
最期に症例が4症例ほど提示され、どの薬剤を中止したり再開したりするかを問うていました。

✓ 80歳以上の超高齢者への降圧療法は十分検証されていない。Frailityに注意を払いながら、ポリファーマシーに注意しつつ薬剤使用の是非を検討していく
 
 

AHA脂質異常症ガイドラインのCVD予測 
Guideline-based statin eligibility, coronary artery calcification, and cardiovascular events*2

 2013年にAHAが脂質異常症ガイドラインを新しくしたのは記憶に新しいところです。その際にCVD予測式を新しくして普及させようとしています。しかし、この新しいCVD予測式がはたしてきちんとCVD高リスク群を見つけられるのか?というのが話題になっています。今回はFramingham cohortの子供と第三世代の方々のデータを利用して、2004年のATⅢのスタチン適応基準と2013年のAHAスタチン適応基準を比較して、どちらが実際の新規発症CVDを予測するかを検証しています。
 論文のPECOは、

P:Framinghamコホートの子供・孫世代のコホート
E:2013AHA適応
C:2004ATⅢ適応
O:新規発症CVD(AHA基準に準じて ※ただし何故かPAD除外)
T:集団ベースの前向きコホート研究のデータ二次利用
結果: 
 もともとFraminghamコホートの子・孫世代は7634人いて、そのうち40-75歳、coronary石灰化評価、脂質異常薬内福なし、過去の心血管疾患除外をして2435人のデータを解析対象
 平均51歳、女性56%、LDL 121mg/dL、Framingham criteria 6.6%/10年
 スタチン適応患者:ATⅢ 14%、AHA2013 39%
 ATⅢ適応患者の6.9%にCVD、AHA適応患者の6.3%にCVDで、HR 3.1 vs 6.8

f:id:tyabu7973:20150726003700j:plain
(本文より引用)

 AHA2013の脂質ガイドラインは70億総スタチナイゼーションなんて勝手に批判しておりますが、一応今回検証された独自の予測式を元に10年リスクが7.5%を超えた場合にはスタチン一次予防を推奨しています。今回のstudyの中で分かったのは、従来の2004ATⅢの予測式よりはhigh risk群をもれなく見つけられ、かつ費用対効果も検証されている模様でした。ただ、これは日本人にこのまま応用して良いかは微妙なところ。やはり心血管イベント発症率が極端に低いアジア人種では独自の予測式が必要でしょう。日常臨床ではNIPPON DATAなどを使っていますが、できればRCT dataベースにやりたいですねえ。まあ、最期はSDMなわけですが・・・

✓ 2013 AHA提唱の心血管イベント発症予測式は心血管イベント発症予測に有用。7.5%/10年以上の患者にはスタチン投与を

 


■NEJM■

心血管既往のある糖尿病へのDPP-4阻害剤 
Effect of Sitagliptin on cardiovascular outcomes in type 2 diabetes*3

 この手のstudyはもういい加減に・・・と思いますが、今回も心血管合併症を増やさないというプラセボとの非劣性試験です。プラセボと非劣性って・・・ただ、DPP-4阻害剤が心不全を増やしたりする可能性もあり、長期の安全性を担保する可能性があるのかもしれません。
 論文のPICOは、

P:2型糖尿病患者14671人でHbA1c 6.5-8.0%の患者。
  内服(メトホルミン・ピオグリタゾン・SU剤)もしくはインスリン使用者
  過去にDPP-4阻害剤使用者や高度CKD患者は除外。CVD(脳卒中心筋梗塞・PAD)既往あり
I:サキサグリプチン(グラクティブⓇ・ジャヌビアⓇ) 100mg追加
C:プラセボ追加
O:心血管死亡・心筋梗塞脳卒中狭心症入院のcomposite outcome
T:非劣性RCT/Δ=1.3
結果:
 プライマリアウトカムのcomposite outcomeは両群で有意差なし HR 0.98(0.88-1.09)
 outcomeを各項目毎に層別化しても特にリスクは増えなかった
 治療効果としては、サキサグリプチン群でHbA1c 0.2-0.3%低下

f:id:tyabu7973:20150726003934j:plain
(本文より引用)

 COIあり、もちろん企業ファンドです。それにしてもこれだけのstudyをやってプラセボと比較して悪いアウトカム出なかったよーってゆう研究な訳ですよね。かたやメトホルミンは心血管イベントを減らしているというのにエライ違いです。これを更に長期に使用したら心血管死亡が減るなんてのはおよそ考えられません。こんな研究に金がエライ使われたり、この結果を基にMRさんが売り込んだりするんだろーなあ・・・
 
✓ 心血管リスクのある患者さんで、サキサグリプチンの長期使用をすることは心血管疾患の発生率はプラセボと同等だった


硝酸剤の歴史 
Nitroglycerin and Nitric oxide - a rondo of themes in cardiovascular therapeutics

 硝酸剤の歴史は古く、1768年にHeberdenが”Angina Pectoris”を提唱し、1774年にPriestleyがNitric oxideを発見しています。ただ、すぐにはこの2者が治療に繋がることはありませんでした。1846年にイタリア人のAscanioさんがニトログリセリンを合成し、自分で実験したところ頭痛が出現し、血管拡張の影響では?と考察されています。そして、1860年にイギリス人の薬理学者のLauderと医者Murrelが狭心症や高血圧に使用したことを報告しています。

 血管内皮機能におけるNOの役割は1900年代に入ってから盛んに検証され、最終的には障害時だけではなく正常時にもNOが役割を果たしていることが明らかになりました。硝酸薬の研究では基礎研究で開発されたSildenafilが臨床の現場でも使用され、いわゆる”bench to bedside to bedroom”の良い一例となっています。

f:id:tyabu7973:20150726004101j:plain
(本文より引用)

✓ 硝酸剤の歴史は基礎と臨床の連携の歴史


肺癌疑い患者への気管支鏡下遺伝子検査 
A bronchial genomic classifier for the diagnostic evaluation of lung cancer*4

 気管支鏡の多くは肺癌疑いの患者さんにおける診断目的で行われます。ただ、感度は意外と高くなく30-90%とも言われ、意外と診断に寄与しないことも多いと言われています。診断がつかない場合には、合併症の多い外科的処置が必要になってしまいます。今回は、通常の気管支鏡の病理検査だけでなく、細胞の遺伝子検査を行う事で肺癌を診断できないかを検証した前向き観察研究の結果が報告されていました。
 論文のPECOは、

P:肺癌疑いの639人が対象の2つのコホート(AEGIS-1・AEGIS-2)
  除外項目:非喫煙者・21歳未満・肺癌既往
E:気管支鏡検体のRNA解析を行う
C:通常の気管支鏡検査
O:肺癌診断(12ヶ月後までfollow up)
T:前向き観察研究/全28施設
結果:
 平均63歳、喫煙43PY、76%が最終的に肺癌と診断
 気管支鏡の肺癌診断感度 75%(71-79%)、RNA検査 89%(82-94)
 気管支鏡+RNA検査 97%(95-99%)

 RNA検査感度高いですね〜。腫瘍のサイズや病変部位は検討されていますが、小さな病変でもほぼ同様の結果でした。Histologic typeは小細胞癌 80/487人、非小細胞癌 397/487人という内訳です。気管支鏡とRNA検査の併用はかなり感度が高いのでそれでも陰性であれば除外には使えるかもしれませんねえ。まあ、3%は癌かもしれません・・・という説明になりますが。

✓ 通常気管支鏡検査に加えて遺伝子検査を追加する事で肺癌診断の感度をあげる事が出来る