栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

MKSAP:播種性淋菌感染症の診断/B型乳酸アシドーシスの診断/Lemierre症候群の診断

MKSAPアップしておきます。
月曜日にやるようになったのでHappy Mondayはお休みなり。
ということで益々亀の様なペースになっています。

播種性淋菌感染症の診断  Diagnose disseminated gonococcal infection

❶症例 
  24歳女性が、5日持続する発熱と右膝の痛みを主訴に救急外来を受診。2日前から疼痛・腫脹は左足首と右手首にも出現した。手や手関節の動作時や手指・つま先の屈曲・伸展時に疼痛あり。外傷既往は無く、内服薬は経口ピルのみ。
  身体所見では、T 38.4℃、BP 118/76mmHg、Pulse 86bpm、RR 13/min、BMI 21。咽頭所見は特記無く、右手首は腫脹・発赤・熱感・疼痛があり、可動域制限を認めた。右手背は腫脹・発赤・熱感があり、伸筋腱に一致して疼痛があり、指が動かしにくかった。右膝に圧痛があり、稼動時にも疼痛あり。左足首は痛みがあり、足背には腫脹・疼痛を認めた。皮膚所見は以下の通り。

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(本文より引用)

 関節液穿刺が施行され、滑膜液中の白血球数は14400、偏光顕微鏡では結晶陰性でグラム染色・培養は陰性だった。

 この患者で最も考えられる診断はどれか?

 ❷播種性淋菌感染症
 本患者は、播種淋菌感染症に淋菌関節炎を合併している。淋菌による感染性関節炎は、若年者に多く、性活動が活発で、とりわけ女性に多い。播種性淋菌敗血症は、前駆症状として腱鞘炎があり、その後移動性・多関節炎、丘疹または斑から徐々に膿疱に進展する皮膚病変が特徴的である。発熱や悪寒はよく見られ、本患者では大関節〜中関節の関節炎と、腱炎や丘疹膿疱性皮膚病変を認めている。関節液の白血球数は一般的な細菌性関節炎よりも少なく、グラム染色や培養は一般的に陰性である。

❸鑑別疾患
痛風痛風は高度の炎症性関節炎で多関節炎にもなり得るが、通常尿酸値が低い閉経前の女性には起こりにくいとされている。更には、初回の痛風発作が多関節炎であることも非常に稀とされており、一般的には手首ではなく第1中足指節関節が好発部位となる。また皮膚病変とは関連しない。

関節リウマチ:関節リウマチは、全身性多関節炎疾患で、典型的な経過はもっと緩徐発症である。特徴的には手の近位小関節炎であり、腱炎は合併せず、膿疱などの皮膚病変も起こらない。また、発熱もリウマチ患者では一般的では無い。

ブドウ球菌性関節炎:ブドウ球菌による関節炎は感染性関節炎の最も一般的な起因微生物で、急速に関節破壊を来す可能性がある。小児や高齢者でよく見られ、過去に外傷既往がある患者で多い。本患者の様な24歳でブドウ球菌感染のリスクになるような基礎疾患が無い患者では考えにくい。ブドウ球菌性関節炎は一般的には単関節炎を来すが、腱炎や丘疹膿疱性皮膚病変などの皮膚症状などは合併しない。

Key Point
✓ 淋菌性関節炎は播種性淋菌感染症の一部として見られることがある。典型的には遊走性または多関節疾患として始まり、大関節から中関節の関節に炎症を起こし、腱炎や丘疹嚢胞性皮膚病変を合併する。

Garcia-De La Torre I, Nava Zavala A. Gonococcal and nongonococcal arthritis. Rheum Dis Clin North Am. 2009;35(1):63-73. PMID: 19480997

 

 

B型乳酸アシドーシスの診断 Diagnose type B lactic acidosis

❶症例
  78歳女性が、倦怠感が増加し病院受診。彼女は2週間前に発熱・悪寒戦慄・筋力低下で入院した。入院の10日ほど前に大動脈弁置換術を施行している。同時に血液培養複数本からはバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が検出され、経静脈的にリネゾリドが開始された。患者は既往で2型糖尿病と高血圧があり、内服薬はリネゾリド・アムロジピン・エナラプリル・ワーファリンアセトアミノフェン
 身体所見では、T 37.3℃、BP 146/50mmHg、Pulse 96bpm、RR 24/min。BMI 38だった。聴診所見では、特記すべき異常所見を認めず、人工弁の正常機能音を聴取するのみ。肺野もきれいで、残りの身体所見には異常が無かった。

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(本文より引用)

 この患者の最も適切な診断はどれか?

 ❷B型乳酸アシドーシス
  本患者でも最も考えられる病態はLinezolid中毒によるB型乳酸アシドーシスである。AG開大性の代謝性アシドーシスがあり血中乳酸値は高値となっている。A型乳酸アシドーシスは臓器血流不全や低酸素血症に関連するが、本患者ではショックや低酸素血症は無く、B型乳酸アシドーシスが疑われる。B型乳酸アシドーシスの原因として、薬剤や中毒物質・悪性腫瘍・肝疾患・G6PD欠損症などが報告されている。リネゾリドは、ミトコンドリア電子伝達系を阻害することでB型乳酸アシドーシスを引き起こすことが知られている。その他のB型乳酸アシドーシスを来す薬剤として、アセトアミノフェンの過量服薬・メトホルミン・核酸合成阻害薬であるスタブジンやジダノシン・プロポフォールサリチル酸などがある。
 リネゾリド中毒による乳酸アシドーシスは、通常治療開始数週間後に起こるが、1/3の報告では2週間以内に発症したとも報告されている。発症患者ではミトコンドリアDNAの遺伝子多型が報告されている。B型乳酸アシドーシスの発症が疑われた場合には、速やかに被疑薬を中止することで、多くの患者のアシドーシスは改善する。終末期腎障害患者などでは透析によるリネゾリド除去を試みても良いかもしれない。

 ❸鑑別診断は?
糖尿病性ケトアシドーシスDKA):DKA患者では血中ケトンの上昇を認め、AG開大性の代謝性アシドーシスを来す。通常高血糖を認め、たいてい300mg/dL以上である。本患者では高血糖は認めず、血中ケトンも認めないことからDKAは否定的。

ピログルタミン酸アシドーシス:ピログルタミン酸アシドーシスは、通常アセトアミノフェン使用患者で認められ、臨床的に重症となる。原因不明のAG開大性代謝性アシドーシスを認め、グルタチオン変性の障害の結果としてピログルタミン酸(5-オキソプロリンとして知られている)が蓄積している。乳酸アシドーシスはピログルタミン酸アシドーシスでは見られない。

敗血症敗血症は乳酸アシドーシス患者の鑑別で常に考えるべきだが、本患者では白血球増多・発熱・頻脈・低血圧がなく敗血症とは考えにくい。

Key Point
✓ B型乳酸アシドーシスは薬剤や毒素暴露によって引き起こされ、進行癌・肝疾患・G6PD欠損症などの患者によく見られる。

Velez JC, Janech MG. A case of lactic acidosis induced by linezolid. Nat Rev Nephrol. 2010;6(4):236-242. PMID: 20348931

 

Lemierre症候群の診断 Diagnose Lemierre syndrome

❶症例

  26歳女性が、8日前からの咽頭痛・発熱・頚部痛で救急外来を受診した。左頚部に重度の疼痛を認め、嚥下時痛を伴った。先週から発熱があり、本日になって悪寒を伴うようになった。最近3-4日は咳も出現していた。既往歴は特記事項無く、内服薬も飲んでいない。
  身体所見では、T 39.1℃、BP 108/68mmHg、Pulse 116bpm、RR 20/min、BMI 19だった。全身状態はtoxicで、左頚部の圧痛を認め、リンパ節腫脹は認めなかった。咽頭所見では発赤と扁桃腫大を認めたが、浸出液はなかった。胸部聴診では異常音なく、頻脈以外には心音も正常だった。
 胸部X線は以下に示す。

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(本文より引用)

 白血球数18400/μL、17%が桿状球、血清Cr 0.8mg/dLだった。

 この患者の診断確定に最も適切な検査はどれか?

 ❷Lemierre症候群
 本患者では、頚部の造影CTを行うべきである。患者は、発熱・白血球増多・咽頭痛・片側の頚部痛・敗血症性塞栓を疑わせる多発する胸部異常影を認めている。これらの所見の組み合わせは内頚静脈の敗血症血栓を来すLemirrre症候群を強く示唆する。咽頭炎、持続する発熱、頚部痛、敗血症性肺塞栓を診た場合には想起すべき疾患である。罹患静脈の造影CTで診断を確定する。治療は経静脈的抗菌薬で、連鎖球菌・嫌気性菌・βラクタマーゼ産生菌をカバーすべきである。ペニシリン+βラクタマーゼ阻害剤(ABPC/SBT・PIPC/TAZ・TIPC/CVA)とカルバペネム系薬剤はどちらも妥当な選択肢である。

 ❸他の検査
 胸部CT胸部CT検査は肺浸潤影の原因検索には役立つが、病態の根本的な診断確定には寄与しない。

 レントゲン軟線撮影頚部レントゲン軟線撮影は、敗血症性頚静脈炎を来す様な頚静脈の血栓を同定できない。

 経胸壁心臓超音波心臓超音波検査敗血症性肺塞栓の原因となる右心系心内膜炎を同定する事はできるが、本患者では敗血症性塞栓の原因が心原性であることを積極的に示唆する所見に乏しい。

Key Point
✓ 咽頭炎・持続する発熱・頚部痛・敗血症性塞栓などの症状がある患者では、頚静脈の敗血症血栓症(Lemierre症候群)を考慮すべきである。

Centor RM, Samlowski R. Avoiding sore throat morbidity and mortality: when is it not “just a sore throat?”. Am Fam Physician. 2011;83(1):26, 28. PMID: 21888123

 

MKSAP 16: Medical Knowledge Self-Assessment Program

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MKSAP for Students 5

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