栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

今週のカンファ:門脈血栓症/遺伝性球状赤血球症/肺浸潤

今週のカンファまとめです〜
今週はさらにネタ満載。入院患者が多いからだなあ。さすがに90人前後のカルテレビューは結構大変です。

門脈血栓症  Portal vein thrombosis

 門脈血栓症自体は、画像で合併しているのを見つけるという診断方法が最も多いのではないかな?と思うのですが、見つけた時のアクションをどうするかがなかなか明確では無かったので、今回あらためて少しおさらいしてみます。
 ポイントは、①原因は何か?、②どう管理するか?でしょうか。

 門脈血栓症とは、門脈内に血栓を形成し、その結果、門脈圧亢進症・ショック・肝不全などを呈する疾患で、急速な血栓塞栓で、広範に門脈本幹が閉塞すれば、致死的な経過も辿り得ます。一方、緩徐に進行すれば、門脈圧亢進による諸症状がでるとされています。
 
①原因は何か?
 原因は、多彩で、小児・成人によって異なります。以下一覧。

小児:
 
感染症(腹膜炎・虫垂炎・新生児敗血症等)
 ・心奇形心室中隔欠損症・心房中隔欠損症等)
 ・特発性
成人:
 ・肝硬変・特発性門脈亢進症
 ・悪性腫瘍肝細胞癌、転移性肝腫瘍、膵臓癌、胃癌)
 ・感染症虫垂炎、胆道系感染、腹腔内膿瘍、肝膿瘍、急性・慢性膵炎、憩室炎)
 ・炎症性腸疾患潰瘍性大腸炎、Bechet病)
 ・閉塞性腸疾患(腸重積、絞扼性イレウス
 ・外傷(腹部外傷)
 ・外科術後(脾摘術、膵頭十二指腸切除、肝移植、内視鏡的食道静脈瘤硬化療法、肝ラジオ波)
 ・凝固能亢進(ATⅢ欠損症、プロテインC/S欠損症、高フィブリノゲン血症、MDS、経口避妊薬、黄体ホルモン製剤、妊娠、膠原病深部静脈血栓症
 ・特発性

②どう管理するか?
 急性の閉塞で致死的な経過の場合には、血栓除去療法や閉塞による腸管虚血に対する外科的対処が必要になるでしょう。

 慢性経過の場合には、まず行うべきは食道静脈瘤のスクリーニングです。抗凝固療法の役割は明確になっておらず、目的としては血栓再発・進展の予防になります。ただ、門脈血栓症がある患者では、肝硬変などの基礎疾患から消化管出血のhigh riskでもあり得るので、安易な抗凝固療法には注意が必要になります。
 Uptodateのexpert opinionでは、半減期が短くてすぐに効果が切れるから、エノキサパリン>ワーファリンと記載されておりました。AASLD(American Association for Study of Liver Diseases)のガイドラインでは、抗凝固を行う場合には適切に食道静脈瘤破裂の予防策を講じるべきであり、方法としてEVLよりも非選択性β遮断薬を推奨していました。
 ただ、この領域のRCTはいまだ行われておらず、データの根拠は後ろ向き研究や非ランダム化比較試験であり、今後検証が必要になります。

 ✓ 門脈血栓症について整理。適切な鑑別診断を行い、抗凝固についてはrisk-benefitで判断を

 

 

遺伝性球状赤血球症 Herediatry spherocytosis:HS

 いるんだー、実際・・・というところでお勉強。わが国の先天性溶血性貧血では最も頻度が高く、全体の70%と言われ、罹患率は人口100万人あたり5-20人で常染色体優性遺伝です。家族歴が重要。ただし、全体の1/3は弧発例です。

 先天性の赤血球膜異常で、膜蛋白異常によって出現する異常赤血球が、脾臓の微小循環を通過する際に溶血して血管内溶血を起こして、黄疸・貧血・脾腫が出現します。
 通常は症状がごく軽度で、平常時は貧血がうまく代償されているため問題はありません。ウイルス性疾患などを併発すると、一過性に赤血球産生が減少し、骨髄無形成クリーゼを来す事が知られています。そして、感染が改善すれば自然に改善するself limittedな病態となるのが一般的です。

 診断には、溶血性貧血の診断、脾腫の存在、同様の小康の家族歴、末梢血スメアでの赤血球異常が重要です。これらからHSが強く疑われる場合には、摂家級の浸透圧脆弱性試験や赤血球の自己溶血試験などが行われます。

 治療は若年者でrisk-benefitを勘案して脾摘を行う事もあるが、通常は無症状であるため、必要になる事は稀なんだそうです。今回はウイルス感染のお相手が悪かったなあ・・・

 ✓ 遺伝性球状赤血球症は意外と見落とされている?体質性黄疸の安易なゴミ箱診断に注意

 

 

肺浸潤  Infiltration of the lung

 「肺浸潤ーはいしんじゅんー」って言葉についてです。よく高齢の方に既往歴を確認している時に「むかし、肺浸潤って言われました〜」ってことがありますよね。肺浸潤って昔は肺結核のことを指していたんだよーって教わって、「なるほど、肺浸潤=肺結核ね」と思っておりました。でも、通常今の医学用語で肺浸潤っていうと、悪性腫瘍が直接的に肺に浸潤したりすることを指しますよね。今回調べてみたら興味深いことが判明しました。ちょっと長いですが、お付き合いを〜。
 
 そもそも結核の本邦での歴史を紐解いていくと、清少納言枕草子「胸の病」のことを記載していたり、紫式部源氏物語には紫の上が「胸の病」を患ったとあり、結核なのでは?と考えられている模様です。また、鎌倉時代の遺骨から結核菌のDNA PCRが陽性となったという報告もあります。これは、新田義貞の鎌倉攻め(1333年)の戦没者で、50歳前後の肩の右股関節から結核菌DNAが検出されたのだとか。すごいなあ。

 江戸時代には結核労咳 ろうがい」とか「労瘵 ろうさい」とも呼ばれた模様です。幕末には新撰組沖田総司長州藩高杉晋作などが罹患したことでも有名です。

 「結核」という言葉が使用されるようになったのは明治初期から。それまでは、

結核」は7世紀に中国で初めて使用されたことばで、瘰癧(頚部リンパ節結核)で頚部が累々と腫脹した状態を「果物の種が集合したような」すなわち「核(たね)を結ぶ=結核」と表現した肉眼的所見に由来する
http://www.k2.dion.ne.jp/~drkimura/eki.htmより

と報告されています。そして、その「結核」とtuberculosisを結びつけたのは、幕末の 蘭学医の緒方洪庵で、1857年に発行した「扶氏経験遺訓」の中で「Phthisis tuberculosa」を「結核肺労」と訳したのが始まりだそうです。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e3/Ogata.JPG/200px-Ogata.JPG

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/e/e3/Ogata.JPG/200px-Ogata.JPGより引用)
 さて、だいぶ回り道しましたが、肺結核がなぜ肺浸潤か?実は上記背景の中、明治時代に肺結核は大流行します。コッホがやっと結核菌を発見したばかりであり、十分な治療法も確立されていなかった時代、「肺結核です」と告げられるのは今で言う癌告知と同じ様な意味があったんでしょうね。
 
 まだ、「告知」なんていう文化も無かった時代、初めて結核にかかった患者に、当時の医師の多くは、はっきりと「肺結核」と告げることがなく、「肺浸潤」と病名を曖昧にしたのだそうです。当時、肺浸潤とは肺炎などを指していた様ですね。結核は不治の病。若い女性の中には、「肺結核」と診断され、離婚された人も多かったのだとか。そんなことを考えなら聞く「肺浸潤」という既往はまた別の聞こえ方をするかもしれませんね。


✓ ”肺浸潤”という言葉は日本的文化の現れ。