栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 糖に税は必要か?/手指衛生向上のための戦略/医療現場での針刺し事故/広島、長崎、福島/閉経後早期乳癌へのデノスマブによる骨折予防

BMJ

糖に税は必要か? 
Could a sugar tax help combat obesity?*1

 BMJで時々やっているディベート head to head。今回はsugar taxについての話題です。あまり聞き慣れない税金ですが、国によっては導入しているところもあるのだとか。ディベートなので、Yes派とNo派の意見を聞いていきましょう。

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■Yes派
 税金は上手く使えば健康増進にも利用出来ます。タバコや酒などの税はすでに10数年前から導入され消費量を減らす効果が証明されています。いくつかの国ではすでに特定の食品に税金をかけており、具体的には、ソフトドリンクやスイーツ、チョコレート、アイスクリームなどの税金が導入され、消費量に影響するという報告がでてきてます。

 ただ、酒やタバコと異なり、糖に対する税金は難しい問題もあります。というのも糖関連の食品は生活必需品であり、税金をかけることは直接的に物価の高騰化につながってしまうからです。増税による消費量減少は少なくとも20%はあるのではないか?と見積もられています。ただ社会経済的に厳しい国々でのソフトドリンクや糖、スナックなどの税金が健康増進に繋がる可能性がある事も報告されているんだそうです。実際にフィンランドでは糖1kgあたり1ユーロのsugar taxを導入していて、この結果、平均体重が3.2kg減少し、2型糖尿病患者が13%も減ったと報告しています。一方でデンマーク不飽和脂肪酸税を導入し、失敗したと言う報告もあるそうです。これについては食品産業の会社からはクレームもあり、効果的ではなく不公平で、産業へのダメージや失業につながるとしています。これらはタバコ産業からも同様のクレームがあるのだとか。

■No派
 上記のデンマークの失敗例を元に、食品税というアプローチは良くないと批判しています。そもそも税金を20%増税したところで、全体としては4kcal減少程度の効果しか無いと試算しています。そもそも食品の値段というのは、食品選択に最も影響を与える因子です。健康に悪い食品を高額に、良い食品を安価にするという方法が良いのでは?と。食品の値段を規定するものは税金だけではなく多くの因子が関与していることも指摘されています。誰もが税金は嫌いで、例えばソフトドリンク税はアメリカのほとんどの州・市で拒否され、賛成したのはBarkeleyのみだと述べています。ヨーロッパでも同様でユーロ53州のうち4州のみしか食品税には賛成せず、健康増進には繋がらないのではないか?と。まあ、この辺りは若干感情に訴えている様な気もします(笑)。
 メキシコは唯一の食品税を課している大国で、2014年からソフトドリンクを含めた食品税を導入しています。4つの研究がこの税金の効果を検証中ですが、まだ報告はされていないのだとか。
 
 どちらも興味深いですが、やはり不健康なものへのそれ相応の値段は検討していく必要があるのかもしれませんね。経済格差が国内で生まれてしまうとなかなか難しい側面もありますが・・・

✓ 政策としての糖税については賛否両論あるが、仕組みとしての健康増進を模索していくことが重要


手指衛生向上のための戦略 
Comparative efficacy of interventions to promote hand hygiene in hospital: systematic review and network meta-analysis*2

 手指衛生については、正解的な問題とされながらもなかなか浸透していないのが問題とされています。これまでのSystematic reviewは、質の低い研究がメインだったため、今回のSystematic reviewでは、2009年以降発表された質の高い研究を中心にレビューしています。
 論文のPICOは、

P:病院の医療従事者
I/C:手指衛生に関する介入方法(比較4群は、介入無し/単一介入/WHO-5介入/WHO-5+α)
O:手洗い遵守率
T:Systematic review and meta-analysis
結果:
 全部で3639の研究が評価され、最終的に組み入れ基準を満たした41研究を元にSystematic reviewが行われた。
 研究の内訳はRCT 6個、Interrupted time series(分割時系列分析) 32個、非RCT 1個、前後比較試験2個
 プライマリアウトカムは、介入無しを1とすると、
 ①単一介入(システム変更もしくは教育)がOR 4.30(0.43-46.57)
 ②WHO-5介入がOR 6.51(1.58-31.91)
 ③WHO-5+α介入がOR 11.83(2.67-53.79)
 とWHO-5とWHO-5+αの介入が有意に手洗い遵守率を増加した。

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(本文より引用)

 質が高い研究を中心に統合しても結構95%CIが広いですねえ。なかなか統合が難しい結果かもしれません。ちなみにWHO-5介入とは、①system change、②education、③feedback、④reminders、⑤institutional safety climateの5つです。

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(本文より引用)

 以前、日本の手洗いの現状を報告した観察研究を取り上げたことがありましたが、今回の研究の元論文を見ると、介入前の遵守率が軒並み50%前後と高く、最高で91.3%なんて施設も。そんなのやらないでいいじゃん!とか思ってしまいました。あとは、この手洗い遵守率はサロゲートアウトカムなので、この遵守率Upが実際の感染を減らしたりする効果があるかなどの検証が必要になりますね。

✓ WHO-5の介入は手洗い遵守率向上に有用である


医療現場での針刺し事故 
Management of sharps injuries in the healthcare setting*3

 珍しい針刺し事故のレビューです。こんなのあるんだなあと。ただ、実際中身を見るとexpert opinionが多い領域なんだなということも分かりました。まあ、ざっくりと要点をまとめてみます。

 2004-2013年の英国の4830件の医療関連体液暴露が報告されていますが、英国では臨床的に重要な暴露のみの報告を義務づけているため、実際にはもっと多いとされています。この報告のうち71%が経皮的暴露です。体液暴露後の対応については多くの医療従事者がきちんとした対応を知らないのが問題となっている、とコメントされていて、これは日本だけでは無くてどこの国も同様なんだなあと思いました。

 まずは、針刺し事故のことを英語ではsharp injury”と言うのですね。ほうほう。で、針刺し事故で最も多い処置は静脈路確保です。injuryの42%は看護師、41%が医師で5%は歯科医師と報告されています。針刺し事故で最も問題になるのが感染伝播であり、その中でHIVHBVHCVがそれぞれリスクになります。針刺し事故による感染リスクは、HBV 1:3、HCV 1:30、HIV 1:300で、体液の粘膜暴露はもっとリスクが低くHIVでは1:1000以下と言われています。ちなみに英国では統計をとっている模様ですが、1997年以降、針刺し事故でのHIV感染はなし。最近10年はHBV感染もなし。で、HCVが1997年からで21件だったのだそうです。HBV universal vaccination効果もあるでしょうが・・・

 感染リスクばかりが取り上げられますが、もう一つ重要な事としてPsycological impactがあります。そしてこれは十分評価されていません。今後は針刺し後の精神的サポートも十分必要です。

 いくつか簡単なまとめがあったので掲載しておきます。

■初期対応
・優しく穿刺部位から血液を絞り出す
・穿刺部位を石鹸と流水を用いてよく洗浄
・ゴシゴシ擦ったり、防腐剤を用いたりしない
・洗浄後の創部を防水のドレッシング剤で覆う
・粘膜への暴露の場合には、暴露部位を水道水もしくは生理食塩水でよく洗浄
コンタクトレンズ着用の場合には、レンズを取り除く前と後で両方の眼を水道水もしくは生理食塩水で洗浄

 

■針刺し暴露の種類によるリスク評価
 High risk exposure
 ・深部まで穿刺した針刺し事故
 ・使用したばかりの針
 ・針先に血液が見える場合
 ・血管に使用した針
 Low risk exposure
 ・皮膚表面の傷、粘膜暴露等
 ・抜去後の針
 ・針先に血液が見えない
 ・血管に使用していない針(縫合針・皮下輸液針)
 Exposure with no or minimal risk
 ・皮膚の欠損が無い場合
 ・表面皮膚に異常が無い場合の体液暴露
 ・血液が含まれていない、唾液・尿・嘔吐物・糞便の暴露
 ・患者に使用されていない針


■暴露後予防について
 HIVHBVについて本文参照

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(本文より引用)
 ※HBVについては、ワクチン接種かつresponderであれば接種不要だがブーストかけても良いって書いてありますね。
 ※ワクチン接種歴がないもしくはnonresponderの場合には、HBVワクチン接種をすぐさま開始HBV感染者との接触の場合にはHBV免疫グロブリンを投与。

■暴露後に医療者が直ちに行うべき検査(Expert opinion)
 ・HIV抗原・抗体(第4世代)、HBs抗原、HCV抗体
 ※患者がHCV感染のhigh riskの場合には、HCV RNA PCRも検査を検討すべき。

■暴露後Follow upについて
 HIV
  12週以内:暴露後予防を開始していれば7日以内に副作用の有無確認。血算・腎機能・電解質・肝機能・尿検査。
  12週時点:HIV抗原とHIV抗体(第4世代)
  24週時点:推奨なし
 HBV
  12週以内:HBVワクチン接種されていなければ4週後に2回目のHBVワクチン接種
  12週時点:HBs抗原とHBs抗体
  24週時点:HBVワクチンが接種されていればルーチンfollow up不要
 ・HCV
  12週以内:6週時点でHCV RNA検査
  12週時点:HCV抗体とHCV-RNA
  24週時点:HCV感染リスクが少なければfollow up不要

■Bottom line
・応急処置は出来る限り行い、適切なトレーニングを受けた人が適切なリスク評価を行う。
・暴露後予防が必要な場合には、患者の検査結果を待たずに出来る限り早く予防を開始する必要がある。
・暴露後予防は、暴露1時間以内に抗ウイルス薬を内服することでHIV伝播を減らす事が出来る。
HBVワクチンはB型肝炎の感染に非常に効果的であり、全ての医療従事者はHBVワクチンを受けるべき。
C型肝炎に対する暴露後予防は現時点では存在しないが、HCVに対する治療効果は非常に良くなっているため、暴露後の適切なfollow upを行うべきである。

✓ 針刺し事故後の対応について、初期対応からfollow upまできちんと対応出来るようにしよう

 


■Lancet■

広島、長崎、福島 
Hiroshima,Nagasaki, and Fukushima*4

 Lancet特集は結構時期に合った特集をしますが、題名を見たときにあー、福島も並んでしまうんだよな・・・と大変悲しい気持ちになりました。

 多くの放射線による健康被害はHroshima,Nagasakiの住民コホートによって検証されています。皮肉にも今回Fukushimaの事故も加えた合計3回に渡る”被曝”によって、日本は放射線の影響を検討する非常に重要な場所になっています。また、第二次世界大戦終戦後70年近く経った今、”被爆者 Hibakusha(こう表記されていました)”を追跡している広島と長崎の大学が放射線関連の専門家が存在するセンターになっています。また、広島・長崎の生存者を追跡したLife span studyが最も信頼できる放射線健康被害への影響を評価出来る観察研究として今でも追跡が続いています。今回Lancetでは三本の記事とViewpointで戦後70年の被曝について検討しています。

 広島・長崎と福島の大きな違いは、後者において住民の間での信頼関係・コミュニケーションの問題が圧倒的に大きかったということです。福島の事故は、あれだけの大規模事故にも関わらず、急性期の放射線被害による死者は皆無で、関連者の死亡も非放射性だったことは、広島・長崎の爆弾による影響とは大きく違っています。最近の世界的会議でも、福島の事故は”放射線そのものの影響”よりも、Social scientistと協力して住民の信頼を維持し、コミュニケートしていくかという事の方が重要であり、かつそこの部分で大きな問題を抱えてしまった・・・と報告しています。過去の広島・長崎の精神的な影響については観察研究でも評価がされておらず、今後福島の事故などでも十分検討していく必要があります。

 本文もさらっと見ていきましたが、疎開高齢者は福島に残った高齢者よりも死亡率が高いこと、疎開者は非疎開者と比べると糖尿病・高血圧の頻度が高いこと、疎開者の心理社会問題がある事などが指摘されていました。

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✓ 広島・長崎・福島へと引き継がれている放射線被害の問題。No Nukes!


閉経後早期乳癌へのデノスマブによる骨折予防 
Adjuvant denosumab in breast cancer(ABCSG-18):a multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial*5

 最近デノスマブ関連のstudyがいくつか出ており、RANKL万歳な感じはありますが、今回は早期乳癌に対するデノスマブの骨折予防効果を検証したRCTです。もともとホルモン受容体陽性の乳癌患者では、ホルモン療法によって骨密度が低下して骨折が増えることが知られています。今回、そこに対してデノスマブを使ってみたというわけです。
 論文のPICOは、

P:閉経後女性で転移の無いホルモン受容体陽性の乳癌患者でアロマターゼ阻害薬内服中
 ※3ヶ月以内のビスホスホネート製剤使用者は除外
I:デノスマブ 6ヶ月おき+VitD・Ca製剤推奨
C:プラセボ 6ヶ月おき+VitD・Ca製剤推奨 
O:症候性の骨折(但し骨密度関連の無い部分の骨折は除く)
T:RCT/ITT解析/58施設
結果:
 平均64歳、骨密度正常者55%
 3420人がデノスマブ群 1711人、プラセボ群1709人にランダム割り付け。
 プライマリアウトカムは、デノスマブ群 92/1711人、プラセボ群176/1709人でデノスマブ群が有意に少なくHR 0.50(0.39-0.65)だった。 

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(本文より引用)

 デノスマブの効果はかなり劇的でした。有害事象プラセボと比較してもそれほど多くない感じ。やはり6ヶ月置きならそれほど心配いらないんでしょうかね。今後この分野の追加検証が待たれる所かなと思います。

✓ 骨折のないホルモン療法を行う早期乳癌患者へのデノスマブ投与は骨折を有意に予防する