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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

今週のカンファ:前頭葉梗塞と失語/脳梗塞と発熱/妊娠とレントゲン

今週のカンファまとめです〜
今週は色々気付きを頂きました。

前頭葉梗塞と失語  Aphasia with frontal stroke

 失語をきちんと診断できるようになるのは非常に難しく、しばしば誤診されていることも多い症状の一つです。一般的には言語運動野の障害による運動性失語(Broca失語)と言語感覚の障害による感覚性失語(Wernicke失語)が有名ですが、それ以外の部分の脳障害でも失語を来す事が知られてきています。

 その一つが前頭葉です。前頭葉は「地図の描き込まれていない脳領域 Goldman-Rakic,1984」とも言われ、まだまだ機能が分かっていないことも多いと言われています。特に前頭葉障害による言語障害は非常に多彩な症状を来すと言われています。

 失語の評価に必要な項目をおさらいしておきます。マッシー池田のHPを参照に以下を作成しました。備忘録的にまとめ直しておきます。

①自発語量の観察
 まずは、通常の問診時に発語量が多いか少ないかを評価します。失語の影響で口数が少なくなる人がいます。ただし、失語の影響で多弁になる方もいる(Wernicke失語等)ので注意。

②流暢に話せるか?
 主に運動性失語で流暢性が失われます。流暢か否かの判断は非常に難しいのですが、発話時の努力や発話長が短くなったりといったことも特徴としています。尺度も色々あるみたい。

③復唱はできるか?
 通常の言葉は出ないけど、復唱はできる場合には超皮質性失語などを考えます。単語や文などで確認するとされています。
例)単語→二語(青い空、赤い花)→三語(今朝はご飯を食べました、春は桜の季節です)等。

④言語理解が出来ているか?指示に従えるか?
 池田先生は、Yes/Noで答えられる質問・口頭だけの命令動作に従えるか・同じ命令を模倣動作でできるかを評価すると書いています。運動性失語であれば、ここは問題ないはずですし、感覚性失語であればここもできません。ちなみに言語理解は出来ているが失行があるためにできないということがあり、この場合は感覚性失語では無く失行になるので、動作の模倣のみを指示することで鑑別が可能です。

⑤字を読めるか?
 運動性失語の場合には読みは可能です。一方感覚性失語は読みは出来ません。これのみが出来ない失読という症状もあり注意が必要です。

⑥字を書けるか?
 失語の場合にはほとんど失書を来します。失語性失書と頭頂葉障害による失書とは区別が必要です。仮名文字と漢字では機序や関連の脳部位が異なることも報告されています。

 失語の評価と一口にいっても、「あ、しゃべれないね・・・」で終わらせずにきちんと復唱・模倣・書字・読字等を評価する必要があります。実際には明確に分類できないことも多いかもしれませんが、上記のステップを記載しておくと後で見る医者にも役に立つかもしれません。

 ✓ 前頭葉梗塞も失語の原因となる。失語患者を診たときに記載すべき項目を整理しておこう。

 

 

脳梗塞と発熱 Stroke and fever

 これ、色んなところで言ってるんですが、なかなか普及しないですねえ。脳梗塞発症後に発熱が起こる原因は様々です。まず、注意しなくてはいけないのが、来院時から既に発熱がある場合です。発熱とともに神経症状が出ている場合には、髄膜炎や硬膜下膿瘍、脳膿瘍、感染性心内膜炎などの中枢神経感染症を鑑別に考える必要があります。一方、脳卒中発症後から熱が出てくる場合には、誤嚥性肺炎や各種デバイス/カテーテル留置に伴う医療関連感染も考慮する必要があります。ま、あまりデバイス入れ過ぎるなという話もあります。

 そして、もう一つが脳梗塞そのものの発熱です。最近分かってきていることは、脳梗塞発症時に虚血領域の脳温度が高くなっているということです。そしてこれに伴い体温が上がることが分かっています。IL-6、CRPなどの炎症性蛋白も同様に上がります。脳卒中後に発熱が出現した場合に、上記の鑑別疾患を丁寧にrule outしながらも、原疾患に伴う発熱があるかもしれないと考えながら丁寧に身体所見を評価していく必要があります。
 
 ちなみに、この脳卒中発症後の発熱は脳梗塞患者の予後を悪化させるというのは観察研究で分かってきています。メタ解析も行われていますが、これによると短期死亡率が発熱なしと比較するとOR 2.2(95%CI:1.59-3.03)と有意に上昇することが分かっています。Acta Neurol Scand. 2010 Dec;122(6):404-8.

 
上記を受けて専門医の中では発症数日の体温を正常化させることで脳保護を行おうという動きがあり、アセトアミノフェンを投与したり、抗菌薬を投与したりという研究が行われていますが、現時点ではどれもpositive dataは出ていません。

 だらだら書きましたが、要は研修医や脳外科医に言いたいメッセージは

脳梗塞患者は熱でまっせ。安易に誤嚥性肺炎とか炎症反応高いとか言って抗菌薬投与しない!」

ということでした、はい。

 ✓ 脳梗塞患者の発熱に対する適切な対応を。発熱を起こすと予後不良になる。

 

 

妊娠とレントゲン Pregnancy and X-ray

 「妊娠中に胸部レントゲンって取っても良いですか?」って時々聞かれることがありますね。一般の患者さんも心配していますが、カンファレンスなどでは研修医も躊躇しているシチュエーションをよく見ます。もちろん、意味も無いのにレントゲンを撮るのは御法度です(これはこれで大きな問題で、意外と必要ないのに撮られるレントゲンってのもありますが、この話題はまた別の時に・・・)が、本当に必要な時にも躊躇するのはどうかな?と思います。

 胸部X線を一枚撮像する時に起こる被曝量は胸部では<0.01mSVと言われ、非常に少ない量です。これは、飛行機で東京ーニューヨークを往復した際に宇宙線被曝している量(0.1mSV)よりもずっと少ない量と言われています。胎児に奇形を発生させる被曝量は少なくとも100mSV以上と言われており、胸部X線一枚撮像したからといって、胎児への影響が出ることはほぼないと考えて良いでしょう。

 きちんとした知識(エビデンス)を元に、患者さん(やご家族)の不安を傾聴して、最終的に最も患者さんに益のある方法を模索していくことが重要ですね。まあ、ここもSDMではあります。

 このテーマは倉原先生の本にもトピックで掲載されていました。非常に分かりやすい本ですので興味のある方は是非。

ねころんで読める呼吸のすべて: ナース・研修医のためのやさしい呼吸器診療とケア

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 ✓ 妊婦さんでも胸部レントゲンを撮ることは基本的には安全である