栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet スパイシーフードと死亡率/胃前癌病変の長期予後/脳梗塞入院患者へのワーファリン導入/尋常性乾癬へのJAK阻害剤/一般住民の死亡予測因子

BMJ

スパイシーフードと死亡率 
Consumption of spicy foods and total cause specific mortality: population based cohort study*1

 これは結構あちこちのSNSで取り上げられていた観察研究。食品ネタって色々あるけど味の特徴で攻めるというのはなかなか面白い視点だと思いました。そして、何より出してきたのが中国!そうか四川料理か・・・という感じですね。
 論文のPECOは、

P:中国10地区に居住する30-79歳の49万人
  2004-2008年に組み入れてベースライン評価し、心疾患・脳卒中・癌患者を除外
  「先月hot spicy foodをどの位の頻度で食べましたか?」と質問し、週1回以上と答えた人はメインは何か質問
E/C:①週1回未満、②週1-2回、③週3-5回、④週6-7回
O:死亡率
T:前向き観察研究
結果:
 男女ともに最も多いのは週1回未満で28万人。次に多いのは週6-7回で15万人。メインは赤唐辛子。
 プライマリアウトカムは、①週1回未満を1とすると、②週1-2回がHR 0.90(0.84-0.96)、③週3-5回がHR 0.86(0.80-0.92)、④週6-7回がHR 0.86(0.82-0.90)とspicy food摂取群の方が有意に死亡率が低かった。

  他にも多くの疾患について検証されていますが、例えば、虚血性心疾患や糖尿病、呼吸器疾患あたりが統計学的には少なくなりそうです。摂取量の再現性は問題になりそうですが、再評価の為、1.5年経過したところで、ランダムに1300人を再評価して、摂取量が大きな変化がないかは検証しています。また、興味深いのは女性の方が男性よりも辛いモノ効果が出ていることでしょうか。毎日赤唐辛子(Fresh chili pepper)食べるのはきついなあ・・・

✓ 辛いモノを毎日食べる人は、週1回未満の人と比べて死亡率低い


胃前癌病変の長期予後 
Incidence of gastric cancer among patients with gastric precancerous lesions: observational cohort study in a low risk Western population*2

 ピロリ菌感染によって、胃炎→萎縮性胃炎→腸上皮化生→癌のカスケードで胃癌が発症すると言われていますが、これらの前癌病変がどの程度胃癌のリスクになるのかどうか?というのは十分検証されていませんでした。今回は、比較的胃癌発症頻度の少ないSwedenのNational registryからです。
 論文のPECOは、

P:1979-2011年に内視鏡下で生検を施行された40万人が対象
  ベースラインで胃癌や胃切除既往患者は除外されている
E/C:①正常粘膜、②軽度の変化、③胃炎、④萎縮性胃炎、⑤腸上皮化生、⑥異形成
O:胃癌発症
T:人口ベースの観察研究
結果:
 胃癌発症頻度は、①正常粘膜を1.0とすると、②軽度の変化 標準化IR 1.5(1.1-2.0)、③胃炎 標準化IR 1.8(1.7-1.9)、④萎縮性胃炎 標準化IR 2.8(2.3-3.3)、⑤腸上皮化生 標準化IR 3.4(2.7-4.2)、⑥異形成 標準化IR 1.5(4.7-8.7)と有意に上昇した。

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(本文より引用)

 20年経過観察すると、⑥異形成群では、19人に1人に胃癌が発症していた。

 内視鏡を施行している身としては、非常に有用なデータだと思いました。以前から教わっていた、ピロリ菌感染に伴う萎縮カスケードが線形に胃癌発症リスクと相関することが分かった素晴らしいデータだと思います。何と言ってもNational cohortですしね。日本でも似たようなデータ出してくれないかなあ。あとは、これらのリスクデータを元にして、これらの患者さんに対する定期的なサーベイランスはどの様な形が適切かつ費用対効果、患者利益が大きいのかが明らかになると良いですね。少なくとも今やっているような「年に1回は胃カメラやりましょうね〜」みたいなのは、そろそろ卒業したいなあとは思います。

✓ 胃粘膜萎縮の程度は胃癌発症リスクと正の相関関係がある


脳梗塞入院患者へのワーファリン導入 
Real world effectiveness of warfarin among ischemic stroke patients with atrial fibrillation: observational analysis from patient-centered research into outcomes stroke patients prefer and effectiveness research(PROSPER) study*3

 これも大規模研究。入院患者を対象にしたアメリカ全土の脳卒中registryからの報告です。実はワーファリン導入効果を入院患者対象に検証したstudyはあまりないので、今回は実臨床での使用がどの程度効果があるのかを検証しています。
 論文のPECOは、

P:2009-2011年に脳梗塞で入院し生存退院した、心房細動ないし発作性心房細動の既往がある12552人
E:ワーファリン導入
C:ワーファリンなし
O:①MACE:Major adverse cardiovascular events(死亡・心血管イベント入院・合併症入院)、②Home time(患者よりのアウトカム:退院後施設などでは無く自宅で過ごすことの出来た時間)
T:後ろ向き観察研究
結果:
 心房細動既往のある急性脳梗塞患者は全部で62997人、そのうち抗凝固禁忌やNOAC症例など4万人は除外。最も多いのは、抗凝固を過去に飲んでいた14801人で次が抗凝固禁忌で13991人。最終的に12552人が残っている。
 まず、ワーファリン導入は11039/12552人(88%)、非導入群は1513/12552人(12%)だった。 
 ワーファリン導入群の方が、年齢が若く脳梗塞既往も少なかった。
 プライマリアウトカム①MACEは、ワーファリン導入群の方が非導入群に比べて有意に少なかった HR 0.87(95%CI:0.78-0.98)
 プライマリアウトカム②Home timeは、患者にとって重要なアウトカムと位置づけられ、ワーファリン導入した方が非導入群に比べて、2年間で47.6日(26.9-68.2)家に長くいられると言う結果だった。

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(本文より引用)

 臨床試験では確認されているワーファリンの効果を、今回は大規模な実臨床ベースのレジストリーで証明できたと言う意味で非常に良いデータでした。それにしてもきちんとワーファリン導入されていますねえ。ほぼ90%!そしてやはりワーファリンは凄い薬だ・・・もう一つはアウトカム設定。Patient centeredなアウトカムを家で過ごせる時間(Home-time)と設定しましたね。この患者中心のアウトカムは最終的には個別化されていく必要があるのかもしれませんね。それにしても興味深い研究が出てきました。
 
✓ 実臨床においても心原性塞栓症に対するワーファリン導入は合併症予防に効果的で、患者中心のアウトカムも改善する

 


■Lancet

尋常性乾癬へのJAK阻害剤 
Tofacitinib versus etanercept or placebo in moderate-to-severe chronic plaque psoriasis: a phase 3 randomised non-inferior trial*4

 尋常性乾癬に対する治療は日進月歩ですね。今回は経口生物学的製剤であるJAK阻害剤ともう一つIL17阻害剤のstudyがLancetに掲載されていました。まあ、○○マブの時代到来なわけですが、費用対効果や副作用について、長期的な視点も含めて十分検討していく必要があるとは思います。IL-17阻害剤効果もすごいのですが、今回はこちらを〜。
 今回の論文のPICOは、

P:12ヶ月以上病状が安定している尋常性乾癬
  PASI(Psoriasis Area and Severity Index)≧12、PGAでmoderate-severe、体表面積≧10%
I/C:①JAK阻害剤(Tofacitinib) 5mg、②JAK阻害剤(Tofacitinib) 10mg、③エタネルセプト 週2回、④プラセボ
O:①12週時点でのPASI 75%以上改善、②PGA(Physician's Global Assessment)でclearかalmost clearの割合
T:RCT/非劣性試験/Δマージン 15%
結果:
 平均44歳、罹病期間17歳、PASI 20、関節炎合併は20%
 プライマリアウトカム①PSAI改善は、①JAK阻害剤(Tofacitinib) 5mg 130、②JAK阻害剤(Tofacitinib) 10mg 210、③エタネルセプト 週2回 197、④プラセボ 6であり、プラセボと比較して有意にJAK阻害剤・エタネルセプト群で改善。
 プライマリアウトカム②PGA改善は、①JAK阻害剤(Tofacitinib) 5mg 155、②JAK阻害剤(Tofacitinib) 10mg 225、③エタネルセプト 週2回 222、④プラセボ 16であり、プラセボと比較して有意にJAK阻害剤・エタネルセプト群で改善。

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(本文より引用)

 JAK阻害剤10mgはエタネルセプトと非劣性。一方5mgはプラセボよりは良いもののエタネルセプトとの非劣性は証明できませんでした。副作用で止めた人はほとんどいないので短期的な安全性は良さそうです。あとは新薬で毎回同じ考察になりますが、長期予後と費用対効果でしょうか。この薬の売りはとにかく経口剤であることに尽きると思います。個人的に心配なのは安易な使用による不具合が起きないか・・・というところでしょうか。凄い時代になってきました。

✓ 乾癬に対する経口JAK阻害剤(Tofacitinib)10mgは、疾患活動性の制御に関してエタネルセプトに非劣性だった


一般住民の死亡予測因子 
5 year mortality predictors in 498103 UK biobank participants: a prospective population-based study*5

 さて、タイトルにもありますが、まさにBiobankというのにふさわしい研究かもしれません。死亡に関連する因子について独立した予測因子を検討した研究は複数ありますが、今回は複数のリスク因子を同時に調べた英国の国民データレベルの報告です。今回は第一報とありましたので、今後追加報告が出てくるかもしれません。
 論文のPECOは、

P:37-73歳のイギリス人約50万人
E/C:65歳時に測定した項目を元に10に分類
O:死亡
T:前向き観察研究
結果:
 平均56歳、死因最多は悪性腫瘍(男性 53%、女性 69%)
 平均follow up期間は4.9年でした
 男性で最も死亡を予測したのは健康自己評価で、女性では悪性腫瘍の既往だった。
 ベースラインにmajor diseaseある人を除外すると、最も死亡を予測したのは喫煙だった。

 男は”自分の事は分かっている”といった所なんでしょうか。国民性はあるとはいえ、「健康に関する自己評価が低い男性が死亡率が高い」というデータは非常に興味深いです。他のどんな因子よりも高いとは・・・まあ、もちろん健康に関する自己評価が低いというのは何かの現れなのですが、そこに関連した因子を探っていくのは大変興味深い作業かもしれません。そしてビッグデータ。日本も今後データが出ていく可能性がありますが、現場での情報収集の質を上げることも求められていると思います。

✓ 一般住民の5年後の死亡を予測する因子として、男性では健康自己評価、女性では悪性腫瘍既往が最も関連していた