栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 日本の在宅ポリファーマシー実態/試験問題の再現/肝性脳症レビュー/GBD2013結果/ステント狭窄への最適な治療

BMJ

日本の在宅ポリファーマシー実態
Identification and prevalence of adverse drug events caused by potentially inappropriate medication in homebound elderly patients: a retrospective study using a nationwide survey in Japan*1

 ポリファーマシーについては最近大注目な訳ですが、今回は日本の在宅高齢者のPIMsとPIMsによるADEを調査した観察研究が掲載されていました。といっても正確にはBMJ Openの方ですが・・・これ、厚生労働省も関与している模様です。
 論文のPECOですが、

P:厚生労働省が送付したアンケートに回答のあった訪問薬局1890カ所が訪問している4815人の患者
E/C:内服薬剤・
O:PIMs・ADE
T:後ろ向き観察研究
結果:
 平均82.7歳
 PIMsは48.4%で見られた
 PIMsによるADEは全体の8%で見られた
 ADEを起こす薬剤は抗コリン薬・ベンゾジアゼピン系薬剤・スルピリドジゴキシン

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(本文より引用)

  PIMs検出ツールとしてBeersやSTOPPが提唱されていますが、PIMsはあくまで潜在的なリスクであり、最も減らしたいのはADE(薬剤有害事象です。PIMsはPotentially Inappropriate medeicationですよね。なかなかADEを検証した研究は多くないので、今回の結果は貴重なデータです。まあ、とりあえず日本の問題薬剤がリストアップされました。他国と比較してPIMsが予想以上に多かったこと、ベンゾ処方が異常に多かったことなどが注目点です。
 皆様、抗コリン・ベンゾジアゼピンドグマチールジゴキシンに注意が必要です。
 
✓ 日本の在宅患者でADEと関連する薬剤は抗コリン・ベンゾジアゼピンドグマチールジゴキシンで、PIMsは48%にも及ぶ


試験問題の再現 
"Lifting the carpet" on cheating in medical school exams*2

 医学部の教員であるAnne Tonkinさんの投稿です。Cheatingって要は日本で言うカンニングですよね。本文中では、試験問題を記憶して再現問題を作ったり、試験をまだ受けていない仲間に教える行為を指している様です。冒頭には、オーストラリアの医学校で2013年に起こった”スマホ撮影・転送事件”のことが記載されています。

 医学生のcheatingの頻度は25-35%程度とも言われています。筆者は以前はあまり気にしなかったんだけど、最近は医学生の問題復元能力が著しく向上して、かなり高い精度で問題再現が出来るようになってきたと嘆いています。cheatingは教員にとっては頭の痛い行為らしく、ほとんど見て見ぬ振りとなっています。まあ、ただ、こんな非プロフェッショナルな行為はいい加減止めないか?とコメントされていました。cheatingを行うリスク因子としては、個人の素養・状況(周囲もやっている等)・施設(競争主義・注意されない学校等)があるようです。

 結局目標設定が間違っていて、試験に通ることを目標にしてしまうからこんなアホなことでやきもきしなくちゃいけないんじゃないか?と。目標はプロとしてきちんと診療できるようになる事だよねーと。まあ確かにね。

✓ 医学生のcheatingは世界各国の医学校で問題に・・・


肝性脳症レビュー 
Hepatic encephalopathy due to liver cirrhosis*3

 肝性脳症についてのレビュー。まあ、簡単に要点を箇条書きに。

・肝性脳症は発症後3年生存率23%
・神経心理症状は徐々に始まり昏睡へ。
・神経学的所見はStage1-2ではほぼ正常
・Stage3以上では、深部腱反射亢進・Babinski反射 extensorなど
・重症度分類に用いられるのは、West-Haven分類
・最近注目はCovert HEでminimal HEとも呼ばれ、なかなか気付かれにくいのが問題
・肝硬変患者の50%にcovert HEがあると言われていて、生活に支障は出ている。
・同定の方法には様々なツールがある。(図)

f:id:tyabu7973:20150830214102j:plain(本文より引用)

・肝性脳症の原因は、アンモニア・低ナトリウム血症・筋肉量減少・炎症(感染など)
診断は臨床診断であり、アンモニアで行うべきではない
・実はCochraneでは急性期治療として特別な治療は勧めていない。
・勧めるとすれば二次予防に効果があるラクツロース程度。
・自動車運転は避けてもらう必要がある。
ラクツロースでダメならリファキシミン(本邦ではオーファンドラッグに指定)
ニフレックはもう少し検証を待とう。
・肝性脳症を頻回に繰り返す様になる時期には、end of life careとしてご家族の教育が重要。
肝性脳症が出ている=終末期という理解
・便秘や鎮静剤は肝性脳症のリスクになる

✓ 肝性脳症の知識を整理しておこう

 


■Lancet■

GBD2013結果 
Global,regional, and national incidence, prevalence, and years lived with disability for 301 acute and chronic diseases and injuries in 188 countries, 1990-2013: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2013*4

 2013年に行われたGlobal Burden of Disease(GBD)の結果です。世界のYears lived with disability(YLD)を評価しています。YLDは障害生存年数とも訳されており、死には至らないまでも障害を引き起こすことの多い疾患の負担ということになります。この辺りは要は健康寿命と関連していて、できればYLDが少ない方が健康に人生を送っていると言うことにはなります。まあ、健康的に障害の無い人生が果たして幸せか?みたいな哲学的な問いはありますが、死亡のみで評価するステレオタイプの評価よりは多少気が利いている気はします。
 
 さて、2013年にこの調査が行われていて、世界各国について評価されています。実は期限で切っていて、1998年以前、1998-2005年、2006-2013年の3期間について検討しています。まずは先進国やサハラ以南など地域・国別の人口動態とその中での疾患を抱えている方の割合は以下の通りになります。先進国の方が長生きになる分、疾患を抱えている人は増えるという当たり前の結果です。しかしまあこんなにきれいに別れるんだなあと、あらためて感じます。

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(本文より引用)

 YLDの世界No.1は”Low back pain”でした。次が”Major depression”、第3位に”iron deficiency anemia”と続きます。Top10を見るとそれ以外に、Neck pain、Migrane、muscloskeletalなど全体的に痛みを伴う疾患がYLDと関係している模様です。

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(本文より引用)

で、これ全部国毎にデータを出しているのですが、日本でのTop10を発表しておきますね。
第10位 変形性関節症
第9位 Alzheimer型認知症
第8位 鉄欠乏性貧血
第7位 転倒 
第6位 聴力障害
第5位 うつ病
第4位 頚部痛
第3位 糖尿病
第2位 筋骨格系疾患
第1位 腰背部痛
 日本の特徴は片頭痛が入っていないこと。世界のほとんどの国で10位以内に入っていますが・・・これはまあおそらくUnderdiagnosisなんでしょうね。この論文は暇つぶしに読むと面白いかもしれません。

✓ 世界的に障害生存年数(YLD)と関連する疾患は①腰背部痛、②うつ、③鉄欠乏性貧血だった


ステント狭窄への最適な治療 
Percutaneous coronary interventional strategies for treatment of in-stent restenosis: a network meta-analysis*5

 「ステント内狭窄」はまあ確かに循環器領域の問題ではあるんですが、PCI後にDAPTになってからプライマリケア医が引き継ぐこともありますよね。ステント内狭窄についての理解を深めておく必要はあります。最近のデータではBMS後20-30%、DES後 5-10%にステント内狭窄を来すと報告されています。今回は2014年10月までに発表されたRCTのデータを元にステント内狭窄患者さんに対する治療法を比較しています。
 論文のPICOは、

P:ステント内狭窄患者
I/C:8つの治療方法を比較
O:CAGで評価した狭窄程度
T:ネットワークメタ解析/random effect model
結果:
 全部で27RCT、5923人が組み入れ対象
 high risk biasのstudyはないもののunclear biasは多い
 全体の異質性なし、比較された治療は以下。
 BA:バルーン血管拡張、BMS:ベアメタルステント、DCB:薬剤コーティングバルーン、EES:エロリムス溶出性ステント、PES:パシリタキセル溶出性ステント、ROTA:ローターブレーション、SES:シロリムス溶出性ステント、VBT:血管分枝治療 血管内放射線照射療法

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(本文より引用)
 上記8つの治療の中で最も効果が高く狭窄程度が低かったのはEES、次いでDCBだった。

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(本文より引用)

 基本的にはEESの時代の模様ですね。いわゆるザイエンスⓇですね。この辺りは技術の進歩が著しい領域なので色々キャッチアップしていかんと。結構筆者達はCOIバリバリですが・・・

✓ 冠動脈ステント内狭窄症に対する最適な治療はEESである