栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 慢性腎臓病のスクリーニング/担癌患者のVTEへの低分子ヘパリン/敗血症性ショック/深部静脈血栓症での癌スクリーニング/安定虚血性心疾患でのトロポニンと予後

■JAMA■

慢性腎臓病のスクリーニング 
Screening for chronic kidney disease*1

 JAMAのClinical guideline synopsisです。今回は2013年のACPガイドラインをピックアップしています。多くの腎臓系の学会がスクリーニングを推奨し、CKDという名前は爆発的に拡がったものの、本当に無症状の高齢者にスクリーニングをかけることは有用なのだろうか?というのが論点です。

 CKDは3ヶ月以上eGFR<60の状態が続くことを指しており、現在の定義だと米国全人口の14%がCKDで、6%がStage3以上に分類されてしまいます。Stage3のCKDはESRDのリスクになる事が分かっており、そのサロゲートというわけです。ただ、スクリーニングや腎機能の定期的なモニターが予後を改善するかを評価したRCTはなく、スクリーニングによる偽陽性やコスト、心理的な負担などの害にも目を向ける必要があります。たまに必要以上に透析を脅されている高齢者とか炭を飲まされている人とかいますよね。
 Stage1-3くらいの早期CKDに対しての介入が予後を変えるか?という点で言えば、高血圧・糖尿病が基礎疾患としてある場合には、ACEiやARBは有効です。一方で蛋白尿が出ていない患者や高血圧・糖尿病がないCKD stage1-3の患者さんに対する効果は明らかになっていません

 今回取り上げられている2013年のACPガイドラインでは、CKDリスクの無い患者へのルーチンスクリーニングには反対の立場です。これはアメリカ腎臓学会と反対の推奨であり、この部分を明確にするエビデンスの確率が必要だとされていました。

✓ 早期CKDの発見のためのスクリーニングや介入効果については不明な点が多い


担癌患者のVTEへの低分子ヘパリン 
Tinzaparin vs warfarin for treatment of acute venous thromboembolism in patients with active cancer*2

 ガイドラインでは担癌患者のVTEに対しては低分子ヘパリンを推奨していますが、根拠はたった一つのRCTのみでしたので、今回検証してみましたという形です。
 論文のPICOは、

P:担癌患者のVTE 900人
  ・画像で肺塞栓もしくは近位DVT確認
  ・発症前ECOG≦2点
  ・組織確認癌で①6ヶ月前に診断、②進行癌もしくは転移、③6ヶ月以内に癌治療、④CRしていない血液腫瘍のどれかを満たす
I:LMWH 1日1回 6ヶ月
C:LMWH 5-10日→途中でワーファリン(INR 2.0-3.0)
O:Composite outcome(症候性肺塞栓・深部静脈血栓症、無症候性肺塞栓・近位DVT)
T:RCT/多施設共同
結果:
 平均59歳、婦人科癌22%、大腸癌12%、転移 55%、抗癌剤使用 42%、肺塞栓症 20%
 ワーファリン INR 2-3を達成した期間は平均47%、LMWHのアドヒアランスが75%以上の人が86%
 composite outcomeは、LMWH群 31/449人(6.9%)、Warfarin群 45/451人(10.0)で、HR 0.65(0.41-1.03)
 全死亡は両群で有意差なし
 出血については、non-major bleedingは減ったものの他は有意差なし

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(本文より引用)

 うーん、微妙なところです。グラフを見ても、これでワーファリンとLMWHは差がないよね?って言われると・・・です。やっぱりTrousseau症候群もそうですが、担癌の過凝固状態にはワーファリン今一つなのかもしれませんね。統計学的には有意差はつかなかったものの、イベント数がもう少し増えれば有意差はついちゃいます。

✓ 担癌患者のPTE/DVTに対してワーファリンよりもLMWHの方がイベント発生効果は良い傾向


敗血症性ショック 
Septic Shock:Advances in diagnosis and treatment

 こちらは敗血症性ショックのレビューなり。敗血症性ショックについては、去年NEJMを中心にSSCGの検証記事など多数出ていますが、今回はそれも含めて診断治療のUpdateについてのレビューです。例のごとく箇条書きで。
・そもそもショックの診断が結構難しい。典型的には、sBP≦90 or MAP≦65mmHg+低灌流症状
・ただ、低灌流症状をどう診断するかも難しい。
・20世紀半ばにBlalockさんがショックを4つに分類し、①心原性、②閉塞性、③低循環、④血管原性に分類したが、実際にはそうそう単純なものでは無く、overlapも十分あり得る。
・米国では毎年23万人以上が敗血症に罹患し、4万人が死んでいる。
・まずは、ベッドサイドで「この患者はショックか?」の問いを。コンセンサスとしては、感染症疑い+低血圧+低灌流所見があるかどうか。
・ショックが判明した場合には、次はその原因の検索
・重症感染の場合にorigin検索はしばしば難しいこともある。
・Biomarkerはいろいろあるけど頼らない方が良さそう。
・SCVO2とか肺動脈カテーテルなどの侵襲的なモニタリングは結局予後を変えず。症例に応じて検討。
・Focused Ultrasonographyによる血行動態評価は良いかもしれないが、十分な検証はされていない
・乳酸値の役割は微妙
プロトコール化は敗血症診療のステップアップに繋がったが、大規模検証では十分な効果証明されず。
・初期輸液では生食 vs 晶質液では、米国では生食が好まれるが、Cl制限が重要ではないか?という意見もある。ネットワークメタ解析では、晶質液の方が生食よりも予後が良い傾向(HR 0.78:0.58-1.05)だった。
・コロイド製剤の役割は敗血症に関してはなし。有害であると言うデータ。
・昇圧薬についてはDOA vs NAdでのSOAP-Ⅱ trialなどが有名で、これによるとDOA vs NAdでNAdの方が予後が良かった。メタ解析でも同様の結果で死亡率は、NAdの方がRR 1.12:1.01-1.20。
・治療に関する最近の主な進歩は以下!みると輸液関連・昇圧薬関連・プロトコール関連ですね〜

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(本文より引用)


✓ 敗血症の診断・治療の近年の進歩についていこう。やることは基本的にはシンプル。正確な認知と迅速な対応が肝。

 


■NEJM■

深部静脈血栓症での癌スクリーニング 
Screening for occult cancer in unprovoked venous thromboembolism*3

 さて、原因不明のDVTを診断した場合に、原因としての癌をどの程度探しに行きますか?というのが今回のテーマです。上級医がカンファとかラウンドで「癌の可能性は?」と問うことで、患者さんも不安になって過剰検査を希望するという悪循環が存在するとしています。
 今回の論文のPICOは、

P:誘因の無い静脈血栓塞栓症患者
I:限定的な癌スクリーニング(採血・胸部X線・乳癌/子宮頚癌/前立腺癌スクリーニング)+CT群
C:限定的な癌スクリーニング(採血・胸部X線・乳癌/子宮頚癌/前立腺癌スクリーニング)のみ
O:スクリーニングでは見つからず、1年後に発見確定診断された癌
T:RCT
結果:
 854人が無作為化。平均 53歳、男性 65%、喫煙者 15%、過去に喫煙 33%
 DVT患者が 67%、PTEが32%、療法が12%
 プライマリアウトカムは、CT追加群で19/423人(4.5%)、限定スクリーニング群で14/431人(3.2%)で有意差は認めなかった
 癌関連死亡も有意差なし。


 なるほどー。興味深いです。もともと過去のSystematic reviewの結果からはVTE発症時に診診断の癌は6%程度、1年後には10%程度というデータがあった模様ですが、今回はそれよりもかなり少ない3.9%で癌が見つかったと言う結果でした。今回のRCTの結果を基にすればCTを追加する意味はほとんどないことになります。今回の研究の限界は癌発症頻度が少なく、過去の研究より10歳ほど年が若いこと、癌スクリーニングが不十分?と指摘されていました。まあ、まだ検証は必要だけど、それほど必須なことではなさそうです。

✓ 原因不明のVTE患者でルーチンに癌スクリーニングをしても癌発症や死亡には関連しないかもしれない。Less is more


安定虚血性心疾患でのトロポニンと予後 
Troponin and cardiac events in stable ischemic heart disease and diabetes*4

 トロポニンが高感度測定できるようになり、正常範囲内ではあっても値によってリスクが異なることが分かってきています。今回は、安定型虚血性心疾患患者の中でトロポニン値の高低で再潅流療法の有用性があるのかを検討しています。この研究自体は、BARI-2D研究という2型糖尿病患者への再潅流療法 vs  内服治療のRCTのデータを利用しています。
 論文のPICOは2つあり

 1つめ
P:糖尿病+安定型虚血性心疾患
I:Troponin≧14
C:Troponin<14
O:composite (心血管死亡・心筋梗塞脳卒中
T:RCT sub解析

2つめ
P:Troponin≧14の糖尿病+安定型虚血性心疾患
I:再潅流療法
C:薬物療法
O:composite (心血管死亡・心筋梗塞脳卒中
T:RCT sub解析
 結果はまとめてご報告しますが、まずはTnTが高い群は有意に年齢・既往疾患が多い事が明らかになりました。有意差がついている項目としては、心筋梗塞既往・治療が必要なうっ血性心不全・eGFR低下・インスリン使用中・50%以上の冠動脈狭窄などが有意に高い結果。
 1つめのプライマリアウトカムですが、TnT≧14の方が有意にCoomposite  outcomeは増える結果だった。HR 1.85:1.48-2.32。リスク因子の調整を行い多因子補正をしてもTnTは独立した予測因子だった。

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(本文より引用)

  トロポニンTが高いのはやはりあまり良くないんだなあと。あらためて思った次第。ただ、これ予測にはなるけど介入は難しいですね。定量が直ぐ出ない施設だとなかなかどう利用するか微妙なところ。

✓ 安定型虚血性心疾患の患者では、トロポニン高値は心血管イベントや死亡率と関連する