栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet ハンドクリームに注意/飽和脂肪酸やトランス脂肪酸と死亡の関係/術後再入院先の死亡への影響/エボラウイルスワクチンの効果/パーキンソン病レビュー

BMJ

ハンドクリームに注意 
Falsely elevated capillary glucose and ketone levels and use of skin lightening creams*1

 BMJの症例報告から。血糖を測定するときの誤差とハンドクリームという話題です。この視点はなかったですねえ。まずは簡単に症例の紹介から。

 37歳黒人女性で糖尿病で血糖コントロール不良のためコントロール目的に入院。適切なインスリン調整にも関わらず血糖0からhighまで血糖値が不安定な状態が続いた。尿中・血中ケトンは陰性。なんでしょう?と。結果はハンドクリームによる血糖測定値異常で、十分手を洗ってから血糖を測定したところ正常だった。

 Skin lightening creamで迅速血糖・ケトン体が高値に出る事があるので注意が必要です。原因物質はヒドロキノンと判明しており、2011年には欧州で癌化リスクがあり使用禁止になっています。米国では使用禁止にはなっていないもののFDAが注意勧告を出しています。更に日本では2%製剤までは厚生労働省が認めていますが、それ以上のものの使用は禁止されています。

✓ 血糖測定値が異常になるハンドクリームがある


飽和脂肪酸トランス脂肪酸と死亡の関係 
Intake of saturated and trans unsaturated fatty acids and risk of all cause mortality, cardiovascular disease, and type 2 diabetes: systematic review and meta-analysis of observational studies*2

 飽和脂肪酸トランス脂肪酸は体に悪いとやり玉にあがることの多い脂肪分ですが、本当に体に悪いのかそれぞれの栄養分と死亡との関係を評価した研究を検討したシステマティックレビューです。飽和脂肪酸については41個の前向き観察研究(日本4つ)、トランス脂肪酸については33の前向き観察研究(日本なし)が組み入れられています。
 論文のPECOは、

P:一般人口
E:飽和脂肪酸あり、②トランス脂肪酸あり
C:飽和脂肪酸なし、②トランス脂肪酸なし
O:全死亡、冠動脈疾患死亡、心血管死亡、脳梗塞、冠動脈疾患、2型糖尿病
T:ステマティックレビュー
結果:
 飽和脂肪酸摂取群は非摂取群と比べて全てのアウトカムで有意差を認めなかった。
 トランス脂肪酸摂取群は非摂取群と比べて、全死亡が増加 HR 1.34(1.16-1.56)、冠動脈死亡増加 HR 1.28(1.09-1.50)、冠動脈疾患増加 HR 1.21(1.10-1.33)していた。

 飽和脂肪酸は特にどのアウトカムで検証しても血管イベントや死亡を減らさなかったけど、トランス脂肪酸は死亡を増やす可能性もあるわけですね。まあ、研究の異質性は高く根拠は不十分と結論され、更なる研究が必要とされています。飽和脂肪酸は炭素の二重結合のないタイプの脂肪酸でグリセリンと結合すると中性脂肪(トリアシルグリセロール)になるわけですね。で、トランス脂肪酸は、不飽和脂肪酸の炭素の二重結合が互い違いにくっついたものを指します。天然の脂肪酸はほとんどが同側にあるシス型で、トランス型は油脂の加工・精製の際にでき、マーガリンや揚げ物などに含まれています。

✓ 不飽和脂肪酸の中で特にトランス脂肪酸が心血管死亡や全死亡に関連する可能性がある

 


■Lancet■

術後再入院先の死亡への影響 
Readmission destination and risk of moratlity after major surgery: an observational cohort study*3

 これはなかなかに興味深いテーマです。退院した患者さんが再入院した時に、もともと入院していた病院に再入院するのと、全然違う病院に再入院するのとで、患者アウトカムは異なるか?という大変興味深いテーマです。病院勤務医をしていると、かかりつけが他院に入院したり、他院を退院したばかりの方が再入院することもあるので、意外と身近なテーマといえます。ただし今回は外科のデータ。
 論文のPECOは、

P:944万人の主要な12手術を受けた患者の中で退院後30日以内に再入院した患者
E:手術した病院への再入院
C:他の病院への再入院
O:再入院90日後死亡
T:後ろ向き観察研究
結果:
 主要な12の手術は血管手術(腹部大動脈瘤、バイパス、CABG、胆嚢摘出、結腸切除、大腿骨頚部骨折等)、30日以内再入院率は5.6-21.9%、手術した病院への再入院率は65-83%と疾患によって異なる。
 プライマリアウトカムである90日死亡は、手術した医療機関への再入院の方が有意に死亡が少なく、OR 0.74(0.66-0.83)だった。
 この結果は外科的合併症による再入院と内科的合併症による再入院は両方とも同等だった。 

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(本文より引用)

 非常に興味深い結果です。やはりもともといた施設に再入院した方が良いわけです。医療の連続性は重要。サブ解析では、再入院した場合に、同じ施設の同じ医師が診た方が死亡率が低いという結果も得られていました。今回は外科疾患でしたが、内科疾患も同様のことが言えるのでしょうか?

✓ 外科的手術後の再入院は、手術した病院に入院した方が90日死亡が少ない


エボラウイルスワクチンの効果 
Efficacy and effectiveness of an rVSV-vectored vaccine expressing Ebola surface glycoprotein: interim results from the Guinea ring vaccination cluster-randomised trial*4

 今回Lancetにはエボラの関連のstudyが出ていましたが、ワクチンの効果が素晴らしかったので取り上げておきます。何にせよ感動なのは、あの大変な時期にこんなのちゃんとやってたんだなあ・・・という。
 論文のPICOは、

P:エボラウイルス患者と接触あり or 接触者と接触があった対象者
  エボラ発症者1人あたりで上記1つのクラスターを作成し、クラスター毎にランダム化。
I:ワクチン筋注1回直ぐに
C:ワクチン筋注 21日後
O:ランダム化10日後のRT-PCR確定エボラウイルス感染
T:クラスターRCT
結果:
 全部で96クラスターがあり、50・46にランダム割り付け
 プライマリアウトカムのエボラウイルス感染は、per protcol解析では、ワクチン直後接種群では発症0人、21日後接種者では発症16人だった。ワクチン効果は100%。

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(本文より引用)

  ワクチン効果はまだ対象者数は少ないとはいえかなりのものです。ITT解析の方では実際に接種していない6人がエボラに罹患していますが、この方々は接種していないので、実際に接種したのにエボラに罹患した方はいなかったことになります。すごいですね。今後の大規模検証に期待ですが、これなら接触直後に打つという対応で行けるのではないでしょうか?あとは副作用ですね。

✓ エボラウイルス感染者との接触後ワクチン接種による発症予防効果は非常に高い


パーキンソン病レビュー 
Parkinson's disease

 さて、毎週一つくらいはレビューを読んでおりますが、今回はパーキンソン病についてです。これも日常診療で診断・治療全てに関わる事はあまり多くない疾患ですが、在宅医療だったり、内科合併症を併発した場合には受け持つ機会も多いので押さえておく必要があります。例のごとく箇条書きで。

・PDの臨床像は2世紀前に初めて描写されてが、疾患概念自体は徐々に変化している
・PDの原因として黒質線条体ドーパミン神経が関連
・近年注目は、PDでは運動症状のみならず非運動症状にも注意が必要。
非運動症状(起立性障害、疼痛、便秘、睡眠障害、うつなど)は運動症状が出現する10年以上前から出ていることがある

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(本文より引用)

・運動症状では2群に分けられ、tremor主体のタイプとtremorは主体ではないタイプとがある。
・PDのリスクになるものとして、以下の環境要因と遺伝的要因がある。リスクになるもので意外なところでは、頭部外傷や田舎暮らし、β遮断薬、水分摂取過剰など。逆にタバコやカフェインはリスクを減らす方向。遺伝子は多数解明されつつある。

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(本文より引用)

・治療の基本は対症療法。投薬により症状の進行やQOLを改善することは可能だが、疾患治癒は困難。対症療法が中心となる。
・内服薬の調整も重要だが、適切なタイミングで外科的手術を行うことで症状コントロールが可能となる

✓ パーキンソン病の全体像を押さえておこう