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栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:JAMA & NEJM 抗核抗体検査/前立腺癌スクリーニング/低活動高齢者に対する運動プログラムの認知機能への影響/手術時のワーファリン中断/前夜処置の手術成績への影響

■JAMA■

抗核抗体検査 
Clinical significance of a positive antinuclear antibody test*1

 恒例のJAMAのDiagnostic test interpretationです。要は検査結果の解釈についてエビデンスベースで勉強させてくれるコーナーという感じ。まずは症例が出てきます。

症例:30歳女性でリウマチクリニックに2ヶ月前からの倦怠感と手首・手・膝・足の関節痛を主訴に来院。腫脹はなく、関節炎は疑われない。その他の症状はないが、他院で抗核抗体が測定され、80倍陽性だったとのことで紹介となった。常用薬はセレコックス程度。採血はds-DNA抗体 陰性、SM抗体陰性、SS-A・SS-B陰性、抗サイログロブリン抗体 100倍、CK 77、ESR 7、CRP<3、WBC 6120、Hb 13.0、PLT 19.2、Cr 0.8それ以外には特記事項無し。あなたならどうしますか?

A:関節リウマチと診断する
B:SLEと診断する
C:将来的にSLEになるだろうと診断する
D:抗核抗体陽性波非特異的である


 まあ、答えはDなんですが。以下解説。
 抗核抗体測定法は主に2つです。①間接蛍光抗体法、②ELISAがあり、①はSLE診断に関して精度が高くGold standardとされていますが、施行できる施設が限られており、多くの医療機関では②を行っています。抗核抗体を安易に測定することが世界的にも問題になっており、検査前確率が低い群で抗核抗体を測定してしまうことが、検査の走査特性をより悪くしていると言われています。ある専門施設の研究では、ANA陽性患者の2.1%しかSLEではなかったという報告もあります。また、17歳以上の年齢層のSLEは0.24%しかいないのに、その世代の健常人のANA陽性率は13.8%とも言われています。偽陽性の原因は、健常人・甲状腺疾患・ITP・感染症多発性硬化症など多彩です。

 抗核抗体が陽性だが、その時点でSLEの分類基準を満たさない方が、その後SLEを発症するかを予測することは、ANAのみでは困難です。患者さんには説明の上セルフリポートしてもらうしかないかもしれません。

✓ 抗核抗体を検査前確率の低い集団で安易に測定しない。Choosing wisely!
 

前立腺癌スクリーニング 
Prostate cancer screening

 結構よく取り上げているJAMAのClinical guideline synopsis。まあ、ガイドラインを端的に分かりやすく取り上げてくれる良いコーナーです。今回は鉄板のPSAスクリーニングについて。

 今回は2012年のUSPSTFのガイドラインと2013年のAUAのガイドライン比較です。前立腺癌に対する早期介入が予後を改善することは過去の研究で明らかになっていますが、1994年にPSA検査が導入されてから、大きく診療が変化しました。PSA検診によって前立腺癌の頻度は大幅に増えましたが、前立腺癌死亡は減ったため、PSA検診は効果があった!という専門家と本来診断する必要がなかった前立腺癌を診断しているというoverdiagnosisの問題が出てきています。

 USPSTFは、moderate-highの程度でPSAスクリーニングを推奨しないとしており、AUAは、55-69歳男性ではshared decision makingを、54歳以下、70歳以上、余命15年以下にはスクリーニングを勧めないとしています。どちらにしても、89歳おじいちゃんのPSAをスクリーニングで測定するとかはなしですよね・・・55-74歳がキーですね。根拠となっているRCTが5つあり、そのうち3つはhigh risk biasがあるため、実質2つのRCTの結果を基に推奨を決めています。

 一つ目のRCTはERSPC試験で、18万人の50-74歳の男性対象で、2-4年毎にPSAスクリーニングを行って13年間follow upを行っています。結果、前立腺癌死亡がHR 0.79:0.69-0.91と有意に減少しました。また、前立腺癌の頻度はHR 1.57:1.51-1.62と有意に増加しました。もう一つが、PLCO試験で、76000人の55-74歳の男性に毎年PSAスクリーニングを行って、13年follow upを行ったところ、結果、前立腺癌死亡はHR 1.09:0.87-1.367と有意な変化はありませんでした。

 2つのRCT結果は相反する結果でしたが、利益を大きく見積もればERSPCの結果を基に21%減るとも考えられます。一方、スクリーニングの5人に1人はPSAが上昇し、生検を施行された3/4は癌と診断され、癌と診断された50-75%がlow gradeの癌であり本来治療が必要ないかもしれないと言う問題も抱えています。

 現時点ではスクリーニングの有用性については結論が出ていないと考えるべきだが、リアルワールドでは明らかに測定しすぎなので注意しましょうとのことでした。

✓ 前立腺癌に対するPSAスクリーニングは過剰状態であり、適応にはスクリーニングによる害も意識すること


低活動高齢者に対する運動プログラムの認知機能への影響 
Effect of a 24-month physical activity intervention vs health education on cognitive outcomes in sedentary older adults

 運動は認知症にいいですよーってメッセージを伝えることがありますが果たしてどんなもんなんでしょうか?今回他のランダム化比較試験のサブ解析ではありますが、低活動高齢者に対する運動プログラムが認知機能にどんな影響を与えるかを検証されていました。
 論文のPICOは、

P:一般住民で70-89歳の高齢者1635人
  低活動リスク SPPB(Short Physical Performance Battery)≦9点、15分で400m歩ける、認知症なし
I:運動プログラム24ヶ月(週2回外で、週3−4回自宅で)
C:健康教育24ヶ月(週1回WS、運動増やす内容ではない)
O:プライマリ:24ヶ月後の認知機能評価、セカンダリ:MCI・認知症発症
T:RCTのサブ解析
結果:
 平均79歳、70%女性、70%大学出身、BMI 30
 認知機能を様々な指標で評価しているがどれも有意差なし
 MCI・認知症発症も有意差なし

 ということで運動プログラムの影響ははっきりしませんでした。
 何もしない群がないので、放っておいたらどれくらい認知機能が落ちるのかは良く分からないので、もしかしたらコントロール群である健康教育が良かったのかもしれません。介入結構凄いですしね。この運動の効果の証明って本当に難しいなとつくづく思いますが、個人的には”運動しないよりはした方がよくね?”って思います。運動不足は多くの疾患や癌などの原因になりますし、運動による有害事象は明らかに少ないと思いますから・・・editorialでも運動・食事療法はどうでもいいやと思わず、一生涯かけての運動と適切な食事療法を!と言ってました。ちなみに食事は地中海食が良いようです。

✓ 低活動高齢者に対する運動プログラムが、認知機能に与える影響は通常の健康教育と変わらなかった
 

 

■NEJM■

手術期ワーファリン中断 
Perioperative bridging anticoagulation in patients with atrial fibrillation

 最近このワーファリン中断系の研究が多いですね。今回は周術期(特にメジャー手術)にワーファリンを中断してヘパリンを・・・というプラクティスが与える影響を検証した研究です。
 論文のPICOは、

P:心房細動がありワーファリンを内服中で処置5日前にワーファリン中止
  18歳以上/ワーファリン3ヶ月以上/PT-INR 2-3/CHADS2 ≧1
  人工弁・12週間以内脳卒中は除外
I:3日前〜前日 低分子ヘパリン
C:3日前〜前日 プラセボ
→処置後ワーファリン再開し5-10日続ける

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(本文より引用)

O:①30日以内の動脈塞栓、②主要な出血
T:RCT/108施設/非劣性試験Δ=1%
結果:
 平均71歳、男73%、BW 95.8kg、CHADS2 平均2.3点、90%弱がminor surgeryで50%弱が内視鏡手術
 プライマリアウトカムの動脈塞栓は、低分子ヘパリン群 3/895人(0.3%)、プラセボ群 4/918人(0.4%)で有意差なし
 主要な出血は、低分子ヘパリン群 29/895人(3.2%)、プラセボ群 12/918人(1.3%)と有意に低分子ヘパリン群が多かった。

 ヘパリンブリッジ意味なし!という結果でした。まあ、この研究は結構ツッコミどころがあって、まずはイベント発生数が少なすぎます。コレを元に途中でプロトコール変更も行われています。また、アブストラクトに95%信頼区間が乗ってなかったり、非劣性試験なのにその旨が記載されていない。ITT解析かどうかも分からず、最終的にper protocol的に解析されています。天下のNEJMが!とうちのブレインが吠えておりました。

 まあ、そもそもヘパリンブリッジも多くの施設で未分化ヘパリンが使われていないでしょうか?これは更に不安定で意味ないかもね〜と。やるなら低分子が良いのかしら。保険適応が微妙か・・・

✓ 心房細動既往でワーファリンを内服している周術期患者では低分子ヘパリンによる置換療法は塞栓症を減らさず出血を増やす


前夜処置の手術成績への影響 
Outcomes of daytime procedures performed by attending surgeons after night work

 これもなかなか興味深いテーマ。手術を行った外科医が前日夜中に仕事を行ったかどうかが手術関連の合併所や死亡と関連するかどうかを検討した研究です。今までは主にレジデントや研修医に関する研究が多かったのですが、今回は臨床経験20年前後のベテラン医師が対象です。
 論文のPECOは、

P:2007-2011年に施行された主要な12手術
  待期的な平日日中手術
E:前夜(0-7時)に患者と接触あり(診療報酬データから推測/自己申告なし)
C:前夜患者と接触なし
O:30日以内死亡/再入院/合併症
T:後ろ向きコホート研究
結果:
 患者平均年齢 56歳、医者平均年齢 46歳
 前夜の処置の平均回数は1.26回
 対象病院は40%が教育病院で手術は、胆嚢摘出・PCIが多い
 プライマリアウトカムは、前夜処置群 224/19489人(1.1%)、接触なし群 222/19489人(1.1%)と同等だった。
 死亡・再入院・合併症もそれぞれ両群で有意差を認めなかった。
 多変量解析も行われたが、前夜の処置はプライマリアウトカムに対して独立したリスクにはならなかった OR 0.99:0.95-1.03。前夜処置回数を2回以上にすると合併症は有意に増える。

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(本文より引用)

  なるほどー、ベテランだとあまり影響ないのでしょうか?課題としては、今回の前夜の接触というデータは診療報酬のデータから推測されており、これと睡眠不足との関係が本当にあるかどうかが良く分からないというところが問題でしょうか。一回呼ばれて一晩ずっと仕事の人もいれば、10分行って直ぐに帰る人もいますもんね。

✓ 前夜の処置を行った外科医は夜中呼ばれなかった外科医と比較しても術後トラブルの件数は同等だった