栃木県の総合内科医のブログ

栃木県内の総合病院内科の日々のカンファレンス内容や論文抄読会の内容をお届けします。内容については、できる限り吟味しますが、間違いなどありましたら是非ご指摘ください。また、内容の二次利用については自己責任でお願いします。

論文抄読会:BMJ & Lancet 薬を中止したいんです・・・/ウィキペディアの記事修正を巡って/造影剤腎症の予測モデル/新生児糖尿病と遺伝子/多発性硬化症再発への経口ステロイド

BMJ

薬を中止したいんです・・・ 
A patient request for some "deprescribing"*1

 この”deprescribing”っていう言葉は定着しそうでしょうか。脱処方?みたいに訳すのかなあ。

 症例は52歳男性。14年前から2型糖尿病、9年前から高血圧の既往あり。非喫煙者でアルコールを週8単位飲んでいる。体重 108kg、BMI 34、腹囲 113cm。血圧 130/80mmHg、腹部診察は異常なく中心性肥満のみ。内服薬はアスピリン・メトホルミン・ペリンドプリル・シンバスタチン。こんな状況の方が、この1年間なんとなくふらふらして、腹部膨満、腹痛などがあり、これは薬のせいじゃないか?と疑って外来を受診してきました。

  あなたならどうアプローチしますか??

 まあ、色々細かく書いてはあるんですが、今回のBMJのauthorらは「none of these drugs are essential」とコメントしています。というのもこれらの薬剤は根本治療というよりはCVDリスクを減らす予防的薬剤だからです。筆者は非薬物療法・体重減量の重要性を説明した結果、16kgの体重減量に成功し、メトホルミン・ACE・スタチン・アスピリンの準に徐々に減量し最終的に中止しています。薬を止めた後の方が以前内服していた時よりも脂質異常・血圧は改善しましたよ〜とのことでした。

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(本文より引用)

 まあ、ちょっと極端ではありますが、でも処方の本質をついている気がします。睡眠薬や便秘薬を中止することが出来ないのは予防的ではなくて対症的だからですよね。そして、薬物療法・生活習慣改善が薬物よりもいかに大事かということも物語っているように思います。ちなみに薬剤や生活習慣改善がどの程度効果があるかを

✓ 生活習慣病薬物療法の効果と限界を知る。適切なタイミングでのdescribingも検討する


ウィキペディアの記事修正を巡って 
MINERVA*2

 面白論文紹介コーナーのミネルバからWikipediaについての興味深い記事が掲載されていました。Wikipediaは世界で最も参照されている医学情報サイトなんだそうです。Kyphoplasty:椎体形成術の効果についての記載は当初”controversial”と記載されていました。ところが、あるときに誰かが”well documented and studied”と書き換えたことが判明しました。leading medical wikipedian(?笑)であるJames Heilmanさんが調査したところ、椎体形成術の器具を製作しているメドトロニック社の社員が修正したことが判明しました。
 現時点で、Cochrane reviewで検討されたシステマティックレビューでは、脊椎形成術/椎体形成術は効果は十分証明されていないとされています。

 まあ、情報の吟味と言ってしまえばそこまでなのですが、ボランティアライターによって支えられているはずのwikipediaにこういった利益相反の絡んだコメントが並ぶのは怖いなとも思いました。

✓ Wikipedia記事でも自社の利益のための書き換えを行う人がいる。情報吟味に要注意


造影剤腎症の予測モデル 
Risk prediction models for contrast induced nephropathy: systematic review*3

 世界で毎年8000万件の造影検査が行われている。例えばCABGよりもPCIなど非侵襲的治療が推奨される様になり、造影剤が使われる頻度は増えています。また、AKI入院の原因として3番目に多いのが造影剤による腎症と言われています。造影剤の腎症のリスク見積もりは大きなテーマの一つで、予防対象患者をいかに同定できるかという予測モデルについてのシステマティックレビューです。

 MEDLINE/EMBASE/CINAHLなどでderivation・varidation両方が行われているclinical prediction rulesをピックアップして検証しています。最終的にどの程度造影剤腎症の同定に対するスコアの有用性を評価しています。

 結果として、最終的に16研究、12モデルが検証対象に。ちなみにアウトカムとして設定された造影剤腎症の定義はベースラインよりCrが0.5mg/dL上昇(2-7日後)とされています。5つのモデルでderivation scoreの中で用いられたC-statics>0.8の項目は、①CKD既往、②糖尿病、③年齢、④心不全、⑤ショックでした。まあ確かにそうね。最終的にvalidationのみならず外的妥当性まで大規模に検証されたモデルは1つしか存在しないというのが現状です。

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(本文より引用)

 結論としては、造影剤腎症予測モデルはまたまだいまいち。high risk患者を適切に同定できてこそ予防が意味を為すわけですよね。今後も予測モデルの確立と検証が重要になってきます。

✓ 造影剤腎症の予測モデルは複数あるが現時点で質の高い十分検証されたスコアはまだまだ

 


■Lancet■

新生児糖尿病と遺伝子 
Genetics and neonatal diabetes: towards prediction medicine*4

 この辺りはなかなか縁がないわけですが、糖尿病の歴史なども合わせて勉強になったのでeditorialだけ取り上げておきます。今回のeditorialの主旨は、新生児糖尿病の原因となる遺伝子が同定されたよーということでした。

 ”糖尿病”と一口に言っても実に多彩でheterogenesityがあります。実臨床を見ていても、同じ血糖コントロールが不良な患者さんでも合併症が全く起きない方と、罹病期間が短いのにあっという間に合併症が出てきしまう方もいます。ケトアシドーシスも起こしやすい方、起こしにくい方がいるわけですよね。糖尿病の診断は100年来血糖値に基づいて行われてきました。

 糖尿病の分類は、1960年代には、発症年齢とインスリン需要で分類していました。その後、1970年代にはHLAによって1型糖尿病を分類すると言う方法が取られていましたが、特異度が乏しかった様です。1980年代に入ってGAD抗体などの自己抗体が発見され、これによって分類が大幅に進歩しています。1990年代には遺伝的な糖尿病であるMODYの原因遺伝子が発見されており、徐々に血糖そのものやインスリン需要のみでなく、遺伝的要因が原因になる事が明らかになって来ました。

 今回、MODYよりもよりレアな新生児糖尿病に関する研究が発表され、全例遺伝子を確認したところ80%同定できたんだとか。例えばKCNJ11ではインスリン不要なケースも多いのだそうです。

✓ 糖尿病の病型診断に遺伝子診断が関連してくる可能性がある


多発性硬化症再発への経口ステロイド 
Oral versus intravenous high-dose methylpredonisolone for treatment of relapse in patients with multiple sclerosis(COPOISEP): a randomised,controlled,double-blind, non-inferior trial*5

 これはランドマークstudyだ!となっていたのでサラッと目を通して見ました。多発性硬化症の再発時には多くの場合、入院の上ステロイドパルスなどが行われています。一方で点滴の高用量ステロイドが必要であるとする強い根拠はあまりはっきりしていません。そんな中、経口ステロイドと経静脈的高用量ステロイドとの治療効果を比較した研究が報告されています。
 論文のPICOは、

P:フランスの13施設で18-55歳の多発性硬化症患者の再発症例
  再発症状が出現して15日以内でKurtzke Functional System Scaleが1点以上
I:経口メチルプレドニゾロン 1000mg
C:経静脈的メチルプレドニゾロン 1000mg 3日
O:28日時点での改善(KFSS1点以上の改善)
T:RCT/ITT解析/非劣性試験
結果:
 平均年齢 35歳、女性 75%、罹病期間 5年以上 60%、過去一年の再発 0回 60%、1回 30%
 経口群 66/82(81%)、経静脈群 72/90(80%)が改善し両群で有意差はなく非劣性が証明

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(本文より引用)

 パルスは入院という問題を経口で解決しようというRCT。でもそもそもメチルプレドニゾロン1000mg内服ってできんのか??プライマリアウトカムはこれで良いのか?みたいな突っ込みは入りそうです。

✓ 多発性硬化症再発時のメチルプレドニゾロン 1000mgは経口でも経静脈的でも同等の効果